後始末屋の特異点   作:緋寺

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取り柄

 船渠棲姫の名を持つだけあり、その能力はそこにある材料によって深海棲艦を()()()()()()。工作艦の上位互換とも思える能力であり、斃したはずのネ級が強化された状態で()()()されてしまい、敵が減らないという事態が発生してしまっていた。

 だが、神風達もそんなことで屈するほどヤワではない。再建造により復活したネ級も、まず神風と那珂がチームワークによって撃破。次は簡単に素材にされないように、魚雷によって頭から下を木っ端微塵にすることで絶命させた。

 それでも材料さえ集まってしまえば再建造可能であり、この後始末の現場は戦場の跡であるせいで材料は至るところに散らばっている。そのため、船渠棲姫をフリーにすることが今はよろしくない状況となっている。

 

 しかし、それを守る者がいる。意思を奪われ傀儡にされ、船渠棲姫を守るための壁として扱われている戦艦棲姫である。

 後始末現場にある大物の残骸を運ぶことが出来る膂力と、船渠棲姫を守ることが出来る硬さを兼ね備えた強力な姫。そこにさらに自己修復能力まで付与されているのだから、厄介極まりない存在である。

 

「貴様は我々の宿敵と言えるだろう。だが、そのような哀れな姿を見るのは忍びない。すぐに解放してやる」

 

 命を奪うという手段でしか解放出来ないのは申し訳ないなと呟きつつ、長門は傀儡と化した戦艦棲姫に一斉射を続ける。

 残弾のことは今は考えない。兎に角、戦艦棲姫を退かさなくては、船渠棲姫の横暴を止めることも出来ない。

 

 だが、戦艦棲姫もただ受けているだけでは終わらない。その砲撃で生体艤装の腕が失われつつあっても、逆に長門への接近に転じた。

 ネ級よりも自己修復が速いこともあり、砲撃の隙間で目に見えるカタチで腕が生えていくのがわかり、撃ち続けなければ止まらない。しかし、長門の連射にも限界がある。限界まで引き上げた速射であっても、どうしても隙間は出来てしまう。それに、長門にだって残弾がある。無理に撃ち続けたら弾切れを起こし、戦いそのものが出来なくなる。

 その結果、最初は自己修復を間に合わせなくして破壊出来ていたものが、徐々に戦艦棲姫の力が上回っていき、もう拮抗出来ているかもわからないレベルに。少しでも気を抜いたら、自己修復に押し負ける。

 

「やはり本体を狙わなければダメか」

 

 戦艦棲姫の本体──生体艤装に守られた女性型は、ここまでの連射を受けても無傷のまま。

 この本体は何もしない(コア)である。そこをどうにかしてしまえば、戦艦棲姫は機能を停止する。これはこれまでの戦いの中でも一般的な常識。代わりに艤装が強固すぎるため、1対1で斃すのは至難の業。自己修復するとなれば尚更である。

 早急に終わらせるためには、1人で戦うことは難しい。船渠棲姫を狙ってもらうために引きつけているものの、これではどうしても押されてしまう。

 

「妙高、手が空かないか!」

 

 そこで、この戦場での相方、妙高に願い出る。妙高は妙高で再建造されたネ級の処理をしているが、そちらも自己修復をする上、再建造の際のスペックアップのせいで、一筋縄ではいかなくなっている。

 

「どうにか手を空けます。少しだけ粘ってください」

 

 妙高も手を抜いているわけではない。スペックアップしたネ級の動向を見ながら、有利な立ち回りを模索しているのだ。

 ただでさえ斃したところで暇さえ与えればそれを再建造してくる。更に言えば、その個体はさらにスペックが上がっているだろう。手がつけられないというモノではないが、厄介なのは変わらず、それが余計に面倒なことになるのはわかっている。

 

「はーい、ダメだよ」

 

 しかし、敵はネ級だけではない。再建造の必要が無くなった時点で、船渠棲姫自身も攻撃に参加するようになっていた。

 手に持つスパナを軽く振るだけで、何処から現れたかもわからない魚雷が猛烈なスピードで突っ込んでくる。

 

 深海棲艦は艦娘と違い、砲撃や雷撃が突然現れることはよくあること。指を振るだけで艦載機が現れたり、手を翳すだけで魚雷が現れたりと、それこそ魔法みたいな見た目の攻撃はそれなりに多い。艦娘にも近しい者は何人かいるが。

 船渠棲姫の魚雷もその類。スパナを軸に、翳したり振るったりすることで、海中に魚雷が現れるのだろう。そして、それがただ真っ直ぐ進むのではなく、それこそ艦載機のようにコントロールされながら敵に向かう。その速さと形状故に急旋回などは出来ないだろうが、だとしてもある程度命中率を上げてきているのは脅威としか思えないだろう。

 

「……厄介ですね。後ろで守られながらも、前の仲間に当てないように魚雷を放てるというのは」

 

 精度がある程度高くとも、避けられないわけではない。妙高も身軽にステップを踏みながら雷撃を軽々と回避し、念のためとその魚雷を砲撃で破壊する。ある程度コントロール出来るというのなら、ぐるっと回って戻ってこないとは限らない。意識外からの雷撃は命に関わるため、ここで処理しておく必要はある。

 しかし、そちらに意識を向け続けると、目の前のネ級の処理が疎かになる。こちらも自己修復するのだから、間を空けるとその分、攻撃が無意味になる。そして、急所狙いの攻撃への耐性が強くなっており、ヘッドショットは特に確実な回避をするようになっていた。スペックアップは身体の強さだけではない。

 

「私が入ります! 対空砲火だけが秋月型の取り柄ではありませんから!」

 

 ここで一時的にでも手を空けることが出来た秋月が、対空砲火ではなく通常の砲撃で妙高をサポートする。ヲ級は残念なことに再建造されているが、今はまだ艦載機を発艦していない。ならば、その少しの間だけでも、目の前の敵を叩く。

 

 艦載機を墜とすことは確かに重要だし、防空駆逐艦として得意分野であり率先してやるべきこと。だが、その仕事がない、もしくは事が済んで無くなる戦場だってある。その場合は、普通の砲雷撃戦にだって参加する必要はある。

 秋月は真面目な艦娘だ。そうなった時のことを考えて、医療班に属しながらも戦えるように日々鍛錬を怠らない。他の仲間よりもやる事が多くとも、それを喜んで受け入れる。

 

 その結果が、この万能なサポート性能。防空以外は器用貧乏かもしれないが、出来ないことがないということはそれだけでも強み。砲撃も雷撃も対潜も、全てがそつなく可能。

 

「ありがとう、秋月さん。これは一人でどうにか出来る相手ではないです」

「お任せください!」

「私が合わせます。好きに撃ってくれれば、間違いがありませんから」

 

 そして妙高の力もここでようやく発揮される。深雪にも披露した先読みの技術。

 敵の行動を先読みすることで精度を上げることが出来るのだが、ネ級は回避方向を読んでいたとしても1人で戦っていたらその隙を突くのが難しい。そのため、次に読むのは()()()()()を含める。

 

「了解です! では、行きます!」

 

 正面のネ級に対し、秋月は一撃必殺の急所狙い。頭と心臓を確実に仕留めるカタチで砲撃を繰り出した。

 

 スペックアップしたネ級は、その程度の砲撃と言わんばかりに軽々と避けながらお返しの砲撃を放ってくる。しかし、当然ながら回避しながらの砲撃は多少なり精度は落ちる。そして、その目が攻撃している秋月に向いたことで、僅かながら妙高がフリーに。

 

「ダメだって」

 

 そこを補うのが船渠棲姫。やはり誰よりも後ろから魚雷を発生させて妙高を狙う。

 秋月ではないところを見る限り、そこまで素人ではない。攻撃している者しか見ていないわけではなく、そのネ級を取り巻く環境を見て攻撃を考えていた。

 

 そして、妙高は()()()()()()()()

 

「魚雷しか使えないのでしょうか。流石に見えてきましたよ」

 

 その雷撃を悠々跳び越えた妙高は、真下に向けて砲撃。魚雷をわざと自分の間近で爆破することによって、その衝撃を自分の身体で受ける。

 多少身体は軋むが、重巡洋艦の耐久力を存分に活かした結果、その爆風を自らの加速に利用した。

 

「秋月さんの得意分野に持っていきましょうか」

 

 その加速でやったことは、ネ級への急速接近。本来の艦娘の加速ではないため、ネ級もそうだが船渠棲姫も反応が一瞬遅れた。その一瞬で問題ない。

 

「私は長門さんのような膂力もありませんし、那珂ちゃん程のしなやかさもありません。ですが、重巡洋艦として、それ相応の力は持っていると自負しています、よ!」

 

 距離としてはゼロ距離。即座に反応出来たとしても、お互いに砲撃は出来ないくらいの距離。

 やれることといえば、()()()()くらいである。

 

 そして妙高はネ級の艤装を強引に掴むと、身体を強引に捻りながら遠心力を使って体勢を崩す。そんな攻撃が来ると思っていなかったネ級は、不意に足が浮くのを感じた。

 

「秋月さん、()()()()()()!」

「了解です!」

 

 何を血迷ったか、海面に寝そべるカタチとなった妙高。しかし、そこから繰り出されたのは、自らの両足にネ級を乗せた状態にし、艤装のパワーアシストを全てそこに集中させた全力の両足蹴りである。

 ただの蹴りではなく、()()()()()()蹴り。どんな者でも、地に足をつけていない状態では体勢を変えることは出来ない。例え深海棲艦であっても例外ではない。

 

「浮いているのなら、それは防空駆逐艦の射程圏内ですよ」

 

 そのネ級を()()()()()()()()、秋月は対空砲火を開始。身動きが取れなくなったネ級は、最後の抵抗として艤装を前方に持ってきてガードをしようとするが、時すでに遅し。

 秋月の対空砲火は並ではない。艦載機を確実に墜とすための性能を有している。つまり、誰よりも速く連射が可能。

 

「もう、その足は下ろさせません」

 

 そこからは秋月の独壇場だった。撃って、撃って、撃ちまくる。勿論最大出力で。

 その結果、艤装に弾かれても次から次へと同じ場所に命中し、最終的には貫いた。艤装だけではない。ガードしきれない部分、腕も、脚も、何もかもが、撃ち抜かれていく。残骸となったパーツも漏れなく撃ち抜かれ、そのカタチを失っていく。

 打ち上げられたネ級は、二度と海面には戻る事が出来なかった。最後に落ちたのは、カタチを崩す事が出来なかった艤装のカケラのみ。ネ級そのものは、全て黒い血溜まりと化した。

 

 

 

 

 その戦闘を背中越しに感じつつ、長門は妙高に言われた通り、どうにか粘る。合間合間に船渠棲姫の魚雷が放たれ、嫌でも砲撃が中断されるため、戦艦棲姫の自己修復は嫌でも進んで、今では失われたはずの腕が殆ど治ってしまっていた。

 これまでの攻撃も、一からやり直し。本来ならばここで心が折れる。船渠棲姫的には、それが狙いだった部分もある。斃しても斃しても起き上がる敵となれば、最後は諦める。そして、自分の間違いを認め、この素晴らしい平和への道に膝をつくだろうと。

 

「この程度で諦めていたら、私が後始末屋に入った意味が無くなるのでな。悪いが、まだまだ粘らせてもらうぞ」

 

 だが、その程度で諦めていたら、後始末屋なんてやっていられない。どれだけ片付けても終わらない掃除を、長年やり続けているのだから。

 

 おそらく長門1人の力ではこの戦艦棲姫は斃すことは出来ない。斃すために妙高の力を借りようとした。

 ならば、斃さずにそこに抑え込むとしたならばどうか。それならば、この戦いが終わるまで、1人で抑え込むことは出来る。今は押されているかもしれないが、長門自身は未だに無傷だ。このままを維持すれば、間違いなく船渠棲姫を追い込む事が出来る。そう、確信していた。

 

「だが、私も残弾を考えるとそこまで無理して撃てん。だから、()()()()()()でやらせてもらうぞ」

 

 そう言うと、途端に砲撃を止め、殆ど無防備な状態で突撃を始める。砲撃をしていない分、前への推進力が高く、これまでよりも速い。

 意思を奪われた戦艦棲姫からしてみれば、長門が何をどうしてもただ見つめるだけ。船渠棲姫を守るためとして砲撃を放ってくるが、精度は通常と言える。それならば、長門であっても回避は可能。

 

「斃すのならば仲間の力がいる。だが、こうするだけならば私1人でも充分だ」

 

 戦艦棲姫の砲撃を潜り抜け、長門は戦艦棲姫に手が届くほどまで接近した。しかもそれは、船渠棲姫の死角となる場所。戦艦棲姫の艤装が大きすぎて、船渠棲姫からは長門の姿の全容が見えない。

 

「さぁ、力比べだ。貴様もそれなりに力があるのだろう。私とどちらが強いか、勝負してみようじゃないか!」

 

 そして、長門は戦艦棲姫と組み合う。その姿は、さながら相撲。戦艦棲姫も意思が無くても身体が反応したか、長門とがっぷり四つに組む。

 もう艤装も邪魔出来ない。本体を守るためには、ゼロ距離の長門を攻撃することも出来ない。

 

 

 

 

 戦艦棲姫を押し留めるため、長門はここで全力を出し切る覚悟。もう艦娘としての戦いでもない、ただの戦士としての戦いに打って出た。

 

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