後始末屋の特異点   作:緋寺

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うみどり来艦

 潜水艦内での対話は概ね終了。問題児達をうみどりに招待することが決定した後は、細かいこともなるべく伝え、後始末屋がどういうことをしているかも教えている。

 人類に協力することに対して懐疑的な者達でも、後始末屋という存在が海の平和に繋がっていることは理解出来る。よくもまぁそんなことを長年やってこれたと感心すらしていた。しかし、それ自体が元凶の思う壺だったことを知ると、うわぁと同情するような視線を受けることに。

 だからといって、また協力をしてくれるかとなるとまだ信用まではいかないようなので、やはり問題児達がうみどりで()()()()を知ることで、潜水艦の面々に協力をする価値があることを示す必要がある。

 

「重ね重ねよろしくお願いします。何かご迷惑をおかけするようなことがあったら、すぐに教えてください。私達は少しの間、そちらの艦を追うように行動をしようと思います」

「了解だ。何か連絡する方法があったら教えてくれ。あと、後始末の邪魔をするようなことはしないでくれよな」

「勿論です。近くに潜むように指示をしておきますので。次は今回みたいな威嚇するような浮上はさせないようにします」

 

 間近に浮上して波を起こしたのは、丹陽の指示ではなく、拗らせている操舵士が信用出来ない人間達に対して威嚇するようなスタンスで実行したらしい。丹陽は当然、そんな行ないを叱ったらしいが、本人は素知らぬ顔。こういうところからも、丹陽に発言権がない状態であることがわかる。

 しかし、もう今までの諦めていた丹陽ではない。理解者が増えている今、もう少し強めに行こうと決意していた。

 

「それでは、今回はありがとうございました」

「また来るよ。丹陽はお大事にな。無理すんじゃねぇぞ」

「はい、深雪さんと会えたことで思った以上に元気になれた気がします。少しだけでも、強気に出てみます」

「ああ、頑張れ。それじゃあ、スキャンプ達は一時的に預かるぜ」

 

 一通りの挨拶も終わったため、問題児3人を連れて潜水艦の出口へ。その時には艤装も返してもらい、閉じられていた出入り口も開いていた。

 

「3人はもうわかってると思うけど、うみどりにいるのはあたし達を省くと全員人間だ。()()()()で艦娘やってる奴もいるから、そこは触れないでほしい」

「ワケありねぇ……」

「面白半分で触れていいもんじゃないからな。スキャンプはその辺りわかるだろ。()()()()をふざけて触れられたら気分がいいもんじゃないだろ」

 

 慰み者になった過去に触れられたら気分が悪くなるのは当たり前。スキャンプはそれを心底理解しているからこそ、その暗黙の了解を受け入れられる。艦娘になった理由を嘲るようなことがあったら、その過去も茶化されることがあるということだ。

 人間にはそういうことをやってもいいが、自分はやられたら怒り狂うなんて道理は何処にもない。いくら問題児とはいえ、その辺りはキチンと理解しておいてもらいたい。そのため、先に念を押しておいた。

 

 勿論スキャンプだけではない。グレカーレと夕立にもそれは伝える。やられて嫌なことはやらないなんて子供でもわかっていることを、30年も生きている大先輩がやるわけないよなと皮肉も込めて。

 

「あったりまえじゃん。あたしはScampの保護者として行くんだもん。悪い子じゃないよ」

「テメェいい加減にしろよ」

「今は物分かりよくても、人間に囲まれたらブチギレちゃうかもしれないでしょアンタは。それに比べてあたしは自分を抑えることが出来るもん。それに、悪い子してたらイナヅマに嫌われちゃうかもしれないしー」

 

 もう隠しもしていなかった。電に()()()()()()ことで、完璧にお気に入りになっている。軽く上気した表情で電にウィンクするグレカーレに、電はゾクリとして深雪の陰に隠れた。そんな仕草にも興奮したのか、グレカーレの笑顔は止まらない。

 

「夕立は相手が誰であれ関係ないっぽい。時雨よりも強い人がいるなら、いっぱい戦っていっぱい強くなるっぽい」

「君は単純で助かるよ。でも、余計なことを言わないようにね」

「ぽい。気を悪くして戦ってくれなくなったら嫌だから、大人しくしとくっぽい」

 

 夕立はそもそもベクトルが違う。人間達に対して不信感を持っているとしても、相手が強者ならどうでもいい。人間は信用しないけど、その力には信用も何もないというスタンス。

 それがインチキで手に入れた力ならば糾弾もするし罵りもするだろうが、うみどりにはそういう者は1人もいない、全て自力で手に入れた力だ。ならば、夕立にとっては強者ばかりの楽園と言える。

 

「本当に大丈夫かはちょっと不安だが、今の人間を知ってもらういい機会だから、まずは見てからだな」

 

 深雪としては大丈夫という自信はある。うみどりの面々は本当に善人ばかりだ。話せないような過去がある者でも、罪を償うためにここにいる者であっても、心の底からの悪人ではない。後始末屋という仕事を真剣に取り組めるのならば、間違いなく悪い人間ではないと言い切れるのだから。

 

 

 

 

 事が済んだことで、うみどりの工廠へと戻る深雪達。潜水艦の出入り口が開いたことで、うみどり内でも出迎えの準備が出来ていたのだろう、工廠には伊豆提督とイリスが既に待ち構えていた。

 

「お帰りなさい、みんな。首尾は上々のようね」

 

 深雪達だけでなく、一緒についてきた純粋種達の姿を見て、伊豆提督はホッと胸を撫で下ろす。

 イリスは現れた3人を視認し、カテゴリーBであることを確認。事前に聞いていた通りの第二世代であることを理解した。30年間の拗らせのせいか、その彩は当初のタシュケントのようなギラつきが見えるものの、見た目だけで言えば比較的落ち着いていると言える。

 

「ようこそ、うみどりへ。アタシがこの艦を纏めている提督、伊豆遥よ。気軽にハルカちゃんと呼んでちょうだいね」

 

 この3人にとっては、30年振りに見る人間。これまで不信感しか持てなかった存在。そのため、まともに直視しようとしても疑念が出てくる。特にスキャンプは、大嫌いな男性相手ということもあって、最初から殺してやると言わんばかりに睨みを見せていた。

 しかし、見た目とはまるで違う口調と、物腰柔らかな雰囲気に、内心拍子抜けしていた。自分の知っている男とは何もかもが違うと、このほんの少しの時間で察していた。

 そして、深雪の話していた意味が少しだけわかった。男ではあるが誰よりも乙女。その態度からして、男よりも女と接しているような感覚になりかける。

 

「悪いハルカちゃん、やっぱり人間を知ってもらうならココに来てもらうのが一番手っ取り早いと思って」

「ううん、深雪ちゃんの選択は間違ってないわ。アタシも顔を合わせた方がいいと思っていたもの」

「潜水艦はしばらくうみどりに同行してくれるってさ。お互いの通信方法も後から教えてくれるみたいだから」

 

 深雪が伊豆提督と話している最中も、スキャンプ達は気が気で無かった。後ろの方で、潜水艦の出入り口が閉まったのを確認したからである。もう逃げ道はない。

 いわばこの場所は、トラウマだらけの場所。人間という存在に対して思うところがある者達にとっては、居心地が非常に悪い。

 

「えぇと、ガトー級のスキャンプちゃん、マエストラーレ級のグレカーレちゃん、白露型の夕立ちゃん。この3人でよかったかしら」

「……ああ、それでいい」

 

 どうしても目が合わせられないスキャンプは、伊豆提督に名前を呼ばれても目を背けてしまう。

 だが、背けた先にある光景で今度は目を見開いた。そこにいたのは、どう見ても深海棲艦だったからである。

 

「ちょ、おい、あそこ深海棲艦がいるじゃねぇか!」

 

 声を荒げるスキャンプ。それが聞こえたか、そこにいた深海棲艦──カテゴリーYの平瀬と手小野が視線を向けた。その表情は、本来の深海棲艦とはまるで違う穏やかなモノ。その時点で何かが違うとわかる。

 しかし、条件反射的に持っている兵装、スキャンプは魚雷しかないため何も出来なかったが、グレカーレと夕立は主砲を構えてしまう。狙いは勿論、平瀬と手小野。深海棲艦は殲滅するモノという認識は、30年間何も変わらない。

 

「ストップストップ! そうなっちゃうのは仕方ないけど、落ち着いて!」

 

 伊豆提督が言う前に、動いていたのは深雪と電である。

 夕立は右手に主砲を持つタイプであったため、電が即座にアームロックを仕掛けることで砲口の向いている方向も捻じ曲げて、万が一を無くした。そのまま撃たれるとダメージになりそうだったが、なるべく痛みなく腕を捻り上げる。

 グレカーレは電と同じように艤装に接続されるタイプであるため、腕を捻るだけでは意味がない。そのため、深雪が膝の後側を軽く蹴り、体勢を崩してからそのまま押し倒すカタチに前方から羽交い締め。艤装を背負っているためその手段しか取れなかったものの、効果は絶大だった。

 

「話を聞こうな?」

「う、うん……」

 

 この一瞬でグレカーレは深雪にも()()()()()()。電以上に勝ち目が無いというか、この羽交い締めだけでもピクリとも動かなくされたことで、身体ではなく心が屈服しかけていた。

 姿勢は違えど、壁ドンを受けているようなもの。正確には床ドンではあるのだが。しかも、その動きに対応出来なかったくらいに速い。グレカーレは不思議な昂揚感に包まれている。

 

「電もこんなに強かったの? 今度夕立と戦うっぽい!」

「えっ、あの、お断りしておくのです」

「うー、ズルいっぽい!」

 

 夕立も電のロックを全く振り解くことが出来ず、その強さに驚愕しつつも闘争本能に火がついてしまっていた。電としては、余計な喧嘩はしたくない。今回は仲間を守るために咄嗟に身体が動いたものの、本来はそういうことを好む性格ではないのだ。

 

 これだけ騒ぎになってしまったのなら、平瀬と手小野も作業の手を止めてその場に駆けつける。当然ながら艤装を持っているわけではないので、攻撃なんて出来るわけもない。完全な無防備である。

 

「えっと……もしかして……私達がご迷惑を……」

「し、仕方、ない。私達は、見た目がコレ、だから」

 

 平瀬と手小野も申し訳なさそうに笑う。しかし、まだロックされていないスキャンプからしてみれば、深海棲艦が眼前にいる、その上、陸上施設型という潜水艦にはどうにも出来ない相手であるために、冷や汗すら流れ始めていた。

 

「ちゃんと聞いてちょうだい。彼女達は人間なの。元凶の研究の被害者で、姿を深海棲艦に変えられてしまってるのよ」

 

 伊豆提督の言葉を聞いて、大分頭が混乱してくる。見た目は深海棲艦でも中身は人間。言われても簡単に納得出来るようなことではない。

 

 落ち着いているかはわからないが、深雪と電は一度離れて、話を聞いてもらう。グレカーレは少し名残惜しそうにしていたものの、そこはあえて無視。

 

「……仕方ない、ことです。彼女はともかく……私はどうやっても隠し通せませんから……」

「い、今だけ、は、作業を中断、するべきだったかもしれない」

 

 いきなりカテゴリーYと顔を合わせるのは流石に早すぎたかもしれない。いくら事前にある程度聞いていたとしても、不意打ち気味にその姿を見てしまったら、艤装を装備しているのなら攻撃しようとしてしまうのは仕方ないこと。艦娘としての本能みたいなものだ。

 攻撃を受けそうになったカテゴリーY側が謝罪したため、スキャンプ達は逆に申し訳ない気持ちが膨らむ。問題児であっても、常識が全く無いわけではない。

 

「……ここは一体どうなってんだ」

 

 スキャンプの心からの呟きに、うみどりの面々はもう苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 交流は前途多難。とはいえ、理解が出来ないわけではないだろう。問題児とて、頭が悪いわけではない。納得さえ出来れば、うみどりは居心地の良い場所となる。

 




人間達が住まう艦に来たとして、まず見ることになったのがカテゴリーYという冗談みたいな展開。そりゃ艤装も装備しているのだから撃とうとしちゃう。スキャンプは潜水艦だからこそ、陸上施設型には何も出来ずに固まってしまったわけですね。
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