後始末屋の特異点   作:緋寺

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ついにその時が

 翌日、海域の清浄化率の維持が確認出来たため、次の目的地へと向かうこととなる。その場所では、新たな後始末があるわけではない。だが、今後のことで重要なことがそこにある。

 

「今から向かった先で、タシュケントちゃんと合流するわ。あれからしばらく経ったけれど、ようやくあちらと接触出来そうなの」

 

 元帥からの連絡は勿論、カテゴリーBによる秘密組織との邂逅のための話。資材に潜り込ませた手紙に対して、あちらのボスからいい反応が貰えたということで、指定した座標での合流が確定した。

 

 秘密組織との接点がある瀬石元帥は、定期的に資源を提供することで繋がり続けている。その際に、ボスと思われる者から連絡を貰っているのだが、それは通信とかそういうのではなく、モールス信号で端的な要求だけが飛んでくるだけ。

 今回の手紙の件についても、あちらの反応はすぐではなく、少し経ってから『OK』と来たのみ。一応は反応をくれたものの、向かって誰も来ませんでしたという可能性が無くはない。

 

「ついにか……!」

 

 それを聞いて気合が入ったのは、やはり深雪である。長い時間を人間に憎しみを持ち続けているカテゴリーB達と直接会い話が出来るのは、純粋種である深雪達だけ。そのためにこれまで鍛え続けてきた。

 

 タシュケントと会い、潜水艦に来てくれと言われた時には、深雪も電もまだまだ未熟だった。後始末をしていただけで、実戦経験も無かった。

 それが今では、今この世界に脅威となっている存在や、それを相手にした時の敗北も知り、本来仲間となるはずがなかったカテゴリーMたる時雨をも仲間にしている。短期間で濃厚な経験を積んでいるため、あの時よりも大きく成長しているのだ。

 

「彼女の言う問題児というのがどんな子なのかはわからないけれど、あと1日でなるべくどうとでも出来るくらいに鍛えさせてもらうわね。かなりハードになるけれど……」

 

 伊豆提督としては、艦娘にそこまで強いることはしたくない。しかし、ここで失敗した場合、秘密組織との関係は永遠に失われて、力強い協力者と共に歩むことが出来なくなるかもしれない。

 今ここで出来る最善の策が、深雪達を出来る限り鍛えること。自分の技術を注ぎ込み、問題児に力を示すことが出来れば言葉も通じるはず。

 だからこそ、ここは心を鬼にして、多少キツくても伊豆提督自身でトレーニングを施しているのだ。その結果、短期間でメキメキと力をつけているのは間違いない。

 

 それを更にハードにするかもしれないと言われたら、少し尻込みしてしまいそうである。

 

「あたしは大丈夫だ。本番が近いってなら、もっとハードにしてくれてもいい。遠慮はいらねぇよハルカちゃん」

「僕もだ。ちょっと今のままでは納得がいかないからね。これ以上負け続けるのも気に入らない」

 

 深雪と時雨は最初からやる気満々。時間が無いならば、間に合うようにキツくしてくれてもいいと、怖気付くどころか気合が入っているようだった。時雨はまた少し違う心持ちがあるようだが。

 

「電と……電も頑張るのです。だから、ハルカちゃんさん、大丈夫なのです」

 

 電も、深雪達がやるから便乗するというわけではなく、自分自身で過酷なトレーニングを受け入れた。

 強くなりたいという気持ちは、電にだってある。深雪と共に戦い続けることを選択したのだから、相応の力を持ちたいと自ら望んでいるのだ。それに、深雪と一緒ならばきっと乗り越えられる。

 

 3人の反応を見た伊豆提督は感無量だった。今回は念の為の車椅子もついに取り払われている。行動が阻害されるものはない。これまで溜め込んでいたものもあるからか、もう止める者は()()()()()()いなかった。

 

「もう、本当に嬉しいこと言っちゃってくれるんだから!」

 

 そして、久しぶりにガバッと抱き着いた。特に電の健気さに心を打たれたため、その中心は電。一瞬息を呑んだものの、悪い気分ではないため、電もそれを受け入れた。

 

「アナタ達は必ず強くしてあげるわ! だから、何も心配しないでちょうだいね!」

 

 その宣言は実現することになる。この残された1日で、深雪達は伊豆提督が知ることをギリギリまで叩き込まれ、昨日までよりも格段に強くなることとなる。

 

 

 

 

 そんなこんなでまた1日経過して、うみどりは目的の場所に到着する。その地点は、基本的には誰かに見られるような場所ではない海のど真ん中。秘密裏に行動しているカテゴリーB達にも支障が出ないような場所。

 そして、何かがある場合は好転することが多い場所。深雪が生まれ、電を拾い、時雨と和解した場所。『特異点W』。

 

「アタシ達はここで待っていればいいはずよ」

 

 その地点に辿り着いたのは、日が昇る前。これまでの傾向からして、そうしていればあちらはうみどりがここにいることを察しているはず。待っていればタシュケント辺りが迎えに来るなりすると予想していた。

 

 ただし、タシュケント以外のカテゴリーBの持つ憎しみが未知数。あれより根深い場合は、話も聞いてもらえない可能性が高い。その上で、問題児と呼ばれているような者もいるくらいなのだ。

 

「うし、準備完了」

 

 ここから向かうことになる深雪と電は、早々に向かう準備を整えていた。いくら話をしに行くためだけとはいえ、うみどりから潜水艦に向かうためには艤装を装備していかないわけにはいかない。

 もし喧嘩をすることになったとしたら、その場で艤装を外すつもりでもいる。あちらはどういうつもりでふっかけてくるかはわからないが、何も殺し合いをしようだなんて思っていないと信じたい。

 

 喧嘩を想定しているものの、最初からそれを狙っているようには見せないため、トレーニングの際に身につけていたようなサポーターなどは今回は一切無し。

 だが、それでもいいようにトレーニングは制服姿でやり続けていたのだ。今の姿での戦いは慣れているつもりなので、十全の戦いは可能なはず。念のためということでスカートの下にはトレーニングにも使っていた短パン……ではなく、子日に使いやすいからと熱弁されたスパッツを着用しているくらい。

 

「時雨は初顔合わせだよな」

「勿論。だから、ここから直談判だよ」

 

 タシュケントがうみどりに訪れた時は、まだ時雨は拾われていない時期。その後に仲間に加わった純粋種であるため、タシュケントは時雨の存在を知らない。

 とはいえ、時雨も純粋種。人間嫌いを拗らせ続けたカテゴリーB達からしてみれば、まだ受け入れられるタイプ。さらに言えば、呪いがあるためにカテゴリーBと同調も出来る。

 ここで同調しすぎて呪いが悪化したら困るのだが、そこは時雨、自信満々に見縊らないでくれと宣言していた。万が一またここで以前の時雨に戻ってしまったとしても、深雪が引っ叩き、電が関節をキメることで正気に戻すつもりではいる。

 

「相手は潜水艦、その中に入るためには浮上してくるはずだけれど……」

 

 伊豆提督がそう呟いた瞬間、うみどりのソナーが近付いてくる影を感知した。緊急事態を想定して警報が鳴るものの、事前にそれを鳴らすことを全員に伝えていたため、突然の大きな音でビクッと震える者もいたが、それだけで終わる。

 むしろ、警報が鳴ったことによって、その時が来たと身構えることに。

 

『巨大潜水艦の反応を感知したわ。近くに浮上してくるみたいだから、うみどりも大きく揺れると思う。全員、対衝撃姿勢に』

 

 イリスの放送も束の間、うみどりが徐々に揺れ出した。近場で大きな質量が浮かび上がってくるというだけでも、海が強く揺れる。波が立ち、うみどりのような巨大な艦船であってもそれには耐えられない。

 深雪達はその揺れに耐えるため、危なくないようにその場にしゃがみ込む。艤装があるのと、これまでのトレーニングのおかげで、バランス感覚は格段に上がっているのだが、そこは安全に事を終えるためにやれることは全てやる。

 

 波があることはわかっているため、工廠の門は開いていない。開いていたら、工廠が水浸しになっていただろう。なので、工廠で待機していた深雪達には浮上してくる潜水艦の様子は見ることは出来ない。

 代わりに、後始末の際にも使用している全方位カメラの映像を手元のタブレットで見られるようにしていた。しゃがみながらでも、伊豆提督がその様子を深雪達にも見せる。

 

「うお、でか……っ」

「うみどりよりは小さいけれど、潜水艦としては破格のサイズね。あの中で艦娘達が暮らしてるんだもの、そういうサイズになって当然よね」

 

 伊豆提督は予想していた通りと冷静に見ていられるが、深雪が声をあげてしまうくらいには大きな潜水艦が、うみどりのまた鼻の先に浮上してきていた。

 うみどりが大きく揺れるのも無理はない。鎮守府の性質を持っている潜水艦なのだから、それ相応のサイズを誇っている。その質量が真上に上がったのだから、小さな船なら簡単に呑み込んでしまうくらいの津波は起きる。艦娘なんて以ての外だ。

 

 うみどりの揺れがおおよそ収まったところで、津波の心配が無くなったことで工廠の門が開く。

 

「お、おっきいのです……!」

 

 電もそんな言葉を出してしまうくらいには、潜水艦の存在が非常に大きく見えた。

 

 そして、その潜水艦の上、出入り口となる場所がカタパルトデッキのように開くと、そこからは深雪達には見覚えのある顔が。

 

Давно не виделись(久しぶり)、同志ミユキ、同志イナヅマ」

 

 満面の笑みを浮かべてそこから跳び、海面に着水した瞬間に物凄いスピードでうみどりの工廠へと入ってきたタシュケント。そんな彼女に、深雪は手を振り、電は小さく頭を下げる。

 

Адмирал(提督)、準備は出来たのかい?」

「ええ、一応はね。そちらの問題児とやらがどんな子かはわからないけれど、みんなある程度は戦えるようにしているわ。心持ちも違うように見えるでしょう?」

「ああ、アレだ、ツラガマエが違う、というヤツだね」

 

 以前に会った時と、タシュケントも表情が違っている。人間は自分達に協力して当たり前であり、全てを下に見ているようなことは一切無く、互いに同等、かつ手伝ってくれているのだから敬意を表しているような、明るい本来のタシュケントの表情である。

 

「おや、君はもしかして、()()()()だね」

 

 時雨の存在にも気付いたタシュケントは、笑顔を振り撒きながら時雨に近付いた。

 

「第三世代は基本的に人間に敵意を持っていると思うんだけど、君も同志ミユキに感銘を受けたのかな?」

「感銘だなんてあり得ない。深雪の言うことには一理あったというだけだよ。それに、僕は絆されているつもりはないさ」

 

 いつも通りの捻くれた態度ではあるが、タシュケントは意に介さずに話を続ける。

 

「そういうことにしておこうかな。ここにいるのは、君も同志ミユキ達と一緒に来たいということであってる?」

「ああ、僕も純粋種だからね。行く権利はあるんじゃないかい。深雪と電だけでは失敗するかもしれないと思ってね」

「失敗するかはさておき、君も一緒で構わないよ。人間が来るよりは遥かに危なくないからね」

 

 純粋種ならば比較的安全であろうということで、時雨も潜水艦に招待されることとなる。

 タシュケントとしては深雪達に1人でも多く味方がいることに内心喜んでいた。深雪はともかく、電は少々頼りない印象が強いため、問題児を相手にせざるを得なくなった時に、戦える者が多い方がいいと考えていたからだ。時雨は見てわかる程度に戦える。好戦的と言ってもいいくらいかもしれない。

 

 だが実際はいろいろと変化している。タシュケントが度肝を抜かれるのは、ここから少し後のことになる。

 

 

 

 

「さぁ、じゃあ行こうか」

「ああ」

 

 ついに実現する、カテゴリーBとの邂逅。ここをうまく乗り切り、協力者を増やしたいところである。

 




タシュケントからしてみれば、電は優しく戦いには向いていない存在であるため、問題児に何かされたら泣いて帰ってしまうのではないかとか考えていそう。でも、その実態は……。
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