『敵は6体。5体はカテゴリーRだけれど……1体は
イリスの放送により、工廠に向かう深雪達も流石に騒つく。その時点で既にただの深海棲艦の群れでは無くなっているからである。
「Category-Yって、アレか、
「ああ、うちにいるカテゴリーYは味方だけど、今回出てきたのは敵だ。わかりにくいだろうけど、それは覚えてくれ」
カテゴリーYに関しては、うみどりでももう理解が深まっている。平瀬、手小野、そして桜の3人がそれに属し、元々人間であったにもかかわらず、出洲達の研究の犠牲となって、姿を深海棲艦に変えられてしまった者。しかし、心は人間のままであり、うみどりで保護されている3人は戦いなど好むはずもなく、むしろ艤装を装備することなくここでお手伝いというカタチで暮らしているくらいである。
だが、逆に言えば、そもそも出洲に協力しているような人間がカテゴリーYとなった場合、その力を存分に使って目的を達成しようとするだろう。意気揚々と人知を超えた力を振るい、その力に酔いしれる者もいるのではなかろうか。
今回発見されたカテゴリーYは、おそらく後者。抗えないようにされ、嫌々ながら作業をしているとは考えにくい。もしそうだとしても、カテゴリーRを率いてここにいるというのがおかしい。
「つまりだ。あたい達がシメてやりたいクソ人間は、そのCategory-Yってことでいいんだな」
「大体それでいいと思う。人間の心は持ってるから、断言は出来ねぇけどな」
「知るかよ。始末していい人間なら、あたいがぶち殺してやる」
時雨と同様に、憎しみを向ける方向を一極化することで、過去からの拗らせを変えていこうとしていた。
スキャンプの場合はまだまだ根深いものの、少なくともその怒りをぶつけるに値する相手がそこにいるというのならば、それが元人間だということなど関係無しに、躊躇なく始末することが出来る。
スキャンプにとって、カテゴリーYは
深雪達が工廠に到着。その時には数人が既に待機しており、現場判断を待っている状態。グレカーレや夕立も既に来ているあたり、放送と同時に動き出せていたようである。
今までは既に敵の状況がわかったところで伊豆提督が適した部隊を選出して出撃させるのだが、今回はカテゴリーYが加わっているということで、部隊を編成するのに若干難航。現在はイリスの目も頼りに、敵部隊そのものの解析を現在進行形で行なっている。
見た目だけは姫級の姿をしているが、中身は人間。戦い方も普通と同じと考えない方がいい。
とはいえ、軍港都市で襲撃した施設内に現れた離島棲姫は、間違いなく素人だった。陸上施設型の強力な力を持ち、火力も艦載機も高水準であるにもかかわらず、その扱い方がなっていない。故に、本来の力を少しも出せていなかった。
今回のカテゴリーYがそれと同じかどうかはわからないため警戒はしておかねばならない。ただでさえ、改造された深海棲艦すらいるのだから、まともな敵であるとも思えない。
「ごめんなさい、少し時間がかかったわ。部隊を発表するわね」
夜中ではあるが、しっかりと提督としての姿で工廠に登場する伊豆提督。イリスもそれに追従し、すぐさま現状の打破に挑む。
「あちらの戦力は知っての通り6体。そのうち1体はカテゴリーYなのだけれど、今回は残骸をくすねるためでしょうね、全部
ヒト型の深海棲艦となると姫級ばかり。イロハ級のヒト型ならば、最低でも巡洋艦以上となってしまう。当然ながら、ヒトのカタチに近付けば近付くほど、本能のままに生きる深海棲艦であっても力を増していくのは常識。
その上で、残骸の持ち逃げをするために使われているということは、そういうことが出来るくらいに知性もあるということ。コントロールされているにしても、その命令を正しく実行出来るくらいには身体が動かせるということにもある。
つまり、敵部隊は最大級に
「分析の結果、重巡が3、空母1、戦艦1」
重巡洋艦はネ級と呼ばれる上位個体。中には姫級をも凌駕するとんでもないスペックを持つ個体もいるようだが、今回はそうではなく通常個体。しかし、だからと言って侮ることは出来ない。
空母は本来夜間には艦載機が飛ばせないのだが、現れているのはヲ級の改造版。夜でも当たり前のように空母としての機能を余すところなく使い切ることが出来る。
そして戦艦。これが一番厄介で、大きめの残骸を持っていけるようにするためか、戦艦棲姫。つまり姫級。火力はさることながら、厄介なのはその巨大な艤装。遠近共に強大な力を持っており、随伴艦を込みにすると戦いにくくて仕方ない。さらに言えば、その艤装の頑丈さたるや、戦艦の主砲を受けても即撃破とは行かないレベルである。
「そして、カテゴリーY。姿を見る限り、駆逐艦の姫……なんだけれど」
「何か言いにくいことがあるのか?」
いち早く準備を完了していた長門が伊豆提督に問う。伊豆提督がこういうカタチで言い淀むことはなかなか無いことであるため、今回の敵が非常に厄介ということが察せられる。
「アナタ達、船渠棲姫……って知っているかしら」
深雪達はその名前を聞いたところでピンとは来ない。新人だからというのもあるが、その個体名称は人間側が決めたものであるため、名前と姿が一致することはそうそう無い。
逆に潜水艦からやってきた3人は、過去鎮守府で暮らしていたのだから知っている可能性はある。スキャンプは鎮守府が鎮守府であるためにあまり記憶にないかもしれないが、夕立とグレカーレは知っていてもおかしくはなかった。
しかし、割とマイナーというか、かなり特殊な事例で出てくるような深海棲艦であるらしく、座学で学んでいるから知っているというレベル。質問した長門も、見たことはないが知識として知っているというくらい。
「船渠……ドックの深海棲艦だったか。駆逐艦ではあるが、堅牢な個体であるという覚えがある」
「ええ、本来なら、駆逐艦であってもこんな前線に出てこないような個体よ。陸上施設型ではないけど、陸上にいるというイメージが強いわね」
ドックという名を持つのだから、それがこんな海のど真ん中にまで来ていることの方がおかしな話である。治りきっているなんて言い方はおかしな話だが、間違いなく何かしらの改造を受けている。
だが、伊豆提督はそれだけで言いにくそうにしていたわけではない。
その理由は、既に見えていた。
「テートク、あたしを部隊に入れてくれてるよね」
今までに無いくらいの勢いでグレカーレが前に出てきていた。これまでの冗談みたいな態度から一転、真面目な表情。
「……アナタの精神状態で戦わせるわけにはいかないわ」
「そういう問題じゃないの。あたしがやらないとダメでしょ。船渠棲姫なんて」
「そういう問題なの。あちらがどうされているのかわからないのに、30年間のブランクがあるアナタ達を戦わせるわけにはいかないわ。ただでさえ感情的なのに、そんな危険な真似はさせられません」
いつもは艦娘のことを思い、艦娘の発言は親身になって聞く伊豆提督が、グレカーレのこの発言だけは断固として拒否している。
こんな伊豆提督は、深雪は見たことがなかった。グレカーレのこんな姿も、この短い時間とはいえ、喧嘩をしていた頃よりも必死に見えた。
「グレカーレ、なんでそんなに……」
「船渠棲姫は、
深雪の質問にグレカーレがすぐさま答える。
この世界の深海棲艦には、艦娘とよく似た姿を持つ深海棲艦が多数存在する。うみどりに保護されているカテゴリーYは、似ている艦娘がいない個体ではあるのだが、それ以外にはそれなりによく遭遇する。
例えば、残骸として見ることもある空母棲姫は、深雪の身近な存在である加賀に近い姿をしている。深雪は残骸などでしか見ていないので似ているというのはわからないが、実際に動いているところを見たら、少し似ていると感じるだろう。
それ以外にも、以前、夜に襲撃してきた軽巡棲姫は、おおわしの一員、神通によく似ている。また、まだ出会っていないが、軽巡棲鬼は那珂に、それに梅やスキャンプによく似た深海棲艦も確認されているらしい。
船渠棲姫は、人間の被害を受け、命を搾り取られたというグレカーレの姉、マエストラーレによく似た姿をした深海棲艦。それもあってか、グレカーレは嫌な結論に達していた。
「あたしの姉さんから搾り取った命を使って、
この可能性は、伊豆提督も考えてはいた。だが、あまりにも突飛すぎる上に確証が持てなかったため、自分の頭の中で留めていたことである。
改造された深海棲艦というおかしな存在を、あちら側がどのように作っているのか。自然発生した深海棲艦を鹵獲し、手懐け、いいように扱っていると言っても限界がある。戦いは日々激化しているとはいえ、そこまで素材が集まるものなのかと不思議ではあった。
その簡単な解決方法がコレだ。
それでも残骸を持ち逃げするのは、おそらく
むしろ、深海棲艦の残骸だけを使ったら、イロハ級しか生まれず、艦娘や命を使えば姫級が生まれるなんてこともあり得る。考え出したらキリがない。
「お前の言うことは間違ってないと思う。でもな、あたしもそんな感情で戦いに行くのは無謀だとも思ってる」
「ミユキまでそんなこと言うの?」
「そりゃあお前、周りが見えてない奴が何するかなんてわからねぇからだよ。あたしがそうだったんだ。それで痛い目も見てる。お前に同じことさせたくねぇ」
深雪も無謀な行動に出ようとして後悔したことが何度もある。今のグレカーレはその時の自分に似ていると思った。だから、ここでは止める。
その気持ちもわかるし、行かせたい気持ちもある。ありすぎるくらいだ。しかし、ここで戦いに行かせたら、自分と同じことになる。だからこそ、今は冷静になってほしい。深雪はそう語る。
むしろここで冷静になれている深雪の成長を、ここにいる数人が心の内で喜んでいた。特に神風。軍港都市の時に真っ先に動こうとして制止されたことを思えば、とんでもなく成長している。表情に出さずとも、深雪がこんなことを言えるようになるなんてと感慨深そうに眺めていた。
「いいか、グレカーレ。深呼吸しよう。あたしはそうやって落ち着けるようにした。あとは電にケツを蹴っ飛ばしてもらう」
「そ、そんなことしてないのですよ?」
「精神的な意味でだって。グレカーレ、深呼吸だ。あたしよりも大先輩なら、ここで落ち着けるよな」
お気に入りからそんなこと言われても、グレカーレの感情はそんな簡単に収まりがつかない。それは見てわかった。
だから、ここで機転を利かしたのは電である。落ち着けるようにと、グレカーレの手をぎゅっと握った。そして深雪にアイコンタクトを送ると、なるほどと理解した深雪もグレカーレの手を取る。
「落ち着け」
「落ち着くのです」
お気に入り2人からこんなことをされたら、いくらグレカーレでも多少は冷静さを取り戻す。
「……ついでにそのまま三角絞めとか」
「よし、落ち着いたな。電、もう大丈夫だってよ」
「あーん、もう、勿体無いことしたなぁ」
冗談が出るようならもう大丈夫だろうと、2人とも即座に手を離した。残念そうに握られた手を見るグレカーレだが、ギュッと握ってもう一度伊豆提督の方を向く。
「……テートク、そいつからなんか情報聞き出してよね」
「ええ、出来る限り。カテゴリーYは、なるべくなら生捕りにしたいもの。こちらは情報が少なすぎるから、少しでも何かを手に入れたいわ」
そんな余裕があるかはわからないが、出洲との繋がりがある以上、何かしらの情報は得たいところである。
故に、この戦いは確実に戦える者達で向かうことにしている。
「それじゃあ、部隊を発表するわよ」
この戦いで現れたカテゴリーYによって、ここからの元凶との戦いは更に苛烈化することだろう。
船渠棲姫、耐久700装甲300(難易度甲)とかいう意味わからない数値の駆逐艦なんですよね。だから、普通にこのカテゴリーYはヤバそう。