後始末屋の特異点   作:緋寺

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黒の軍勢

「彩は()。便宜的に、()()()()()K()とするわ」

 

 イリスの言葉に、その場は騒然となる。ただでさえ夜の港を強襲してくる輩がいるというのに、それがこれまでに見たことのない彩を持つ者。

 

「深雪ちゃんや電ちゃんとは真逆の彩なのね……。そうなると、どんな存在なのかもわからないわ」

 

 伊豆提督は至って冷静に分析していくが、カテゴリーKというWと同じくらいに異質な存在と聞いたら、落ち着いて事に当たろうと思っていた深雪も激しく動揺してしまう。それを抑えようとしていた電だって、はいそうですかと聞いていられない。

 

「ど、どうするんだ。やっぱ敵なのか」

「話したらわかってもらえるかもしれないのです!?」

「攻撃してきた以上、敵と認識するのが当然だろう」

 

 深雪と電が慌てふためく中、時雨だけはまだ冷静さを保っていた。そもそもが周囲の人間を敵と思っていたカテゴリーM、今でこそうみどりの面々は信頼を置いてもいいかと考えられるようになったが、外部から現れた挙句に攻撃をしてきたのだから、紛うことなき敵であると認識出来る。それが未知のカテゴリーだとしても関係ない。敵ならば始末する。

 そして、それが悪辣な人間の成れの果てである可能性が高いとなれば尚更である。時雨が最も憎むべき人間。呪いの対象がそうなっているというのなら、それがどんなカタチであろうが関係ない。

 

「得体の知れない相手なら、慎重に行かなくちゃダメよ」

 

 時雨の殺意が増してきているのを察したか、それを抑え込むように伊豆提督が言う。そう言いながらも水柱が立ち昇る海の向こうをずっと見続けていた。

 イリスが双眼鏡で確認していたくらいなので、裸眼の伊豆提督には影もカタチも映らない。しかし、攻撃の方向からある程度は場所と狙いが見極められる。

 

 言われた深雪と電はひとまず深呼吸。ここで焦っていては、与えられた仕事も全う出来ない。冷静に、とにかく冷静に。これが戦場を潜り抜けるための一番の秘訣。

 

「ようやくハッキリ見えた。艦種不明のカテゴリーK」

 

 ここで冷静に双眼鏡を覗き続けていたイリスが、その姿を捉えた。そして、顔を顰める。

 

「何……あれ。艦娘なのか深海棲艦なのかもわからない。完全に()()()()()()()ように見える」

 

 イリスが見たその存在は、言ってしまえば()()()()()()()()()()()であった。

 

「数は3人、その全員がカテゴリーK。艦娘みたいな深海棲艦みたいな、駆逐艦みたいな戦艦みたいな……とにかく()()()()()が現状よ」

 

 

 

 

 海上で防衛を任されている妙高と鳥海の元に、長門が合流。飛んでくる砲撃を回避しながら、敵の正体を突き止め、斃す、もしくは最低でもここから帰ってもらわなくてはならない。

 逃がしたくはないが、最優先なのは狙われているであろう深雪の死守と、帰るべき場所であるうみどりの防衛。どちらか、もしくはどちらもやられてしまったらおしまいである。

 

 水柱を潜り抜けて攻撃の元凶の元へと辿り着いた3人は、鳥海の探照灯によってその姿を目の当たりにした。

 ここでようやく敵からの攻撃が一時的に止む。対話が出来そうならば、ここで思惑を聞き出したいと、長門も一旦攻撃を止めた。

 

「……貴様らは何だ。何のためにここにいる」

 

 光に当てられた敵──イリスが言った通り3人のカテゴリーKは、三者三様の動きを見せた。

 

 小柄な1人目は、探照灯の光を受けて眩しそうに顔を覆う。だが、その奥の表情は、狂ったような笑み。その姿は最恐のイロハ級として名を馳せている戦艦レ級のようにも見えたが、あちらとは違い尻尾がなく、特徴的なパーカーも着ていない代わりに、妙にスタイルを見せるボディスーツの上にゴテゴテの艤装を装備した、何から何まで混ぜ合わせたかのような歪なモノ。故に、艦種不明。

 

 中柄な2人目は、軽く顔を背ける程度。しかし、その手は腰に差された太刀に常に置かれ、いつでも攻撃を仕掛ける事が出来ると言わんばかり。身体はあるのだが巫女服のような弓道着のような衣装であり、それもあってか見た目だけは一航戦と呼ばれる誉の空母赤城に近いものの、甲板はおろか、主砲も何も持たない。故に、艦種不明。

 

 そして最後は大柄な3人目。これが最も謎に包まれていた。探照灯を向けられても表情一つ変えず、薄ら笑いを浮かべていた。見た目からも何かが混じっているのではと思えるくらいなのだが、ほとんど全裸に近いせいか、特徴的な部分──腹を中心に走る大きなヒビ割れが、嫌というほど目についた。

 その特徴は、陸上施設型深海棲艦、中枢棲姫に酷似しているのだが、それはこのような海の真ん中に現れるようなモノではない。陸があって初めて戦えるモノである。故に、艦種不明。

 

「特異点は、何処かな」

 

 大柄なカテゴリーKが、凛とした声色で長門に問う。その声を聞いても、それが何者なのかはわからない。非常に中性的で性別すらわかりにくいという徹底ぶり。

 

「その特異点とやらに何の用がある」

「挨拶を、しておこうと思ってね」

 

 長門の冷ややかな反応に対しても、何の感情も持っていないかのような態度で接する。

 

「何が挨拶だ。殺気が隠せていないぞ。始末するつもりでここにいるのだろう」

「我々の障害になるだろうからね。いなくなってもらえることが望ましい」

 

 薄ら笑いもそのままに、やんわりと小柄なカテゴリーKの背中を押す。それが戦いが再開される合図だった。

 

「お姉さん、ボクの相手をしてよ」

 

 狂気的な笑みを浮かべた小柄なカテゴリーKは、そう言った瞬間に海面を蹴っていた。その加速力は、艦娘でも深海棲艦でもない、次元を超えたモノであった。

 先程までは離れていたのに、今ではもう手が届くくらいのゼロ距離。狂気的な笑みだったそれは、長門が驚く表情を見てより強くなり、ニィッと口角が上がる。

 

「戦艦なんだよね。戦艦長門。艦娘の中ではすっごく強いって聞いたよ。だったらさ、ボクよりも強い? その力、ボクに見せてよ」

 

 ゴテゴテの艤装から()()()()()。それはあまり確認されたことのない個体ではあるのだが、北方水姫の艤装に備え付けられた腕だった。

 明らかに質量保存の法則などを無視した艤装の展開ギミックを見せつけられ、長門は驚きを隠せなかった。

 

 深海棲艦の一部は、感情の昂りなどで艤装を変形させる者がいる。例えば、主砲の数が増える。例えば、角が新たに生える。触手のようなモノを伸ばすものもいるくらいである。それと同じ原理であると思えば、一応は不思議ではなかった。

 しかし、腕ともなるとサイズからして普通には考えられない。艤装の何処かから腕に変形させていたとしても、どう考えてもおかしい。

 

「くっ……!?」

「アハハハハ! すごいすごい! これで粉々にならないんだ!」

 

 その一撃を、長門はクロスした腕でしっかりとガード。日頃鍛えているだけあって、艤装からのパワーアシストも加えることで強靭な肉体は簡単には破壊されない。

 しかし、ガードをした瞬間にミシリと嫌な音が聞こえた。明らかにまずい音に、長門は小さく顔を顰める。

 

「パンチがダメなら、近くでドーンだね!」

 

 だが、小柄なカテゴリーKの動きは並ではない。巨腕によるパンチの直後に、反対側から主砲を構えていた。こちらは変形させることなく出し続けていた兵装である。

 ここまで至近距離の砲撃は、回避することは不可能である。むしろ、ここまで接近された砲撃なんて、うみどりでの戦闘でもまず無い。仮想空間での訓練で多少は学ぶが、実戦でこのような状況が起きることの方が少ないのだ。

 

「長門さん!」

 

 この攻撃は流石にまずいと妙高が動き出すが、それを見越していたか、中柄なカテゴリーKが既に刀を抜いていた。

 

「動くな」

 

 そして、こちらもわけのわからない速度で近付いたかと思いきや、妙高の脚を斬りつけていた。命を獲るだけの実力があるのにもかかわらず、まずは動きを止めることに力を使っている。

 

「っあ!?」

「妙高さん!?」

 

 鳥海も黙ってはいない。その速さには追いつけずとも、引き剥がすために砲撃をすることくらいは出来る。

 即座に察した中柄なカテゴリーKは、ほとんどノーモーションで妙高から離れた。砲撃は誰にも当たることなくすっぽ抜けた状態に。

 

 そうこうしているうちに、小柄なカテゴリーKの砲撃は放たれてしまう。パンチをガードした直後の砲撃のため、普通ならば直撃ルート。さらには、長門はそこまで速く動くことの出来ない低速艦だ。耐久力は高くとも、至近距離からの砲撃相手には為す術がない。

 しかし、ダメージを最小限に抑え込むことは出来る。鍛え上げた筋力と、艦娘としての瞬発力を駆使して、その場で身体を回転させた。長門の艤装は戦艦なだけあってかなり大きめ。それだけでも質量兵器として扱えるだろう。手が届くほどの距離ならば、艤装そのものが盾であり武器となる。

 

「わぁ、お姉さんすごいね! でも、残念でしたー」

 

 砲撃はダメージにならず、()()()()()。ただただ大きな音がその場で発生しただけ。そして、小柄なカテゴリーKはその長門の咄嗟の行動を、見てから避けるという離れ業をやってのけた。

 

「こっちが本命、だよ!」

 

 避けた直後、長門も艤装を振り回した直後なのですぐに体勢を戻すことが出来ない。

 その結果、空砲後のもう一発が、長門の艤装に直撃した。

 

「ぐぅ……っ!?」

 

 基部への直撃は免れることが出来たものの、代わりに主砲に直撃してしまったことで大爆発を起こす。攻撃の手段を失いつつ、さらに身体へのダメージも甚大。半身から血をダラダラと流し、長門は痛みに耐える。

 

「余所見をするな」

 

 長門がやられる様子を見てしまったことで、妙高に怒りが灯るものの、中柄なカテゴリーKはそれを隙だと判断する。

 再び接近すると、太刀を力強く横薙ぎにした。直撃すれば、上半身と下半身がお別れしてしまうほどの威力がそこにはあった。この一撃は艤装を盾にしても艤装ごと斬られる。そう理解出来てしまうほどの一撃。

 

「させ、ない!」

 

 ならばと妙高は機転を利かす。避けるのではなく()()()()ことで、刃ではなく腕にぶつかりに行った。

 

「……ほう」

 

 このおかげで斬撃をモロに喰らうことは無くなった。その代わり、その強烈な横薙ぎを繰り出した腕が、妙高の脇腹を抉ることとなる。肋骨を始めとした骨がメキメキと折れていく音が、妙高の体内で聞こえた。

 しかし、死には至らない。命があれば、まだどうとでもなる。ならばこれが最善だ。

 

 むしろ、ここまで接近したことで、痛みを堪えながらもその腕を掴み、これ以上の斬撃を食い止める。これならば、狙い撃ちに出来る。

 

「鳥海さん!」

「させん」

「っ!?」

 

 しかし、それでどうにか出来る問題では無かった。負傷した脇腹を抉るように膝を入れられ、力が抜けた瞬間に逆側の脇腹を蹴り飛ばされた。

 その方向は見事に鳥海の方向。砲撃を放つ暇も与えず、妙高そのものが弾丸にされて鳥海に直撃してしまった。

 

「かはっ……っ」

 

 血の混じった咳をする妙高は、この時点で再起不能なレベルの傷を負ってしまっている。

 

「っつぅ……っ」

 

 鳥海は鳥海で、妙高の艤装がぶつかってきたことで大きなダメージを受け、艤装には深刻なダメージが無かったものの、身体には血が滲んでいた。

 

 明らかにレベルが違う敵。だが、小柄と中柄に気を取られているうちに、大柄のカテゴリーKはこの場からいなくなっていた。

 

 

 

 

「お初にお目にかかる、特異点」

 

 そう、既に陸へと向かっており、うみどりへと接近、深雪達の前に現れていたのだ。

 

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