後始末屋の特異点   作:緋寺

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人類の罪

 海上に現れた、カテゴリーMと呼ばれたドロップ艦。それは、人類に対して憎しみを持つ、海から生まれた純正の艦娘であった。

 そのドロップ艦は、迎撃のためにうみどりから出撃した長門達と交戦し、そのまま撃破。最期まで憎しみをその瞳に燃やしながら、その命を散らした。長門達も、悔しそうに歯を食いしばっていた。

 

 ここで戦場を映していたカメラが止まる。その映像から音が流れていたわけではないのだが、執務室は静寂に包まれた。深雪はもう気が気で無かった。どうしてこんなことになっているのかが、全く理解が出来なかったからだ。

 自分と同じドロップ艦が、自分の仲間となった艦娘と戦っていた。本当に殺すつもりで。そして、仲間達はドロップ艦の命を奪った。辛そうに、しかし、容赦なく。

 

「……なんだってんだよ……どういうことなのか説明してくれよ」

「ええ。深雪ちゃんは知る権利がある。望むのなら、アタシが全て伝えるわ」

 

 伊豆提督も苦しそうな表情。声も絞り出すような声色だった。伊豆提督だって、この戦いは望んでいないもの。それは見ればわかることだった。

 

「ハルカ、長門達に事後処理の指示を出しておいたわ。良かったわよね」

「ええ、ありがとうイリス」

 

 ここでイリスが執務室に戻ってくる。あのドロップ艦の亡骸に対する処置も必要なため、長門達に工廠に運び込んでもらっているようだ。

 当たり前だが、後始末の際の深海棲艦の亡骸とは処置の方法が違う。それはうみどりの立ち入り禁止区域で執り行われる()()なのだが、深雪には今は伝えられることはない。

 

「ここまで来たら、隠しようがないわよね。これから全てを話すのかしら」

「ええ、そのつもり。深雪ちゃんもそれを望んでるから」

 

 再び、備え付けられたソファに促される。最初は足取りが重かったものの、真実を知るために力を込めて歩み出した。最初に用意されていたお茶は、もう冷め切っていた。

 

 

 

 

「やっぱり、あのドロップ艦のこと、よね」

「ああ……なんでドロップ艦を沈めなくちゃいけないんだ。人間のことを恨んでるって言ってたけど、どうしてそんなことになったんだ」

 

 単刀直入に本題へ入る。自分が特別であることは二の次。まず知っておきたいのは、深雪のトラウマを抉り続ける()()()()について。

 あそこまで憎しみを込めた瞳が出来るのは、余程の理由があってのことだ。それが生まれたばかりのドロップ艦に刻まれているくらいなのだから、その罪は相当なモノ。

 

「これは、人類の罪。正確には、アタシ達はあまり関係がない()()の罪」

「先代?」

「ええ、そこから話すわね。まず、深海棲艦との戦いのことだけれど……()()()()()()()()()()()

 

 伊豆提督が語ることは、今この世界に生きる全人類が学ぶ歴史。深海棲艦との戦いの歴史である。

 

 そもそもの始まりは、今からずっと前だという。世界で初めて深海棲艦が発見されたのは、昔と言えるくらいに前。その時には、世界は未曾有の危機に瀕していたと称されるほどで、一方的な蹂躙を受けていたという。それだけ深海棲艦が凶悪な力を持っていたわけだ。

 それをひっくり返すことが出来たのが、艦娘という存在。当時はドロップ艦()()()()()、平和のために人類と艦娘は手を取り合って戦い、深海棲艦との戦いを続けていた。

 

「その時は、まだ人類と艦娘は協力関係。互いに互いを仲間だと認め、二人三脚で戦い抜いた……と、されているわ」

「されている、なんだ」

「アタシはその時生まれてもいないんだもの。教科書で読んだことを伝えることしか出来ないわ」

 

 深雪からして、伊豆提督の年齢は見てわかるわけではないのだが、ここまで言うのだから相当前ということだけは理解出来る。伊豆提督曰く、これは信憑性のある情報だと断言出来るようだった。

 ともかく、深雪にはわからないくらい昔には、人間も艦娘も仲良く出来ていたということになる。その時には、元人間の艦娘という存在はいない。

 

「そこから10年以上戦って、最終的には人類と艦娘が勝利した。深海棲艦は現れなくなり、世界に平和が訪れたの。長い長い戦いの終わり」

 

 そこまではよかった。何の不安も不満もない、人類側からしてみればハッピーエンド。協力して侵略者から世界を守ることが出来たわけだ。

 

 しかし、ここから様子がおかしくなる。

 

「ここからは、教科書には書かれていない()()()()()が始まる」

「裏側……口に出来ないくらいってことか」

「ええ。そして、()()()()()()()()

 

 そうそう公表できないような、後ろ暗いこと。人類が艦娘に恨まれるようになる罪。

 

「戦いが終わった後、人類は艦娘について調べ始めることになるの」

「なんでさ。協力して戦いを終わらせることが出来たなら」

「艦娘も深海棲艦と同じように()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 深海棲艦に唯一対抗出来る手段を持っていたのが艦娘だ。戦争を勝利で終わらせることが出来たのは、誰がどう考えても艦娘のおかげ。

 しかし、この戦争は終わったかも知れないが、また深海棲艦が現れないとは限らない。そして、その時に人類の隣に艦娘がいてくれるとも限らないのだ。今回はうまくいったが、次は深海棲艦自体が進化している可能性すらある。

 

 そこで人類は、艦娘に次なる協力を要請した。それが、()()()()()()()()()()である。

 再び深海棲艦が現れた時に、人類だけでも対抗出来るようにするために。万が一協力者がいなくても対抗出来るように。

 

「その時の艦娘達は、快く承諾したらしいわ。自分達の力の解析で脅威を回避出来るのなら喜んでって」

「……あたしもそう言われたら多分考えることもなくいいぜって答えるかもしれない」

 

 また現れた時のために対抗策を事前に用意をしておくというのは、慎重な人類としては最善の考え方。しかも勝利出来ているのだから尚更。

 人類に協力的な艦娘なら、その考え方には間違いなく納得する。自分達の力が人類の未来、平和に繋がるというのなら、いくらでも調べて構わないと思うだろう。現に深雪も話を聞いているだけで納得出来ている。

 

「艦娘がいなくても対抗が出来て、また艦娘が現れてくれたら戦争を早く終わらせることが出来るからね。人類にとって、艦娘という存在は平和に繋がる。……そう思っていたわ」

 

 体験していない伊豆提督でも、話しているうちに表情が曇っていく。

 

「でもね、世の中の人間が全員善良とは限らないの。極僅か、ほんの一握りの悪辣な人間のせいで、これが狂い始める」

「……何が、起きたんだ」

()()()()()()()()()よ」

 

 深海棲艦に立ち向かえる力というのは、()()()()()()()()()()()というのと同義である。

 本当に最初は平和を維持するためにその力を解析していただけだったのに、その力を知っていけばいくほど、とんでもないことに気付く。

 

 例えば、再生治療。艦娘は千切れた腕すら修復材があれば再生出来る。これが人間に転用出来れば、不老長寿に繋がるのではないか。

 例えば、強靭な肉体。艤装があれば見た目と離れた膂力を発揮出来る。これが人間に転用出来れば、災害復興に利用出来るのではないか。

 

 ここまでならよかった。

 

 人間と同じサイズの兵器として運用出来るのならば、他国に対して攻勢に出られるのではないか。こう考えた愚か者がいたと伊豆提督は語る。

 つまり、平和を取り戻し、維持するために人類に協力していた艦娘の力によって、新たな戦争の火種を作り出してしまったのだ。

 

「なんだよそれ……あたし達の力はそんなことのためにあるわけじゃ」

「ええ、勿論理解しているわ。アタシだって何をバカなことをとしか思えないわよ。艦娘は人類の希望なの。その思いを蔑ろにするなんて、万死に値すると思うわ」

 

 当然、その時代でも反発はあった。艦娘は人類の希望であり、平和を約束する存在。それなのに、それを使って強者になろうと考えるなど、傲慢以外の何モノでも無いと。

 

「それなのに、その考えを企てた連中は……艦娘の力を人類に転用し、その批判を力で捩じ伏せてしまったの。艦娘の協力で解析出来た艦娘の力を、私利私欲のために使ってね」

 

 深雪にはショックが大きかった。自分達が見てきた人間は、そんなことを考えるような存在ではなかった。楽しく美しく育ち、この世界を彩る守るべき存在。そう思える程のモノであると信じていた。そんなことを考える輩がいるだなんて思わなかった。

 

 しかし、伊豆提督の話はここで終わらない。

 

「その後、人間同士の小競り合いの最中──1回目から何年も経ったタイミングで、本当に2回目の深海棲艦の襲撃が起きたの。歴史的には、第二次深海戦争と呼ばれているわ」

「……準備していたのは、間違いじゃなかったんだ」

「ええ、そこだけはね。それに、その時もドロップ艦は現れてくれた。人類を救うために」

 

 その時は、ドロップ艦と人工の艦娘が混在する部隊により、新たに現れた深海棲艦を撃退する戦いが始まった。しかし、その裏側でも人類の罪は加速する。

 

「でもね、艦娘の力を解析した人間が、より強い力を得るために、とんでもないことをやらかした」

「とんでもないこと? これまででも充分すぎるくらいとんでもないことだと思うけど」

「……()()()()()()()()

 

 深雪の背筋に怖気が走った。再び現れた協力者に対してすることではない。

 

 人類は艦娘の力を解析することによって、人類だけでも深海棲艦に対抗する術を手に入れていた。だが、純粋な艦娘と比べるとどうしても劣る。

 それを補うために、()()()()()()()()()()使()()という暴挙に出たのだ。人類だけで対抗出来るようにするために、協力者を犠牲にするという残酷な行為。

 

「それによって、人工の艦娘は完全となったわ……残酷なことにね。この時に使われたのは、もう戦えないと言われていた第一次深海戦争の時に残ってくれていたドロップ艦達だと言われているわ。これだけ協力していたのに、最後の最後にその命まで搾り取られたの」

「そんなの……酷すぎるだろ」

「本当にね。アタシだって歴史を話しているだけで虫唾が走る気分よ。でも、アナタには知っておいてほしかった。あのドロップ艦を見てしまったんだもの」

 

 深雪の拳は震えていた。怒りに、恐怖に、悲しみに。時代が違えば、自分もその犠牲になっていたのかも知れない。そう思うと、あらゆる負の感情が溢れ出しそうになる。

 

「しかも、搾り取られたドロップ艦の亡骸……それをあろうことにその連中は海に投棄したの。ほんっとうに愚か」

 

 海から来た者は海に還してやるという名目で、産廃を不法投棄するかの如く海に棄てたのだという。愚かもここに極まった。

 

「その結果、()()が生まれたの」

「……呪い、か。ドロップ艦が人間に恨みを持つようにってこと、だな」

「ええ。だから、こうなったのは人類のせい。ただ、第二次深海戦争も人類側の勝利で終わることが出来た。人工艦娘に加えて、第二次のドロップ艦も協力してくれたおかげでね」

 

 とはいえ、ドロップ艦からの信用はガタ落ちし、戦いが終わったところで姿を消したという。その後にまた利用されて、自分達の命も搾り取られたら堪ったものではないと。その言い分は全面的に正しく、大部分の人類はそれを容認した。

 その後、ドロップ艦を研究し、使い潰した連中は謎の死を迎えたそうだが、それの真相を追求した者は誰もいなかったらしい。誰が考えてもオチが読めていたから。

 

「その後……また何年も経って、深海棲艦が三度目の襲撃を開始した。それが今、第三次深海戦争」

 

 今はもうドロップ艦も呪いによって敵対する。人工艦娘を増やせるようになっているために、戦いは拮抗していると言えるが、それでも第一次、第二次と比べると、格段に厳しい戦いを強いられている。過去の人間の罪のせいで、今の人間が害を被っているのだ。

 

「深海棲艦だけでなく、艦娘からも穢れが溢れるのは、この呪いのせいでもあるんじゃないかと言われているわ。だから──」

 

 悲しみに染まりながら、しかし力強く、伊豆提督は言った。

 

 

 

 

「アタシ達は、過去の人類の罪、過ちの()()()をするために、戦っているのよ」

 




人工艦娘の起源から考えると、穢れが溢れるのは至極当然かもしれません。何故なら、それは()()()()()()()だから。
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