後始末屋の特異点   作:緋寺

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辛い戦い

 潜水艦内での対話が順調に進み、調査隊との合流と対面も良しとして話をつけることが出来たかと思ったのも束の間、警報音が響き渡る。

 大騒ぎになる工廠内を丹陽が鎮め、自らの足で門へ。深雪達もそれについていくカタチで、何がこの騒ぎを引き起こしたかを確認した。

 

 そこにいたのは、想定していなかった者。深雪の妹、薄雲の命を使ったであろうカテゴリーY、深海千島棲姫。

 

「薄雲……様……」

 

 深雪と同じように、むしろそれ以上に動揺しているのは白雲である。深雪の妹ということは、白雲とも関係があることになる。実際、薄雲は白雲の実姉。純粋種であるため、見ただけで姉妹艦はわかる。

 だが、深海千島棲姫は白雲に目をやることもなく、特異点(深雪)をじっと見つめていた。その瞳にあるのは、蔑むような感情。間違いなく、深雪のことを敵だと認識している目。

 

 今、ここに来た敵はたったの3人。門まで出向いた時には目と鼻の先の海上に立っているのみ。砲撃は当然届くが、徒手空拳では近付くまでに少しは時間がかかる距離。

 もしここで白雲が本能のままに暴れてしまったら、ただ突っ込み、ただ撃たれてやられるというだけになるだろう。それはもう無駄死に以外の何モノでもない。

 

「いいか白雲、落ち着け。落ち着けよ。今のあたしじゃあ説得力無いだろうけど、冷静さを失ったら終わりだ。本能のままに動いちまうかもしれないけど、あたしが手を握っててやるから」

「ですが、薄雲様が」

「ああ、わかってる。あたしだって腸が煮え繰り返ってる」

 

 白雲の手を握る深雪の手も、怒りで震えていた。冷静でいられないのは深雪も同じ。しかし、ここで怒りのままに動いていたらあちらの思う壺。それに、白雲に示しがつかない。

 

「深雪ちゃんも、お、落ち着くのです」

「……わかってる。わかってるんだけどな」

 

 それは深雪だけでなく、電も察していた。そのため、深雪の怒りを抑えるために、電も深雪の手を握っていた。その電ですら、手が震えているくらいである。

 大枠で括れば、電も深雪と同じ特型。つまり、薄雲は姉にあたる。そんな薄雲の命を使ったカテゴリーYは、見るに堪えなかった。

 

「何用ですか。貴女達はどう見ても招かれざる客ですが」

 

 そんな相手にも冷静に話しかける丹陽。対するカテゴリーK、特に小柄な方は、丹陽に対して笑みを浮かべる。

 

「えーっとね、ちょっと待ってね」

 

 艤装の隙間からガサガサとメモ書きのようなものを取り出す小柄。あまりにもマイペースで、敵であるのにそのままするがままにさせてしまっていた。

 いや、そもそも隙が全く無かった。小柄は好き放題やっているようだが、その隣に立つ中柄が、刀の柄に手を添え、いつでも抜くぞと言わんばかりに見つめている。

 ただでさえ兵装が何もないのに、刀持ちを相手にすると言われたら、まずどうにもならない。軍港都市でその圧倒的な力を見せつけられているのだから尚更である。

 

 そうこうしているうちに、小柄がメモ書きを開き切る。

 

「えっとね、『君達が我々を探っているのは知っていた。これまでは好きにさせていたが、特異点と接触し、我々の望む平和を害するというのならば、それは世界の悪だ。最早、野放しには出来ない』だってー」

 

 そのメモを書いたのは、明らかに出洲である。相変わらず自分が正義であり平和を担う者であり、それを妨害する者は邪悪な存在という概念。特異点はその存在そのものが平和を乱すとしているのと変わらない。

 

 これまでの潜水艦、秘密組織は、元凶を探し回ってはいたものの、長い年月をかけても何も成果をあげられていない。故に、出洲側からしても()()()()()()()()()()()()()としての認識だった。

 しかし、特異点が絡んだら話が変わる。その未知の力によって、何も出来なかった組織が切り込んでくる可能性が出てくる。

 目指す恒久的な平和を害する者達として覚醒してしまうかもしれない。そう考えた出洲は、このタイミングで襲撃を企てた。

 

「つまり、貴女達は私達をどうしたいんです?」

「そんなの決まってるでしょ。特異点と一緒に、ぜーんぶ、壊しちゃうね」

 

 小柄はまるでゲームでもするかのような軽い口調で話すと、軽く海面を蹴る。その瞬間、目にも留まらぬ速さで深雪に接近。潜水艦の上にいるとか関係なく、高さすら無視した超速の移動で、すぐさま手の届くくらいの距離にまで詰める。

 

「っなぁっ!?」

「ボクは特異点だけは始末してこいってめーれーされてるんだ。()()()()なんでしょ? だったら、周りなんて考えないでそこを潰せばおしまいだよね?」

 

 そして、ゴテゴテの艤装から腕が生える。軍港都市で長門に一撃喰らわせたそれは、深雪が喰らったら一溜まりも無い。

 

「くそっ!?」

 

 深雪も反応出来ないようなことはなく、電と白雲から手を離して少し押し出し、自分はその攻撃を受けないようにバックステップ。艤装を装備しているおかげで大きく移動することが出来、その一撃を回避することには成功したものの、小柄なカテゴリーKはそれだけでは止まらず、深雪に対して追撃を始める。

 

「アハハハハ! 簡単じゃつまらないもんね!」

 

 狂ったように笑い、潜水艦の内部に入る勢いで深雪への攻撃を続ける。

 

「おま、いい加減にしろよ!」

「だったらやり返してきてもいいよ?」

 

 ただでさえ薄雲の件で冷静にならなくてはならないのに、そんな余裕も与えられないくらいの猛攻。

 

 とにかく大振りであるため、素早く動いていれば当たることはないかもしれないが、潜水艦から外に出ることが出来ず、徐々に工廠側へと押し込まれていくのはかなり危険である。

 当然ながら、工廠にはまだ艦娘達がいるし、それ以上に兵装が沢山置いてある場所だ。そこで暴れられたら、誘爆に次ぐ誘爆で、全てが破壊されかねない。むしろ、それが狙いで真っ先に突っ込んでいた可能性すらある。

 

「深雪ちゃん!?」

「お姉様!」

 

 深雪が押し込まれそうになるのを黙ってみているわけにはいかない電と白雲が動こうとした瞬間、今度は違う視線を感じた。

 そういったものに敏感な電が瞬時に反応し、その狙いが白雲であることを理解したため、白雲の手を握って強引に引っ張った。

 

「い、いな」

「舌噛みます!」

 

 そのまま強く抱きしめるようにして転がった。その瞬間、先程まで白雲が立っていた場所を砲撃が通過し、潜水艦の門に直撃。かなり頑強に造られていたようだが、その一撃によって大きくヒビが入っていた。外部からのダメージには強い耐性を持っていても、内部からのダメージにはそこまでということか。普通、潜水艦内部で砲撃戦が始まるようなことは考えていないものである。

 このままでは、門を閉じることが出来たとしても潜航することは出来ない。すぐには浸水しなくとも、水圧で破壊され、結局潜水艦が潜水艦としての機能を失うことになるだろう。つまり、修復するまでは潜航してこの場から離脱することも出来なくなってしまった。

 

「残念。邪悪の使徒はここで終わらせるべきだと思いましたが」

 

 その砲撃を放ったのは、中柄が陣取っている海上に同じように立つ深海千島棲姫。本当に残念そうに溜息を吐いて、今は見えなくなった深雪ではなく、そこにいる電と白雲を睨みつけていた。

 カテゴリーYとなっているためか、見た目以上に火力が高く、駆逐艦であるにもかかわらず巡洋艦クラスの威力を叩き出している。そのせいで、潜水艦に傷をつけることが出来たのだろう。

 

「なるほど、深雪さんと一緒に、この潜水艦そのものを消してしまおうというつもりでここに来たわけですか。貴女達は、それを正義と信じて」

 

 丹陽が明確に気持ち悪そうな表情で残った2人を見た。中柄は何をされても表情は変わらない。だが、深海千島棲姫は何を言うんだという顔で丹陽を一瞥。

 

「当たり前じゃないですか。ここは平和を乱す邪悪の使徒が集う、いわば()()()()()なんですよね。恒久的な平和を嫌い、混沌を望む組織は、この世界には不要でしょう」

 

 それが当然と言う声色で語る深海千島棲姫。こういうところは、船渠棲姫や潜水棲姫と変わらない。心の底から出洲の方針を正しいと信じており、それに反する者は全て悪、滅ぼしてもいい存在だと考えている。

 

「これまでは何もしなかった貴女方が、途端に邪教に堕ちたこと、()()()は悲しく思っていますよ。それに、哀れだとも」

「哀れ、ですか」

「今までのまま、何かをやってる()な行動を長年続けて、緩やかに滅んでいけばよかったのでしょう。なのに、行動に起こすからこうなってしまうのです。平和の道から外れれば、淘汰され、正義に滅ぼされるのは必然。悪は滅されてこそ悪ですから」

 

 本気で言っているのかと丹陽は顔を顰める。丹陽だけではない、そこに残った者が全員同じ顔をする。

 

「明石さん」

「ダメですよ」

「そういう問題じゃないです。私の予想では、()()3()()()使()()()()()()()

 

 隣の明石に指示を出す丹陽だが、明石はそれを断固として断る。その指示は明確に言葉にしなくてもわかる。()()()()()である。

 そもそも丹陽の身体は老朽化によってボロボロ。明石によるメンテナンスによって存えているだけで、戦闘行為なんて簡単には出来るわけがない。やればそのまま死に向かうだけ。勝っても負けても死ぬようなもの。

 今ここで丹陽に死んでもらうわけにはいかないのだ。諦めていた丹陽が一念発起し、再び潜水艦のボスとして立てるようになり、潜水艦内はこれまでの30年分を取り戻すかのように穏やかになっていたのだ。ここで丹陽が倒れれば、もうおしまいと言ってもいい。明石は、それだけは避けたかった。

 

「雪風……いや、ごめん、丹陽だったね。君は下がっていればいい。アレは、僕達がやる」

「時雨さん……?」

「代わりに、この潜水艦で使われている兵装を貸してくれないかい。時間は稼ぐ」

 

 時雨だって黙ってはいられない。あんな言い分を良しとするほど、時雨はデキた艦娘ではない。さらに言えば、一極化された呪いの対象だ。自分を抑えつけられる自信はない。

 

「時間稼ぎって……」

「うみどりの援軍が必ず来る。これだけ近くにいるんだ。気付いていないわけがない。僕達ではまだ追いつけないかもしれないけど、あちらの艦娘達は信用出来る。だから、僕がまだ理性を持っていられるうちに、主砲でもなんでもいいから持ってきてくれないかい」

 

 時雨もギリギリ限界に近い。一極化したということは、それに対しての感情がそれまで以上に強くなってしまうということにもなる。相手が誰であろうが、滅ぼすまで攻撃を続けることになるだろう。それがカテゴリーMなのだから。

 

「あたしがすぐに持ってくる。ついでに、あたしも時間稼ぎに参加する」

「グレカーレ、頼むよ」

「あっちのみんなが出てくれれば、まだどうにか出来る。ボス、ちょっと今から言うこと聞かないよ。なんたってあたし、問題児だもんね」

 

 ウィンクしたグレカーレは、すぐさま工廠に走る。丹陽は自分のもと言おうとしたようだが、明石がきっちり止める。また、時雨も丹陽を戦闘に参加させようとは思っていない。

 

「丹陽、君はハッキリ言って足手纏いだ。戦えない者は下がっていて」

「あ、足手纏いって」

「第一世代がどうにか出来る相手じゃないからね。ここで死なれたら、僕が気分が悪いんだ。それに……」

 

 工廠の奥に少しだけ視線をやる。丹陽もそれに釣られて目を向けると、思っていなかった光景がそこにあった。

 

「悪い! 借りるぜ!」

「ちゃんと整備済みだから、思いっきり使っちゃって!」

 

 工廠まで押し込まれた深雪だったが、その場で潜水艦の艦娘から主砲を渡されたことで、小柄なカテゴリーMに反撃を開始していた。

 さらには、いち早く準備を完了させたタシュケントが深雪と共に戦闘を開始。艤装だけは万全に整備されている上に、初見にもかかわらず深雪と完璧な連携を見せていた。

 

「うわ、うわ! すごいね、こんな狭いところで!」

「おら、外に出て行け外に! こっちはまだ話さなくちゃいけない奴がいるんだよ!」

 

 こういう場になると、大型の艤装では回避が難しくなるようで、生やした巨腕をバルジのように使って深雪とタシュケントの砲撃をガードしながら、少しずつ外へ追いやっていく。

 ガードするということは、ダメージは小柄よりも潜水艦の壁に及ぶ。だが、四の五の言っていられない状況であるため、潜水艦へのダメージは度外視。壊れなければそれでいいとした。死ななければ、後から直せる。

 

 あくまでも精神は子供。この命のやり取りを楽しんでいるかのような歪んだ価値観。深雪に怒鳴られても、素知らぬ顔で笑みを絶やさず、遊んでいるかのように全ての攻撃を弾くものの、

 

「同志ミユキ、アレはあたしに因縁がある相手なんだ。だから、あたしも手伝わせて」

「そうなのか?」

「ああ。アレに使われている艦娘の命、あたしが過去に失った同志ガングートのモノだ」

 

 姉妹艦で無くても、強い繋がりがあるのならその命のカタチが見える。タシュケントには、それがハッキリと見えていた。

 過去に自分の眼の前で命を搾り取られた同志が今、こんなカタチで利用され、自分に牙を剥いている。それが心の底から気に入らず、周囲のダメージを顧みることなく砲撃を放つに至っている。

 

「わかった。お前の気持ち、今なら痛いくらいにわかる。あたしも、こいつよりあの薄雲をどうにかしたい」

「よし、なら行こう。足手纏いにならないように、全力でやらせてもらうよ」

「頼んだぜ!」

 

 

 

 

 誰にとっても辛い戦い。しかし、切り抜けなければ先に進めない。

 

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