施設の地下を進む襲撃部隊の前に現れたのは離島棲姫。どう考えても敵だが、一応対話を試みたところ、配下のように現れた砲台小鬼から砲撃を受けてしまった。
それは全員が手近な部屋に飛び込むことで回避したものの、それによって階段が破壊され、退路が断たれてしまう。この施設から脱出するには、離島棲姫をどうにかした後に瓦礫を退かすなり別の退路を見つけなくてはならなくなってしまった。
「侵入者が来ることはわかっていたけれど、こうも真っ直ぐここまで来るとは思っていなかったわ」
ここで初めて離島棲姫の声が聞こえた。神風達のことを侮っているわけではないが、自分の力に絶対的な自信を持つような声色。それに、本来の離島棲姫、むしろ深海棲艦と比べても非常に流暢である。
そこから考えられることは、あの離島棲姫もカテゴリーY。しかし、うみどりで保護された平瀬や桜、そして今現在同じように部屋に退避した集積地棲姫とは全く違う、
「ここまでの道、一本道だったわよ。真っ直ぐここに来るしかないじゃない。それとも、貴女達しか知らない脱出経路でもあるのかしら」
離島棲姫の皮肉に対して、神風も皮肉を返す。しかし、通路側に出るのは危険なため、すぐに出ることは出来なかった。
「それだけ無駄口が叩けるなら大丈夫ね。うみどりの艦娘さん達」
「あら、やっぱり私達ってば人気者なのかしら」
「それはもう。特異点を手に入れた艦隊だなんて、ここ最近話題で持ちきりよ。そのせいで何人かここから逃げちゃったんだもの。困ったものよね」
こうやって話しながらでも、今の状況の打開策を考えている神風。しかし、全員が同じ部屋に飛び込んだわけではないため、他の部屋に飛び込んだ者と意思疎通が出来ないのが厳しいところ。
幸いなことに、神風と同じ部屋にいる者の中に綾波が含まれていたのがありがたかった。ここで神風が止めておかないと、容赦なく突っ込んでいった可能性があった。
「今は抑えておきなさいよ。貴女にも流石に分が悪いわ」
「そうですねぇ。あんな狭い通路を埋め尽くす砲撃は、簡単には避けられませんからねぇ」
綾波もこの状況では突っ込み方を考えるために動かないようである。逆に言えば、突っ込み方を思いつけば、止めても出て行くと言っているようなものである。
現在は砲台小鬼が3体ずつ前後に並ぶように構えているため、部屋から出た瞬間に次弾が放たれる。もしそれをうまく避けられたとしても、後ろに並んだ残りの3体が迎撃のためにもう一発放ってくる可能性は非常に高い。
「特異点が貴女達にどう関係しているのよ。あの子はただ生まれて、私達と同じように生きているだけよ」
神風のその問いに、離島棲姫は鼻で笑った。
「
「じゃあ何だって言うの。特異点の何が貴女達に邪魔なわけ?」
その問いには無言。むしろ、答える必要はないと言わんばかりに、砲台小鬼からの砲撃が一度放たれる。
今度は真正面ではなく少し壁寄り。神風達が退避した部屋の壁を狙っているかのような位置に向けての一撃。戦艦主砲と同じ威力の砲撃が、6体中左右に配置された4体の砲台小鬼から一斉に放たれたことで、掠めるだけでも壁が吹き飛ぶほどの威力が発揮される。
様子見のために壁際にいた神風は、大急ぎで壁から離れた。その瞬間、初めからそこに無かったかのように壁が抉られ、激しい衝撃が通路を駆け抜けた。
「室内だってのに、よくもまぁ容赦なく撃てるものね」
「どうせ放棄する拠点なんだもの。好き勝手やるわよ。それに、ここは貴女達のモノじゃないんだから、何をしたって文句を言われる筋合いは無いわね」
離島棲姫の口調は、やはり自信に満ち溢れている軽さである。特異点に触れようとすると絶対に話さないところを見ると、深雪の存在が余程重要であり、邪魔な様子。
「まぁいいわ。あの子のことはこっちで勝手に調べておく。貴女に聞かなくてもそのうちわかることでしょ」
「わかるわけないじゃない。だって貴女達はここで死ぬんだもの」
砲台小鬼の次弾装填が完了したか、更にまた一発砲撃が放たれた。撃ったのは先程と同じ左右の4体。照準は壁を抉った一撃からさらに外側へと向けていた。
神風達の逃げる場所を少しずつ削り、瓦礫を増やしながら回避出来る範囲も狭めていく。階段の周囲にも瓦礫は積もり、より退却が厳しい状態となっていった。
だが、今考えなくてはいけないのは帰ることではない。回避がほとんど出来ないような戦場をどうにかすることだけ。帰り方なんて後からいくらでも考える時間がある。
神風のいる部屋に逃げ込んだのは、神風の他には綾波、熊野丸、集積地棲姫。対面の部屋に逃げ込んだのは、子日、秋月、響、白雪、暁。おおよそ戦力的には半々と言ったところ。
集積地棲姫は艤装を地上に置いてこさせている挙句、離島棲姫を見た時から怯え続けているため、戦力とは言えない。秋月は監視カメラの破壊に弾数を消耗しているため、前に出ることは控えたい。
「うん、攻撃性能はよく上がってるわね。奇襲性もあり。でも少し照準が上に傾くか。大口径の砲撃の反動がまだまだ抑えきれていないわね。次は下半身を強化しましょ。まだまだ強く出来るわね」
離島棲姫がぶつぶつと呟いているものの、砲撃しながらであるため、神風達の耳にはそれが届かなかった。
ただ1人を除いて。
「あの砲台小鬼の砲撃、反動で照準が少し上に傾くらしいわ。これ、神風や綾波に伝えられないかしら」
そう、暁はその呟きをしっかりと聞いていた。集中に集中を重ねた結果、視野が広いだけでなく、聴覚までもが過敏になっていた。僅かにしか聞こえない音や声も、ハッキリと聞き分けている。
軍港鎮守府の戦力としてのNo.1は間違いなく綾波だ。その性格は一旦置いておいたとしても、素早さや砲撃の精密性で駆逐艦としての若干非力な火力を全て補い、魚雷というわかりやすい高火力まで持っているのだから、戦艦喰いすらも楽々とやってのける実力を持っている。それがあるからこそ、うみどりの面々で綾波を止められるのは神風くらいしかおらず、それでも厳しいまであるのだ。
しかし、あまりにも好戦的であるが故に、綾波と組んで戦おうと思う者が殆どいなかった。戦闘以外では物腰柔らかでほんわかしているお嬢様というイメージなのだが、戦闘が関わると途端に鬼となるその本質は、
だが、その綾波が唯一コンビを組めている者がいる。いざとなった時にブレーキ役になれる可能性があるから、軍港鎮守府の見回りも一緒に出来る。それが暁だ。
綾波は暁に一目どころか二目も三目も置いている。それがこの、普段からは考えられないくらいに冴え渡る索敵技術である。
この状況においても全く動揺しておらず、次の状況を考えるだけの冷静さを持っていた。間近で爆発が起きたとしても表情すら変えない。緊迫感という言葉はもう鎮守府に置いてきたかのようだった。
「じゃあ、子日が行ってくる。少し通るだけなら大丈夫だから」
「うん、お願い。攻撃さえ考えなければ、全然大丈夫よ。狭いだけでやってることは真正面に撃つだけだもの。1体だけなら綾波の足元にも及ばないから」
「にゃっほい! それ聞いたら強くないみたいに感じるね♪」
軽くその場でステップを踏んだ子日は、砲撃が放たれた直後に動き出した。瓦礫があるせいで動きづらさはあるものの、壁すら蹴って跳んでいける子日には、足場の不安定さなんて関係がなかった。踏み締めることが出来る分、海上よりも動きやすいとすら感じる程である。
「それじゃあ行っくよー! 子日ジャーンプ!」
タンと床を蹴り、瓦礫を踏み越え、壁どころか
当然、壁際を砲撃して回避出来る範囲を狭めている砲台小鬼以外にも、2体の砲台小鬼が迎撃出来るように構えているため、子日に対してさらに砲撃を重ねてきている。だが、天井を足場にするような子日には、まともに狙いを定めていたとしても軽々避けるのは言うまでもなかった。天井や奥の階段がさらに破壊されるものの、子日は傷一つ負うことはない。退路はより一層封じられたものの、目的は余裕で達成出来たと言える。
潜り抜けられたのだから、その実力はホンモノ。元々無礼てかかっていたわけではないのだが、この子日の行動1つで、うみどりの面々に興味を持ったようだった。
「神風ちゃん! 伝言!」
かなり危険な行動ではあったが、子日は全くの無傷でそれをこなし、暁が聞いたその言葉を神風に伝えた。それが何かの役に立つかは、子日どころか暁にもわかっていない。しかし、それを知っていれば何かしらの打開策を思い付きそうだと思ったから伝えた。
「少し上に傾く、か。その割には、下を狙ってきていない」
神風よりも先にそこに気付いたのは熊野丸である。今でこそ瓦礫まみれになってしまっているものの、砲撃によって抉れているのは壁だけ。よく見れば、床は砲撃によって傷付いていなかった。
「まだあの兵器をコントロールしきれていないならば、慣れぬうちに接近した方がいい。ならば、この俺が道を切り拓こう。神風、綾波、奇襲は好きか」
「大好きでぇす♪」
「好きかどうかはさておき、勝ちに繋がるのなら優先的に選択するわよ」
「ならば結構」
砲台小鬼の砲撃が定期的に壁を抉る中、熊野丸は徐に別の壁に手をつく。方向的には離島棲姫側。しかし、壁ではあるので見当違い。ここから砲撃を放ったところで壁に阻まれるだけ。
奇襲と言っても、そちらには道はない。離島棲姫の背後や真横から襲おうとしても、通路の真正面を陣取っているせいで不可能。
だが、その壁が無ければ、砲撃のことなんて考えることなく近付くことが出来る。
「子日、すまないが、もう一度向こうに渡ってくれないか。貴様ならあの砲撃を何度も掻い潜れるだろう。砲撃をさせてくれ」
「はいはーい! 何か伝えることある?」
「定期的に撃たせられるように、囮をやってほしいということくらいだ」
「りょーかい! 囮は子日がやるからだいじょーぶだよ!」
そう言いつつも、元いた場所に戻るため、子日は再び跳躍する。当然ながら、それに向かって砲台小鬼の砲撃が放たれるものの、子日も慣れてきたか、衝撃すらも受けないくらいの回避をして対面の部屋に戻った。
「薄くない壁ではあるが、俺の艤装のパワーアシストは、こう使える」
壁に手を触れながら、ダンと激しく床を踏み込んだ。瞬間、目の前の壁に大きなヒビが入った。
子日を狙った砲台小鬼の砲撃と全く同じタイミングで破壊したため、あちらにはこの壁破壊に関しては気付かれていないと言える。
「これくらいの壁程度ならば、素手で壊せる。砲撃など不要だ」
「わぁ、もしかして、艤装の力を格闘に全部置いているんですかぁ?」
「全部じゃない、8割だ。2割は今外に置いているからな」
綾波が目をキラキラさせながら熊野丸の所業を見ていたが、熊野丸は冷静に現状を話すのみ。
熊野丸はこうしながらも回転翼機を利用して外の様子を確認しているのだから、全ての力をここで使えるわけではない。とはいえ、そこそこ厚い壁を拳、それどころか掌底と踏み込みだけで破壊出来るとあれば、その実力はホンモノ。
「道は拓く。だが、狭いことは変わらないし、足場も不安定だ。このまま奴の真横まで行くぞ。いいな」
「ええ、頼もしいわ。横にまでいければこちらのものだから、よろしく頼むわね。多少拡げてくれれば充分」
「任せろ。こちらが先制して、あちらにもチャンスを渡す」
熊野丸の壁破壊を見たことで勝機を見出だしたか、神風は腰に差した居合刀を握り締めた。
壁を破壊し、離島棲姫に近付き、奇襲を仕掛ける。そうすれば、この状況を打開出来る。そのためには、全員の力を合わせる必要がある。その基点となるのが、熊野丸の壁破壊。そして、神風と綾波による奇襲となるだろう。