後始末屋の特異点   作:緋寺

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探求者との対話

 グレカーレに諭されたことで自分の行ないを猛省し、深雪に土下座をするほどの謝罪の気持ちを見せた白雲。これによって深雪との関係は修復され、最悪の事態は免れることとなった。

 

 後始末屋がどれほど平和への道に貢献しているかを理解することが出来たのは非常に大きい。ここにいる人間達が、それに尽力しているのだから、信用しやすい相手として認識出来ている。しかし、白雲に染み付いている人間に対する怒りと憎しみは、経験まであるせいで時雨よりも深い。

 そのため、これからうみどりで生活をしていくにしても、周囲の人間──伊豆提督やカテゴリーCの艦娘達相手には、どうしてもキツく当たってしまうだろう。白雲は自分でもそれが抑えられるとは思えないと言ってしまっているくらいである。そもそも、その件を話した際に人間のことを()()()()()()()()()()()と言い切ってしまっているため、その根深さは嫌でもわかる。

 

 これに関しては、深雪がサポートしていくことで徐々に慣れていく方針。深雪とて、こればっかりは仕方ないと理解している。時雨だってそれなりに時間がかかっているのだから、白雲は相当かそれ以上に時間がかかって当然のこと。

 うみどりの面々はそこを理解して接するため、白雲がどれだけ悪態をつこうがそこまで不安はない。そして、白雲自体がそれに対して『よろしくないこと』としての認識が出来ているため、ここからは慣れの問題。

 

「本当ならあたしもここから後始末に加わりたいんだけどな」

「ご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません……。白雲の我儘を聞いていただく形となってしまい……」

「いや、流石に今日ここに入ったお前を放っておくことは出来ねぇよ。それに、姉ちゃんなんだから頼られてなんぼだぜ」

 

 ニカッと笑う深雪に、白雲はときめきつつも、申し訳なさでいっぱいになっていた。深雪を困らせるようなことはしたくないため、嘘がつけず本心のままに言葉も表情も表される。

 

 深雪に対しては、本来の白雲として振る舞えるようにはなっており、艦娘らしい感情も表現出来るようになってはいる。とはいえ、深海棲艦化の影響はかなり大きく、それでも理性はなく本能が強いというのはそこかしこに現れていた。

 例えば今も、温もりが欲しいと深雪の手を握ったまま。まるで抵抗を感じることなく、深雪に許可を得ることなく、当たり前のように手をとっていた。それが白雲の欲するものであり、本能的に手に入れようと行動してしまうから。

 それから派生した危険性が、白雲自身も話す、『人間に対しての攻撃性』である。よくないことであっても止められない。深海棲艦化の弊害と言っても過言ではない。カテゴリーYは身体だけの深海棲艦化だが、白雲の場合は内面の方にも激しく影響があるため厄介であった。

 

「今からは、()()()()()()()()()()が白雲の一番の課題だ。キツイかもしれねぇけど、この世界で生きていくためには絶対に必要なことだから、あたしと一緒に頑張ろうな」

「は、はい……かしこまりました……」

 

 人間と仲良く。白雲には、深雪の口からその言葉が出ただけでも、嫌悪感に駆られるところだった。故に、嫌そうに眉を顰める。嘘がつけないという性質はここからもわかる。それが間違った感情であるとわかっていても、本能からは逃れられない。

 深雪の前なら、フリでも受け入れたように見せる。白雲ならば、深雪の前でなら虚勢を張る。しかし、そんなことすら出来ないくらい、深海棲艦化の影響はそこまで大きなものとなる。

 

「気持ちはわかるけど、頑張れよな。あたしは、白雲にこのうみどりに馴染んでほしいからさ、出来る限り手伝うから」

「……本当に人間と仲良くなる必要があるとお思いなのですか?」

「当然だ。ただ、仲良くなる相手は選んでいいと思うけどな」

 

 全人間と仲良くなるのは違う。出洲のような、艦娘や深海棲艦すら自分の利益のために利用しようとする輩は、何処にでもいるのだ。そんな輩と仲良くする義理はない。

 艦娘として人類を守る役目を持っているものの、そんな輩は守りたくないという気持ちを隠すつもりはないと深雪は語った。

 

「うみどりの人間は、守りたくなる人間だ。後始末やってるところ見たら、そう思えなかったか?」

「……申し訳ございません。白雲にはまだ、そのような気持ちが……」

「うーん、まぁ仕方ねぇよな。時間かけて慣れていこうぜ。まずは純粋種からだ」

 

 人間が厳しいなら、人間の要素が含まれていない純粋種から慣らすのが良さそうである。グレカーレ相手には敵意を見せなかったこともあり、そこは比較的受け入れやすいのではないかと予想出来る。人間相手はまだ早い。

 もう1人のカテゴリーWである電と、白雲と同種であるカテゴリーMの時雨は、現在絶賛後始末作業中。となると、グレカーレを含めたカテゴリーB、そして今でも食堂で本能のままに欲を満たそうとしているカテゴリーRのセレスが、白雲を慣れさせる最善の存在となり得るだろう。

 

 ここで深雪が選択したのは、後者。セレスの方。

 

「穢れを失い、本能に忠実に人間を守ることにした深海棲艦……ですか」

「ああ、セレスの本能は全部食い物に行ってるからな。食欲に忠実ってヤツだ。料理っていう文化を生み出した人間を滅ぼすとか馬鹿らしいって思ってるくらいなんだぜ?」

「め、面妖な……」

 

 これには白雲も驚きを隠せない。深海棲艦ということは自分と同じような存在だと思っていたが、その本能が人間への恨み辛みではなく、全て食に対して向いていると言われれば、こうなるのも無理はない。

 

「人間じゃあ無いから、お前も接しやすいだろ。今頃は食堂で自分で食うために料理の研究をしているだろうから、そこに行ってみるか」

「か、かしこまり、ました……」

 

 人間と仲良くなること以上に、白雲には緊張感が漂っていた。

 

 

 

 

 食堂、時間的にはもう夕食の準備が始まるくらいの時間にはなっている。深雪も戦後から何も食べていないので空腹感を覚えており、何か摘めるものがあったりすると嬉しいなんていう打算的なところもあったりする。

 

「ハルカちゃん達はまだ来てない、よな。うん、白雲、大丈夫だから入ってこい」

「は、はい……」

 

 伊豆提督も夕食の準備をするため、ここにいないかだけは警戒していた。うみどりの面々の中でも、伊豆提督に対してだけは、あらゆる負の感情が浮かんでいるのが今の白雲。人間であるというのもあるが、一度高圧的に振る舞ったために顔を合わせることが気分のいいことでは無いのも大きい。

 

「アラ、マダ夕食ハ出来テナイワヨ」

 

 梅から借りているレシピ本を読みながら、文字の読み書きを覚えているセレスがそこにいた。そろそろ準備はするけど、後始末の最中なので軽食になることは見えており、とにかく簡単なモノを数多く作るという方針になるため、セレス1人で何かをするより、カテゴリーYである平瀬と手小野に手伝ってもらいながら事を進めたいという気持ちがある様子。

 こうしている間も勉強を怠っておらず、話し方が随分とわかりやすくなってきていた。深海棲艦の学習能力がかなり高いことの証左でもあり、それ以上にセレスが努力家であることも表している。

 

「いや、セレスなら白雲が顔を合わせやすいかなって思ってさ」

「アア、今日仲間ニシタ純粋種ノ子ネ。イイジャナイ」

 

 本をゆっくり閉じた後、立ち上がって白雲の前に立つ。身長差もあるが、白雲には威圧感を覚えてしまうため、一歩引いてしまう。

 だが、深雪が背中を押して、この場から引かないように支えた。ここで後ろに下がっては、これから前に進めない。

 

「ハジメマシテ、オ嬢サン。私ハセレス。食ヲ探求スル者。オ近ヅキノシルシニ、コレデモドウゾ」

 

 そう言いながら、おそらく自分で焼いてみたのだろうクッキーを白雲の前に出す。言ってしまえば、それは初心者の作った歪なカタチ。しかし、味は保証すると笑みを浮かべて、食べるように促した。

 深海棲艦が作ったモノを食べようだなんて普通なら思えない。白雲も信用していいのかわからない相手の作ったモノなんて口に入れようとは思えない。

 

 だが、深雪が躊躇なくそれを手に取り、当たり前のように口に放り込んだ。白雲は目を見開いて驚く。

 

「お、美味いじゃん。ちょっとしょっぱいか?」

「テオノカラ聞イタノヨ。アマジョッパイノモ美味シイッテネ。生地ハ手伝ッテモラッタケレド、私モチャント手ヲ出シテルカラ安心シテ」

「へぇ、すげぇな。あたしにゃコレも出来なそうだ。白雲、食ってみな」

 

 深雪に勧められたことで、おずおずとクッキーを手に取り、ゆっくりと口に入れる。

 

「お、おいひい……」

「フフン、コレデマタ一歩前進ネ」

 

 白雲からも美味しいと言われれば、セレスにも自信がつくというもの。

 

「前進……とは?」

「私ハ食ノ探求者。人間ノ作リダシタ料理トイウモノヲ極メ、私ガ満足スルタメニ作ッテ食ベル。コレガ私ノ生キル道。私ノ中デ一番美味シイモノヲ作ッテ食ベテイタイダケナノ。ソレヲ邪魔スルヤツハ、何人タリトモ許サナイワ」

 

 あくまでも食べることに対しての欲望が並ではないのがセレス。侵略なんてことは何一つ考えておらず、ただ食べることだけを追求し続ける。食べるだけでなく、食べさせることにも楽しさを見出だしており、とにかく全ての食に通ずる道を網羅しようと努力を惜しまない。

 文字の勉強も、そのうち出来るはずの人間社会で振る舞われている料理を食べるため。戦いなんてくだらないと言い切り、人間との共存を求めていた。全ては美味しいものを食べるため。食欲を満たすため。

 

 白雲は、この深海棲艦が本心のままそれを言っていることを理解出来た。自分がそうなのだから、セレスも例外ではない。

 むしろ、そうだから深雪はまずセレスに会わせたと言っても過言ではない。うみどりにいる者の中で、最も白雲に近いのはおそらくセレスだ。

 

「楽シク生キルタメニハ、努力ヲ惜シマナイワ。貴女ニモ何カオ願イスルカモシレナイケレド、良カッタカシラ」

 

 そんなことを聞かれて、白雲は少し返答に困った。だが、人間ではないセレスからのその言葉には、嫌悪感はない。深雪が躊躇なく食べ、自分でも食べ、そこからセレスへの信用は生まれている。

 そんなセレスからのお願いは、グレカーレとの会話と同じくらい、すんなりと聞き入れることが出来た。

 

「この白雲でよろしければ。セレス様の求める答えを提供出来るかはわかりませんが」

「イイノヨ。私ガ聞キタイノハ素直ナ感想ダモノ。美味シイ、不味イ、ソレダケデモ参考ニナルワ。万人ニウケル食ナンテ理想的ナモノガ作レレバ最高ダケレド、不可能ナコトハワカッテイルシ」

「……本当に、食がお好きなのですね」

「エエ。私ヲコウシタ一番ノ刺激ダモノ。ダカラ、私ハハルカニモ感謝シテイルワ」

 

 ここで出てきた提督の名前。人間に感謝している深海棲艦という存在を目の当たりにして、嫌悪感は出さずとも驚きは隠さない。

 

「ハルカノオカゲデ、私ハコレヲ知ルコトガ出来タンダモノ。ソコニ種ナンテ関係無イワ。貴女ダッテ、ソレニ気付ケルトキガ来ルワヨ」

 

 ニコッと笑って、セレスはそろそろ夕食の準備をしなくちゃと立ち上がった。食に対する姿勢があまりにも徹底していて、逆に信頼出来る。拘りが凄すぎて、逆に触れていいかもわからなくなるレベルだった。

 

 

 

 

 セレスと話せたのは白雲の価値観を変える一歩目としては上々だった。深雪も満足げに見て、笑顔を絶やすことは無かった。

 




白雲は艦娘ではあるけど内面がほぼ深海棲艦なので、セレスが一番価値観が同じ。そんな相手を見た白雲は、少しずつ変わっていきます。
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