潜水艦に調査隊との協力を要請するために出向いた深雪達。その話をいろいろと聞いた結果、潜水艦を率いるボスとして、丹陽がその申し入れを許可した。
拗らせて人間のことを嫌っている艦娘達がまだ数多くいる中でも、あえての強行。会って話してみなくてはわからない、それすら拒んでいたら人間以下だと断言して、ついにはカテゴリーB全員を黙らせた。
「深雪さん、そちらの調査隊との合流はいつになる予定なんですか?」
「まずはお前達から許可を貰ってから、おおわしに連絡をとって、そこからになる。今すぐってことは無い。早くても明日だ」
「そうですか。でしたらまだ時間はあるということですね」
深雪が提案した……というか、伊豆提督がそうしていいと許可を出した、潜水艦から数人をうみどりに出向させて、人間の良さを知ってもらう試み。丹陽としては、それに対してもそれなりに乗り気である。
やはり問題児達が更生したという実績が非常に大きく、久しぶりに戻ってきたグレカーレを見るだけでも効果が期待出来る程。丹陽的には、ここにいる全員に対してこの出向をやらせたいと思える程である。
時間があるのなら、その間に出向する者をピックアップし、今のうちから向かってもらいたいと思っていた。
また、丹陽自身もうみどりには訪問したいと思えるほどであった。伊豆提督と直接話をしたいし、問題児達が迷惑をかけなかったか心配でもある。そして、自分もこの30年で価値観が変わってしまっていないかを知るために、人間達と共に生活をしてみたいと思っていた。残念ながらそれは
「なるほどな。実は後始末屋としての次の仕事がもう入っててさ、今晩に移動するらしいんだ。だから、今日中か、それが難しそうなら明日、移動した先で頼む」
「わかりました。すぐに考えてまた伝えます」
これに関しては潜水艦側の話。うみどり側は受け入れの準備をするのみ。丹陽としては、それくらいしないと艦娘達の心持ちが変わるようには思えなかったため、いいと言われているのならそれに頼りたい。
むしろ、これまでメンタルケアは怠り続けていたと自覚した。資源の補給は
「同志ミユキ、1つ聞いておきたいことがあるんだけど」
「おう、大概のことなら答えるぜ」
「あたしを追いかけ回した調査隊のこと……というか
タシュケントとしては、声色からするとかなり
おおわしとの合流時、間違いなく誰かが昼目提督本人と話すことになるのだが、この潜水艦に招き入れるのではないなら、使者として誰かがおおわしに向かわなくてはならない。もしくはうみどりに全員が集まるか。その際、使者としてそこに向かうのは、十中八九タシュケントになる。それまでもそうしていた。
相手が信用に値するくらいの善人だったとしても、タシュケントにはどうしても苦手意識が芽生えてしまっている。怒りや憎しみがあるわけではないが、どうしても
「深雪お姉様、白雲も知りとうございます。その昼目なる者は、どのような人間なのでしょうか」
白雲は苦手意識ではなく呪いが関連してくるため、タシュケント以上に事前に知っておく必要があるだろう。昼目提督に対して悪態をつくのはあまりよろしいことではない。あちらが怒りを持たなくてもだ。
「調査隊のことを知ってる限り伝えておく。丹陽も知っておいた方がいいよな」
「はい、過去に関わりが無い人間さんのことは、事前に知っておければ話がしやすいので、是非とも」
潜水艦で暮らしている以上、外の状況は基本的には詳しく知らない。それこそ、30年で文化がどれだけ変わったかも曖昧である。陸を調査していないわけでは無いとは言っていたものの、拗らせた状態で眺めていても、真の楽しさは理解出来るわけがない、瀬石元帥から提供される資源もおそらく代わり映えがないのが拍車をかけている。
そのため、調査隊のこともそうだが、今の
これに関しては、拗らせが失われたグレカーレも興味があるようで、是非とも話してほしいとニコニコ。タシュケントも昼目提督のことから始まっているものの、外がどうなっているかはもう少し知りたいようである。
「よし、じゃあまだ時間があるし、あたしが話せる限りで話すよ。今の人間達がどうやって世界を守っているか。どんな奴がいるか」
ここからは深雪の感じた世界についてをただ話すだけの時間となる。白雲も深雪の話ということもあって真剣に話を聞いていた。
今の世界の話、合流する調査隊の話、そして軍港都市であったこと、その全てを包み隠さずに伝えた。流石にまだ伊豆提督の正体に関しては話すことは出来なかったが、そこは今回の件では話す必要がないと判断して公にはせず。伊豆提督自身も、なるべくそのことは隠しておいてほしいと話している。
深雪の言葉に一喜一憂するのは白雲である。やはり知らないということは、その分吸収が良く、人間に対する憎しみがほんの少しでも緩和している今ならば、より一層受け入れやすくなるというもの。
「なるほど……他の人間達も、出洲という輩には迷惑をしている、というわけですね」
「ああ。それに、今度会う昼目司令官も、その迷惑を被ってる1人だ。今は大丈夫だと思うけど、最後に会った時は大怪我してたからな」
軍港都市での戦いが最後に昼目提督と顔を合わせた時。その時は、路地裏での出来損ないの自爆によって酷い目に遭っていた。
伊豆提督と同じように妖精さんによる治療を受けていたようなので、今はもう完治していつも通りの仕事っぷりを見せてくれるとは思われるが、だとしても出洲達によって痛い目を見ているのは間違いない。
白雲もひとまずは納得した。昼目提督は、伊豆提督くらいには信用してもいい存在であると。
「あたし達の敵はあいつらだけだ。それ以外の人間は敵でもないし、恨む理由もない。うちに住んでる深海棲艦のセレスだって、人間を滅ぼすのは以ての外だっつってるくらいだ。悪いのはあいつらだけ」
セレスは他とはベクトルが違うものの、人間と共存すること、しかも手を取り合うことすら許容している、珍しいどころかココにしかいない深海棲艦。
経緯は滅茶苦茶ではあるが、深海棲艦ですら人間のことをそうやって肯定出来るのだから、30年も生きているカテゴリーBが肯定出来ないわけがない。深雪はそういう気持ちも込めて語り続けた。
丹陽も含めた潜水艦の住人達は、深雪の話を聞けば聞くほど、人間達に対する怒りや憎しみが晴れていくような感覚を得ていた。
確かに過去自分達が所属していた鎮守府はこうだったと頷く者もいれば、休暇中に訪れた街で良くしてもらった覚えがあると思い出す者もいた。最初から最後まで徹底的に人間に嫌な思いをさせられた者なんて、今この場にはいない。パッと思いつく限りスキャンプだけである。
「そんな人間をどうにかするためには、お前らの力と、調査隊の力。その2つが重なって初めて上手く行くと思ってる」
「そうですね。それだけ一生懸命な人なら、信頼に値する相手だと思います。私はむしろ、その昼目さんという司令に会ってみたいですよ」
「話してみればわかるけど、すげぇいい人だから。人相と話し方だけだから」
「逆に興味が湧いてきますね」
丹陽はもう合流を楽しみにしているレベル。苦手意識を持っていたタシュケントも、深雪の話を聞いていくうちに、自分を追いかけ回していたのも正しい理由があり、その上で敵対するつもりも無かったことを理解した。
そもそも、追い回す時の言葉が『敵ではない』『話をさせてくれ』の一点張り。しかも、あれだけ強く叫びながらの言葉。拗らせていたから疑いしかなかったが、今ならばその言葉が本心からの叫びであることは理解出来る。
「グレカーレさん達も、その対談には参加しますか?」
「あたし達? どうだろうねぇ。ここにいるみんなよりは人間に対して柔らかくなってるけど、どちらかといえばあたし達ってばうみどり側じゃん? 多分調査には参加しないからねぇ」
うみどりに出向中の
そうなると、潜水艦にも調査隊にも参加しない可能性がかなり高い。グレカーレに至っては、自分から後始末に参加しようかとうっすら考え始めているレベルである。
とはいえ、うみどり所属となったとしても、純粋種、かつ30年前から生きるカテゴリーBの意見というのは非常に貴重。グレカーレの視点は丹陽とも違うため、いてくれればまたいい方向に進むのではないかと考えられる。
「ま、その時に考えまーす。スキャンプはまず参加しないだろうし、ユーダチはゆとりは持ったけど気まぐれだからねぇ。あたしは参加してくれってお願いされたら参加するかも」
「そうですか。じゃあ、私からは参加をお願いしますとだけ言っておきますね」
「おー、ボスのお墨付きかぁ。じゃあ、参加する方向で考えておくね。あたしもその昼目テートクって人、興味あるし」
合流に関してはトントン拍子に事が進んでいく。他の潜水艦の艦娘達も、話の流れから否定する気持ちが薄れていた。
「よし、それじゃあ、あたし達の話はこれで一旦おしまいだ。おおわしとの合流、受け入れてくれてありがとな」
「いえ、私達もこういうカタチで前に進むべきだと思いますから。きっかけをくれて、ありがとうございます」
ここでの話は円満に終わる。少々難しいことになるかと思っていたが、丹陽の物分かりの良さによって、思ったよりすんなりと済んだことに、深雪は内心ホッとしていた。
しかし、そんな簡単に終わるわけが無かった。
潜水艦内に響き渡る警報音。うみどりでも同じような事が起きているかもしれないと思うと、深雪達は一気に警戒態勢に。
潜水艦の艦娘達も、この音はなかなか聞かない音であるため、今まで穏やかな空気だった工廠がいきなり大騒ぎになる。
「落ち着いてください。冷静に動かないと、余計な怪我を負いますよ」
だが、そんな中でも丹陽は冷静沈着。仲間達を落ち着かせてすぐさま潜水艦の門に向かう。艤装を装備する事が身体の負担になることがわかっていても、迅速な行動をするのは流石第一世代というところ。
そんな丹陽を守るために、深雪達もすぐさまついていく。武器は持たずとも、いざという時は徒手空拳で戦うつもりで。
しかし、そこにいた者は想定していなかった者。
「……嘘だろ。そういうこともしてくるのかよ」
深雪の表情が歪む。
そこにいたのは、深雪も知っている存在。
その横には軍港の時にも見た、小柄なカテゴリーKと中柄なカテゴリーK。
「あ、出てきた出てきた。特異点出てきた!」
小柄なカテゴリーKがキャッキャッと見た目通り子供のようにはしゃいだ。対する中柄なカテゴリーKは静かに、しかし眼光鋭く潜水艦を睨みつけている。
「アレが、平和の道を阻む邪悪な使徒ですか?」
そして、カテゴリーYのこの発言は、深雪の精神を揺さぶる。白雲がカテゴリーMとしてそこにいた時よりも、心が締め付けられる気分。
「……薄雲、かよ」
それは、深海千島棲姫の姿をしたカテゴリーY。深雪の妹、薄雲の命を使った敵。
明確に、
深雪を曇らせる展開が始まります。