タシュケントと合流し、その足で潜水艦へと向かった深雪一行。白雲の艤装が調整されており、周囲を凍り付かせることが無くなっていることに安心しつつ、ついに潜水艦の入り口にまでやってきた。
「同志ミユキ達は入り方を知ってるからいいね」
「ああ。今回も閉じられるのか?」
「安全のことを考えれば閉じるべきだとは思うけど、今回は閉じないよ。君達が信用出来る相手であることは、あたし達も理解出来てるからね」
前回は強い警戒の中で呼び込まれたため、相手の逃げ道を無くすためにも門を閉じられた。解決するまでは開けられることもなく、全て終わらせたことで丹陽が指示を出して帰り道を作ってもらえた。
だが今回は前回とは違い、中に入っても閉じ込められるということはないらしい。うみどりへの最大の信頼をカタチにした結果がコレである。それも全て、丹陽の指示。
「じゃあ、まずはあたしが行こっかなー」
「頼むよ。あたしとしても、グレカーレが来てくれてるのは、割とありがたいんだ」
タシュケントとしても、グレカーレの話術というか、人を
これまでは人をハメることに使ったりしていたため、問題児として認識されていたが、それがさっぱりしたことで新たな一面が見られるようになるのではなかろうか。
「ミユキもイナヅマも、期待して待っててね」
「ああ、頼んだぜ」
「よろしくなのですー!」
閉じない門を通過したところで、グレカーレが一旦止めた。そのまま全員で向かってしまっては、最初の計画の意味が無くなってしまう。白雲を目にしても動揺しないように事前に細かめに説明をして、そこから満を持してご本人登場と行きたい。
カテゴリーB達の気持ちを落ち着かせるためにも、セレスから預かっている手土産、大量のクッキーを運ぶため、グレカーレは時雨に手伝ってと手招き。今そもそも大量のクッキーを持っているのは時雨だったりするので、下ろすことなくそのままついてこいということ。
「まぁ僕もここの連中とは顔合わせしているし、安心させることは出来るんじゃないかな。じゃあ行ってくるよ」
「おかしなことを言って、話の腰を折るんじゃねぇぞ」
「流石に今回は余計なことは言わないでおくよ。僕が最も憎い相手……あの出洲とやらを追い詰めるためには、ここで協力を仰がなくちゃいけないしね」
今回に関しては、時雨も事の重大さを正しく受け止めている。冷やかしもおちょくりも、今は必要ない。なるべく多くの協力者を募り、出洲の狂った平和を阻止しなくてはならない。
前回は
「あちらの態度次第では手が出るかもしれないけど」
「やめろよ。これ、フリじゃねぇからな」
「はは、善処しよう」
手を振りながらタシュケントとグレカーレの後ろをついていくように工廠へと向かう時雨に、一抹の不安を覚えながらも、やるときはやる奴だから信用しようと小さく頷いた。
潜水艦の工廠の中は、うみどりの工廠とほとんど同じように造られている。このデザインが移動鎮守府共通のものなのかもしれない。
そこにいる者達は、丹陽から事前に聞いているため、艤装の近くにはいるが、兵装までは接続していないし手に持っていたりもしなかった。
そんなカテゴリーB達、戻ってきたタシュケントはさておき、その後ろからやってくるグレカーレの姿を見た瞬間、少々身体が強張るものもいた。
「あーあー、みんなやっぱり疲れた顔してんねぇ。そんな荒んだアンタ達に、差し入れを持ってきたから、みんなで食べなー」
そう言いながら、時雨がうみどりから持ってきたクッキーを取りに来るように促した。
セレスが作ったそれは、わざわざ個人個人に渡せるように個別に包装されており、数も綺麗に分配されている。差もつけず、全員が同じ分。
だが、これを深海棲艦が作ったクッキーであるということを
「ボスはいつもの部屋だけど、今回は自分から出向きたいと言っていたんだ。あたしが戻ってきてるのは見えてると思うから、そろそろ自分から……ああ、来た来た」
クッキーを配っているうちに、丹陽が奥の部屋から向かってくるのが見える。グレカーレが久しぶりと手を振ると、丹陽も返すように手を上げた。
「おや、深雪さん達は」
「訳あって少し後に来るよ。今はここの入り口の近くで待機してる」
タシュケントの説明に、そうですかと端的に答えた。
「んー、まぁ先にあたし達が来たのは、うみどりのことをちゃんと知ってから深雪達にあった方がいいからってところがあるんだよね」
軽いノリで一歩前に進み出るグレカーレ。潜水艦から出て行った時から考えると、丹陽もタシュケントと同様に少し変わったかと思えた。実際、心内が大きく変化しているのはグレカーレにも自覚があるレベル。
「ボスもクッキー、食べる?」
「それじゃあ、いただきます。せっかくの手土産ですし、拒むのは違いますしね」
包装を1つ受け取ると、他の仲間達と同じようにその場で開けて1つ摘む。こういったモノを食べるのが久しぶりだったか、ほんのりと甘いその味に、目を大きく開き喜んでいた。本当に美味しいとにこやかに微笑んで。
隣の明石も同じように貰い、1つ2つと頬張っていく。こちらも気に入ったようだ。
「うん、みんなに行き渡ったし、みんなちゃんと食べたね。不味いなんてこと、誰も言ってないね」
食べた者全てが、そのクッキーに対して美味しいという感想しか無かった。こういった嗜好品が無いとは言わないが、どれを取ってみても、こちらの方が美味しいと言えるほどの一品。数人は、また食べたいと言うほど。
グレカーレはそんな感想を聞いてそうかそうかとにこやかに頷く。真相を知るからこそ、その感想は面白い。
「じゃあ、なんであたし達が先に来たかっていうのを話すね。うみどりが結構大変なことになってるんだけど、それは何処まで見てた?」
「そうですね……近くにいた時もあるので、元凶の使者とも言えるような者と戦っていたというのは知っています」
丹陽としても、なるべくうみどりの状況は知ろうとしてはいた。とはいえ、ここは潜水艦。以前のように何度も何度もタシュケントを観測者として海上に送り出すようなこともせず、緊急事態が起きた時のために付かず離れずのポジションをキープし続けている。
そのため、大まかなことくらいしか知らない。当然、うみどり内部で起きていたことなんて知る由もない。
「その戦いでさ、1人のCategoria-M……あー、艦娘と深海棲艦がごっちゃになってる子を救出したのね。第三世代がそれらしくて、頭ん中に深海棲艦の思想が混ざっちゃってる感じ」
「人類に憎しみを持った純粋種のことですね」
「わかると思うけど、僕がその1人だ。今はその呪いもある程度は緩和されているけど」
呪いの話も多少は伝えておく。そうしておいた方が後のことが話しやすい。
「で、その子が元凶に捕まってたってことがわかってんの。本人の口から聞いてる。だから間違いない」
「なら、私達が追っている者の居場所がわかった、ということですか」
「そゆこと。でも、そこがちゃんとわかんないんだよ。島ってことしかわからないんだよね」
なるほど、と丹陽が顎に手を当てる。長年生きているだけあって、コレだけでも次にしなくてはならないことを察することが出来たようだ。
何処かわからないけど、島が拠点であると言われれば、潜水艦という探査に向いている組織が秘密裏に調べ上げるというのが妥当。特にこの海域で長年動き回っていた秘密組織ならば、僅かな違いにも気付ける可能性があるだろう。
しかし、島となると話は変わる。海中から陸の上が見えるわけがない。島を見つけるたびにいちいち浮上することも出来ない。
「もしかして、海上の部隊と連携して探せってことですか」
言いたいことを全て先に察する丹陽。流石とグレカーレは感心する。
「詳しいことはミユキに話してもらうから、とりあえずそこは一旦置いておいてね。これも重要なことだけど、ミユキ達が後から来る理由とは殆ど関係ないから」
「その元凶に捕まっていた艦娘というのが関係しているんですか?」
「相変わらず察しが早いねぇ。フーミィが気に入りそう」
「お婆ちゃんの年の功ですよ。酸いも甘いも知っているつもりですから」
丹陽はいろいろわかったようだが、他の者、例えば近くにいる明石はまだ見当がついていない。タシュケントはさっきまでの自分はこんな感じだったのかなと苦笑していた。
「見ればわかると思うけど、その子、シラクモっていうミユキの妹なんだけど、元凶に改造されてた。しかも、深海棲艦に」
「し、深海棲艦に改造されたぁ!?」
大きく驚いたのが明石である。自分達が戦っていた第二次深海戦争の最中でも、人間達がそこまで大それたことはやっていなかった。純粋種の艦娘から命を搾り取り、それを使って人間を艦娘に変えることくらいしかしていなかった。
しかし、今の人間はそれだけでは留まらず、深海棲艦からも命を搾り取り、あろうことが艦娘にそれを使うということまでしでかしていた。
「それだけじゃないよ。深海棲艦の見た目をしてる人間もいるし、多分人工的に深海棲艦が造れるようにもなってるね。何てったって今、うみどりには純粋な深海棲艦すらいるんだよ。ちなみにみんなが食べたクッキー、その深海棲艦が丹精込めて作った自慢の逸品」
この言葉で工廠は騒然。あまりのことで言葉を失う者もちらほら。
「それを先に話したということは、つまり今深雪さん達は」
「ホント察しがいいよね。そのシラクモも連れてきてんの。見てもらった方が早いでしょ。ミユキーっ! もういいよーっ!」
大声で叫んで深雪を呼ぶグレカーレ。それがしっかり聞こえたようで、深雪と電が白雲の手を握った状態で工廠に現れた。
騒然としていた工廠の空気が凍り付いたかのような雰囲気に。流石に深海棲艦そのものがこの場に現れたらこんな空気にもなる。
しかし、事前に聞かせていただけあって、いきなり攻撃しようとする者はおらず、その姿をいろいろな感情で見つめることしか出来ていなかった。明石もキョトンとしている程。
「おう、丹陽。久しぶりだな」
「お久しぶりです、深雪さん。そちらが妹さんですか」
「ああ。元凶のせいでこんな姿に変えられちまった。でも、違うのは見た目だけで、誰が何と言おうとあたしの妹だぜ」
ニカッと笑って話す深雪に、丹陽は納得して白雲の方を見る。白雲はビクッと震えるものの、相手が純粋種であるため、憎しみは湧いてこなかった。
「初めまして、白雲さん。私は丹陽、この潜水艦を一応取り纏めているお婆ちゃんです」
「……白雲と申します。よろしくお願い申し上げ奉ります」
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます。気を楽にしてください。私達は貴女を歓迎します」
丹陽がそういうのならば従うしかない。空気は緊張感に包まれているものの、白雲に対してまともに敵意を露わにするような者は、今のところいなかった。
第一歩は想定通りに進んでくれている。白雲へのストレスも、そこまで大きくはなかった。
丹陽は事あるごとに自分のことをお婆ちゃんと言うけど、見た目は普通に当時のままなので、物凄く皮肉にも見える。