後始末屋の特異点   作:緋寺

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魔王を討つ者

 秘密組織の潜水艦による戦い。小柄なカテゴリーKは深雪を始末するために単独で突撃。中柄は全く隙がない状態で立っているのみだが、カテゴリーYの深海千島棲姫は海上から狙い当てる者を狙い撃つ。

 

 深雪はまず、潜水艦内ではなく海上に小柄を押し戻さなくてはならない。そのために、タシュケントが手伝ってくれている。

 潜水艦の中で戦うことを避けたいというのもあるが、それ以上に、小柄にかつての同志であるガングートの命が使われていることに気付いたからである。

 

「あたしが衰えてるのは痛感してる。でも、最低限ここから追い出すさ」

「こんなところで戦ってらんねぇからな!」

 

 即興のコンビを組んだ深雪とタシュケントは、小柄に攻撃の隙を与えずに連続で砲撃を放ち続ける。深雪が放ったなら、タイミングをズラしてタシュケントが放ち、タシュケントが放ったなら、少し間を置いてから深雪が放つ。

 小柄を前に進ませるわけにはいかない。攻撃を受けるなんて以ての外。とにかく押して押して押し倒して、無傷でもいいから潜水艦から追い出す。

 

「わっ、うわわっ、そんなにいっぱい撃ってくるの? 前に進めないし、壁がグチャグチャになってるじゃん!」

 

 いくら小柄と言えど、これだけの猛攻を受ければ前には出づらくなる。その砲撃を生やした巨腕でガード出来ているとはいえ、駆逐艦2人がかりの砲撃が、室内──というよりは、門から工廠に続く通路──で間髪容れずに連射してくるとなれば、そう簡単に動けない。拳を振るいたくても、ガードを解いたら砲撃が直撃してしまう。

 

「ああもう、仕方ないなぁ。()()()()()()()()()()()()、やっちゃってもいいよね。だって自分達でも壊してるもんね」

 

 片腕で自分を守りながら、もう片方の腕を深雪に向けて伸ばした。ただの腕ではない。その手の甲の辺りには、大型の主砲が取り付けられている。しかも三連装砲であるため、威力は自分達が扱う主砲とは桁違い。

 この砲撃をまともに喰らったら一溜まりもない。しかし、回避するとその砲撃は工廠に直撃するだろう。潜水艦の構造をちゃんと知るわけがないので、それによって機関部に異常をきたした場合、潜水艦はそのまま沈むまである。

 

「それじゃあ、ぜーんぶ壊しちゃおっか!」

 

 このまま撃たれたらまずい。そう思った瞬間である。

 

「ヒトんチ全壊させるのは良くないと思うなぁ?」

 

 そこに現れたのはグレカーレ。滑り込むように乱入したかと思いきや、小柄の足を綺麗に刈り取り、体勢を崩した。

 何か兵装を持っていれば不意打ちを決めていたのだろうが、基部しか装備していない現状では、やれることがこれくらいしかない。とはいえ、今この場でやるのは最も的確な一撃。

 

「うわぁっ!?」

 

 それでも砲撃を止められなかった小柄は、体勢を崩した結果、天井に向かって砲撃を放つこととなった。

 強烈、かつ凶悪のその一撃により、出入り口の門の天井は見事に吹き飛び、艦内だというのに空が見えるほどになってしまった。その破片が舞い散り、その場に降り注ぐことになる。

 

「おおっと危ない危ない。んじゃ、あたしは装備取りに来ただけだからそういうことで」

 

 咄嗟に巨腕でグレカーレを掴もうとしたが、素早くそれを回避し、さっさとその場から駆け抜けた。

 

「あたしを()()()()たいなら、艤装じゃなくて生身で抱きしめてよね。でもアンタ、肉付きが悪いからそんなに気持ちよくないかな。じゃあ、Ciao ciao〜」

 

 小さくウィンクし、投げキッスまでしてから、再び最高速で工廠まで走る。

 その鮮やかな手腕に深雪は驚きながらも、一瞬の援軍に強く感謝した。

 

「ありがとなグレカーレ!」

「あんなの時間稼ぎにもならないから、上手いこと外に追い出してよね。天井壊れちゃったからもっとやりやすくなったでしょ」

「おうよ。それに、自分から下がってくれてるぜ!」

 

 上から降ってくる瓦礫を回避するため、そのまま後ろに下がっていた小柄。通路は瓦礫で塞がれかけているものの、人が通れないような状態ではなく、グレカーレが言った通り天井が無くなってしまっているため、瓦礫は踏み越えてくれば何も問題はない。現に小柄は瓦礫を片付けるのではなくそのまま上に乗ることで深雪達を見下ろしていた。

 

「ちょっとちょっと、そういうのズルくない!?」

「ズルくねぇよ。これくらいしないと、あたし達はお前に敵わないんだ。悔しいけどな」

「たしかに。うん、ボクの方が強いからね。これくらいはいっか。難易度高い方が面白いもんね」

 

 あくまでもゲーム感覚の小柄に苛立ちを覚えつつ、冷静に努めようとする深雪。しかし、言葉の端々から怒りが滲み出ているのは隠しきれていない。

 タシュケントもかつての同志の命を使われている存在がこんな態度で自分を殺しに来ていることが気に入らないものの、ここで頭に血が上っていたら余計に戦えないと考えて冷静を維持する。第二次から生き続けているだけあり、アンガーコントロールは出来る方であった。拗らせていた時とは大違い。

 

「それじゃあ、第二ラウンドだね。高いところ取った方が有利なんだよ。知ってた?」

「でもな、狙い撃ちもしやすいんだぜ。ここに何人艦娘がいると思ってんだ」

 

 天井が失われて、嫌でも視界が開けた。そうなれば、()()()()()()()()()()()()

 工廠には、この潜水艦に住まう艦娘達が勢揃いしているのだ。その全員が既に主砲を準備し終え、的としてわかりやすく瓦礫の上に立ってくれている小柄に狙いを定めているとしたら。

 

「せめて、外に出ていけよ!」

 

 深雪の声と同時に、大人数の一斉射が繰り出された。それがいくら艦種がバラバラでも、30年のブランクがあったとしても、これだけの同時砲撃は耐えられるものではない。さらには高台に乗ってくれているおかげで、射線上に仲間がいないという絶好のポジショニング。やらない理由がない。

 連射すればその分、着弾のタイミングもズレるため、ただガードすることも出来ない。どうしても退かないと対応が出来ない程の密度ある攻撃。

 

「ちょっ、そういうハメ!?」

「勝手にハメられてるだけじゃないか。さぁ、ここから出て行ってくれ。До свидания(さようならだ)

 

 勿論、深雪とタシュケントもそれに参加している。苛立ちながらも、砲撃が最も空いている場所に狙いを定めて砲撃を繰り返した。今ならば足下。前には絶対に進ませないという信念を以て、全員で小柄を撃ち続ける。

 

「もう! じゃあ一度下がってあげるから!」

 

 憤慨したような、それでいて子供のような癇癪を起こしたようにも見える仕草を見せた小柄は、一度あっかんべーと舌を出してから強烈な跳躍。天井が抜けていることもあり、その一跳びだけで海上へと舞い戻っていた。

 身体能力が段違いに高い。全力で逃げられたら間違いなく追いつけないし、動きを止めることが出来ていなかったら真正面からでも止められなかった。狭い空間で砲撃が出来ていた、さらに小柄が()()()()()戦っていたから、ここで退かせることが出来たのだろう。

 

 あんな性格では無かったら、潜水艦の面々は瞬殺だった可能性がある。それに、広い場所に出したことによって、これまで制限されていた動きも出来るようになるのだ。実際は手を抜いている間に潜水艦の中で斃せなかったことの方が痛いかもしれない。

 

「わざわざ下がってあげたんだから、ちゃんとすぐにこっち来てよね!」

 

 こんなことまで言い出す始末。明らかな挑発。しかし、それが出来るだけの実力も兼ね備えているのは確かだ。

 何せ、これだけやっても被害が出ているのは潜水艦だけ。小柄は傷ひとつ負っていないどころか、息も切らしていない。力、速さ、体力、その全てが段違いである。

 

「お呼びだからさっさと行ってあげた方がいいよ。っていうか重たいからちょっと持って。シグレ達の主砲取ってきたんだから」

 

 そこでグレカーレが再度合流。持てるだけの主砲を持って門まで帰ろうとしている。あの場にいる仲間達は全員基部だけで無防備だ。せめて主砲くらい持たなければ対抗しようがない。

 その全ての主砲が、簡単に扱えるように整備されたモノ。本来なら工廠で装備をしていかなければ使えないようなモノなのだが、手渡されただけでしっかり使えるようにしているのは、こういう時があったらと想定していたのか。

 

「わかってる。あたしはアイツよりも話をしなくちゃいけない奴がいるんだ」

 

 グレカーレの持つ主砲を1つ手に取り、門に駆け出す。思っていることはただ一つ。電と白雲の無事である。

 深雪は小柄に押し込まれて工廠まで移動させられたが、電と白雲はまだ門にいる。つまり、あの深海千島棲姫──薄雲と面と向かっているということになる。

 

 白雲は特に縁が深いため、その姿を見ているだけでも発狂しかねない。そこから敵意を向けられ、攻撃すらしてくるのだから、最も危険なのは白雲だ。

 電もかなり厳しいだろう。特型として見れば姉、縁がある者。そんな相手が出洲の手先としてここに現れているのだから、精神的にグラつく。

 

「電! 白雲!」

 

 無事を祈って駆け出す深雪。瓦礫を乗り越えてしまえばすぐにその様子は見える。

 

「み、深雪ちゃん!」

 

 電は()()無事。相当撃たれているようで埃まみれ煤まみれとなっていたものの、回避だけはちゃんと出来ている。

 しかし、白雲が拙いことになっていた。薄雲の変わり果てた姿を見てしまっているのだから、頭を抱えて震えている。電に引っ張られて何とか回避出来ているものの、戦意を失っていると見てもいい。

 これが狙いなのも明らかである。白雲が先にここにいることはあちらもわかっているし、それを突いて行動しづらくすることだって考える。

 

「ようやく出てきましたか特異点」

 

 深雪の姿が門のところまで来たことで、深海千島棲姫は小さく溜め息を吐く。そんな仕草一つにも苛立ちが湧き立つ。

 

「お前らんとこのガキが突っ込んできたんだろうが。んな顔をされる筋合いは無ぇよ」

「特異点と言えど、今のままであれば私でもどうとでも出来るでしょう」

 

 言いながらも当たり前のように砲撃。流石に正面から撃たれれば軽々避けられるが、薄雲の命を持つ者がそうしてくるというのがよろしくない。時間が経てば経つほど、理性と冷静さをジリジリと焼いていく。

 本来ならばストッパーとなり得るはずの電も、相手が相手なせいで、その性質を十全に出しきれない。絶対に躊躇いが出る。

 

「電、躊躇ってたらどうにもならねぇ」

「……なのです」

 

 深雪が持ってきた主砲を手渡され、基部へとセット。妖精さんの力を借り、今だけは自分のモノとして扱う。普段通りの主砲と同じく、頭の中でトリガーが引けるように調整。

 

「邪悪の権化に付き従うものは、漏れなく邪悪なのでしょう。聞きましたよ、貴女は魔王となると言ったそうで」

 

 軍港都市での啖呵を、深海千島棲姫も知っているらしい。出洲が深雪のその言葉を覚えていたのか、特異点のことを魔王とでも呼称しているのか。

 

「ならば、魔王を討伐するのが、救世主から力を齎された私の使命なのでしょう。何の因果か、貴女の妹の命を戴くことになりましたが、それも好都合。私の全てを使って、貴女を、特異点を、世界を混沌に導く魔王を討ち倒しましょう」

 

 深海千島棲姫はそう言うと、改めて主砲を構える。しかし、これまでと違う獣のような前傾姿勢。主砲を前に、そこに接続された鎖を握り締め、まるで今すぐに襲い掛からんとする構え。

 

 

 

 

 妹の命を持つ敵と戦うという時点で、深雪は苦しい思いをしている。だが、ここで躊躇っていてはダメだ。しかし、怒りのままに行動するのもダメだ。

 この時点で、深雪はまだ覚悟が決まっていないと言えるかもしれない。

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