「もう! ボクは特異点の方に行きたいのに!」
憤慨する小柄なカテゴリーK。それもそのはず。深雪の覚醒を見たことによって興味がそちらに向いたのも束の間、真っ先にそれを妨害したのが、うみどりから飛ばされる加賀の艦載機。これまで時雨達駆逐艦しか相手にしてこなかった分、急に現れた航空戦力は、攻略難度を一気に上げる要素となる。
それなりの高度から繰り出される爆撃は、その練度の高さが頷ける精度をほこり、近くにある潜水艦は勿論、爆発によって時雨達が巻き込まれないように緻密な計算が逐一繰り返されている。
対するカテゴリーKは、ぷんすかと怒りながらもその爆撃を全て回避し、艤装と手に持つ主砲によって時雨達を狙いながらも潜水艦をさらに破壊していく。
文句を言っている割には、ただ深雪の方へと行けないだけで、やることに対しての妨害がしきれていない。少し攻撃が緩慢になった程度。
「こんなことで癇癪を起こすだなんて、君は戦いのことをなんだと思ってるんだい」
そんな小柄を見て、時雨が呆れたような口調で問う。
あくまでもゲーム感覚であり、自分の思い通りにならないことに憤っている小柄は、良くも悪くもただの子供。戦場に似つかわしくないとすら感じる。
勿論、艦娘にも似たような外見の者はいる。海防艦は小学校の低学年ほどの外見であり、その中でも丁型と呼ばれる型の者達は特に幼い。
しかし、艦娘である以上、命の奪い合いを遊び感覚でやらせるわけにはいかない。戦いに身を置くことになったとしても、
小柄はそんな時雨の問いに対して、一瞬キョトンとした顔をする。なんでそんなことを聞くんだろうと、心の底から思っている表情。
「だって、
あまりにも子供、そして虚構と現実の区別がついていない異常者。
幼い頃からそのように
この小柄には、人間性というものがカケラも無かった。知恵がある分、本能のままに侵略を続ける深海棲艦よりもさらにタチが悪い。むしろ、深海棲艦の方が善良だと思えてしまう。
「なるほど、力を与えられて、全て力業で解決してきたわけだ。この世界をゲームと思い込んで、自分達の命以外は虫ケラのようにしか思っていない」
「虫ケラだなんて思ってないよ」
「じゃあ何なんだい?」
「
ゲーム感覚ここに極まれり。敵のことを経験値だと思っているとは、流石の時雨も思っていなかった。
強者と戦うことは、ただこのゲームの難易度を上げて楽しもうとしているだけ。自分の命が危険に晒されるというのに、それすらもゲーム感覚で楽しんでしまっている。残機1の縛りプレイか何かと考えていそうだ。
もう呆れて何も言えなかった。怒りや憎しみすら超越するほどに、その存在が馬鹿馬鹿しく思えた。
「……こんなヤツのために、同志ガングートの命が使われているというのかい?」
しかし、小柄の言動に最も苛立ちを持った者がいる。この小柄に使われている艦娘の命──第一世代のガングートのことを同志と呼び慕っていたタシュケントは、ガングートの高潔な精神をこんな
「命を搾り取られただけでも気に入らないのに、それをこんな、こんな気が狂った奴に使われているだなんて、同志があんまりだ。こんなんじゃ浮かばれない」
拳を強く握りしめ、その溢れ出す怒りをギリギリで押し留めている。だが、我慢の限界はもうすぐそこだ。
それを見越したグレカーレが、タシュケントの頭を軽くはたく。
「いたっ、何をするんだい!?」
「落ち着けっての。あたしもアンタの気持ちわかるけど、そこで理性がトンだら相手の思うツボだよ」
グレカーレも、マエストラーレの命が使われた船渠棲姫を知っているため、タシュケントの気持ちは痛いほどわかる。その時はグレカーレ自身も暴走しかけたが、深雪と電のおかげでどうにかなった。
今度は自分の番と、自分なりのやり方でタシュケントを落ち着かせる。戦闘中であるため、深呼吸をさせるとかは流石に出来ないものの、気持ちを別に向けさせるためにはたいたりつついたりする。
「ちょっ、や、やめてくれないかい!?」
「怒り任せに突っ込まないならやめたげる。そうじゃなかったらもっと危ないところに触るよ」
指先が徐々に胸の方に向かっていったところで、グレカーレは本気だと確信してしまった。タシュケントはわかったわかったとグレカーレにやめさせる。
こんなことはグレカーレだから許されること。そうでなければタシュケントはその場でキレている。
「真正面からぶつかっても勝てる相手じゃないことくらいわかるでしょ。気分悪いけどそれが
「本当に気に入らないけどね」
「だから、うみどりのみんなと協力しなくちゃね。ほら、みんなが来てくれたよ」
グレカーレがタシュケントに見るように促した。そちらからは、次々と増援が駆けつける。
まずやってきたのが、深雪と話し、こちらの方が危険であると言われたことで参戦を決めた子日。さらには、艦載機をさらに連打出来るように現地入りした加賀や、一度小柄に敗北を喫しているためリベンジに燃える長門といった、錚々たるメンバーが集まりつつある。
「おっまたせー! みんな無事!?」
その子日が早速、時雨の隣へ。
「無事に見えるかな」
「思ったよりはね。うひゃあ、すっごいねぇ、あの子供」
「子日はあの時、施設襲撃だったね。本当に半端じゃないよアレは」
余裕は無いものの、まだそういう発言が出来るということで、時雨は無事だと理解する。
「援護、いるよね」
「当たり前じゃないか。見てわかるだろう」
「もっちろん! 一応聞いただけだよ♪」
駆けつけてすぐ、子日は小柄に向けて主砲を向けた。両手を包み込むように装備されたそれを、まるで格闘技のように前に構え、そして躊躇なく放つ。
相手が子供であろうが関係ない。仲間を傷つける者には容赦せず、その場で終わらせるために力を振るう。
「うわ、うわ、また新しい敵が出てきたよ! 増援無限湧きとか酷くない!?」
「酷くないよー? ここはそういう難易度だからね」
小柄の話し方に合わせるように、子日は返す。ゲーム脳にわかりやすく、ここから帰れと言わんばかりに。
「ノーコンティニューでクリアしなくちゃいけないんだからさ、一度立て直したら? 悪いことは言わないから」
「何言ってんのさ! ボクはまだまだ負けてないでしょ! 負けそうになって強がり言ってるんだ。そういうイベントだよねコレ」
「負けイベントで死ぬキャラもいるでしょ。今の君、それになろうとしてるからね」
負けるつもりなどないため、あくまでも強気に語りかける子日だが、小柄は自分が主人公であるという思想を捨てるわけがないので、子供っぽくムキになっていくだろう。
それはより力を発揮させるということに他ならない。今のままでも相当だが、小柄はここまでしてもまだ真の力を発揮していないように見えた。本気で行くと宣言しながらも、力を温存しているのが丸わかり。
故に、子日はまずそれを引き出そうとした。ここで勝てなくても、小柄の真の力がわかれば、次に対処出来る。まずは生き残ることが先決ではあるが。
「子日、君が何を言っているのか僕には少しわかりにくいけど……いい、煽りだね」
「現実を教えてあげないとダメだからさ、心を鬼にして、ちゃんと教えたげないと、ね!」
小柄からの砲撃は軽々と避け、お返しに両手で連射。しかし、その砲撃は艤装から生えた剛腕で弾かれてしまう。攻防一体の艤装が非常に厄介であり、あれをどうにかしない限り勝ち目は薄いと言える。
だからこそ、リベンジに燃える長門がここに来ていた。砲撃によってあの腕をもぎ取れるのは、最大級の戦艦の砲撃以外には無い。
そこに加賀が艦載機を被せる。上からの爆撃、正面からの砲撃。これが重なれば、回避方向は固定される。
「長門、合わせるわ」
「頼んだぞ加賀。よし! 撃てぇーっ!」
時雨や子日が視線を奪い、その外から長門が砲撃。さらには加賀が艦載機をより多く発艦させて意識の方向を滅茶苦茶にする。
「ああもう! 今度はこっち!?」
小柄の実力が相当なのはわかっている。その長門の砲撃は回避、時雨と子日の砲撃は腕で弾き、加賀の艦載機にはなんと新たな兵装である機銃が
小柄はあらゆる場所に兵装を仕込んでいると言ってもいいのだろう。それが能力と言っても過言ではない。本来積載出来る量を軽くオーバーし、質量保存の法則すら無視する特殊能力。カテゴリーKならではと言ってもいい、艤装の拡張ではなく新たな力。
「同時攻撃とかクソゲーじゃないの!?」
「君は死にゲーとかやったことないのかな。敵の行動を死んで覚えるの。でも、それは敵の攻撃がいつも全く同じだから通用するんだ。子日達は生きてるんだから毎回同じことをするわけがないし、そもそも君は、死んだらおしまいなんだよ?」
子日の言葉が、小柄に初めて響きかけた。
「この世の中はゲームじゃないよ。だからまず、君は目を覚ました方がいいね」
「子日の言う通りだ。でも、どうせ覚める目を持っていないだろう。だから、ここで終わりになってもらわないといけない」
砲撃の連射は止まらない。小柄も追い詰められている。このまま押し込めるとは思えないものの、さらに強く出れば、腕の一本くらいは持っていける。そう確信した。
しかし、
「ここで終わるわけないじゃん! せっかくだし、クソゲーでも楽しんでクリアしてやるって思ったんだから!」
ゴテゴテの艤装がさらに変化を見せる。北方水姫の両腕とは違う、艤装のさらに下。尻の辺りからガチャガチャと音を立てて生えてきたのは、おおよそそこに収納していたとは思えないくらいの大きさを誇る尻尾。
その先端には怪物の頭のようなモノがついており、主砲どころか甲板まで備えていた。場所的にも
「うわお、見た目通りレ級の尻尾生やしてきたよ! でも、それならそれで好都合、だよね!」
子日はまるで態度を変えず、合図を送るように海面を三度タップ。その瞬間、小柄の真下から、猛烈な速度で魚雷が浮上してきた。
子日、加賀、長門とこの戦場に到着した時、もう1人この戦場に来ていた。三次元での攻撃を可能とするためには上だけではなく下が必要だったから。
そのため、伊203が海中でスタンバイしており、子日からの合図を待っていたのだ。前後左右からの攻撃に加え、上からの爆撃、そこに下からの雷撃も加える。六方向からの同時攻撃は、流石の小柄も簡単には回避出来ない。
「えっ……う、うわぁ!?」
初めて明確に小柄が悲鳴を上げる。そして、小柄を中心に大爆発を起こすこととなった。