後始末屋の特異点   作:緋寺

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次の目的

 夜、調査隊に参加していた那珂と秋月がうみどりに帰投。少々埃っぽくなってしまっていたため、すぐに風呂に入り、食事をしながら情報共有。

 

「何人か生き残りが見つかったよぉ。ただ、みんなちょっと()()()()()()()()()()みたいでね」

 

 那珂が淡々と語るものの、廃棄物処理業者の施設跡の地下はかなり酷いことになっていたらしい。離島棲姫の引き起こした爆発によって散々なことになっている地上とは違いそれなりに綺麗なカタチで残っていたものの、研究施設としての様相が残っていたためか、そこに残されていた生き残りが悲惨なことになっていた。

 最初に救われた手小野は、まともに話せる上に艤装の解除も出来て、怯えていたとしても日常生活に戻れるくらいだった。しかし、後に見つかった者達はそれも厳しいくらいにトラウマを負っているようで、全員が瀬石元帥直属の陸軍艦娘と共に大本営へと運ばれていったとのこと。

 そして、その生き残り達は総じてカテゴリーY。きちんとイリスの目を以て調査したわけではないが、状況証拠的にそう見られる存在としか思えない者達であった。

 

「那珂ちゃんが凄かったんです。心を壊していて動くことも出来なかった皆さんに歌を聴かせてあげたら、少しだけ感情が戻ったみたいになって」

「多分、あの場所でそういうものから離れた生活をさせられていたんじゃないかなって思ったから、那珂ちゃんの生歌を聴かせてあげたんだ♪」

 

 那珂の歌声によって少しだけでも自分を取り戻した被害者達は、その時だけは自主的に動き、陸軍艦娘に従ったという。その後は結局また何も出来なくなってしまったようだが。

 

 それを考えると、平瀬や手小野の精神力は他の者達よりも優れていた、もしくは、平瀬や手小野以外の者達は適合していても完全では無かったために、理性に何かしらの障害を持ってしまった。そのどちらかとなりそうである。

 うみどりにいる者で言えば、未だトラウマによって言葉を失っている桜がそれに近いと言える。失語症はまだ軽い方で、感情も残っていれば活動にも支障がないのだから、むしろほぼ適合出来ていると言ってもいい。

 

 それでも歌には反応したというのだから、人間としての感性は残っている。そのおかげで、文化的な事象に対して反応し、その時だけは()()()()()を取り戻したのだろう。

 

「大本営……というより、瀬石元帥なら信用出来るものね」

 

 大本営自体は信用していいかはわからない。元凶の存在を隠蔽しているところも見え隠れしているので、全員を信頼して今回の件を託すのは少々難しい話。

 だが、瀬石元帥に関しては間違いなくシロと言い切れる。施設襲撃に手を貸してくれたからというのもあるが、タシュケントが所属する秘密組織に確実に関与していることが大きい。そこまでしておいて元凶サイドの人間とは思えないからである。

 

「今でこそそうかもしれないけれど、こうなる前まではどうしていたのかしら……あちら側にはそんなヒトすらも操る手段でもあったとでもいうの……?」

「呼び掛けても最初は返事もしなかったから、出来損ないと同じ感じで動かされてたんじゃないかなぁ。ファンを蔑ろにするなんて、演者失格だよね! ぷんぷん!」

 

 心を壊したような人間をコントロールする手段があるのかと考えたものの、よくよく考えれば出来損ないをコントロールするシステムがあるのなら、理性がうまく働かない存在ならば遠隔操作出来てもおかしくなかった。

 逆に言えば、理性を正しく持っているもの、平瀬や手小野のような適合者は、その理性を責めて協力するように仕向けている。小心者だったり、責任感が強かったりする者を脅し、逃げられないように外堀も埋めて、強引ではあるが自主的に協力するように。

 

「ともかく、2人ともありがとう。あと少ししかないけれど、今日はゆっくり休んでちょうだいね」

「はーい♪」

「力になれてよかったです」

 

 この調査結果に関しては、翌日しっかり話すことになるだろう。大本営としても、カテゴリーYをその目にすれば、それをどうにかするために動かざるを得ないのだから。

 

 

 

 

 翌朝、早い時間から大本営──瀬石元帥からの連絡が来た。伊豆提督だけでなく、昼目提督や保前提督も巻き込んでの通信。ほとんど事後報告会である。

 

『惨憺たる光景じゃのぅ……現場に出とらん儂が言うのはなんじゃが』

 

 通信の画面に表示された3人の状況を見て溜息を吐いた瀬石元帥。もう見える位置に置いてある胃薬から、ここ最近のストレスは相当なモノであると考えられる。

 

 3人が3人、見てわかるほどの重傷。全身に痛々しい傷が刻まれてしまっていた。襲撃の前までは軽傷だった伊豆提督も、今や目に見える傷が多い。

 保前提督が最も酷く、この通信の場でも執務室が医務室のように改造されている部屋のまま。瀬石元帥がそのままでいいからと許可を出しているため、上官の前であっても殆ど寝たままの通信となっている。看護している能代も、通信の最中でありながらも当たり前のように甲斐甲斐しくお世話していた。

 

『現場に出ていた者が帰投し、保護した()()()を確認した。その者のことは、一旦うみどりでの総称を使い、カテゴリーYとしておく。今は心神喪失状態で、芳しくない状態ではあるが、暴れるようなことはないから安心はしておいてほしい』

 

 大本営側でも、この痛々しい被害者達をどうにかするために力を尽くすと決めているようだ。今は各々療養のための個室に入り、心を落ち着かせるために多種多様な手段を試しているところらしい。

 最も効きそうなのが文化的な行為、特に歌などを聴かせることが有効であるとして、室内に何かしらの音楽をかけているとのこと。那珂の歌声が心に響いたことからこの手段をとっているようである。

 

『明確な物的証拠が目の前にあるのだから、大本営としてはこれを基に他の回収業者にも調査の手を入れることとする。他にも協力者はおるかもしれんからの』

 

 この事件は、軍港都市の地下だけで起きているとは限らない。むしろ、地下施設を廃棄し、出洲達が逃げ果せてもまだやりたい放題出来そうというのだから、間違いなく別の場所に拠点を構えている。それこそ、うみどりの領海ではないところである可能性はかなり高い。

 

『研究材料を後始末屋から手に入れる手段は、こちらで消す。足取りも追えるならば追うつもりじゃが、現場にいる者達でも探りは入れてもらいたい。構わんか』

『うす。そういう時こそ調査隊の出番っす。海域調査と同時に、何かわかることがあれば逐一報告するんで任せてください』

 

 この中でも特に自由に動けるのが調査隊である。海域調査も、出洲の行方を調べるためには必要不可欠なこと。片手間どころか、それに本腰を入れてもいいレベルである。

 

「アタシ達は、今日から後始末屋としての業務に戻ります。それもこの戦いを終わらせるためには必要なことですから」

『うむ、そうしてくれるとありがたい。それに、少し嫌な予感もしておる』

 

 瀬石元帥の嫌な予感。それは、後始末屋の仕事を掠め取り、研究材料を自ら手に入れに走るということ。

 これまでは待っていればうみどりが研究材料を()()してくれていたので、自ら動くことなく研究を続けられていた。しかし、今はもうそれも叶わない。ならば、後始末屋に頼ることなく動き続けるために、戦いの終わった戦場に出向き、残骸を軒並み回収していくということがあり得る。

 

 うみどりはその残骸を無害化し、溜め込んだ状態で回収してもらうということもしていたが、あちら側はそんなこと考えずにただ拾っていくだけだろう。残骸から溢れる穢れのことなんて考えず、撒き散らしながら新たな拠点に持って帰る。

 するとどうなるか。嫌でも()()()()()()。あちらは平和のためと言いながらも穢れに対しては無関心。むしろ、戦いが続くことで人類は試練を受け、それを乗り越えることで高次の存在へと一歩近付けるとまで言うだろう。

 

『奴らより先に後始末をする必要も出てくる。その上で、奴らの拠点を探してもらわにゃいかん。また苦労をかけるが、頼まれてもらえるか』

「勿論です。それがアタシ達後始末屋の仕事ですから」

 

 後始末屋としての仕事は何も変わらない。戦場を片付け、これ以上穢れを拡げないようにし、それ自体が出洲達の目的を阻止することにも繋がる。

 あちら側がその姿を現したのだから、もう全面戦争の様相である。しかし、あちら側の力は強大だ。ならば、少しでもその力を蓄えさせないようにする。後始末屋はまさにそのためには必要不可欠な存在となった。

 

『保前君、君への処分じゃが……』

『はい』

『今は保留とする。すぐに決めることは出来ん』

 

 状況が状況だけに、ここで保前提督をどうにかするなど出来るわけがなかった。

 確かに軍港都市内に元凶の施設が長年鎮座しており、それを発見することが出来なかったのはいいことではない。考え方によっては、戦争を引き延ばす行為を止められなかったということにも繋がる。

 だが、それほどまでに隠し方が巧妙であり、その上で協力者などもいる可能性を考えると、保前提督はまず被害者という立ち位置になるだろう。

 その上で出来損ないの爆発に巻き込まれて現在重傷を負っている状態だ。こんな状態で処分も何も言えたものではない。

 

『軍港都市の混乱を収めることが出来るのは君しかおるまい。長く軍港を管理し続け、住民からの信頼も厚い。所属する艦娘からなんて言うまでもないじゃろ。その者をそこから外すことなんて、儂には出来んよ。ここでクビにでもしようもんなら、儂が刺されるわ』

 

 冗談を交えつつも、保前提督のこれまでの功績と、事件の中での立ち位置から考えて、()()()()()()()()()()()としっかり口にした。

 故意に見逃していたわけでもなし、その後の襲撃にも大きく関与しており、軍港都市の平和のために戦っている者を蔑ろにすることなんて出来るわけがなかった。

 問題になってくるのは、暁と綾波の件くらい。やっていることは軍規に違反するが、それでも今回の事件の解決に繋がる行為でもあるため、そこからも減刑は可能。

 

『先を見据えても君を更迭するようなことはないから安心するといい』

 

 ただし、無罪というまではどうしてもいけないため、降格や減俸は避けられないという。罰は受けねばならない立場になってしまっているのだから。

 いろいろと覚悟の上で今回行動した保前提督としては、その程度で処分が終わることに驚きを隠せなかった。提督を辞する覚悟もあったため、ここでまだ続けられることが、涙が出そうになるほど嬉しかった。

 

『それじゃあ、今回はここまでとしようかの。これからもよろしく頼む』

「あ、元帥。この後2人だけで話したいことがありますので、このまま残っていただけると」

『む? 構わんよ。じゃあ、保前君、昼目君、以上じゃ。席を外しておくれ』

 

 4人での通信は終わり、昼目提督と保前提督は通信を切る。そして、この場には伊豆提督と瀬石元帥の2人きりに。

 

『儂だけに話したいことがあるとはどういうことかの?』

「近々、潜水艦の秘密組織と会えるように、手筈は整えられませんか」

 

 真正面からぶつけられて、瀬石元帥は流石に目を見開いた。本人としては隠してきたつもりなのだろうが、これまでの状況から、裏で繋がっているのは見抜いている。

 

『まさかここで普通にそれを口に出すとは思わんかった』

 

 これは肯定の言葉。つまり、予想は大当たりで、瀬石元帥が秘密組織のバックアップをしているということに他ならない。

 

「すみません。ここで起きたことを、あちらとも情報共有する必要があると思いまして。元帥があちらと話が出来る立場ならいいんですが、一応念のため」

『儂は()()()()のつもりで秘密裏に協力しているに過ぎんよ。だから、儂自身があちらに信用されているかはわからん。じゃが、君達は信用を勝ち取れそうなんじゃろ?』

「はい。うちの深雪ちゃんが、タシュケントちゃんを説得して、和解することが出来ました。アタシはさておき、深雪ちゃんは同志とまで呼ばれていましたね」

『なるほどのう。なら、深雪達を会わせる必要がありそうじゃの。なら、どうにか話をしてみよう。最悪、資材に手紙でも潜り込ませてみるか』

 

 瀬石元帥でも直接話をすることは難しい、むしろ出来ないくらいらしい。それだけ秘密組織が人間不信に陥っているということなのだろう。

 

『よかろう。こちらも手を尽くそう。場所はどうしたい』

「後始末の現場に来てもらえるのがベストですが、それを拒まれる可能性もあるので、合流出来そうな座標を送ります。そこで」

『あいわかった。あまり期待せず待っていてほしい』

「了解です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 話は進む。次の目的は、後始末をしながらの秘密組織との合流。そして、喧嘩っ早いという問題児達を筆頭とした、人間不信のカテゴリーBを説得すること。

 




ついに瀬石元帥が通信の場に胃薬を持ち込むようになりました。心労が酷い。
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