後始末屋の特異点   作:緋寺

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素人と玄人

 通路の向こう側を陣取り、大口径主砲が扱えるように改造された砲台小鬼を率いて攻撃を繰り返している離島棲姫を相手に、奇襲を仕掛けると案を出し、壁を破壊するという実演までこなした熊野丸。

 通路は砲撃が常に放たれており、次弾装填の隙間も6体のうち2体の砲台小鬼が撃たずに控えているため、隙を見せないようにしている。その横を通り抜けるため、部屋の壁をぶち抜いていき、来るとは思っていない真横から攻撃を仕掛けるというのだ。

 

「なんか向こうですごいことやろうとしてるわね……じゃあ、それをこちらでサポートしましょ」

 

 離島棲姫の呟きが聞こえた暁には、熊野丸の提案した奇襲方法も聞こえている。爆音に紛れて離島棲姫どころか他の仲間達にも聞こえていないが、集中から来る最大級の索敵能力が、この声を聞き分けることを成功させていた。

 

 ただ、サポートと言っても何をすればいいのかはパッと思い浮かぶようなことではない。暁は索敵は出来ても戦術の提案は出来ないからだ。

 そこで口を挟むのは、響だった。

 

「時間稼ぎをすればいいのかな。ならば私だ。時間稼ぎには一家言あるんだ」

「初耳だけど」

「初めて言ったからね」

 

 話しながらも離島棲姫配下の砲台小鬼による砲撃が放たれている。壁はより内側が抉られ、もう部屋の半分は瓦礫で埋まっているほどだ。このまま時間が経過すれば、隣の部屋ごと砲撃の餌食となり、何も出来ずに押し潰される。

 ならば、()()()()となって時間を稼ぐ。6体の砲台小鬼による砲撃を避け続けるという無茶をする必要があった。

 

 出来ることならば、それらを破壊したい。近付くことが出来なくても、()()()()()さえ見せつけられれば、連中の目を惹きつけることが出来るだろう。

 

「それじゃあ、行きますか。駆逐艦響の、ハラショータイムだ」

 

 それだけ言い残して、響は突然通路側に飛び出す。当然だが、そんなことをしてしまえば6体の砲台小鬼が一斉に狙いをつけ始めるだろう。離島棲姫だって見過ごすわけがない。

 

「あら、ようやく表に出てきたの? 炙り出してやろうと思ってたから、それが上手く行ったのかしら」

「そうだね。あまりにも先に進まないから、業を煮やしたんだ」

 

 棒読みでそんなことを言うのだから、何か別の意図があるとしか思えない。業を煮やしたという発言とは真逆の精神状態であるとすぐにわかる。故に、離島棲姫は響をしっかりと観察しながら砲台小鬼に砲撃を続けさせた。

 先程の子日のアクロバティックな跳躍があったことから、ここにいる艦娘達は何処か普通の艦娘とは違うと理解している。正面から撃とうとしているわけでもなく、何かしらの搦め手を使おうとしているのは確か。ならば、そんなことはさせるわけにはいかないと、離島棲姫自身も攻撃に参加する。

 

 離島棲姫の艤装は、滑走路と生体艤装が合わさったような奇怪な見た目。それが細い四つ足で立っているという生理的にも受け付けにくいモノである。

 艤装に滑走路を持つということは、艦載機が使えるということに他ならない。パチンと指を鳴らすと、その滑走路の上に深海の艦載機がいくつも出現した。

 

「砲撃と艦載機、しかもこの狭い空間で使ってくるのかい。私達とは器用さが違うね」

 

 言うが早いか、この施設の狭い空間を砲撃と同時に艦載機が飛び立った。おおよそ手のひら大の艦載機であるため、室内でも数機は当たり前のように強襲を仕掛けることが出来ていた。

 その艦載機は爆装。つまり、爆弾を投下させるための艦載機。真正面から突っ込んできたとしても、その勢いを使って小型の爆弾を放り投げるようなモノ。

 それが砲台小鬼の砲撃と重なり合い、激しい爆発を発生させる。視界を潰し、瓦礫を撒き散らし、回避する場所を制限しながら攻撃を続ける。

 そのうち弾切れもしそうなものだが、まだその兆候は見えない。装弾数も弄られている可能性がある。

 

 しかし、この攻撃方法だけでも離島棲姫がどういうモノなのかを理解した。調査隊の目は、この程度では潰れない。

 

「なるほど、深海棲艦、しかも陸上施設型と陸でやり合うのはこちらが不利かと思ったけど、今のである程度はわかったよ」

 

 子日ほどではないが、瓦礫の山をステップを踏むように動き回り、砲撃は軽々と回避。その合間に向かってくる艦載機も的確に墜とす。

 

「そもそも、器用だとはいえこの空間で艦載機を使うことが間違ってるね。上空から爆弾を落としてなんぼの爆装が、対空射撃でもないただの砲撃で墜とせるんだ。その性質をちゃんとわかっていない証拠だね」

 

 そう言いながらも、砲撃の威力は厳しいため、回避行動はやめられない。次弾装填のタイムラグを、6体の砲台小鬼が交互に放つことで埋めるようにしているのは、戦術としてはマシな方。織田信長の三段撃ちのことを知っていれば、それが素人であっても倣うことは出来る。

 だが、()()()()。大きな力を、狭い空間で激しく放ち続けるだけ。言ってしまえば、()()()()()()()

 

「熊野丸もそこにすぐに気付いたんだろうね。君、()()()()

 

 言いながら響も砲撃を放つ。狙いは先頭にいる砲台小鬼。だが、大口径主砲を装備出来るように改造されているからか耐久力も非常に高く、駆逐艦の扱う小口径主砲による砲撃は、カンと弾かれてあらぬ方向へと飛んでいく。

 その隙を見逃さず、砲台小鬼はさらに砲撃を放つが、響はそれを体勢を少し下げるだけで回避していた。砲撃の際に上に傾くというのが、ここに来てより顕著になってきている。

 

「素人が力押しでバカスカ撃つだけ。だから君は何もわかっていない。白雪、もう大丈夫だ。君も加勢してくれないかい」

「癖がわかりやすくなりましたか。じゃあ、私も援護しますね」

 

 響だけではない。白雪も通路側に出てきていた。先程までは砲撃を回避するのも大変ではあったのだが、今ではそれも回避しやすいと判断して。

 

「アレはただの力を持った素人だよ。だから、自分がピンチになっていることがわかっていない。これまではそれでも上手く行ってきたんだろうけどね。まぁ実際火力の高さは私達よりも上だ」

「でも、それを正しく扱えていない、ということですか。確かに、()()()()()()()に気付けていませんからね」

 

 深海棲艦とて、機械ではなく生物である。あの砲台小鬼であっても、全身が機械ではなく、そこから生えた生身の部分があるくらいだ。ならば、それが何を意味するか。()()()()()()のだ。

 これだけ長いこと粘られたことは無いのだろう。何度も何度も砲撃を放ち、それでも相手が無傷であるから、無意識にムキになっていた。余裕を持っているようでいて、その実、斃せないことに焦りが見え始めていた。これだけやれば斃せると思っていた相手がまだまだ粘る。それどころか、事を起こせば起こすほど余裕を見せている。

 

 疲労を蓄積した砲台小鬼は、ただでさえ砲撃を放つことで上に傾くというバランスの悪さがより際立つ。

 今はもう、砲撃を放ったところで真正面には当たらなくなっていた。とはいえ天井を破壊しているために退路はおろか進路も微妙に減り続けているのだが。

 

「当てたかったら、もう少し下を狙いなよ。艦娘になったばかりの新人は、砲撃訓練の時に少し下を狙うように習うんだ。反動で上に弾むからね」

「足はもう少しどっしりと構えた方がいいですよ。海上でひっくり返った人を何人も見ていますから」

 

 響と白雪の助言は、もう煽りにしかなっていない。新人に訓練をつける先輩のような、優しい声色での説明。砲撃が飛び交う中、響と白雪がやけに優しい、()()()()()()()()()()をしていることはわかった。

 

「どうしてそんなに余裕でいられるのかはわからないけれど、退路も失って追い詰められていることがわかっていないのかしら」

「追い詰められているのが自分だとわかっていないんだね。可哀想に」

「私達を傷付けることも出来ず、近付くことも出来ないで何を」

 

 そう言った瞬間だった。離島棲姫が陣取る通路側の横の壁が突如爆散した。

 

「なっ」

「開通だ。神風、綾波、出番だぞ!」

 

 壁を突き破ったのは熊野丸。力強い踏み込みと共に部屋の壁を1枚1枚破壊し、ついには離島棲姫の真横までやってきた。

 

 粉砕した壁の向こう側。熊野丸よりも奥。離島棲姫は2人の艦娘の姿を見た。

 1人は満面の笑みを浮かべながらコンバットナイフを逆手に構え、異様に低い姿勢から駆け出した綾波。離島棲姫ではなく、砲台小鬼の脚だけを的確に斬り払い、姿勢を崩したところを踏みつけ、次の砲台小鬼へと向かう。子日と同じようなステップを使いこなし、急所()()を斬りつけ、頭の砲台を力いっぱい蹴り上げる。

 

「うーん、子日ちゃんほど縦横無尽には動けないですねぇ。どうすればあんなに動けるんでしょう」

「それ以外出来るんだから、文句言わない。子日のことも考えてやりなさいな」

 

 蹴り上がった砲台が金属音と共に真っ二つになる。そこには、一刀を放って既に刀を鞘に収めている神風の姿があった。

 

「熊野丸、いいの持ってきてくれたわね。これ、艤装技術も使って金属を練り込んでいるのかしら」

「うむ。あれだけ持ってきたが、貴様は必ずいると思っていた。なら、それを貴様が使うと思っていてな。特注品だ」

「ありがと。刀を振り回すのなんて久しぶりだから腕が鈍ってるかと思ったけど、まだまだやれるものじゃない私」

 

 もう一体の砲台小鬼の頭を真一文字に斬り払う。ただ刀を抜いただけ、殆ど力すら入れていないのに。

 

「神風ちゃんズルいです。そんな力隠し持ってたんですかぁ?」

「見せる機会なんて無いでしょうに。基本こんなことはしないし、演習でこんなことしたら……」

 

 鞘に収めた瞬間にもう一度抜いていた。とんでもない速度の居合い抜きにより、砲台小鬼はまた真っ二つに斬り払われていた。

 

「怪我人が絶対に出るでしょう。私、流石に人殺しになりたくないわよ」

「じゃあじゃあ、綾波とやりましょ。それに、木刀でいいじゃないですかぁ。それなら痛いだけですよぉ?」

「何言ってるのよ。この刀、()()()()()()()()

 

 今神風が使っている居合刀は、斬れ味よりも折れないことを重視した造りをされていた。そのため、刃を研いでいるわけではなく、硬く強靭にすることを最優先に作られた逸品。

 それでも真っ二つになっているということは、神風の技が異常であることに他ならない。つまりは、木刀でやっても人を斬ることが出来ると宣言したようなモノである。

 

「砲撃だけだと貴女に後れを取るけど、こっちなら負けない自信があるわ。まぁ宝の持ち腐れだけどね」

「むぅ、残念ですぅ」

 

 そんな話をしている間に、砲台小鬼は全滅。まともなカタチすら残していない。爆散していないところを見ると、改造はされているものの普通の深海棲艦であることがわかる。

 これがまた穢れと呪いを生み出しかねないため、どうにか処理しなくてはと神風は考えていた。業者がこのザマでは、どう処理したらいいのかはわからないが。

 

「な、なんなのよ、アンタ達……!?」

 

 初めて離島棲姫が顔を歪めた。今まで自分が圧倒していると思っていたのに、この一瞬で軽くひっくり返されてしまったのだ。力業だけでこれまでどうにか出来ていたのに、それすらもどうにもならなくなったことがわかると、これまでの自信が嘘のように失われていく。

 

 

 

 

「何って、見てわからない? 貴女達を始末しに来た者だけど」

 

 抜いた刀を離島棲姫の眼前に突き付けて、溜息を漏らした。

 

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