二度目の潜水艦での対話。以前よりも若干穏やかになっているように思える艦内で、グレカーレから始まったうみどりへの理解の話は次の段階へ。
深雪と共に全員の前に現れた白雲の姿に多種多様な反応を見せたものの、総じて敵意は見えていない。
丹陽が白雲に対して好意的な態度で接したこと。対する白雲も、いつもと同じような丁寧な物言いで返したこと。その2つがうまく重なったことで、白雲への印象は外見よりも内面、ボスに対して敬意を払っている者としての認識が強くなっている。
「グレカーレからは何処まで聞いたよ」
「私達が長年探し続けていた元凶が、今は島にいる、ということと、うみどりには深海棲艦の姿をした者や、深海棲艦
「はは、あのクッキー美味かったろ」
深雪はその件について笑いながら説明をした。セレスという存在も元凶に繋がること。
あちらのカテゴリーYが思い通りに操る傀儡として生まれた戦艦棲姫がセレスなのだから、あちらは深海棲艦そのものを造り出せるのではという疑惑が出ているくらいなのだ。
「深海棲艦を建造出来る、というのは、私達は流石に知りませんし、そこまでやっていると想像していませんでした。30年も使って、わかっていることが少なすぎるというのはありますね」
「それだけアイツらが隠れるのが上手かったんだろ。あの軍港都市にも長いこと潜伏してたくらいだしな」
調査をしていたわけではないとしても、軍港都市の施設が全く発見されなかったくらいに馴染んでいたことを考えると、島という大規模な施設であっても隠し通せるだけの力があるということ。
そもそもあちらから行動をしない限りは気付かない。そして、そこで何かをされた者達は表に出されないし、出されたとしても全くわからないカタチで潜むことが出来ている。
「でも、深雪さん……特異点の登場で、その潜伏にボロが出始めた。30年隠し通せたものが、途端に暴かれ始めました」
「あちらが深雪ちゃんを邪魔者だと思っているから、変に行動を起こしているのです」
「ですね。でも、行動を起こすきっかけを作ったのは間違いなく深雪さんです。深雪さんがいなければ、こうはならなかった」
丹陽としては、ここまでの全ての現象は全て、深雪が現れたから起きていることだと言い切れるくらいに状況が動いている。自分達の30年を、僅かな時間で覆したのだ。
とはいえ、潜水艦の面々はあまりにも拗らせすぎているので、第二次の時ほど視野が広くないし行動力もなくなっている。そのせいで、本来なら見つけられたものが見つけられなかった可能性はある。
丹陽はそこまで口に出した。周りの仲間達にとってはあまりにも突き刺さる言葉ではあったものの、今はある程度穏やかになっているからこそ丹陽は事実として全員に知らせている。
それに対して周りの者は、タシュケントも含めて何も言えない。拗らせたのは人間の行ないのせいではあるが、長引かせたのは自分達のせいと自覚しているからである。勿論、それは丹陽も。
「私としては、深雪さんの今から話すことを真摯に受け止めて、出来る限り協力したいと思います。これまで時間を使っているにもかかわらず、何も成果をあげられていない私達の、せめてもの罪滅ぼしです」
流石にここまで言い出したら丹陽に対して文句を言おうとする者も少なからず出てくる。何故そこまで協力しなければならない、下手に出なければならないのだと。
だが、今は諦めていた頃の丹陽ではない。自分をボスと持ち上げているのだから、文句を言われる筋合いなんてない。
そして、その意志を汲み取るかのようにグレカーレが発言。
「あたしも協力した方がいいと思うなー。自分達がさんざん人間が悪いだ自分達は被害者だって思ってても、全部やってもらってはいおしまいはちょっと都合良すぎない? しかも、礼すら言わずにやって当然だって思ってんでしょ。それは違うと思うなぁ」
こういう時こそグレカーレの真骨頂。問題児と呼ばれていた自分の立場を利用して、憎まれ口を叩いても違和感を無くす。そのくせ、その言葉は本質を捉えているため言い返せない。
「あたしは人間をちょっとの間だけど見てきたから言えるけどさ、少なくともあたしが知ったあの人達は、そんな捨てたもんじゃないよ。信頼に値する。それに……あの人はあたしの姉さんの魂を解放してくれたんだ。恩義だって感じてる」
その時の戦闘のことを話すグレカーレ。丹陽は表情1つ変えなかったが、他の者達はいろいろと思うところがあったか、文句を言う口も閉ざして聞き入っていた。
グレカーレのように、実の姉妹が犠牲になった者もいる。夕立のように自分自身が犠牲になりかけた者もいる。
そこで搾り取られた命を使われた深海棲艦を建造し、その力を扱う人間という醜悪な存在を知ることが出来た。そして、それに対して本気で怒りを見せた人間がいたことも伝えられた。
「艦娘にも千差万別いるのと同様に、人間にも千差万別いるのは当然のこと。私達は、それすらも見失っていたんですよ。善人も悪人も一緒くたにして、過去すらも見ないフリをして。でも、もうそれも終わりにしましょう。私達は、目的のためと言いながら、ダラダラと他人に任せ切っていたと自覚しましょうか」
丹陽も、それを自分自身の罪としている。もっと強く言えたら、ここまで拗らせなかったはず、それに潜水艦ではなくもっと別の場所を拠点と出来たなら、ここまで酷いことにはならなかったはず。そんなことを思い、丹陽はここにいる全員に頭を下げた。
「私をまだボスと呼ぶのなら、この私のやり方についてきてください。今からでも遅くはありません。今までのやり方を一度捨てて、人間と協力して元凶を追い詰めませんか」
これだけしても、長い時間の拗らせは簡単には戻らない。丹陽自身もその一部分になっているのだから、納得出来る者も出来ない者もいる。
だからこそ、こういう時に口を出すのが深雪だ。何のためにここに来たか問われれば、ここにいる全員を説得するためなのだから。
「お前達から言わせてみれば、あたしなんてガキに毛が生えたような奴だろうから、何か言われたら気に食わなくなるのもわかる。だけどな、これだけは言わせてほしい。憎しみを向ける相手くらい、自分の力でちゃんと見極めやがれ」
怒りはない、しかし、叱るかのように、心の底から訴えかける。
「グレカーレも、今あたし達の艦に残ってるスキャンプと夕立も、みんなわかってくれたぞ。本当に憎む相手は、こういうことをする元凶だ。他の人間はその尻拭いだってしてるし、そもそもお前達の境遇を悲しんで、なるべく迷惑をかけないようにと必死に動いてる。そういう人間と、元凶の連中を一緒くたにされたら、こっちは堪ったもんじゃねぇ」
その言葉を聞いて、丹陽は小さく頷いた。全く以てその通りだと。
「グレカーレ、お前はわかってるもんな」
「勿論。あたしの恩人である神風と、姉さんの力を悪用したあの人間が、同じなわけがないからね」
「そういうことだ。納得出来ねぇって奴もいるだろうが、納得してくれ」
実際に見た者と、話しか聞いていない者の理解度は、あまりにも違うモノ。だとしても、ここは今は黙ってついてきてほしいというのが深雪の本音である。
それでも見ていないのだから納得出来ないというのがここの艦娘達であろう。だから、ここで切り札を出すことにする。これは伊豆提督からも許可を貰っていること。むしろ、伊豆提督からこうした方がいいと話されたくらいなので、
「お前達が問題児っつってた3人が、うみどりに来ただけでここまで理解してくれたんだ。だから、他の奴らもうみどりに来りゃ何か違うモノが見えると思う。だから、定期的に何人かうみどりに来てくれ。1日だけでもいい。うみどりで癒される時間があれば、心のゆとりが出来るはずだ」
あのスキャンプがうみどりで普通に生活出来ているという事実が、カテゴリーB達としては驚きが隠せないらしい。しかも、それが救護班に仮加入しているというのはさらに驚きである。戦闘狂と言える夕立が、戦いもせずに楽しんでいるというのもなかなかに考えられない事実らしい。
それもあって、うみどりには変に興味が湧いてくる。うみどりの人間がそこまで信用出来る存在なのか。
「1回3人くらいなら受け入れられる。こちらが後始末をした後の1日待機の時に入れ替えるとかでもいい。まずは見ろ。本当にそれだけでいい。ハルカちゃんは潜水母艦がどうとか言ってたけど、お前達の
これだけ言われても、それくらいやって当然と思う者は僅かにいるようなので、そういう者を優先的にうみどりに来させる方向で行く。
「私も行ってみたいくらいなんですが、大丈夫ですか?」
「ボスがここを離れていいのか?」
「それ以前の問題です。艤装を装備することが身体に負担がかかるのに、どうやってここから出ていくつもりですか」
丹陽はうみどりに興味津々のようだが、明石がそれを止める。
「今はそれは一旦置いておいてくれ。で、だ。こちらとしては次が本題だ。丹陽はもうわかってるみたいだけど、元凶を探るために、力を合わせて調査がしたい」
「海上の部隊と、ということですよね。それは貴女達の部隊とは違うモノということですよね」
「ああ、調査隊だ。タシュケント、お前、調査隊に追われたことがあるだろ。あの人達だ」
あの時の記憶が蘇ったか、タシュケントが明確に顔を顰めた。
以前、後始末現場を襲撃される前に、タシュケントをおおわしが追いかけるという事件があった。
あの時はタシュケントは拗らせている状態。人間からそんなことをされたら、
「ぶっちゃけ、あの人はちょっと人相と話し方で損してる部分が多いんだけど、めちゃくちゃいい人なんだ。うちの司令官の後輩でな、会って話せば人間性がわかる。だから、その調査隊と一度会ってもらいたいんだよ」
丹陽は二つ返事でOKと言いそうなのだが、他の者達の反発が割と強めである。うみどりは多少信頼出来るものの、ここにおらず、話したこともなく、タシュケントを追いかけ回したという事実が、強い抵抗となっていた。
しかし、今の丹陽は一味違った。タシュケントが嫌な予感をした時にはもう遅かった。
「わかりました。会ってみましょう」
工廠は騒然。何故考えるまでもなく良しと出来るのだと、タシュケントすら詰め寄ろうとしたくらいである。
だが、丹陽は表情を変えることなく続ける。
「深雪さんの言う通りなんですよ。会って話せば人間性がわかる。逆に言えば、会って話さなければ何もわからない。なら、私は前者を取るべきだと思います。嫌っている人間を頼り切るとか、おかしいと思いませんか。これ以上、暗い海の中で待ち続けても何も変わりません。動くなら今です。動かずに文句ばかり言っているのは、罪滅ぼしのために動く人間以下ですよ」
これまでにないくらいの強い言葉を、全員に伝えるようにハッキリと言い放った。深雪がいる今くらいしか、このような発言は出来ないとも考えた。
実際に現場で戦ってきている深雪の言葉は何よりも重い。それに便乗するカタチとなってしまっているものの、そうでもしないと納得させられない。
そういう意味では、丹陽は強かである。
「というわけで、深雪さん。私達はその調査隊との合流を希望します」
「お、おう、なんか強気に出たな。こちらとしてはありがたいが」
「30年も燻り続けてきましたが、何かを変えるなら今しか無いんです。特異点の力、お貸しください」
改めて頭を下げる丹陽に、深雪は苦笑しながら受け入れた。
潜水艦と調査隊の合流は、少々強引ながらも決定した。これにより、元凶の住まう島の調査は一気に進むことになるだろう。
感想の内容をストーリーに取り入れることが出来るのが、毎日投稿の利点。うみどり潜水母艦化計画、始動します。