後始末屋の特異点   作:緋寺

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見えない潜水艦の脅威

 白雲との戦闘で、ついに説得出来るほど近付くことに成功。触れると凍傷になりかねないほどの冷気を纏っていたものの、深雪は気にせずに抱き締めることによって動きを止め、その冷気の発生源となる艤装の基部を破壊すべく、仲間に砲撃を頼んだ。

 しかし、それを邪魔するかのように、雷撃が向かってきていることが判明。ソナーにも引っかからない潜水艦という恐ろしい存在によって、白雲諸共深雪を始末しようとしていたのだ。

 電がいち早く察知したことでギリギリ回避することに成功したが、深雪と白雲は艤装を破損。まだ戦えなくはないものの、機能は確実に低下している。

 

「簡易ソナーにゃ反応が全く無いな……くそ、何処行きやがった」

「わからないのです……それに、潜水艦だとちょっとまずいのです」

 

 今回の部隊では潜水艦は少々分が悪い。何故なら、空母と重巡洋艦は潜水艦に対して為す術がないからである。

 三隈の瑞雲は潜水艦にも対応が出来るため、今の魚雷の爆発の直後からすぐさま索敵を開始しているが、やはり()()()()()()らしい。

 

「見えない潜水艦とか何なんだよ。これもあの出洲の仕業か……?」

「あり得るのです。もう何をやっても驚かないのです」

「だな……でもどうする。このままだとただやられるだけだぞ」

 

 潜水艦がいるというだけでも厄介なのに、それがソナーで感知出来ないとなれば、余計に面倒なことになる。

 

 海中から一方的に狙われて、先程のように雷跡をギリギリ感知することで攻撃が避けられるくらい。それでも無傷とは行かず、深雪のようにダメージを受けてしまう。

 その雷跡に反応出来たのが、少なくとも今の段階では電だけ。おそらく那珂も似たように反応は出来るだろうが、感知してすぐさま全員に伝え、回避出来る余裕を作れるかと言ったらなかなか難しい話である。電も今回は間に合ったものの、何度も同じことが繰り返せるとは限らない。

 

「一度退避するしかないわ。そこを狙われるとは思うけれど」

 

 小さく舌打ちをしつつ、加賀が撤退を選択する。見えない潜水艦など、今この状態でどうにか出来る問題では無い。

 対処するのなら、一度うみどりに戻り、装備を換装、もしくはメンバーを入れ替えるなどをしてどうにかせねばならない。

 

 しかし、それを簡単に許してくれるほど甘くはない。ただでさえあちらの攻撃がいつされたかもわからない状況。わかっていても不意打ちになってしまうという厄介な相手。

 事実、全員が神経を張り詰めていても、その魚雷に気付くのはかなりギリギリなところである。

 

「白雲!」

 

 2回目の攻撃も、やはり白雲狙い。いや、白雲を狙っている時に手を出してくる深雪狙いと言ってもいい。

 

 潜水艦にいい思い出のない白雲は、深海棲艦と化したことで理性も失われ、本能的に恐怖を表に出してしまう。深雪に何かを言われたところで錯乱し、目を見開いてガクガク震えている。

 

「潜水艦ガ、潜水艦ガァッ」

「だから逃げ回るんだよ! あたしが救ってやるから!」

 

 基部を破損してしまっていることもあり、咄嗟に動けそうにない白雲。その手を強引に掴み、深雪はどうにかその場から離れる。そして、その瞬間に魚雷が爆発。再びその爆風で吹き飛ばされる羽目になる。

 

「っああっ!?」

 

 今度は艤装の破損などは抑えられたが、身体へのダメージが見えてしまった。白雲の艤装、そこから垂れ下がる氷柱に肌を引き裂かれ、未だ残る冷気によって凍結させられたのだ。

 そのおかげで白雲は一切ダメージを受けていない。深雪が庇ったおかげで、2回目の雷撃は無傷で済んだ。

 

 痛みを堪え、倒れることもなく、白雲の手を握り続ける。その手はもう凍傷に近いくらいにダメージは受けているが、知ったことではないと戦場を駆け回る。

 

「くそっ、何処にいやがる……!」

 

 狙われないように戦場を移動し続けながら、その位置を探るのだが、やはり簡易ソナーには全く反応がない。そんな潜水艦なんて見たことも聞いたことも無い。

 

「那珂ちゃん! 何かわかんねぇか!?」

「ごめーん! 那珂ちゃんにも感知出来ないー!」

 

 対潜能力が比較的高い那珂に聞いても、やはりその位置は見えないらしい。とにかく見えないというのが実情である。

 高性能なソナーを装備していれば話が変わるのかもしれないが、今はそんなものを装備はしていない。白雲しか見ていなかったために起きた、不慮の事故みたいなものだ。普通はあの場で見えない潜水艦なんて考慮出来るわけがない。

 

「電!」

「ごめんなさい、電にも魚雷が撃たれた後しか……」

「仕方ねぇ仕方ねぇ! とりあえず避け続ける!」

 

 潜水艦の狙いはあくまでも深雪。そこからは、特異点を消そうとする意思が丸わかり。白雲を囮に使って深雪を始末しようとしている。それは、誰の目から見ても明らかだった。

 

 二度の雷撃を掠めたことで、深雪は嫌でも消耗させられている。それに加えて、白雲からの冷気で体温を奪われ、体力だけはモリモリ減らされている。

 それなのに、深雪はそんな雰囲気を全く出さない。電に、仲間達に、そして白雲に心配させないように、まだまだ元気いっぱいであると()()()()()()()。寒さで鼻水すら出そうになっているが、それはどうにか啜り、自分の熱を白雲に送り続けた。

 

「オ姉様……」

「おう、心配するな。お前は絶対に守ってやる。絶対に無傷でここを切り抜けるぞ」

 

 白雲にその熱意が伝わったか、潜水艦がいることに対しての錯乱が少し収まっていた。そのおかげで、深海棲艦であるにもかかわらず、深雪との対話が少しだけ可能になっていた。

 ここはある意味カテゴリーMであると言える。当初の時雨も、人間の話は聞く耳を持たなかったが、純粋種である深雪と電の声はまともに聞いていた。白雲もその気質だけはギリギリ残っていたようだ。

 

「援軍頼むしかねぇな。誰でもいいから援軍呼んでくれ! このままじゃ埒が明かねぇ!」

「もうやっているわ! もう少し耐えてちょうだい!」

 

 珍しく大きな声を上げる加賀。この全く自分が役に立っていない状況に小さく苛立ちを覚えつつ、冷静に事を対処するために先んじて艦載機を飛ばしていた。

 今では既に1機がうみどりに到着し、妖精さんを経由して援軍を要求している。言葉は通じずとも、その行動だけで伊豆提督が全てを察するだろう。この戦いは全て、うみどりでもモニタリングされているのだから。

 

「白雲、もう少しの辛抱だ。いいか、足を絶対に止めるな。止めたら終わりだ。代わりに、止めなかったら絶対大丈夫だ。あたしが保証する。だから、あたしを信じろ……!」

 

 強い思いが再び深雪の発煙装置に火をつける。薄く、しかし強く、願いの煙を溢れさせた。それは、白雲の冷気によって急速に冷やされ、さらに空から燦々と照らす太陽の光を浴びたことで、深雪を煌びやかに輝かせる。

 必死に、それでいて凛々しく、心の熱を絶やさないその姿に、白雲の心を凍てつかせている氷はより溶け出していた。壊れた理性が熱により補完され、剥き出しの本性は氷により包まれる。深海棲艦でありながら、艦娘の要素も併せ持つカテゴリーMだからこそ、白雲は新たなカタチへと昇華されようとしていた。

 

「深雪ちゃん、また来るのです!」

 

 深雪の足下に意識を集中し、雷跡を辿り続けた電によって、僅かにだが早く感知された。一瞬でも早ければ回避は可能。

 

「白雲、振り絞れぇ!」

 

 基部を破損しているため、全速力でもかなり厳しい。だとしても、ここから逃げなくては雷撃が直撃する。動き続けていることで、次の場所も予想されている可能性は高いため、ここでフェイントをかける。足への負担は相当なものだが、四の五の言っていられない。

 

 あろうことか、その場で急ブレーキをかけた上に、大きく海面を踏み込むカタチで、白雲と共に()()()()()()()。白雲も深雪の行動に合わせて、同じ場所を踏み込む。

 すると、ほんの一瞬だけ海面が()()()。すぐにその氷は溶けてなくなるものの、海面以上に強く踏み込める足場となったため、深雪は自分が想像していた以上に大きく横っ飛びが出来た。

 

「うおっ!? 白雲、ありがとな!」

「今ハ生キルタメニ……」

「ああ、それでいい。今は生き残るぞ。話は後からでも出来るからな!」

 

 時間稼ぎは充分。もううみどりでは次の一手が繰り出される。

 

 

 

 

「海の中を見ることが出来るのは、私達だから」

 

 援軍として出撃していたのは、伊203を筆頭とした潜水艦達。伊26は当然として、スキャンプすら駆り出されていた。

 見えない潜水艦に対する使えそうな手段は、ソナーでも爆雷でもない。同じ立ち位置の者、つまり、潜水艦である。伊豆提督は即座にその判断を下した。

 本来なら潜水艦に潜水艦をぶつけるのは悪手。互いの攻撃が基本は当たらないというのが定石。だとしても、今回はソナーに引っかからない謎の潜水艦ということで、その目でその姿を捉えるために採用されている。

 

 判断をしたら行動は早い。特にスピード重視の行動をする伊203は、やるべきことを瞬時に判断して、指示が出る前に行動に出ている。その伊203が、スキャンプまで手を引いたから文句を言おうとしたところに、今の言葉である。

 

「テメェ、無茶苦茶すぎるだろ!」

「そうでもしないと勝てない。考えればわかる。すぐに動かないと、誰かが傷付くよ」

 

 話しながらでも、準備が早い潜水艦達は既に工廠から飛び出し、猛スピードで現場に直行。伊203はタービンまで装備しているので、伊26やスキャンプを置いていく速度で潜航していった。

 

「何なんだアイツは! あたいを連れ出しといて置いてくとか何考えてんだ!」

「あはは……フーミィちゃんはああいう子だから」

 

 伊26は既に諦め気味。だが、その行動が最善を予知しているため、伊26はちゃんとついていく。間違いがないとは言えないものの、ついていって損をしたことがほとんどないため、割と気軽についていくことが出来る。

 

「でも、ニム達の戦いを見ててね。特にフーミィちゃんは、すごいから」

「すごいと言われてもだな、もう見えないところまで行きやがったが」

「大丈夫大丈夫。何処に向かってるかはわかるでしょ」

 

 敵潜水艦の位置はわからずとも、伊203の位置はハッキリとわかる。それについていけばいいだけ。そして、その在り方を見てもらいたい。

 

「ほら、見つけた」

 

 ソナーにはかからずとも、伊203が既に交戦していた。直感的になのか予測していたのか、本当に敵を発見していたのだ。

 

「マジかアイツ……」

「ねー、ニムもちょっとビックリしてるよ」

 

 的確に敵を発見し、当たり前のように攻撃を開始している。しかも、魚雷はもう使わない。以前、桜を救出した時に使っていた海中での徒手空拳。速さを前面に活かした、縦横無尽の掻き乱しで、敵の潜水艦を翻弄しながら殴りかかっている。

 

 だが、それはどちらかといえばどうでもよかった。その相手のカタチに、伊26は目を見開いた。伊203もその姿を見たからこそ、それだけ躍起になって攻撃をしていると言える。

 

 

 

 

 その姿は、潜水棲姫。見る者が見ればわかる、()()()()使()()()()()()()()Y()である。

 

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