後始末屋の特異点   作:緋寺

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苦手な存在

 交渉に向かう途中で出会ったカテゴリーY、平瀬と手小野と対話したことにより、白雲はまたこの世界のことについて知ることになった。

 憎む必要のない人間もいる。それに気付けたのは非常に大きく、元人間という経歴があっても、カテゴリーYにはもう嫌悪感を覚えることは無かった。

 

「一応先に言っておくけど、ここの艦娘に、なんで艦娘になったかってのは聞かないでやってほしい」

 

 知識を得たことで人間に対しての憎しみが薄れていることはわかっているが、聞かれたくない過去を持っている者はたくさんいる。

 簡単に済むようなことならば構わないのだが、それそのものが辛い思い出すぎて、まともに語れない者だっているはず。それこそ、睦月や子日のような戦災孤児や、妙高のような正当防衛とはいえ犯した罪を滅ぼすために戦う者など、あまり深く追求するのは控えた方がいい者は、深雪が思い浮かぶだけでもそれなりにいた。

 そこをわざわざつつくような真似はしてもらいたくない。自分も事前に忠告されたくらいなのだ。

 

「かしこまりました。お姉様がそう言うということは、余程の事情がある人間もいるということ。この白雲も鬼ではありません」

「ああ、それならいい。下等な人間には何をしてもいいなんてことを考えていないならな」

 

 過去の時雨は自分から喧嘩を売り、買われたらこれだから人間はと罵るようなことをしようとしていたが、白雲もカテゴリーMだとしてもそういうことはしてもらいたくなかった。

 流石にこんな白雲でも、そこは自重する。いや、少し前まではそのマッチポンプをしかけていたかもしれないが、人間には自分以上に不幸になっているものがいるとわかったことで、そんな気も起きなくなっている。

 

「次に会えそうな奴は純粋種だ。お前ならまだ話しやすいと思う」

「そうなのですね。でしたら、少し安心です」

 

 やはり元人間と話すのは気が引けるというのが白雲の現状。平瀬と手小野は突発的だったので仕方なかったものの、出来ることなら避けたいことではあるようだ。

 とはいえ、平瀬と手小野の実情を知ることが出来たため、人間に対する感覚は少しだけ変わっている。

 

「でもなぁ、確か白雲、潜水艦苦手だったよな」

 

 潜水艦という言葉が聞こえた瞬間、白雲の足が止まる。人間に対しては呪いによる怒りと憎しみが先立つが、潜水艦を相手にした場合はそれとは全く違う、艦だった時のトラウマが呼び起こされる。

 白雲の最期は潜水艦による雷撃。他の艦娘達でもそのような者は数多くいるが、苦手意識をここまではっきりさせることは無かった。

 しかし、この白雲に関しては深海棲艦化していることも相まって、感情があまりにも極端。恐怖の感情が嫌でも現れてしまうようである。

 

「苦手かもしれねぇけど、ここで生活するためにゃ絶対に避けては通れないとこだ。それに、潜水艦は敵じゃない。そもそも、ここで救われる時も潜水艦のおかげでどうにかなったんだ。そこはうまく割り切ってくれ」

「……ぜ、善処、いたします」

「わかるけどな、そういう苦手意識。あたしもいろいろあったから」

 

 過去、電といざこざがあったことを思い出す深雪。苦手意識は時間をかけて克服しているし、むしろ苦手なんて気持ちは完全に消え去り、今や相棒、大親友という仲である。電側からはどう想っているかはさておき。白雲も潜水艦相手の気持ちは変わると信じていた。

 しかし、その潜水艦がよりによってスキャンプ。ここ最近は多少柔らかくなっているとはいえ、まだまだ難儀な性格はそのままな問題児。そうなる理由を知っていても、口の悪さや態度の悪さがどうしても目立つ。

 

「何かあったらあたしがどうにかする。だから、まずは会って話してみりゃいい」

 

 少々行き当たりばったり感は否めないが、うみどりでの対話なんてそんなもの。そもそも明確な用事が無いのだから、会った先から話をして、親交を深めていけばいい。

 

 

 

 

 工廠。後始末作業の真っ只中であるため、そこでも慌ただしく動いているところはある。残骸を拾い集めて溜まったケースを持ってきては新しいケースを貰って再度繰り出す姿はよく見えた。

 この場で作業していない者というのはよく目立つもので、スキャンプはすぐに目についた。

 

 工廠の端、念のために艤装を装備させられ、何かのケースを椅子がわりにして、ぼんやりと外を眺めているその姿は、何処か憂いを感じるような表情。実態は、ただ普通に暇というだけなのだが、元々が美形だからか、そんな表情も様になっているように見える。緊急事態が起きた時のための待機であるため、暇であった方がいい状況。

 その視線が誰に向いているかは一目瞭然ではあるのだが、深雪達の角度からそれを窺い知ることは出来ない。

 

「白雲、アイツだ」

「……はい」

 

 見れば潜水艦とわかるため、白雲は一気に身体が強張り、身構える。あちらは艤装を装備しているが、こちらには艤装が無いため、もしこの状態で戦闘になった場合は一方的にやられるしか無い。その恐怖が、白雲を一層緊張させる。

 

「大丈夫だ。アイツは口は悪いけど中身は悪い奴じゃないから。まぁあたしは殴り合いの喧嘩をしてるけど、そのあとちゃんと話し合えてるからな」

「な、殴り合いの喧嘩を……」

「いろいろ訳ありなんだよアイツも。さっき話した通り、その訳は聞かないようにな」

 

 そう話しながら、足はスキャンプの方へ。

 

「おう、スキャンプ。暇そうだな」

「あん?」

 

 深雪に声をかけられると、ガンをつけるようにスキャンプが振り向く。その目を見た途端、白雲はどうしてとすくみ上がってしまった。

 

「そいつがあん時の深海棲艦かよ。あたい達を敵として見てんじゃねぇだろうな」

「安心しろ。あたしの妹の白雲だ。ナリはこうなっちまってるけど、ちゃんと艦娘の心も持ってる」

「どうだか」

 

 深雪の言っていた通り、非常に口が悪い。しかし、白雲をジロジロと眺める視線は、敵対というわけではなく、警戒。

 敵対するならば無防備な白雲に即座に襲いかかってきてもおかしくない。ただでさえ、スキャンプだけは艤装を装備しているのだから、手を出さない理由はないのだ。

 

「んだぁ? ビビってんのか?」

「白雲は潜水艦が苦手なんだよ。あんまり脅かしてやんな」

「ほーん、そんな奴もいるんだな」

 

 よっと立ち上がったかと思いきや、白雲に詰め寄る。急にそんなことをされれば、白雲もビクッと震えて硬直してしまう。身長も似たようなものであるため、真正面に立てば嫌でも目線が同じ高さに。

 

「で、あたいに何か用があんのか」

「別にこれといって用は無ぇよ。ただ、白雲がうみどりに馴染みやすいように、いろんな奴と話せたらいいなと思ってな」

「世間話をしに来たのかよ」

 

 悪態をつくものの、本心から嫌がっているようには見えない。そういうところからも、中身がそこまで悪くはないと何となくわかる。だとしても、白雲にとっては気が気でない相手。

 

 駆逐艦白雲の最期は、敵国の潜水艦による雷撃。その敵国というのが、潜水艦スキャンプが属していた国である。

 それも相まって、白雲から見たスキャンプはそれと同じに見えてしまい、余計に緊張に繋がっていた。

 

「夕立は?」

「部屋で寝てんじゃねぇのか? 見てねぇのかよ」

「今のところはな。食堂からここに来ただけだから」

「アイツ、後始末にはほとんど興味持ってねぇからな。自由にフラフラ歩き回ってんだろ」

 

 そんなスキャンプと世間話が出来ている深雪を、白雲は尊敬し直す。自分の恐怖するモノに対して果敢にも攻め、対等かそれ以上に付き合えるその胆力が、恐ろしくも神々しく見えた。

 

「で、いろんな奴と話しに来たって割には、黙り込んでるじゃねぇか」

 

 しかし、また白雲に矛先が向いた瞬間、白雲はビクッと震える。

 

「苦手なもん克服するには時間がかかるもんだろ。お前にだって苦手なもんくらいあるんじゃねぇのか?」

「あたいに苦手なもんなんてねぇ」

「あれ、そんなことないにゃしぃ」

 

 そんなことを話している矢先、たまたま工廠に上がり、大発を装備し直していた睦月が口を挟んできた。スキャンプが救護隊見習いということもあり、睦月との交流は済んでいる。そのせいか、深雪と同じかそれ以上に突っ込んでくる。

 その隣には同じ大発装備である梅も。こちらは救護班というわけではないが、読書家ということであらゆる知識に精通しており、スキャンプの苦手なモノも知っているようである。

 

 白雲はむしろ、ここに人間が加わったことでより身体が強張った。呪いによる憎しみが心の中で増幅する。

 だが、それを見越したか、深雪がその手を握った。ただそれだけで、増え続ける憎しみが少しは落ち着くように思える。

 

「睦月知ってるよ。スキャンプちゃんの苦手なモノはぁ」

「おいムツキ、黙ってろ!」

「なら梅からお伝えしましょう。スキャンプさんの苦手なモノは海b」

「黙ってろっつってんだろコラぁ!」

 

 ここまで必死に隠そうとするということは、余程苦手ということ。殴りかかろうとするものの、睦月と梅はその攻撃をひょいひょいと回避。当然ながら、この2人だって鍛え上げられているのだ。前線に出ないような立ち位置であっても、回避性能は充分すぎるほどある。ちゃんと艤装を装備しているのだから尚更だ。

 

「おいおいスキャンプ、自分にも苦手なもんあるなら、今の白雲の気持ちもわかるだろ」

「そうにゃし。スキャンプちゃんだって()()()を目の前にしたら、同じようになるぞよ?」

「でも、第二次の頃から今まで生きているわけですし、この長い年月で克服しているかもしれないですねぇ」

 

 好き勝手言う3人にスキャンプはギリギリと歯軋り。弱みを握られているようなもののため、顔も赤くなってしまっている。

 しかし、本気でイラついているわけではなく、これも戯れあいみたいなもの。スキャンプは弄られるのはあまり好きでは無さそうではあるが、本気で腹を立てているなら、ここで魚雷も持ち出しているだろう。あくまでも()()()()()()()の拳で済ませている辺り、こういう交流も無くはないと思っている証拠。艤装を装備していない深雪に攻撃もしていない辺り、自重も出来ている。

 

「白雲、スキャンプはこういう奴だ。潜水艦かもしれないけど、素直でいい奴だから仲良くしてやってくれ」

「い、いい奴……なのでしょうか」

「ああ、心配すんな。お前を攻撃することもない。ましてや沈めようなんて絶対考えない。何しろ、今のスキャンプは救護班だ。万が一お前が傷付いても、スキャンプが救ってくれる。潜水艦はな、もしあたし達が沈みそうになっても、それを引き揚げてくれる頼りになる存在だからな」

 

 深雪にそう言われ、スキャンプに視線を向ける白雲。確かに、こうやって面と向かっていても人間より嫌な感覚はしない。ここまでの行ないを見ることが出来たおかげか、恐怖はかなり薄れていた。

 スキャンプもなんだかんだ同じ艦娘。同じように生き、同じようにこの空気を楽しんでいる。だから、怖がる必要なんて何処にもなかった。元は敵国だったとしても、今は手を取り合える仲間。

 

「……少し、苦手意識が薄れたようです。お姉様、ありがとう存じます」

「礼を言われるようなことはしてねぇよ」

 

 ニカッと笑う深雪に、白雲はまた一つ、心の傷が埋まったような感覚を得た。潜水艦への苦手意識も、これによって少しは改善されたようである。

 

「おらっ、さっさと後始末行ってこい! 怪我しても助けてやんねぇぞ!」

「きゃーっ、梅ちゃん、行くにゃし」

「はい、それではまた!」

 

 そんな戯れも終わり、スキャンプは大きなため息を吐いた。

 

「アイツら、あたいをオモチャか何かと勘違いしてないか」

「大切な仲間だと思ってるだろ。勿論、あたしもだ」

「だったら遊んでんじゃねぇ」

 

 舌打ちするスキャンプだが、そこまで悪い気分になっていないのも見て取れる。潜水艦での生活と比べると、ここでの生活は充実しているといえるのかもしれない。

 

 

 

 

 白雲はまた一歩前に進むことが出来ている。順調に、うみどりの一員としての道を歩めている。

 




スキャンプの苦手なモノといえば、お馴染み第四号海防艦。ここでも例外なくそれが苦手です。でも、うみどりには海防艦がいないので、スキャンプとしては安住の地になりかけている。
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