後始末屋の特異点   作:緋寺

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軍港の友

 停泊中のうみどりから外へ出て、休暇を満喫する深雪達。屋台街を抜けた後は雑貨屋巡りに突入。

 

 真っ先に目に入ってきた本屋で、梅がここぞとばかりにアレが欲しいコレが欲しいと手に取りつつ、しかし使える金額は決まっているためにうんうん唸り出す。本当に欲しい渾身の一冊を、そしてそれが上中下の三冊だったことで余計にホクホクとした表情でレジに向かった。

 

「以前からずっと欲しかったんですコレ! 三冊纏めて手に入るだなんて……!」

「そりゃあ良かった。今までにないくらいの笑顔だぞ」

「本を買った後の梅は、それはもう凄いのよ。今日くらいから部屋から出てこなくなるから」

 

 一刻も早く先が知りたいという気持ちからか、自由な時間は徹底的に読み尽くすようである。特に新しい本に対しては集中力が凄まじいのだとか。

 

 続いて向かったのが、秋月が望んだ手芸屋。前々からずっと買おうか悩んでいたらしく、ついに決心したらしい。ここの手芸屋は品揃えも良く、欲しいと思ったものは確実に手に入れられると秋月は語る。

 

「これ、これが欲しかったんです……!」

「やべぇ、見ても何する道具か全然わからねぇ」

「これはパンチニードルと言って、毛糸でですね……」

 

 秋月も話し出したら止まらないタイプなのかもしれない。事実、最初はほつれた服を直すところから裁縫にハマり、そこから手芸を趣味と言えるところまで来ているのだから、その熱意も相当なのだろう。

 

「これで2人の目的は達成したんだな。子日は食べ歩きだから絶賛目的達成中として……睦月は友達と会うんだったっけ」

「そうなのね! この辺りを見回りしてるかなって思ったけど、もう少し先かも。いろいろ回ってから会いに行けばいいにゃし」

 

 どうせここで遊び回っていれば間違いなく顔を合わせることになるからと自信満々である。

 この軍港都市はそれなりに広い。こうやって遊び回っていても、全域を回ることは出来ないだろう。一部は少々入ることを躊躇うような店が並ぶ区域もあるものの、それでも広いと感じるくらいに。

 

 それでも会えると断言出来るのは、勘なのかいつものことなのか。睦月だけでなく、他の者達もまぁどうせ会えるからと高を括っているため、なんだかんだで街を回っている間に出会えるのだろう。

 うみどり所属ではない艦娘と話すことになると思うと、少しだけ緊張してしまう深雪。とはいえ、仲間なのだから悪いことにはならないはずだ。

 

「ささ、みんなの行きたいところをバンバン回るぞよ! あ、睦月はお持ち帰りの甘いモノが欲しいにゃあ。ハルカちゃんにお土産買っていくのね!」

「そりゃいいな。ここでしか買えないような土産買って行ってやろうぜ」

「じゃあ軍港饅頭と……」

「そんなもんあんのかよ!?」

 

 目的を少しずつ消化しつつ、笑顔が絶えない6人の休暇はまだまだ続く。深雪にとってもいい思い出が出来ていく。

 

 

 

 

 昼食時となるものの、屋台街でそれなりに腹を膨らませてしまっていたことで、軽食でいいかという意見に満場一致。伊豆提督には怒られそうな食生活になっているものの、たまにはハメを外してもいいというのも伊豆提督のやり方なので、今回ばかりはやりたいようにやってしまうのが6人。

 だったらあそこに行くしかないと子日が言い出したのは、目的を話した時から言っていた間宮という店である。

 この名前は誰でも知っていると言っても差し支え無いほどの有名人。給糧艦間宮が経営する甘味処。その味は鎮守府でも取り扱われているモノと同じであるとされ、子日はここで食べるのだと息巻いていた。

 

「普通の鎮守府は食堂に間宮さんがいることが多いんだけど、うみどりはちょっと特殊だから、配備されてないんだよね。だから、ここに来たときに食べたいんだ!」

「お土産に間宮羊羹もいいにゃあ。ハルカちゃん、食べたがってる時あったし、買えたら買っていくのね」

 

 この時間は少しだけ空いているというのも理解しており、決めたその足で間宮へ向かう。すると、想定通りに行列も少なめ。数分待つくらいで店内に入れそうだった。

 甘味処というだけあって、一番混むであろうタイミングはオヤツ時。そこからズラせば意外と行けたりするのである。

 

「わぁ、やっぱりこの時間だと少しは空いてるにゃしぃ」

「だよねだよね。ここでお昼を食べるって人は少ないもんね。それでも賑わってるんだけどさ」

 

 店の外まで甘い匂いが漂ってきており、幸せが鼻腔をくすぐる。深雪とて、伊豆提督の食事で舌が肥え始めているというのに、これは別格と感じるほどだった。

 他の鎮守府ではこれが常備されていると聞くと、少しだけ羨ましく感じてしまう。だからといって、うみどりから出ていきたいとかそういうことは一切思わない。これにはこれの良さがあるように、うみどりにはうみどりの良さがある。深雪の中では、うみどりの良さの方が勝っていた。

 

「あれ、あの後ろ姿、見覚えあるにゃしぃ」

 

 その間宮の行列の最後尾。そこに並んでいる少女達に、睦月はおやと反応した。後ろ姿からして、それは艦娘。しかも、深雪達と違って私服ではなく制服姿である。

 この街で制服姿の艦娘となると、大体がここにある鎮守府所属であり、見回りの最中にここにいるということに他ならない。仕事中というわけではなく、昼休憩か何かだろうと察する。

 

「あーっ! ここで会えたのね!」

 

 そして、睦月が激しく反応した。その行列の最後尾にいた者達こそ、睦月がどうせ会えると高を括っていた鎮守府の友達である。

 睦月の声に反応し、片方──帽子の少女がビクッと震えた。そして、力強く振り向く。もう片方──サイドテールの少女はおっとりと笑顔を向けていた。

 

「その声は、睦月!」

「わぁ、お久しぶりです〜。うみどり、停泊してましたからねぇ」

「昨日の夕方くらいよね。うちの司令官が行ったの見たし」

 

 最後尾に並びつつ、再会を喜ぶ3人。後始末屋の仕事の都合上、こうやって会うのも数ヶ月ぶりとなっていたため、喜びもひとしお。

 

「あ、深雪ちゃんには紹介するね。さっき言ってた睦月の友達にゃしぃ」

「暁よ。一人前のレディとして扱ってよね」

「ごきげんよう。綾波と申します」

 

 少々強気な表情を見せる暁と、柔らかい笑みを浮かべるのんびりとした綾波。深雪がドロップ艦であり、うみどりの仕事中に仲間に加わったことは知っている2人である。

 

「深雪だよ。よろしくな!」

「はぁい、よろしくお願いしますねぇ」

 

 ニコニコと挨拶を返す綾波の横では、暁は深雪のことをジロジロと見た後、ふぅんと1人で納得したように小さく頷く。

 

「ど、どうした? あたしに何かついてんのか?」

「ううん、何にも。貴女、一応だけど特型なんでしょ? 暁も綾波も特型だから、姉妹艦ってことになるのかなって思って」

 

 暁は暁型のネームシップ、綾波は綾波型のネームシップという、いわゆる()()()ではあるのだが、範囲を拡げると特型という大きな姉妹になっている。それでカウントすれば、深雪は暁と綾波の姉に当たるわけだ。

 だが、深雪はそんな感覚は持っていない。駆逐艦は全員横に広がっており、姉妹だの上下関係だのはそもそも想像出来ていなかった。

 

「別にあたしは姉妹とかどうでもいいぜ。友達でいいよ」

「大丈夫。暁は長女だからお姉ちゃんは要らないの」

「ならちょうどいいな。改めて、よろしくな暁」

 

 ニカッと笑って手を差し出す。この挨拶の仕方は()()()()()()と感じたか、暁は気分良くその手を握った。

 頭を撫でるように子供扱いされることを嫌う暁にとって、こういう自分を対等としてみなしてくれる行為は嬉しいもの。これだけでも深雪に対して()()()()()()()と少々上から目線の評価を下していた。そこがまた子供っぽい考え方なのだが、誰もツッコマない。

 

「ささ、綾波達の順番ですよぉ。いっそみんなで入っちゃいましょ〜」

「あら、良かったの? 私達結構人数いるわよ?」

「構いませんよぉ。うみどりの話、聞かせてほしいですから〜」

 

 綾波に促されて、深雪達は一緒に間宮へと入ることとなる。甘味を通して、その仲を深めるために。

 

 

 

 

「え、なんだこれ、美味すぎなんだが」

 

 思っていた以上の味に真顔になる深雪。うみどりでは食べたことのない特製スイーツを口に含んだだけで、体内を幸せが駆け巡るかのような感覚を得る。これだけでコンディションが良くなり、十二分に力を発揮出来るように思えた。

 

「戦いの前に食べるってのはこういうことか」

「んふぅ♪ やっばり美味しい! 来た甲斐があるよぉ♪」

 

 子日もトロトロに蕩けた表情でスイーツを頬張っていた。ここに来たい来たいと言っていた張本人でもあるので、念願叶ったことでこれまでにないほどに弛んでいた。

 大きな戦いがあるときに、実益と験担ぎを兼ねて間宮のスイーツを食べてから挑むという話を聞き、これなら多用すると実感する。舌が肥えていても、このスイーツには魅力が詰まっており、また食べたいと思わせるほどだ。

 

「で、うみどりはいつまでここにいる予定なの?」

 

 格好つけてブラックコーヒーを頼もうとしたものの綾波にやんわりと止められた暁が、仕方なくという体裁で頼んだオレンジジュースを飲みながら睦月に問う。やはり友人の動向というのは知っておきたいようだ。

 

「明日出港っていうのは聞いてるけど、次の依頼のことは聞いてないよ。今回は後始末で溜まった廃棄物の処理と、物資補給がメインだって聞いてるのね」

「そうね、依頼はまだみたい。少しだけ戦場が少なくなってるのかもね」

 

 睦月と共に神風も答える。今のところ、この軍港からの依頼で後始末をした中規模の戦場以外に、後始末が必要な海域は無いらしい。

 

 毎日毎日戦闘が繰り広げられているというわけではないようで、あったとしても1日でその戦いが終わるということもない。後始末はあくまでも、()()()()()()()()()であり、戦場に飛び込むようなことは無いのだ。

 今こうして平和を満喫している裏側で激戦を繰り広げている可能性はあるのだが、そこの後始末は激戦が終わってから。今から向かってもむしろ戦いの邪魔になるだけである。

 

「ふぅん。じゃあ、前みたいに演習とかしないのね」

「今の予定ではしないにゃあ」

 

 演習という言葉に深雪はピクリと反応する。

 

「演習ってことは、仲間同士で撃ち合うってことだよな」

「それはそうよ。そうやってみんなで強くなっていくんだから」

「仲間達と技を磨いて、強い敵にも勝てるようにするんですよぉ。トレーニングだけでは、考えて動く敵には対応出来ませんからぁ」

 

 動かない的ばかり撃っていても、回避する敵に命中させることは出来やしない。だからこそ、同じ条件で戦い合い、互いの練度を高めていくのだ。

 暁に続いて綾波も演習の説明をする。深雪とて演習のことを知らないわけがない。むしろ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……沈みは、しないんだよな?」

「当たり前でしょ。演習はペイント弾でやるんだし、体当たりとかされても沈むことはないわよ。駆逐艦が戦艦に轢かれたとしても、すごく痛いだけよ」

 

 暁の言葉に少し安心しつつも、やはりどうしても不安はあったりする。

 

 駆逐艦深雪の有名な逸話。それが、演習中に仲間と衝突したことで沈んだこと。その恐怖、トラウマが、深雪の深層心理に染み付いてしまっているようだった。

 今までのトレーニングで海上での追いかけっこなどは出来ていたものの、それはあくまでも演習ではない。ヒトの身体の強みを活かすための練習に過ぎない。

 

「深雪さん、大丈夫ですか? 何処か顔色が……」

 

 秋月に言われて、大丈夫大丈夫と笑顔を見せるものの、やはり何処か不安が滲み出ていた。

 それを見た神風がそうだと手を叩く。

 

「ねぇ暁、綾波。今から鎮守府に行ってもいいかしら」

 

 突然の提案だが、ちょっと待ってくれと通信端末で鎮守府に連絡を取ってくれた。アポ無しで突撃するのは、同じ艦娘といえど少々厳しいが、こうやって鎮守府所属の者のツテがあれば、気兼ねなく入ることが出来ると思われた。

 

「ん、大丈夫みたい。そっちの提督からも言われてたらしいわよ。誰かが行きたいって言ったら迎え入れてくれって」

「流石はハルカちゃんね。そういうところの手回しがホントに早いわ」

 

 神風が深雪に向き直り、肩をポンと叩く。

 

「深雪、これから艦娘の戦い方を見に行きましょ。多分今、演習やってるはずだから」

「な、え、えぇっ!?」

 

 

 

 

 急に決まった軍港鎮守府来訪。そこで深雪は、深層心理に刻まれたトラウマを乗り越えることとなる。

 




 深雪からは切っても切れない史実ネタ。あまり事実のことを考えない自分ですが、今回ばかりは重要なファクター。


支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/105876601
本作主人公、深雪。このドラム缶の中には、深海棲艦の肉片がたんまりと……と思うと、ちょっとグロく見えてしまうのはご愛嬌。深雪はトングをカチカチするタイプ。
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