後始末屋の特異点   作:緋寺

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問題児

 タシュケントに連れられ、潜水艦の入り口へと登った深雪達。バランス感覚を鍛えていたおかげで、滑って落ちるようなこともなく、真っ直ぐ進んでそこへと辿り着いた。

 

「艤装を装備したまま入れるくらいには広いから安心していいよ」

「そりゃよかった」

 

 カタパルトデッキのように開いている出入り口は、深雪達が奥に入って行ったところで、一度音を立てて閉じる。こうなってしまうと、深雪達はもううみどりには戻れない。

 

「タシュケント、これって閉じ込められたか?」

Извини(ごめんね). 多分、外の人間達に邪魔をされるかもしれないって警戒してるんだ。君達はそんなことをしないとわかってるけど、仲間達は警戒心がすごく強くてさ」

 

 そんなタシュケントの言葉に、時雨はうんうんと頷く。今でこそうみどりの面々を信用出来るが、それ以外の人間と話をするようなことがあったら、何かあった時のために()()()()()()()()()のではなく、()()()()()()()()()ことを選択する。

 

 元々人類に対して強い憎しみを持っていた時雨だからか、ここにいるカテゴリーB達とは容易に同調出来た。人類を滅ぼすためならば、道理なんて無視してもいい。ルール無用で好き勝手やる。それが時雨の持つ呪いであり、カテゴリーB達の憎しみ。

 

「さぁ、こっちだ」

 

 そのまま真っ直ぐ進んでいくと、そこは潜水艦内の工廠になっていた。

 うみどりの工廠とはやはり見た目も設備もかなり違うように見えるそこには、この潜水艦を寝床としているのであろう艦娘達が待ち構えるようにしていた。

 

 タシュケントが代表としてうみどりと接触することになっているのは、潜水艦内でも周知の事実。そして、深雪(特異点)と対話したことによって、考え方をまるっと変えてきたことに強めの疑問を持っていた。特異点は何をしたのだと。

 洗脳の類でも出来るのか、それともタシュケントは脅されているのかなど、深雪に対して若干不名誉な噂も飛び交うほどであった。

 

「ここからもっと奥にボスのいる部屋があるんだけど、出入り口からだと基本的には工廠を通らないとそこには行けない」

 

 例外として、潜水艦だけは出入り口からではなく専用の通用口があるらしいが、深雪達には無縁な話である。

 

「だから、ちょっと視線が痛いかもしれないけど我慢してくれないかな」

「構わねぇよ。これくらい、予想は出来てたからさ」

 

 出会ったばかりのタシュケントを思い出すと、何となくこういった奇異なモノを見る視線を向けられるのだろうと予想がついた。

 見下している人類の味方として活動している純粋種。それに対しての感情は人それぞれ。哀れな奴だと同情する者もいれば、何故人間に味方するのだと怒りを持つ者もいる。総じて、深雪のことを良いように思っている者はいない。

 

「昔の時雨だらけって感じだぜ」

「そうかもしれないね。今でこそ僕は信じてもいい人間のことを知ったけれど、ここの艦娘達はそれが理解出来ていないんだろう」

「いや、理解出来てないんじゃなくて、()()()()()()()()()()。生まれたばかりで呪いを持ってたお前とは違う」

「なるほど、僕はそんな過去も無いから憎しみでいっぱいだったけど、ここにいる艦娘は一度提督の下で戦っているということだね」

 

 タシュケントがそうだったように、ここにいる者達は元々鎮守府に所属していた者である。その時の提督が彼女達を蔑ろに扱っていたかと言われれば、答えは否だ。

 タシュケントの場合は、同志と呼ぶ同郷艦ガングートが研究の手にかかり命を吸い尽くされてしまった時は共に訴えてくれるような誠実な提督だったらしい。それと同じように、善人というのを知っているはず。

 

「中には悪人の提督の下で働いていたせいで人間不信が加速している者もいるんじゃないのかい? 全員がいい人間とは限らない。それこそ、艦娘をいいように使う提督がいてもおかしくないんじゃないかな」

「……否定は出来ねぇよな。そういう人間がいるって知っちまったんだから」

 

 深雪とて、全人類が善人であるとは毛頭思っていない。出洲という前例を見てしまっているのだから。

 ここにいる艦娘の中には、人間が嫌いになる一因が自分の元々いた鎮守府にいた人間にあるかもしれない。それこそ、出洲に協力していた提督というのもいたかもしれない。そうなったら、タシュケントと同じような説得は無理だろう。何せ、最初から信じられる人間がいないのだから。

 

「そういう人間がいるのを知った……? 同志ミユキ、まさか君は」

「ああ、ボスんところで話すつもりだったが、あたし達はこの事件の元凶と戦った。お前達が追い求めてる奴……なんだと思う」

 

 その言葉を聞いて、工廠が騒つく。タシュケントも目を見開いた。深雪はここでそれを話したのは失敗かと思ったが、時既に遅し。

 

「同志ミユキ、それは本当かい!?」

「……ああ、でも今ここじゃなく、お前らのボスに話してからだ。真っ先に聞きたい気持ちはわかるけど、冷静でいてくれ」

「ぐ……わ、わかった。ここで焦ったところで何も進めない、か。あたし達はボスの指示を仰がなくちゃいけない」

 

 それほどにこの組織のボスには発言権があるのだろう。しかし、その権利があったとしても、それを聞くかは当人の裁量のみ。

 

 タシュケントがすぐに理解してくれたのは、それは深雪と一度交流し、拗らせ続けた思考回路が元に戻っているからだ。鎮守府で世界の平和のために戦っていた当時に戻っているのだから、話はちゃんと聞くし、冷静に考えが巡らせられる。しかし、他の者はそうはいかない。

 深雪の言葉を耳に入れた者達は、今の作業を止め、ただ見ているだけというのも止める。長い時間追い求めていた元凶の存在を今ここでついに発見したと聞いたのだ。相手が誰であれ、その情報をいち早く自分のモノにしたいと思うのは仕方のないこと。

 

 ボスの部屋に行く前に、この潜水艦に住まうカテゴリーBが深雪達を取り囲んでしまった。それは敵意などではなく、純粋に話が聞きたいという理由で。

 元凶を見た、元凶と戦った、その末にどうなったか、知りたいことは沢山あるだろう。ここにいるのだから生きてその時を終わらせているのはわかるが、詳細を早く知りたくて仕方ないはず。

 

「待ってくれっての。お前らの気持ちはわかるけど、あたしはまず、ここのボスと話がしたいんだ。その後に話を聞くことになるだろうし、私からもちゃんと話すから、まずは落ち着けって」

 

 それで落ち着けていたら苦労しない。30年分の気持ちが爆発するかのように、やいのやいのと押し寄せてくる。

 そんなカテゴリーB達に、電は少し怯えてしまい深雪の陰に隠れるように。時雨もこれ見よがしに大きな溜息を吐いた。全部深雪のせいだよとニヤつきながら。

 

「Hey, ちょっと話を聞かせてくれよ」

 

 そんなカテゴリーBの中でも、特に強い語気の声が響いた途端、深雪達の周りを取り囲む者達が一気に静まり返り、若干()()()()()()一歩引いた。タシュケントもその声を聞いて溜息を吐く。

 

「やっぱり来たね……君が来ると話がややこしくなるから、今は待機しているようにボスに言われたろう」

「うるせぇよ。あたいはあたいのやりたいようにやるんだよ。人間の差金の連中がここに来てるってだけでもイライラしてんのに、テメェに口煩く言われたらもっと気分が悪くなんだよ」

「同志ミユキ達は人間の差金とかそういうことじゃない。確かに人間と協力して海の平和を守ってくれているけど、悪い奴じゃないんだ。それに、同志ミユキと共にいる人間だって悪い奴じゃない」

 

 そんなタシュケントの言葉を鼻で笑い、退けと押し退けて深雪の前に立つ。

 

 その艦娘は、どう見ても潜水艦。深雪の知る伊26や伊203とはまた違ったタイプの水着──なかなか攻めたタイプの競泳水着を身につけ、なにやら口の中で飴をコロコロと転がしながら、見下しているような視線で深雪を見つめた。

 

「テメェ、あのクソみたいな人間どもに媚び諂ってるんだろ。艦娘のPrideってもんがないのか? あ?」

 

 顔を合わせるや否や、いきなり喧嘩を売ってくるその潜水艦に、深雪はいろいろと察する。タシュケントが言っていた問題児は、まさに目の前の艦娘であることに。

 

「あたしは深雪だ。お前は何者だよ」

「こっちのQuestion(質問)に答えねぇのかよ。礼儀がなってないんじゃないか?」

「名乗りもせずに自分のことばっかやる奴の方が礼儀がなってないだろ。それに、名前も知らねぇ奴に自分のことペラペラ喋るほど、あたしは優しくはねぇぞ」

 

 見下す視線に怯むことなく、むしろ逆に睨み付けるくらいで返す深雪。その潜水艦は反論されたことに明確な苛立ちを見せつつも、聞こえるくらいの舌打ちをしてから名乗る。

 

「あたいはScampだ。これでいいか」

「おう、スキャンプな。よろしく」

 

 睨み合いの中でも関係なく、挨拶として握手を求める深雪。深雪にとっては、相手が自分よりも格段に歳上で練度が上であっても、同じ艦娘ということで対等。先輩後輩になるかもしれずともお構いなし。友達になろうというのが一発目。

 しかし、スキャンプはその手を強く叩いて払う。痛みで少しだけ顔を顰めるが、視線を外すことはしない。

 

「じゃあ質問に答えてやる。あたしは人間に媚び諂ってるんじゃあねぇ。あの人達とお互いを認め合って、一緒に協力しているだけだ。そこに上も下もねぇ」

 

 自分の意思を真正面からぶつける深雪。その強い表情に対し、スキャンプは苛立ちを隠さないで深雪の胸倉を掴んだ。

 

「綺麗事抜かしてんじゃねぇよ。人間はあたいらを裏切ったクソ共だ。何が協力だ。どうせテメェだって利用されているんだろうぜ。特異点様よぉ」

「お前、まるで見てきたような言い方だな。最初から信用出来ないような人間の下で働いていたのか?」

 

 深雪としてはそんなつもりは全くないのだが、見透かすような言葉で心臓を貫かれるような感覚を得る。そのせいでスキャンプはより苛立ちを表に出した。

 

「テメェには関係ねぇだろ!」

「ああ、関係ないな。だから、お前もお前に関係ない人間のことをグダグダ言うのやめろよ。あたし達の司令官のことを見てもいないのに、利用されてるだの言えるわけがねぇだろうが」

 

 真っ直ぐな瞳で、深雪はスキャンプを睨み続ける。この状況下でも、深雪は至って冷静。

 興奮したら思う壺。どれだけ何を言われても、どれだけ怒りを覚えても、心を落ち着けて芯を見据える。これがトレーニング中に言われ続けた言葉。

 

「あたしはあたしでお前達のことは多少知ってるつもりだ。人間に対して恨み辛みが溜まってるのもわかる。でもな、そんな人間は一握りしかいねぇ。その一握りをあたしは見た。だからこそ、他の人間がまともで、いい奴ばかりだってことが理解出来てる」

「世界の全部を見てきたような口振りしやがって。ならテメェは、その一握りのせいで人生無茶苦茶にされた奴のことはどうするつもりだ。あぁ?」

 

 その無茶苦茶にされた奴というのがスキャンプなのだろうと深雪は察する。だが、察するだけであり、どうこうしてやることは出来ない。

 

「あたしにはご愁傷様としか言えねぇのが悔しいよ。その時にあたしはいなかったし、今更救うことだって出来やしねぇ。でもな、同じことを言うが、その一握りのせいで、世界全部を敵だと思い込むのはやめろ。んなもん、お前がその一握りと同じになっちまうぞ」

 

 スキャンプにいいようにされているが、深雪はそれでも手を出さなかった。スキャンプはこの潜水艦の中でも問題児と言われているような存在だが、そうなってしまうきっかけは当時の人間にあったとしか思えない。故に、スキャンプの言い分もちゃんと聞き入れる。

 しかし、やり方には文句を言う。恨み辛みがもう晴らすことが出来ない状態なのかもしれないが、だからといって無実の人間にまで手を伸ばすのは間違っている。

 

「あと1つこちらからも聞いておく。お前、他の奴らと違うのか? あたしが元凶の情報を持ってるから聞きに来たんじゃなくて、ただ人間と組んでるあたしが気に入らないから突っかかってきたのか?」

 

 冷めた瞳でスキャンプを見つめる深雪に、スキャンプの怒りはより湧き上がってきた。

 

「ただ喧嘩したいってだけかよ。他の奴らは元凶のことを優先してるのに、お前はストレス発散のためにあたしをただ殴りたいってか。だとしたらお前、人間よりもよっぽど低俗だぞ」

「テメェ……言わせておけば……!」

「だからお前は仲間からも疎まれてるんだろ。イライライライラして周りに突っかかって。恨み辛みは理解してやるが、その素行は理解してやれねぇ。人間がクソって言うなら、あたしから見ればお前も十分クソだ。せめて同胞とくらいいい関係持てよ。まさか長年生きてきたことで、そんなことも忘れちまったのか?」

「うるせぇクソガキが!」

 

 ついにスキャンプがキレて、胸倉を掴んだまま殴りかかってくる。しかし、深雪にはこのパターンは最初から学んできたこと。長門に最初に教えられたことだ。

 顔面への攻撃は、考える前に反応出来るほどに特訓している。故に、その攻撃を当たり前のように払い、その手で胸倉を掴んでいる腕すらも絡めとる。そして、掴んでいる手を強引に放させ、その場で投げ飛ばした。

 

「お前からしたらあたしはまだほんの少ししか生きていないクソガキだろうよ。でもな、お前はあたしよりも生きてる()()()、あたしよりガキみたいなことしてるじゃねぇか。あぁ? 大先輩のスキャンプさんよぉ」

 

 一度離れて、投げ飛ばしたスキャンプを見下すように見つめる深雪。それはスキャンプの理性を焼き尽くすには充分だった。

 

「テメェ、ここでぶっ殺してやる。特異点だろうが何だろうが関係ねぇよ。人間とつるんでるようなクソ艦娘はこの世にいらねぇ。おいテメェら! こいつのしちまうぞ!」

 

 スキャンプが声をかけると、更に2人追加。スキャンプと同調している問題児が他にもいたということ。

 タシュケントは溜息をついて顔を手で覆うが、深雪達からしたら織り込み済み。多勢に無勢にならないだけマシとした。

 

「このクソ生意気な後輩に痛い目見せてやんぞ」

「はーい。あ、名乗らなくちゃいけないんだっけ? あたしはGrecaleよ」

「ぽい! 夕立だよ、よろしくね!」

 

 さらに現れた問題児──グレカーレと夕立。その2人も、スキャンプと同様に、人間に深い憎しみを持つ瞳をしていた。

 

 

 

 

 ここからカテゴリーBにも見守られた大喧嘩が始まることになる。

 




問題児は3人。ヤンキー(スキャンプ)メスガキ(グレカーレ)狂犬(夕立)。過去作から読んでくださっている方々にはお待たせしました。皆勤賞続行です。
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