港の戦いは終わったが、爆発を起こした施設側はまだ脱出が残っている。素人である離島棲姫が暴れたことにより天井は落盤、脱出口である階段も破壊され、出口が失われてしまっていた。
「さて、どうやって脱出しようかしらね」
ここで砲撃を放つのもアリではあるのだが、地上の建物が爆破されており、今でこそ倒壊まではしていないが、更なる衝撃で崩れ落ちてしまう可能性もある。だからといって丁寧に掘るようなことも出来ない。
こうなると、地上に残した4人に救ってもらうしかないかもしれない、どれだけ時間がかかるかはわからないが、無茶をして全てを壊してしまうよりはマシ。
「魚雷持ってきてますかぁ?」
「地上で使うわけないでしょ」
「残念ですねぇ。鈍器にするために考えたんですけどねぇ」
綾波と神風が物騒な話をしている中、暁と熊野丸が瓦礫を登ったり壁に手をつけたりして、現在の空間を確認していた。
落盤しているおかげで天井まで登れるようになっており、小柄な暁でも手をつけることは出来る。
「ここが薄そうね」
「ああ、足場が少々心許ないが、出来ないことはないな。だが厚さがまだ読めん」
「うーん、確かにそうよね。それに、足場まで崩されたらせっかく穴が空いても上に行けなくなっちゃうよ」
2人は今、熊野丸の壁破壊と同じ要領で天井をぶち抜き、上の階に上がろうと画策していた。
崩れたことで最も薄くなった場所なら、熊野丸の技で1つ上の階まで上がれるかもしれない。今の階層からは上に上がれなくなってしまっているが、1つ上の階層からなら通路は繋がっているため、コレが出来れば脱出可能。
しかし、足場も瓦礫であり、熊野丸の技は強烈な踏み込みから起こす技。不安定であれば威力はその分落ちるし、上手く行ったとしても今度は足場を破壊してしまう。そもそも天井が思ったより分厚かったら、足場だけ崩して天井は破壊出来ずなんてことだってあり得る。それでは意味がない。
「神風、艤装が斬れるなら天井斬れたりしないの?」
「悪いけど無理。私が斬れるのは人間の大きさ……いや、多少大きな艤装までよ。刀が届く範囲しか出来ないわ」
刀よりも厚い場所は斬れないし、広い場所も斬れない。あくまでも
「秋月、威力を抑えて撃つことは出来るかしら」
「出来ないことはないですけど、残弾数が心許ないですね……。それに、あまり撃ちすぎるとさっきの二の舞ですよ」
そう言いながら視線を向けた先は、離島棲姫が押し潰された瓦礫。人間を軽々と潰すほどに大きな瓦礫であるため、同じ事がまた起きたとしたら今度こそただでは済まない。
その瓦礫の方は、響と白雪が調査中。本当に離島棲姫が死んでいるのかは確認しておきたいと、退かせそうな瓦礫を退かしながら内部を確認している。
「奥にも道があるのはわかってるんだけれど、この先は脱出口ではないだろうね」
「下に降りていくだけでしょうから。深海棲艦の方々には通路でも、私達には袋小路ですからね」
「ならこの先に行くのは止した方がよさそうだ。離島棲姫の死体も潰されてしまっていて見つからない」
瓦礫を退かして奥に向かったとしても、海中を進むことは流石に無理。潜水艇が何かがあれば話は変わるが、そんな都合良く置いてあるわけがない。そもそも他の連中がここから脱出しているのだから、機材や研究材料などをそれで輸送してもおかしくないだろう。
「エレベーターあったよね。白雪ちゃんなら開けられるんじゃない?」
ここで子日の提案。エレベーターが動くことは無くなっていたとしても、そこは吹き抜けているのだから、そこから上に登ることは出来るのではないかと。
しかし、白雪は首を横に振った後、そのエレベーターがあったであろう場所を指差す。
「そのエレベーター、瓦礫で埋まっちゃってますね」
「うわーお」
技術的な問題ではなく、物理的な問題。エレベーターがある場所も落盤で滅茶苦茶になってしまい、辛うじて上の部分は見えるが中に入ることは出来ないと誰もが見てわかるような状況。
外部から持ち込まれた廃棄物を運ぶための物資用エレベーターもありそうではあるのだが、それがこの階層と繋がっているのかは何とも言えない状態である。それこそ、これだけ滅茶苦茶になってしまったら、そこに繋がるエレベーターや階段が壊れていてもおかしくない。
「1つ上に行ければいいだけなんだけれど、そうそう上手く行かないものね。地上に残ってもらった4人に託すしかないか」
神風が少々諦めに入った瞬間、封じられていた上への階段が突如爆発し、瓦礫を吹き飛ばした。
何事だと全員が視線をそちらに向けると、さらに爆発。埋まっていた瓦礫が取り除かれて、上に登るのは難しいものの吹き抜けの階段だった場所が開いていた。
「お、やっぱり閉じ込められてたか。助けに来たぞー! 誰も死んでない!?」
そして聞こえたのは川内の声。この爆破は上の階から何かをしたことで、ここの通路を開通させたようだった。
地上と次の階層は、これだけの爆発があっても通路が塞がれるようなことはなかったようで、出来損ない達の爆発を回避した4人はすぐさま救出に向かってくれていたらしい。
「大丈夫! 誰も死んでないし、怪我人もいないわ!」
「そりゃあ良かった。山汐丸流石だね。上手いこと壊しちゃって」
「地上での作戦ではこういった技術も必要でありますから」
この爆破、山汐丸が持参していた爆雷で起こしたモノらしい。こういった施設に閉じ込められることも想定し、今でも外を飛んでいる回転翼機の他は爆雷と電探と明らかに室内戦、しかも緊急脱出を視野に入れた装備をしている。
熊野丸が出来損ないの爆発に対して固める場所を指定した時に何も言わなかったのは、山汐丸にも近しい技術があったからこそ。
「助かったぞ山汐丸」
「無事で何よりであります。あとはどうにか登ってもらうしかないのでありますが、大丈夫でしたか」
「ああ、これだけ開いてもらえれば充分だ。ある程度まで行ったら引き上げてくれ」
ここまで開いてしまえば、あとはもう体力勝負。身軽な者から通路を登り、そこから登るのが難しい者を引き上げるという作業に入った。特に厳しかったのは、離島棲姫がいなくなったものの怯えているのは変わらない集積地棲姫ではあったが、全員の力を合わせてなんとか地上へと脱出。襲撃はこれにて終了となった。
回転翼機による監視で、外も今や出来損ない達もいない安全な場所となっているため、気を張らずに外に出ることも出来た。
尚、集積地棲姫の艤装は出来損ないの爆発に巻き込まれたものの、その全てが無事回収出来たらしい。流石に装備しろとは言わなかったが。
幸いにも装甲車も傷付いてはいたものの走れないわけではなかったので、全員を乗せて港まで戻ることが出来た。追加乗員である集積地棲姫も何とか乗れたおかげで、誰かが歩きになるなんてことも無し。
しかし、戻ってきた神風達は港の有様を見て絶句することになる。
「……何があったの」
慌ただしく動き回る艦娘達と、治療は行き届いているもののドックが空かずに、酒匂達救護隊の応急処置の後に入渠待ちしている者達もちらほら。
高速修復材を使いながらのドック入りをしていたとしても、今回は人数が多いため、どうしても時間がかかってしまう。それに、ドックによる治療が済んだとしても、すぐに目を覚ますわけではなかったため、その都度部屋に運び込んだりするのに余計に時間を使うことになった。
その中でも、伊豆提督は抉られた肩を治療しながらも、無傷で済んだイリスのサポートを受けながら指示を出し続けていた。神風達が戻ってくるまでは艦内に戻るつもりはないと言い切り、昼目提督も怪我を押してそれに便乗している。
「よく戻ってきてくれたわ……!」
「私達のことはいいの。ここで何があったの。それにハルカちゃんまで怪我をしてるじゃない!」
「端的に言えば襲撃にあったわ。アナタ達が襲撃に向かっている間にね」
詳細は省いたが、おそらく襲撃に向かった施設にいたであろう元凶達が脱出し、そのついでに港を強襲、この大惨事を引き起こしたのだと伝える。
ここまで聞いて、神風の表情が一変した。怒りや悲しみなど、負の感情が複雑に絡み合った、むしろ冷徹で殺意すら篭った表情。
「でも……深雪ちゃんのおかげで全員死ぬことはなかった。あちらも慢心があってくれたから、命までは奪われなかったわ……」
「深雪のおかげ?」
「ええ……あの子の……おそらく
現場にいた者しかわからない、あの時の不可解な状況。深雪の力としか思えない、誰も傷付かない煙幕。救う者には最短の道を渡し、帰る者には道を示し、攻撃する者には手段を与えない、ただただその場で誰も命を落とすことがなくなる空間。
深雪自身も一切制御することが出来ず、大暴走の末に港全てを覆い尽くすに至ったそれは、今はもうその残滓すら無いように見える。
だが、その時そこにいた者は口を揃えて言うだろう。深雪のおかげで助かったと。
「それ、どんな相手だったんですかぁ?」
ニコニコしながら綾波が問うた。そこまで強い敵ならば戦ってみたいと、戦闘狂ならではの感情で止まることなく言葉を紡いだ。
しかし、それはこの軍港都市を破壊するような輩である。例え戦いを楽しむタイプの綾波であっても、ここまでの怪我人を出した敵を許そうとはカケラも思っていない。楽しんだ末に確実に始末するという少々歪んだ感情を持っている。
「3人の……カテゴリー
「Kって初めて聞くんだけど」
「艦種もわからず、艦娘か深海棲艦かもわからない、多分全部
それを聞いて綾波だけはどこかワクワクしているようにも見えた。今すぐにでもその連中と戦いたい。戦ってここを拠点に使ったことを後悔させてやりたいと。
「アナタ達も疲れているでしょう。話は明日詳しくするから、今は休んだ方がいいわ。アタシもある程度済んだら休むつもりだから」
「……わかった。というか私達の方がまだ大丈夫だから、ハルカちゃんが先に休みなさいよね」
「そうね、その方がいいかもしれないわね。指示は殆ど全部終わってるから、後は救護班に任せて、眠ろうかしらね……」
いつになく疲れ切っている伊豆提督は、神風達が戻ってきたことがわかったならと、素直に艦内へと入っていった。イリスの支えがあるおかげで倒れることもないが、伊豆提督だって見てわかる程の怪我をしているのだ。消耗はそれ相応と言えるだろう。
「……ここまでされるなんて、随分と派手に喧嘩を売ってくれるじゃない」
空気が揺れる程の神風の怒り。だが、それを見たところで誰も驚くようなことはなかった。
何故なら、みんな同じ気持ちだったから。
これで本当に戦いは終わり。全員の入渠の終わりがいつになるかはまだわからないものの、治療が始まっているのだから時間をかければ元通りとなるだろう。