後始末屋の特異点   作:緋寺

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道具の命

 再建造されたネ級達を2人がかりで撃破していく中、長門は船渠棲姫の随伴艦の中でも最も力を持っているであろう戦艦棲姫と一騎討ちを繰り広げていた。

 砲撃では自己修復によってダメージを与えられないと判断した長門は、()()()()()()と称して突撃を敢行。互いに砲撃が出来ない距離まで迫撃し、ついにはがっぷり四つに組むところまで来る。

 深海棲艦とここまで近付いたのは、長く艦娘をやっていても初めてのこと。カテゴリーYならまだしも、カテゴリーR、つまり純粋種だ。本来ならば砲雷撃戦で決着をつけるのが通例なのに、明らかな例外となってしまった。

 

「お前がヤツを守ることが、こちらには最も厄介なんだ。貴様は私が何としてでも抑え込む。さぁ、力比べだぞ。戦艦同士、どちらが強いか確かめ合おうか!」

 

 胴をぶつけ合ったあとは脇腹から強引に背中に腕を回し、身体を引き寄せる。対する戦艦棲姫は、見た目からは考えられない力で、長門の腕を掴んだ。そこには戦艦棲姫の意思はやはり感じられず、反射的に動いたという程度。

 それでもやはり戦艦としての膂力は感じられ、ただの力比べでは拮抗、むしろ戦艦棲姫の方が強いまである。

 

「くく、なかなかの力だ。だが、お前の力はその程度ではないだろう。このままでは、私が勝ってしまうなぁ!」

 

 グッと身体を捻り、さらに腰を入れることで、戦艦棲姫の体勢を強引に崩す。いわゆる腰投げ。しかし、長門には戦艦としての大型な艤装があるので、それを込みにした質量を追加した一撃となった。

 生体艤装と接続されていても、その方法が艦娘の艤装と違って直接貼り付いているわけでは無くケーブル経由での接続であるため、体勢を崩せば本体は海面から足が離れることになる。しかし、ケーブルは千切れることもなく、ただ伸びるのみ。長門の艤装に絡んでも、その強固なケーブルは傷一つつかない。逆に長門の艤装が傷つきそうなほど頑丈。

 

 戦艦棲姫は当たり前だがこんな戦いをしたことがない。その上で意思を奪われているため、長門の技にもすぐには対応出来ない。反射的に動け、出せる力を発揮出来たとしても、技には対応が出来ないのだ。

 力は無意識に出来るが、技は心が必要。心の無い人形の戦艦棲姫には、技に対抗する手段までもが奪われていた。

 

「ちっ……やはり海面では攻撃にすらならないか」

 

 腰投げにより戦艦棲姫の本体を海面に叩きつけたところで、ダメージは殆ど無いだろう。硬い地面ならいざ知らず、この場は海のど真ん中、あくまでも水の上であり、潜ろうと思えば潜れる場所。戦艦棲姫は、そのまま海中へと沈められることになる。

 ショックは吸収されているものの、人間ならば呼吸が出来なくなるはずである。だが、海中でも活動出来る深海棲艦なら、これはダメージにもならない。そのまま窒息死を狙うことすら出来ないだろう。

 

「ならば!」

 

 故に、長門は叩きつけた後にすぐさま腕を掴み、強引に起き上がらせてもう一度組み直す。ただし今度は相撲のスタイルではなく、胴体に肩を入れるようなタックル。

 背部に鎮座する生体艤装に叩きつけるほどの勢いで突っ込んだかと思いきや、すぐに本体のみを撞木反りのように持ち上げる。そのまま反って海面に叩きつけるというのもあるが、今の長門には艤装があるため、背中から倒れるなんてことは出来ない。

 そのため、肩の上から滑り落とすと、その脇腹に膝を叩き込む。さらには、崩れ落ちる前に首を掴み上げ、もう一度戦艦棲姫自身の生体艤装に叩きつけた。

 

 もがく暇すら与えない連撃。先程までの苦戦が嘘のように一方的になっていたのは、艦娘という枠組みから超えた動きをしているからだろう。

 

 戦艦棲姫の()()()()()()()は、まともに砲雷撃戦をする場合に限る。砲撃を受け止め、自己修復によって耐え、さらに凶悪な砲撃まで繰り出せる戦艦棲姫ならではの戦法。

 実際、まともな戦いをしていた時には、船渠棲姫に近付くことも出来ず、むしろ圧倒されるほどの硬さを嫌というほど見せつけられている。

 

「近付いてしまえばこんなものか。傀儡如きに苦戦する謂れなど無いな」

 

 だが、砲撃を捨て、ただ近付くことに専念したことで状況は一変する。壁であるせいで、()()()()()()()()()()()()()。それが戦艦棲姫の敗因となるだろう。

 

「そいつ、掴んでて」

 

 だが、船渠棲姫が長門の行動にようやく気付いた時、その傀儡に指示を出す。戦艦棲姫には絶対的な自信があったのか、他の戦場に目を向け続けていたが、壁としての力が衰えてきているのに目が向いたらしい。

 素人ではなくとも、船渠棲姫は戦場に対する視野がそこまで広いわけでは無いようだった。そこはやはり元人間。今の力を手に入れてから多少はその力の使い方は学んでいるかもしれないが、実戦はどれだけやったかわからない。

 

 しかし、気付いてしまえば正しい指示が出せる。その一手目が、戦艦棲姫の生体艤装に長門を捕らえさせること。船渠棲姫からしてみても、長門が最も()()だと感じたようである。

 

「させんよ!」

 

 本体を蹴り飛ばしながら間合いを取り、振りかぶられた生体艤装の腕を華麗に躱す。そのついでに砲撃を置いてきていたことで、振られた巨腕に直撃。そちらの腕は粉々に砕け散るが、やはり自己修復がすぐに始まり、みるみるうちに元に戻っていく。

 むしろ、先程よりも自己修復が早く進んでいるとまで感じる程だった。おそらく、これも船渠棲姫の力。建造と修繕が船渠の在り方なのだから、今度は修繕側に力を倒している。

 

 よく見れば、船渠棲姫は一時的に戦艦棲姫に触れられる距離にまで近付いていた。建造もそうだが、修繕も()()()()()()()()()()()()()なのだろう。

 また、建造と修繕はどちらも資材が必要。そこら中に落ちている残骸をここでも使い、戦艦棲姫の自己修復を超える修復を可能にしている。

 

「厄介極まりない力だなお前のそれは」

「傷を治し、命を取り戻し、より強い力を与える力なんだ。平和の象徴だと思わないかな」

 

 やっていることは確かに平和的である。傷付いたものの自己修復能力を向上させ、命を落とした者を蘇らせ、次はそうならないようにと、強靭な肉体すら与える。

 しかし、その効果対象が船渠棲姫の傀儡に限るという平和的な要素を全て握り潰して捨てているような能力なのだから目も当てられない。その力を受けたいのならば意思を失えと言っているようなもの。

 

「自らの手で管理する平和は、平和とは言えん。お前はまだわかっていないようだな。アレだけ三隈に言われたというのに」

「わからないかな。死ぬこともなく平和に暮らせるんだよ。これ以上の幸せがあるかな。それを管理する者はどうしても必要になるけどさ」

「わからないな。管理している時点でそれは平和ではない。お前達の私利私欲で世界を自由に出来るということだろう。そもそもお前達は、管理される側の心を考えているのか」

「当然だよ。平和で幸せな世界だよ? 拒む方がおかしいと思わないかな」

 

 話になっていなかった。出洲と全く同じ思考。自分達のやることは、全ての人類に受け入れられることだと信じて疑わない。そして、支持されているとも考えていそうである。

 

「そんな平和を求めている割には、戦艦棲姫を手駒のようにしか扱っていないようだが。誰もが平和を享受する世界を作るのならば、それにもその権利があるんじゃないのか。言ってしまえばお前の生み出した子供のようなものだろう」

 

 戦艦棲姫までもがそれに含まれるかはわからないが、少なくとも先程終わらせて再建造によって蘇ったネ級やヲ級は、船渠棲姫が生み出した謂わば我が子のようなモノではないかと、長門は船渠棲姫に問いただす。

 それに対する答えは、至ってシンプル、かつ虫酸が走るモノであった。

 

「この子達はあたしの()()だけど?」

 

 あっけらかんと言い放つ。それがさも当然だと言わんばかりに。長門はその言葉を聞いて、明確な嫌悪感を覚えた。

 

 深海棲艦とて、命を持つ生物である。思想が相入れず、本能のままに侵略を続けるため、否が応でも命のやり取りをせねばならないのだが、少なくともうみどりの面々はその戦いを終えた後に安らかに眠ってほしいと祈り願うまでしている。

 だが、この船渠棲姫はここにある命をただの道具だと言ってのけた。腹を痛めて産んだわけではないにしろ、自ら生み出した命だというのに。

 

「この子達は兵器だからね。あたしが好きに造って、好きに使う。そしてそれが平和の使者となる。これから来る平和のための礎となるんだ」

「……ならば、その恒久的な平和とやらが訪れた場合、お前が生み出したその子供達はどうなる」

「兵器は平和な世界にはいらないからね。全部ちゃんと廃棄するよ。大丈夫、心配しないで。いざという時はもう一度造ればいいから」

 

 命を蔑ろにする言葉を次々と放つ。

 

「……お前は命を何だと思っているんだ」

 

 船渠棲姫を睨みつけながら、苦しそうに呟く長門。平和を目指す者とは思えないような発言の数々に、出洲と同様の邪悪さを感じた。

 出洲の狂信者であると思えば、今までの発言もわかる。それほどまでに歪んだ平和への感覚を持っているのも当然。深海棲艦は道具。おそらく艦娘も道具。高次な存在に至ればそれが人間であり、それ以外は()()()とでも思っていそうだった。そして自分はカテゴリーY、つまり高次の存在に踏み入れていると自負している。

 

「そもそも、道具に命なんてないよ? 生み出したって言ってるけと、あたしはこの子達を()()()()()()()。自分で考えて動いてるところはあるけど、命なんてないよ」

 

 故に、自分の作り出した命は好きに扱ってもいい。何故なら消耗品だから。そもそも命とすら思っていない。

 生み出した子供であっても、それが壊れたら造り直せばいい。だからどのように使ってもいい。

 

 あまりに歪んだ考え方に、長門は吐き気まで感じるほどだった。その思想は、平和を求めている者とは程遠い。戦いを無くすために傷付く者があまりにも多すぎる考え。

 そしてそうやって命を落とす者に対しては、目もかけない。高次に辿り着くためには、犠牲も必要だと切り捨てるのだろう。

 

「……救いようのない愚か者だなお前は」

「理解出来ないのは仕方ないよ。でも、それが教えだから。理解すれば、貴女達もこれが正しいと思える。平和に向かうためには犠牲も必要だからね。少なくとも、あたしが造ったこの子達は、そういう枠組みにはいない子だから。命とかそういうのじゃないよ」

「つくづく愚かだ。そんな者が平和を語るだなんて片腹痛い」

 

 長門が溜息を吐くも、船渠棲姫は何故理解出来ないのかと不思議そうにしていた。ここまで思考が違うと、対話にもなっていない。三隈がコレを相手によく口で勝てたなと感心するレベルである。

 

 そして、ここまでの物言いに沸々と怒りが湧き上がる者が1人。

 

「もうダメね。我慢出来そうにないわ」

 

 那珂と共にネ級を始末した神風は、続いて三隈と共に3体目のネ級を攻撃していたものの、船渠棲姫の言葉を片耳に聞いているうちに、我慢の限界を超えていた。

 

「那珂ちゃん、三隈さんとお願い。私はアレを片付けてくるから」

「はーい。後悔させちゃってあげてね♪」

「口で言ってわからない者には、身体に教えてあげた方がいいこともあるでしょう。自ら選択をやめ、道を閉ざしてしまったのですから」

 

 キョロキョロと戦場を見回す神風は、手頃な棒──ここで沈んだ深海棲艦が使っていたのであろう主砲の砲身を見つける。刀よりはかなり短い小太刀くらいな長さなものの、手に握るとしっくり来る太さ。これなら大丈夫かなと手応えを感じる。

 

「うん、これでいいかな。深海棲艦の使う武器の砲身だし、頑丈でしょう。()()()()、コレで充分ね」

 

 ふぅ、と小さく息を吐き、砲身を腰に構える。

 それは居合の構え。刀でも何でもないただの棒、言ってしまえば鉄パイプ。それなのに、神風が持った途端、何か違うモノになったようにも感じた。

 

「もう情報なんていらないわ。その声を聞いているだけでも反吐が出る。だから、ここで始末してあげる。元人間かもしれないけれど、深海棲艦としてここに立ち、私達の命を脅かすなら、もうそれは侵略者と変わらない。なら、何も言わさずその命を」

 

 艤装がフル回転し、脚部艤装に力が加わる。地を蹴るよりも速く、その瞬間だけは瞬きすら許さず、神風は一閃と化す。

 

 気付けば船渠棲姫の真横。真っ直ぐ突っ込んできただけなのに、そのスピードは限界を超えていた。

 だからだろう、船渠棲姫は何も口に出すことなく、戦艦棲姫を盾にした。正確に言えば、その生体艤装を神風の前に踊り出させた。これならば何も問題なく止められると信じて。

 

 

 

 

「断つ」

 

 居合抜きのように鉄パイプを振るった瞬間、戦艦棲姫の生体艤装は、その胴体から真一文字に切り裂かれ、上半身と下半身が離れていた。

 

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