後始末現場に現れたカテゴリーYは、マエストラーレ級の要素を持つ姫級、船渠棲姫であった。そのせいで、グレカーレが自分が出撃すると聞かなくなったものの、深雪と電によってどうにか鎮静化した。
グレカーレが冷静さを失った理由は、奪われた姉の命を使った結果生まれたのがそのカテゴリーYではないかと考えたため。その憶測が正しいか知るためにも、また、ここで持ち逃げした残骸を何処に持っていくかを吐かせるためにも、どうにか生捕りにする方針。
「旗艦、長門。随伴に妙高、三隈、那珂、神風、秋月。三隈は夜間瑞雲を装備しておきなさい。妙高は夜偵よ。長門は念のため三式弾をお願い。あちらには空母がいるのはわかっているし、改造されていることを考えれば、対空砲火の数が増えた方がいいわ」
一度決めてしまえば、あとはそれに合わせて指示を出していけばいい。そのため、ここからは非常に早かった。夜、そして特殊な敵を相手にするため、出来る限りは全てやる。
何はなくても空母対策として、秋月に防空をさせる。そこに併せて高火力であると同時に、三式弾による防空のサポートが出来る長門を配置。夜でもお構いなしの、うみどり最大火力は、あちら側の戦艦棲姫をどうにかするためには必要不可欠。その上で防空も可能となれば、旗艦にするのは必然である。
そこに、夜間で高火力が期待出来る重巡洋艦の2人、妙高と三隈。さらに那珂も加えて、攻撃的に向かわせる。重巡洋艦以上には巡洋艦以上をぶつけるのが最も効率が良く、手練れであればその場での即時対応も期待は出来る。
そして最後の1人、神風。最古参、筆頭駆逐艦として、この場をさらに掻き回す役目を担う。流石にこの場で施設に襲撃した際に使っていた刀は装備しておらず、普通の艦娘としての装備。火力はどうしても劣るが、ここはテクニックで全てカバー出来る。
「救護班は念のため準備。それ以外の子も、すぐに出撃出来るように待機していてちょうだい」
もうここからは見たことのある未知の戦いへ向かう。カテゴリーYとの海上戦は、うみどりとしても初めてだ。その上、どのような改造を受けているかもわからないという恐怖もある。今見えている姿そのままで考えていたら、痛い目を見ることになるだろう。
それ故に、準備は怠らない。出来ることは全てやる。その上で必要無かったとしても、必要無かったねで終わるだけだ。
「スキャンプちゃん、グレカーレちゃん、夕立ちゃん。アナタ達も待機でお願い。絶対に表に出ないで」
「えー、夕立も戦うっぽい!」
夕立は間違いなくそう言うと伊豆提督も思っていた。だが、そう言われても前線に出すわけにはいかない。そのため、チラリと深雪達純粋種に目配せをした。
自分は人間であるため、簡単には言うことを聞かせられないだろうが、直接触れ合った3人ならば説得が出来ると踏んで。
伊豆提督であっても、そう簡単に対処出来ない問題は艦娘を頼る。そして今がその時である。
潜水艦からやってきた3人と打ち解けるのには、どうしても時間がかかる。今のグレカーレのように割り切っているような接し方が出来るとは思っていない。
「夕立、ここで我慢してくれたら、後始末の後にもう一度戦ってあげるよ」
ここで時雨が夕立に餌を垂らす。単純な夕立には、好条件を提示すればそちらに食いつき、ここは凌ぐことが出来ると踏んで。
しかし、夕立は単純ではあるがバカではない。即座にその条件に乗るわけでは無かった。
「えー、時雨とは一度やってるし」
「電が」
「時雨ちゃん!?」
より垂涎の餌を提示。夕立としては、一度望んだカードをチラつかされたら止まらざるを得なかった。電にはいい迷惑なのだが、この戦場を迅速に終わらせるためには、背に腹はかえられない。
伊豆提督も時雨のその手段はあまりいいモノとは言えないものの、電もこの場をどうにか出来るというのならと意を決した。
「わ、わかったのです。後からでいいなら」
「電、無理すんな。時雨は後からとっちめておくから」
「夕立ちゃんにじっとしてもらうためには仕方ないのです」
自分が
「わかったっぽい。でも電、必ずやってもらうっぽい」
「なのです。だから今は見ていてほしいのです」
「ぽい」
これで夕立は大人しくなった。あとはスキャンプだけだが、そちらは既に大人しくしている。苛立ちは表に出しているものの、グレカーレのように提督に詰め寄ったり、夕立のように戦う意志を見せるわけでもない。ただ静かに怒りを溜めている。
今は静かであっても、何かの弾みで勝手に出撃しかねない。艤装も装備していないのに。むしろ、勝手に預けた艤装を奪ってでも向かうかもしれない。
「スキャンプ、お前もだぞ。待機と言われたら待機だ」
「うるせぇ。命令すんな」
深雪に忠告されても苛立ちを隠さない。このままだと危ういと感じた深雪は、一度勝っているというのもあり、かなり強気に出ることにした。ここでもう一度喧嘩になったとしても仕方ない。伊豆提督の眼前ではあるものの、もう躊躇していられない。
「お前が邪魔したら戦いが終わるものも終わらない。いいか、ハルカちゃんは今この場を確実に終わらせるために、知恵と覚悟を振り絞って編成を考えてるんだよ。その中に、お前も、あたしも含まれていないってだけだ」
「だからなんだってんだ」
「あたし達は、まだ
「あたいは潜水艦だぞ。あの連中、そのCategory-Yってヤツは駆逐艦かもしれねぇけど、他の連中は爆雷すら使えない。あたいにとってはカモだ」
それもあってか、スキャンプは強引にでも出撃をしようと考えていた。敵の手が届かない場所からならば、全く危なげなく復讐を成し遂げることが出来るはずだと。
船渠棲姫も、本来は陸にいるような駆逐艦なのに海上に現れたというのなら、そこからの対潜攻撃に注意するだけでいい。
だが、これにも深雪はすぐに反論する。
「だったらお前よりも先にニムとフーミィが選ばれてる。つーか、そこまで有利だったらお前も含めて全員選ばれてる。なのに、潜水艦が誰一人として選ばれてないんだぞ。どういう意味かわからねぇのか」
「Admiralがボンクラなんじゃねぇのか。潜水艦の特性もわかってねぇようなよぉ」
「お前と一緒にすんな、アホか。あちらは予想外のことをさんざっぱらやってくる敵なんだ。最悪、あそこにいる全員が潜水艦に対策持ってるぞ。戦艦の姫すらな。むしろ、だからあんな部隊を組んできてると思ってもいいだろ。そうしたらお前は何も出来ずに無駄死にするだろ。あたしはお前の亡骸を後始末するのは真っ平御免だからな」
軽巡洋艦が艦載機を放ち、戦艦が当たり前のように魚雷を放つ。それが敵の戦力だ。空母が爆雷を使っても何の驚きもない。
「だから、まずお前は敵を知っとけ。あたし達でも知らないことが多いのに、初めて見るお前がどうにか出来ると思ってるなら、思い上がりもいいところだ。せめて喧嘩であたしに勝ってから言え。大先輩のくせに拗らせてたせいで新人に負けてんだぞ」
事実を突きつけられたことで、スキャンプは何も言えなくなった。逆ギレして突っかかってきても、深雪は返り討ちにする気満々だったが。
「あたしだって出てぇよ。でもな、命がかかってるなら、一番わかってる人に従った方がいい。お前はそれが気に入らないのかもしれねぇけど、確実に恨みを晴らしたいなら、今は従っとけ。簡単なことだろ」
スキャンプを睨み付ける。これでも行くと言うのなら、痛めつけてでも止めるぞという気持ちを込めて。流石にその感情を察したか、スキャンプは舌打ちをする。
「……今回は従ってやる。
「ああ、それで頼む。あたしだって、カテゴリーYとの戦いを見るのは初めてだ。さっき選ばれてた仲間は、その中でも特に手練れだからな」
深雪は、今回選出された者達を信頼して、この戦いは見に回ることにしている。その上で、鍛える方針をさらに考えていきたい。
ここまでしてようやく問題児3人が止まってくれたことを、伊豆提督は内心ホッとしていた。人間である時点で自分で止められる可能性はかなり低かったため、深雪達に頼んだわけだが、それが上手く行ったのはありがたかったようだ。流石に実力行使には出られない。
「ハルカ、今のうちに潜水艦に情報を送っておくわ。上がってくるなって」
「ええ、お願い。今出てこられても、多分あちら側に逃げるタイミングを与えることになるわ。じっとしていてもらいましょ」
丹陽達の潜水艦は、今は大人しくしてもらう。浮上するだけでも戦場を引っ掻き回してしまうため、ここで戦いを有利に進めるためには、少しも動いてもらいたくないというのが実情である。うみどりもこの場で動かずに、何かあった時のために艦娘は待機とした。
深雪達が問題児を説得している間に、部隊に選ばれた者達はすぐさま準備をしてうみどりから出撃していた。
「あちらは深雪達がどうにかしてくれてるはずだから、私達はこの戦いを終わらせましょう」
「ああ。カテゴリーYは出来る限り生捕りにするという方針で良かったな」
「そうね。元凶……出洲に繋がる情報を持っていることは確実だもの。捕まえて尋問しなくちゃいけないわ」
神風と長門が相談する中でも、他の者は警戒を怠らない。特に秋月は、深夜であっても防空のために空に意識を巡らせている。
あちらには改造されたヲ級がいることが確認されており、夜間だというのに昼と同等、下手したらそれ以上の空襲を仕掛けてくる可能性があるのだから、昼以上に警戒を強めている。
「夜偵が敵部隊を発見。あちらからも艦載機が発艦されました」
「瑞雲隊が迎撃に出ておりますが、数が多いですわ。防空の方、よろしくお願いいたします」
妙高と三隈が偵察機と瑞雲を駆使して、敵部隊の動向を探る。その結果、あちら側にいる空母ヲ級から艦載機が発艦されたことを突き止めた。あちらからももうこちらが見えているということに他ならない。
深海棲艦の電探は、艦娘のそれよりも感度が高いことは、艦娘達の中でも知られていること。こちらが気付く前に勘付かれていることの方が多いため、すぐさま対応のために動き出す。
「対空砲火、始めます。長門さん、三式弾もよろしくお願いします」
「ああ、任せろ。撃てぇーっ!」
早速飛んできた艦載機を撃ち払い、空襲を阻止。夜であろうとお構いなし。あちらが昼のように艦載機を飛ばすのなら、こちらも昼のように全て撃ち墜とす。そのための秋月であり、専門家としての意地がある。
「先に行くわ。那珂ちゃん、センターお願い」
「まっかせて! 前座なんて無し! いきなりメインライブの始まりだよ♪」
そして、神風と那珂が突撃。空襲が来ないのならば、あと警戒しなくてはならないのは砲撃と雷撃のみ。夜の雷撃は感知がしにくく、回避も難しくなるのだが、2人ともその中でも関係なしにステップを踏みながら前へ前へと進んでいった。
あちらのネ級も、当然のように突っ込んでくる艦娘達を見て目を見開いたが、ここぞとばかりに手を突き出した瞬間、強烈な光が放たれた。
「探照灯! 珍しいことしてくるじゃない」
「スポットライトはぁ、アイドルのやる気を上げるだけなんだよ♪」
目眩しみたいな一撃で目を細めるものの、見えていないわけではない。故に、スピードは落ちず、むしろ逆に速くなった。
「残骸漁りなんてカラスみたいなことやめてもらえるかしら。片付けてるこっちの身にもなってよね」
「ホントホント。いくら人気者でも、ゴミ漁りは嬉しくないよ」
神風が砲撃を一発。それが最も近くにいたネ級の肩を撃ち抜き、姿勢を崩した。
それと同時に、那珂も砲撃を一発。逆サイドのネ級の脚を撃ち抜いて、その場に立っていられなくする。
「お姫様、出てきてもらえるかしら。元人間なのよね」
さらに砲撃を重ねるが、そちらは戦艦棲姫の生体艤装に阻まれる。駆逐艦の砲撃では、簡単には貫けない。
だが、神風の言葉に反応したか、船渠棲姫が戦艦棲姫の陰からチラリと顔を出してきた。
その表情は、不敵な笑み。まるでここで負けることなど考えていないような、自信に満ち溢れた表情。
神風はこの表情を知っている。施設で出会った素人、離島棲姫と殆ど同じだった。
まずネ級が探照灯を使ってきましたが、ここからが本番。改造された敵が何をやってくるか。