本気で仲間達を救いたいという気持ちにより、深雪はその場で改二へと覚醒。これまでの怪我が全て修復され、電と白雲を守るために、改めて深海千島棲姫の前に立ち塞がる。
だが、これを待ってましたと言わんばかりに、中柄のカテゴリーKが深雪を始末すべく動き出す。回避しようと思っても動けない程に速かったその攻撃は、かろうじて援軍が間に合ったことによって神風が受け止めることに成功。
神風がいなかったらここでまた死を迎えていたかもしれないと感じる一撃。深雪は神風に強く感謝しながらも、すぐにその場から離れることにする。
「悪い神風、あたしはあっちをやる」
「そうしてちょうだい。ちょっと私にも余裕がないわ……!」
神風と中柄の鍔迫り合いは拮抗しており、どちらが勝ってもおかしくない程。ここを邪魔出来る程の力が自分には無いことを悟った。
ならば、今は任せるしか無い。ただでさえ、今この場は大乱戦の状態になろうとしている。その中でも、深雪がどうにかしなくてはならないのはたった1人。
「隙が出来てますよ
中柄に襲われたことを隙と判断した深海千島棲姫は、当てつけに姉と呼んだ後、自慢の雷撃を放っていた。一度は仲間の脚を破壊したそれは、深雪ではなく、またもや電と白雲に狙いが定められていた。
回避が出来ない者ならば、的に当てるようなもの。消耗によって自ら魚雷を破壊することも出来ないのだから、今狙わない理由が無かった。
「お前、そういうことしか出来ないのか」
しかし、冷静になった上に、疲労も損傷も失われた深雪には、その雷撃は予測済み。怒りもないために力むこともなく、砲撃によって全てを破壊する。
当然それによって水柱が発生するため、次の行動は追加で砲撃を放つ、もしくは鎖を伸ばして直接絡め取り、先程の狙いのように身体を焼き切るだろう。
深海千島棲姫の狙いは、突如戦場で改二へと改装された深雪を、再び守り一辺倒にすること。攻撃されることが無いのならば、押し込むことだって出来る。それに、深海千島棲姫自身が、トリッキーな動きが出来るため、翻弄するのもお手のもの。
「いい加減に……っ」
対する深雪は、囮作戦の際に電がやってのけた、瞬時に3発砲撃を放つという芸当を、頭でトリガーを引くのではなく指で引いて実行した。実際は電よりも全然遅いのだが、だとしても深海千島棲姫の思うツボにはならない。
水柱が失われた時、既に向こう側には深海千島棲姫の姿は無い。ボイラーを過剰に動かすことで得たスピードで、一気にその場から離れて、まるで違う方向からの砲撃へと変える。
しかし、今の深雪は一味も二味も違う。既に移動方向に主砲を向けていた。
「しろっ!」
そして、終わらせるつもりで砲撃を放つ。その照準は、次の行動を起こそうとする深海千島棲姫を回避に専念させる程には正確。
ついさっきまでは、このスピードさえあれば翻弄出来ていたというのに、急にその動きに追いついてきたのには、深海千島棲姫も驚きを隠せない。今まで正直なめ腐っていたような相手だったのが、先程の煙幕の前後でヒトが変わったかのように成長、いや、
「くっ……急に何が……っ」
電を狙おうとしたのに、それをキャンセルせざるを得なくされ、すぐに回避に専念。
しかし、深雪の砲撃はその回避方向を的確に追ってきた。当たりはしないものの、気を抜いたら先程いた場所に砲撃が通過するということが何度も何度も繰り返される。
ここで深海千島棲姫は気付いた。深雪は、行動を予測して撃っているわけではない。深海千島棲姫の動きを見てから身体を動かして追いついている。
感情を揺さぶるように行動しているのに、その全てが通用せず、常に冷静に対処される。先程まで自分がやっていたことを逆にやられてしまっていることに、深海千島棲姫の方が苛立ちを覚え始める。
「あたしは電と白雲を守るって決めてんだよ。邪魔するんじゃねぇ」
「随分と仲間思いじゃないですか。でも、それでは私をどうにかすることは出来ませんよ」
「だろうな。でもな、あたしは1人じゃねぇんだ」
そう言った時、艦娘とは違う質量がこの戦場に到着する。酒匂を筆頭にした救護班。その中の睦月が、大発動艇をここまで持ってきていた。
「救護班来たよ! 電ちゃんと白雲ちゃんをすぐにここから運び出すから!」
いつもの優しい酒匂から一転、鬼気迫った表情で重傷な2人をこの場から引き離すために行動を始める。
迅速に、確実に、怪我人をうみどりへ運ぶことが救護班の使命。酒匂だけでなく、大発動艇をコントロールする睦月も、2人に痛みを極力与えないように運ぶ子日と秋月も、今までに見たことが無いくらいに真剣。
脚を失っていることにショックを覚えつつも、白雲による応急処置と、
特に良かったのが、白雲が素直に言うことを聞いたこと。短時間で、この世界の仕組みをある程度把握し、時雨と同様の呪いの一極化に至ったおかげで、大発動艇に乗せようとした秋月に対し悪態をつくこともなく、素直に従ったことが大きい。
「2人が無事にここからうみどりに戻ってくれれば、あとはアイツを斃すだけだ」
深雪は救護班の仕事を邪魔させないように守りながらも、深海千島棲姫から視線は離さない。どれだけ速く動こうが、絶対に視界から外には出さない。
今の状況ならば、救護班を攻撃してまた精神的なダメージを与えようとしてくるだろう。敵を減らしつつ、残った敵も十全の力を発揮出来なくする。これがあちらのやり方。
しかし、それを一度されているからこそ、深雪が未然に対応する。これ以上、自分以外の者を傷付けさせない。そして、自分も傷付かない。ただそれだけ。
「深雪ちゃん、援護いる?」
2人を運び出しながらも、子日がこれ以上の援護が必要か尋ねる。深海千島棲姫が薄雲の命を使っていることは、子日も何となく察していた。戦うのがキツいなら、自分も手伝うよと単に聞いている。
深雪は一瞬考えたものの、大丈夫だと返す。プライドを持って1人でやると言っているわけではなく、本当は援護を受けてすぐに終わらせたいという気持ちはあるのだが、ここよりも行かねばならないところがあると小さく首を振ってあっちを見てくれと促した。
「あっちの方がヤバい。ここはあたしがどうにかするから、子日はあっちを……時雨達を頼む」
深雪が子日に頼んだ戦場。潜水艦付近で小柄なカテゴリーKを抑え込もうとしている時雨、グレカーレ、そしてタシュケントの3人。しかし、こちらはこちらで深海千島棲姫以上に苦戦させられている。
「ぐ……なんて強さだ……」
砲撃だけでなく、背部から生えた剛腕も使って、接近戦も砲撃も隈なく繰り出してくる小柄は、言ってしまえばレベルが違った。駆逐艦3人で今も粘っているが、未だに傷ひとつつけることが出来ず、息も切らしていない。
それどころか、笑顔を絶やすことなく攻撃を続けており、しかも3人を同時に相手しながらも、その攻撃が潜水艦に当たるようにコントロールしているまであった。
小柄曰く、
あまりに歪んだその感性に、時雨すらも嫌悪感を示す。だが、小柄はそんな視線を受けても素知らぬ顔。攻撃の手を緩めることなく、身体もフル回転で動かし続けた。スタミナもバケモノである。
「粘るねぇ。前座だと思ってたけど、意外とこっちの方が難しかったりするのかな。偶にあるもんね。ラスボスよりも中ボスの方が強いゲーム。このボス斃したらエンディングまでウィニングランとか言われるヤツだよ」
「そいつはどうも。深雪より強いって言われてるようで気分は悪くないよ」
無意識の皮肉に皮肉を返す時雨だが、正直そんな余裕は無いようなもの。ここまで3人で粘ってきているものの、消耗はかなり激しい。
グレカーレはあまり見たことが無い汗を拭いながらどうにか耐えている状態。傷はほとんど無いものの、とにかく動き回る羽目になり、スタミナが大きく削られていた。
タシュケントは逆。その素早さで押し込もうとしたものの、小柄の方が速いという目も当てられない状況であり、やはり手も足も出ないという状態。砲撃をまともに受けるようなことは無いものの、擦り傷が身体中に出来てしまっており、流血も目に見えて多い。
そして時雨は、うまく立ち回っているものの、やはりどうにも出来ていない。グレカーレやタシュケントと違い、隙を見て接近戦も仕掛けているものの、軽々避けられる、もしくはカウンターで剛腕が振るわれるため、まともな一撃どころか、掠らせることすらままならない。
勝つためではなく、生き残るために戦っているため、今もギリギリで耐えられているものの、無理をしたら一気に押し込まれるのは、考えるまでもなかった。
小さくとも、その力は明確に戦艦、いやそれ以上とすら感じる。そのため、慎重にならざるを得ず、ダメージを与える一手には遠く及ばない。
「でもねぇ、そろそろ終わりにしておきたいんだよね。ちーちゃんがなんかピンチになりそうだし。っていうか、特異点が全回復してるんだけど! 途中で全回復するのとかインチキだよね!」
それを言われて、時雨がそちらにチラリと視線を向けた。小柄が言う通り、深雪の姿が変わっていることに気付いた。
それを見たことで、時雨はふっと笑みを浮かべる。それに釣られて、グレカーレやタシュケントも笑った。
「そうかい、この場で改二に……相変わらず無茶苦茶だよ深雪は」
「ほーんと、ミユキってやっぱり何処か変なんだろうね。それが特異点ってヤツなのかな」
「かもしれないね。同志ミユキは、この戦いをひっくり返すことが出来る何かを持っていそうだ」
深雪の姿で、時雨達は俄然やる気が出たようだ。まだまだ粘れるぞと言わんばかりに小柄の前に立ち塞がる。
「もう、ボクもあっちに行こうかな! 君達と遊んでるのも飽きてきちゃったし」
「行かせるわけがないじゃ無いか」
「じゃあ無理矢理でも押し通っちゃお」
背部の剛腕を構えるだけでなく背部にマウントしていたらしい主砲まで取り出した。背部と両手の主砲、全部で4つの大口径主砲を真正面に構えた、火力一辺倒の構え。3人を纏めて始末する上に、潜水艦にも大きくダメージを与える強烈な一手。
「それじゃあ、遊びはおしまいで一気にやっちゃうぞー!」
ニッコリ笑って砲撃を開始する小柄。避けるのは簡単だが、潜水艦がその砲撃をまともに受けることになるのがまずい。既に一部破壊されているとはいえ、これ以上破壊されたら機能が停止するどころか、浮上出来なくなるレベルで破壊されかねない。
故に、深雪はこちらがまずいと判断して子日をあちらに向かうように言ったのだ。やはり周りが見えている。精神的に非常に冷静。落ち着きすぎているとすら言える。
「じゃあ子日も行くよ。でも、もう向こうにも攻撃行ってるからね」
「えっ、じゃあもしかして」
そう言うのも束の間、まだうみどりの方から猛烈な速度で飛んでいく艦載機が見えた。
「加賀さんか!」
「みんな出てくるよ。救護班が最優先だったからいろいろ遅れたけど、加賀さんはもううみどりから飛ばし始めてるね!」
次々と増える援軍。これによって戦況を打破する方向に持っていく。深雪も心強い仲間達のバックアップを受け、より一層心が燃えていた。