うみどりからの援軍が次々と加わる海戦。最も危険な状態であった、怪我人である電と白雲は、無事に救護班に回収されて、そのままうみどりへと運ばれていった。これによって、比較的後ろを気にせずに戦えるようになる。
また、小柄なカテゴリーKと交戦する時雨達の元にも、加賀が発艦させた艦載機の編隊が飛んでいく。今でこそまるで止められる気配もなく、流れ弾がわざと潜水艦に当たるようなポジションで乱射しているが、ここで上からの攻撃が加われば止めやすくなるはず。
各々が的確に敵の行動を食い止め、最悪な方向に向かわないように尽力する。その中心には、間違いなく深雪がいた。
「魔王の仲間達は沢山いるようで。多勢に無勢をしなければ勝てないと言うことですか?」
こんな状況でも、心を揺らそうとする言葉を止めない深海千島棲姫。
そして、そうなった時の深雪は、
「お前さ、ホント口数が多いよな」
呆れたような口調で睨みつける。深海千島棲姫もその程度ではブレない。自分が正義であり、深雪が悪であると信じているから、何を言われても傷にならない。悪の言葉なんてその程度のもの。
「聞いておきたいんだが、お前は今やってることが正義だと思ってるんだよな。あたしが悪で」
「自覚があるようで何よりですよ」
「あたしにとっちゃ、お前らが悪だけどな。大体そういうもんなんだろ。自分が正義で他人が悪。誰も彼もが変わらねぇ」
こうやって話しながらも、深海千島棲姫は攻撃のタイミングを探していた。これまでは、揺さぶる言葉を語りながら攻撃するだけで、面白いように自分の思い通りに事が運んだ。そのおかげで、深雪に重傷を負わせ、電と白雲を退場させることが出来たと言っても過言ではない。
しかし、煙幕の中で改装された深雪は、その隙が一切無くなっていた。冷静で、冷酷。しかし、深海千島棲姫が動いてこないと、深雪も動かない。睨み合いとなっているだけで、戦いが止まっている。
どちらがきっかけを作るかとなっているが、少なくとも深海千島棲姫から作ることが出来なかった。もう今の深雪には
「お前の正義ってのは、人様のトラウマを抉って、罵って、ケラケラ笑いながら始末することなのか?」
真正面から、嘘偽りない感情で問いただす。対する深海千島棲姫は、表情を変えることなく答える。
「特異点を始末することが平和への道なんですから、手段なんて選んでいられません。どのような手段を使ってくるかわかりませんから。現に今、煙幕と共に全ての傷を癒やしてこの戦場に立っている。そんなことをするような相手に勝たねばならないわけですからね」
悪びれる様子もなく、躊躇うことすらなく、これが当然であると言わんばかりに、そんなことを宣った。改装前であれば、深雪はそれだけでも頭に血が上っていただろう。それほどまでに、清々しいほど自分の行為を棚に上げている。
沸々と、怒りが蘇る。だが、制御出来ない怒りではない。
「その結果が、そんな陰湿で陰険で正気を疑うような方法なんだな。お前の慕うヤツは、すげぇ性格が悪いわけだ。真正面から来りゃいいのに、お前みたいなヤツを使って遠くから悪口言わせてるんだろ。よっぽど性格が悪くないとそんなこと出来ねぇよ」
今まで言われたことを言い返すように、淡々と出洲を批判する。深雪の口から出るのは、これまで溜まっていた鬱憤でもある。
深海千島棲姫は、深雪のその言い分に明らかに気分を悪くしていた。信じる者が貶されることが腹立たしいと言わんばかりに表情を変えている。
そんな表情の深海千島棲姫を見て、深雪は追い討ちをかける。
「まさか、こう言われて気分が悪いとか言わないよな。さっきまでさんざんお前がやってたことだぞ。自分が言われて嫌なことを、相手を選んで言うのはいいってどういうことだ? あたしが特異点だから何をやってもいいってことか? あ?」
もう流れは深雪のものだった。これまで精神的に追い込まれていたのが嘘のようにひっくり返り、攻撃すらしていないのに有利な盤面を作っていく。3人がかりでもダメだった相手に対して、口だけで勝ちを拾いに行く。
「程度が知れてるっつってんだよ。そんな不公平を良しとしてる時点で、正義でも何でもねぇ。平和を目指してるっつっても高が知れてるぜ。だってそうだろ、これが罷り通るっつーなら、全部終わった後は独裁者だろ。やられたら嫌なことをやらかすってことだからか。民のことを何も考えずに、自分の言いように世の中を回すのなんて、あたしでもわかる。間違ってるなら言ってみろ。ちゃんと納得出来るようにな」
こちらの意思は見せた。だから、お前が正しいと思うことを言ってみろ。相手が薄雲の命を使っているとか関係ない。元人間の深海棲艦、カテゴリーYとしてのお前が何なのかを見せてみろ。深雪はそう深海千島棲姫に訴えかけた。
深海千島棲姫は、これだけ言われても、自分がダブルスタンダードになっていることに気付けていない。特異点を攻撃するのは良くて、同じことを教主にされることは許されない。それによって怒りが沸々と湧いてきている。
「貴女にはわかりませんよ。
「わかりたくもないね。人間や艦娘を騙して実験台にして、命を好き勝手に使って、やってることが何だっけか、高次の存在に至るだっけか。そもそもそんなことで至るとか意味がわかんねぇんだよ。高次って何だ。どんな命でも踏み躙れる権利か? 誰にも文句を言わせない権利か? そんなもん、こっちから願い下げだ」
それこそ当てつけのように、出洲をこき下ろす深雪。これまで薄雲であることを当てつけてきた深海千島棲姫なのだから、これで文句を言われる筋合いはない。
しかし、ダブルスタンダードな深海千島棲姫には、こういう物言いがとてもよく効く。これまではそんなことを言わせないくらいの猛攻で一方的に言葉を紡いできたが、同等、むしろ上位となった深雪相手では、もう自分の手番が来ないだろうとすら感じてしまった。
その時点でもう勝ち目がないことにも気付けていない。
「もうお前と話すことはないな。あたしの聞いたことに、お前は答えてくれないんだから。そんな不公平なヤツにゃ、何言っても、何言われても響かないんだからな。だから……もういいだろ」
主砲を構える。ここで不意打ち気味に撃たなかったのが、最後の温情。正々堂々とした戦いで、上から抑えつけてやると言わんばかりに、真正面から立ち向かうと宣言。
「かかってこい。さっきは後れを取っちまったが、もうそうはいかねぇ。ここでお前を終わらせる。覚悟しろよ」
こう話していて、何か心変わりしてくれるのならば、こうやって戦うことも無かった。これまでのことだって、辛いところはあるが水に流そうと思えば流せた。
だが、この深海千島棲姫は堕ちるところまで堕ちている。取り返しのつかないところまで行ってしまっている。これだけ言っても、自分達の信念が正しく、特異点が間違っていると言って聞かない。そして、何があっても命を奪おうとしてくる。
ならば、それに対して出来ることなんて1つしかない。もう、命の奪い合いで決着をつけるしかない。それが薄雲の命を使っていようとも、深雪はもう躊躇わない。その命を解放するために。
「余裕ぶってますが、私がそう簡単にやられるとでも?」
「やってみなきゃわからねぇだろ。ほら、来いよ。かかってこいよぉ!」
この怒鳴り散らかすような声色に、深海千島棲姫は無意識のうちに小さく震えた。そしてそれを自覚することは無かった。
深雪が深海千島棲姫と相対している近くでは、同じように1対1で刃を交えている2人がいた。
鍔迫り合いから一度離れたことで、深雪達に迷惑がかからないようにと、そちらではない方へと戦いの場を移動してきた神風。中柄はそれに乗る義理はないと思いつつも、今ここで視線を外したら持っていかれると感じたか、神風に専念することにした。
「貴女、相当な使い手よね。深雪の邪魔だけはしないでもらえないかしら」
神風はまだ中柄がどういう存在かを知らない。軍港都市の戦いでは、施設襲撃に参加していたため、顔を合わせるのは初めて。しかし、話には聞いていたため、神風も最初から本気でこの戦いに参加している。
深雪を守るためということもあり、なるべく速く動けるように缶とタービンに全振り。主砲すら積んでいない。そして、装備とは別の戦いが出来るように持っている刀。施設襲撃の際に使った模擬刀でも無ければ、船渠棲姫を始末した際に使った鉄パイプでもない、正真正銘の真剣である。
最初から中柄に狙いを定めた仕様であり、ある意味、正々堂々自分と相手の土俵で戦うことを狙った装備。それでも並の艦娘を超えた動きが出来るのだから、むしろ最善の手段として選択した。
「あの子は特異点かもしれない。でも、あの子は何も悪いことをしていない。いるだけで邪魔だなんて、間違っていると思わないかしら」
刀を鞘に納める神風。それを良く思わなかった中柄は、次の一手を封じるために素早く動く。缶とタービンで加速している神風と同等かそれ以上のスピードで接近したかと思いきや、居合のために納めた刀の柄を踏みつけるように蹴り込んでいた。あっという間にゼロ距離である。
対する神風は、そうされるのを超人的な瞬発力で判断したことで、柄を蹴られたとしても問題ないように、抜かずにそのまま押し返した。蹴りからの連続攻撃の方がまずいと判断し、居合ではなく刀そのものを鈍器のように扱って、両手の力で吹っ飛ばす。
如何に中柄であろうとも、神風のそれにはその場で耐えられることは出来ず、だからと言ってカウンターを狙うようなこともしない。
「慎重なのね。狙ってくるかと思ったけれど」
中柄が離れたことで、神風は改めて居合の構えを取る。今度は抜くぞと言わんばかりに。対する中柄はそれを受けてやると正眼の構え。
神風は知らないが、軍港都市では中柄はこのように構えることすらしなかった。つまり、神風を
「……そう」
その構えに神風はより真剣な表情を見せた。あえて受けると構えた中柄が、本当に洒落にならないくらいの達人であることはもう理解している。本来ならば真正面から突っ込むのはよろしくない。誘われているようにすら感じる。
しかし、ここで躊躇った場合、中柄は容赦なく神風を放置して深雪の方へと向かう。それだけは避けなくてはならない。自分に注意が向いているときこそ、相手の誘いに乗ってでもこの場に押しとどめておかねばならない。
「その誘い、乗らせてもらうわ」
海面なのに、ダンと踏みつける音が聞こえたような気がした。その瞬間、神風は一気に間合いへと飛び込み、刀を抜いていた。
海戦中とは思えないほど小気味良い金属音が鳴り響いたかと思いきや、中柄の握る刀が天高く弾き飛ばされていた。ここが追撃の隙。神風は間髪容れずに刀を返し、二撃目を入れようとする。
しかし、中柄はその時にはもうそこにはおらず、弾き飛ばされた刀をキャッチするために海面を蹴っていた。
刀を弾かせたのはわざと。そのまま受けていたら、刀ごと斬られていた可能性があったため、より勝機のある手段を選択している。
すぐさま刀を手に戻した中柄は、即座に切り返し、神風に襲い掛かる。居合を終えた神風に、もう一度刀を納める隙を与えない。
「いいわ、貴女はずっと私の相手をしてちょうだい。深雪は守り切るわ」
神風すらも拮抗する相手である中柄。それを引きつけておかねば、深雪が危ないのは目に見えている。
神風は、ここで本気を出し続けるだろう。明日以降のことは、何も考えていない。
支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/112818161
投稿開始5周年記念として、全主人公集合絵をいただきました。この中でも深雪は一番の新人。他の主人公達に追いつくことは出来るでしょうか。類稀なる力を持っているのは間違い無いんですけどね。
リンク先に各々のアップがありますので、是非ご覧ください、