全員朝食終了の段階で、その場で伊豆提督が本日の予定を発表する。概ね全員が理解しているが、ちゃんとここで言っておくことは通例。
「夜までの後始末、ご苦労様。今も清浄化率100%を維持出来ているわ。あとは今日丸一日をここで待機して、維持が出来ていれば完了となるわね」
いつも通りの流れ。清浄化率の維持を確認することが出来れば、次の現場に向かえることになる。
次の現場は既に依頼が来ており、そちらは今度は今のところ小規模。場所もそう遠くない。そのため、待機終了の深夜から次の行動を起こし、到着が明日の昼と言ったところになるようだ。
「ただ、今日の昼から少し慌ただしくなるわ。この現場に来てもらうことになるのだけれど、丹陽ちゃんと連絡を取って、久しぶりに会うことになったの」
この言葉に反応するのは、当然ながらそこが本来の居場所である問題児3人。
「来てもらうのは、これからのことを相談するため。大本営とも話が出来るように、手筈は整えておく。アタシ達が白雲ちゃんから手に入れた情報を展開して、元凶を叩くために動き出すわ」
軍港都市で直接対決してからこれまで、その手の者が何度かちょっかいをかけてきてはいるものの、音沙汰無しと言える状況が続いてきた。
だが、白雲から得られた情報──カテゴリーMを深海棲艦に改造するような技術を持つ島の存在を知ったならば、そこに出洲とその仲間達がいると考えるのが普通。それを調査しなくてはならないのだから、動ける者全てが動く。
ここで動きやすいというか、積年の恨みもあるために動いてくれるであろう組織が、カテゴリーBの集まった潜水艦の秘密組織。30年分の知識の蓄積によって、元凶がいるであろう島を調査してもらいたい。しかし、常に海中にいる潜水艦が、島の中の様子まで知ることは無い。そこを調査するのに適しているのが、昼目提督率いる調査隊である。
調査隊と秘密組織、この2つの部隊が協力して動けるように、うみどりが間を取り持って行こうという算段である。
「まずは潜水艦の方から話がしたい。そう思って、すぐに動かせてもらったの。丹陽ちゃんからの反応は上々とは言い難いけれど、少なくとも呼びかけには応じてくれたわ。そこと合流するのが、今日のお昼というわけ」
潜水艦は、今でもうみどりの近くを潜航してくれている。呼べば浮上をしてくれる手筈ではあるのだが、今回は今後の話をしたいということに加えて、うみどり以外の人間との交流と協力が必要不可欠となるため、丹陽も何も考えずにOKとは言えなかったようだ。丹陽が良くても、属しているカテゴリーBがそう簡単に受け入れられるものではない。
しかし、丹陽的にはこの合流は是非ともと思えるものでもある。長年追い続けていた元凶の手がかりがついに見つかったのだ。それを持っているのが人間だとしても、縋りつきたいような内容でもある。
そのため、すぐではなく昼と言ったのは、属しているカテゴリーB達を説得するため。全員を納得させることは出来ないかもしれないが、ネックになりそうな問題児達がうみどり側にいるというのもあって、説得も難航はしなそうである。
「流石にこちらに来てもらうというのは難しいと思うから、またこちらから誰かに行ってもらうことになると思うわ。そうなると……」
「あたし達、だよな。顔合わせてるし」
本当は全員で顔を合わせて話がしたいところではあるのだが、丹陽を潜水艦から外に出すのは推奨されない。そのため、誰かがまたあちらに行くことになる。
最も適しているのは、丹陽と面と向かって話している深雪。そうでなくても、あちらは純粋種しか受け入れないため、選択肢がかなり絞られているのは間違いない。
「説得するならあたしもするよー?」
そこにグレカーレも加わった。問題児の中でも特にうみどりに寄った考えが出来るようになっているのはグレカーレだ。スキャンプはまだ問題児が抜け切れていないし、夕立は自由人すぎて説明とかは正しく出来なそう。そうなると、必然的にグレカーレが適任となる。
とはいえ、そのグレカーレもおおわしに対してはまだ警戒を隠していない。あくまでも潜水艦の丹陽に対して話をするというだけ。それなら深雪だけでも出来るかもしれないのだが、問題児がうみどりでここまで更生したというのを見せるのも、人間が信用出来る要因になるのではとも考えられる。
「それじゃあ、お願いしていいかしら」
「はいはーい」
深雪に対してよろしくと手をヒラヒラ振るものの、一瞬色目を使ったように見えた。深雪はそんなことに気付かずによろしくなとサムズアップするくらい。グレカーレは少し残念そうに、しかしそれこそが深雪だと逆に奮起して、笑顔を見せる。
「それじゃあ、その時になるまで自由にしていてちょうだい。今日いっぱいはここから動かないわ」
ある程度の説明が終わったため、ここで解散。各々好きなように1日を過ごすことになる。
と、そこで口を挟む者がいた。伊豆提督にでは無いが、白雲が少し首を傾げながら深雪に質問をする。
「あの、お姉様、白雲にはあまり理解が出来なかったのですが、ご説明していただいてもよろしいでしょうか。潜水艦という聞き捨てならない言葉も聞こえたのですが」
トントン拍子に話が進んでいくために、これまでのうみどりを殆ど知らない白雲にはさっぱりわからないところが多い。特に、これまで殆ど話題にも上がらなかった潜水艦の話が出てきたことで、白雲は不安に駆られていた。
「私モ知ラナイ言葉ガ多カッタワネ。チョット説明シテモラッテモイイカシラ」
白雲と同様に、セレスも秘密組織の話は知らない。つい最近仲間に加わった者はこの2人。問題児達がうみどりにいる理由をちゃんと聞いていないというのもあるため、今の話が何故そういう方向に向かったのかが理解出来ていない。
さらりと話してしまった伊豆提督はごめんなさいとすぐさま2人に詳細を話す。白雲は人間からの話であるため少し嫌そうにしたものの、伊豆提督は人間の中でも少しは認められる存在であるため、深雪の近くならば比較的落ち着いて聞くことが出来た。セレスは言わずもがな。
「フゥン、ジャア手土産デモ作ッテオクワ。アチラノボストヤラモ、美味シイモノヲ食ベレバ気分ガ良クナルデショ」
過去や今など関係なく、会いに行くなら土産があるといいと、すぐにキッチンへと入る。相変わらず、食の探求者は全てが食で動いている。自分で食べるだけでなく、他者に振る舞うことでも幸せを感じているのだから、その性質は善良そのものだ。
手土産が深海棲艦が作ったものなのだと言われた時、丹陽はどういう顔をするのだろうか。
「……お姉様が行くのならば、白雲も是非お供させていただきたく」
潜水艦という言葉に怯えながらも、深雪が一時的にでも出向するというのなら、自分も一緒にと言い出す白雲。その性質上、そういうことを言い出すのは予想が出来る。深雪も内心そう言われるのでは無いかと思っていた。
しかし、白雲には大きすぎるデメリットがある。それが、その外見である。いくら元艦娘とはいえ、深海棲艦を中に入れることを良しとするかはわからない。
「あたしとしては、連れていきたいとは思う。ただ、それで一悶着起きる可能性があることも考えといた方がいい」
深雪から言えるのはそれくらい。うみどりの面々は、自分達の生活する空間に深海棲艦がいることに慣れているが、潜水艦の者達が慣れているわけがない。むしろ、姿を見た瞬間に攻撃をしてくる可能性だって高いくらいだ。問題児3人がカテゴリーYを見た時にも、すかさず攻撃を繰り出そうとした程なので、その可能性は相当高めだと言ってもいい。
勿論、深雪は白雲を守るつもりだ。だが、問題があるとしたら、白雲が本能のままに反撃をしてしまわないかというところ。あちらに行くには艤装を装備する必要があり、武器を持たないで行くにしても、パワーアシストによる膂力で暴れたら、周囲がタダでは済まなくなる。
「白雲、あたしが守ってやるつもりだけど、何があっても冷静に、落ち着いて、
うみどりではいくら暴れても仲間意識が失われることがないため、好き勝手することも出来た。悪態をつこうが誰も反感を持たないし、むしろそれでも白雲がそうなってしまった理由の一部が人間の罪であるために、何を言われようとも
だが、潜水艦の面々は白雲と同様の被害者。長い年月で激しく拗らせている者もいるが、基本的には白雲にどうこう言われる筋合いがない者達ばかりである。そこに深海棲艦化した姿を見せたら、間違いなく攻撃的になるだろう。事情を知れば同情されるだろうが、それを説明する前に白雲が攻撃してしまったら台無しになる。
「我慢出来るか。というか、我慢しろ。何を言われても、何も言い返すな。それが余程理不尽だったら、あたしやグレカーレが文句を言う。いざという時は、相手がお前であっても張っ倒すからな」
それだけ念を押す相手ということで、白雲は一気に緊張感に包まれる。そのせいで、素直に首を縦に振ることが出来なかった。本能的に考えても、深雪の迷惑にかかるかどうかで考えれば、自分を抑えられるかがわからない。
「考える時間はまだある。まずは考えてくれ」
「……かしこまりました」
難しい話かもしれないが、今はこれしか言えない。今日は深雪だけでなく、電や時雨も相談に乗れるため、短い時間の間にいろいろと考えることが出来るだろう。
むしろ、カテゴリーCにも相談出来る相手が何人もいるため、交流と同時に悩みを打ち明けることだって出来るはずだ。
「ごめんなさいね。アタシとしても、白雲ちゃんにはもっと自由にやりたいことをしてもらいたいと思っているの。でも、どうしてもルールに縛り付けなくちゃいけなくなる時が来てしまうの。我慢を強いるのは本当に申し訳ないんだけれど」
こういったところにも思いやりを感じる。白雲も伊豆提督に対して少しは考え方が変わっているため、ここまで言われたら応じるしかない。悪態をつくことはなく、ぐっと力んだように我慢した。ここで我慢が出来るというだけでも大きな進歩である。
「まずはタシュケントちゃんにこちらに来てもらって、いろいろ話した後に向こうに向かってもらえるようにしましょ」
「それにぃ、そういう時はあたしの出番だよね。あっちの連中なら割と言い負かせると思うから」
ニッコニコのグレカーレ。意地の悪い笑みにも見えるため若干不安があるものの、潜水艦が庭であるグレカーレなら、頼らざるを得なくなることにもなるだろう。
「それじゃあ改めて、よろしくお願いね。嫌な思いをしなくてもいいように、こちらでも最善を尽くすから」
潜水艦への出向は昼。それまでに白雲は考えを纏めなくてはならない。深雪は基本的には傍に立ち続けるが、最終的な判断は白雲に任せるしかなくなる。最善の答えを手に入れられるかどうかは、全て白雲に委ねられた。
グレカーレなら丹陽以外は全員手玉に取る気がする。