後始末屋の特異点   作:緋寺

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互角の剣術

 多くの仲間達が小柄を、深雪が深海千島棲姫と相対している時、神風もまた中柄と激しい戦いを繰り広げていた。

 互いに刀一本のみを使う、おおよそ艦娘と深海棲艦の戦いとは思えない激闘。砲撃の爆音は一切無く、代わりにあるのは刃と刃がぶつかり合う金属音。

 

 しかし、神風は100%の力を出すことが出来ない。彼女の真骨頂は居合であり、本気の一刀を決めるためには、一度刀を鞘に納める必要がある。中柄は膂力もさることながらスピードも並ではなく、刀を納めている間には接近されており、もうそこから刀を抜かせてもらえなくなりそうだった。

 現に一度、その居合を受けた後からは、中柄の猛攻が続き、二度目の居合が出来るタイミングが一度も来ていない。居合を受けたことで刀が弾き飛ばされたこともあり、神風の好きにはさせないつもりのようである。

 

「……強いわね」

 

 居合が出来ないとなれば、今は刀を両手で握り、中柄からの攻撃を華麗に捌きつつ、反撃の隙を窺っていた。

 

 中柄の剣技は、神風に勝るとも劣らない。神風も独学だが、中柄もおそらく独学で手に入れた技。しかしスタイルが違い、一撃必殺に長けた居合の神風に対し、一度抜いたら裸の刀を振り回すかなり乱暴な中柄。

 しかし、MAXの力を発揮するためには一度ルーティンを挟まなくてはならない神風と違って、若干乱雑であってもそのまま動き続けられる中柄では、攻撃の頻度がまるで違う。その上、スピードで言えば互角か、中柄の方が上と来た。

 こうなると神風は守りに徹する時間が増え、中柄がガンガン攻め立てることになる。回避は出来ているので全くの無傷ではあるのだが、攻撃出来なければ意味がない。

 

「その技、何処で覚えたのかしら」

 

 力強く振り下ろされる刀を滑らせるように払いつつ、中柄に問う神風。しかし、中柄は徹底して無言。

 基本的には無口であり、何を言われても反応すらせず、黙々と神風を殺すために行動し続ける。振り下ろし、払われた直後に手首を返し、真上からの攻撃が真横からの攻撃へと変化。神風は無理にでも守ろうとし、体勢を崩されかける。

 

 中柄は、とにかく刀の扱いが器用。それでいて、かなり強引な剣線の変更までやってのける。力業も力業なのだが、それが成立するくらいの力を持っているのだから厄介極まりない。

 深海棲艦としての、いや、カテゴリーKとしての身体の造りが、これだけの力に耐えられる程に強靭なのだろう。神風が同じことをやろうとしたら、間違いなく身体の何処かを傷める。

 

「っ……」

 

 強引な剣線の変更に対応したせいで、神風はその場から移動せざるを得なくなった。グラリとふらついてしまったため、ステップを踏むように少しだけ間合いを取る。

 すると、中柄は何の迷いもなく接近を選択。刀を持ち直し、真っ直ぐに神風を追撃した。

 

「くっ……まだまだ私も未熟ってことかしらね」

 

 面でも胴でも突きでも、神風は同じ条件下で軽々といなしていく。守りに徹した時の神風は傷付くことはない。

 だが、攻撃出来ない現状を、神風は歯痒く思う。受けにばかり専念させられて、未だに最初の一撃以外で攻撃がまともに出来ていないのだ。

 

 中柄も、自分の持ち味の活かし方をよくわかっている。カテゴリーKという普通ではない身体が持つポテンシャル、特に中柄独自であろうフィジカル面での特異性を前面に押し出す、力任せなようで力任せではない、的確な一撃を叩き込んでくる。

 神風が中柄に勝っている点は、その攻撃を全て動体視力と、そう決めた時に身体を動かすことが出来る瞬発力。それがあるからこそ、中柄の攻撃を確実にいなすことが出来ていた。

 

「貴女は何を以てこんなことをしているわけ?」

 

 中柄の攻撃を回避しながらも、問いは止めない。冷静で、冷酷で、残酷なこの剣士の思想を知っておきたかった。

 

 並ではない神風は、こうやって戦っていれば相手の()()がある程度はわかった。戦いを楽しむ者、戦いに必死な者、戦いが嫌な者、そういった感情は誰にでもある。

 中柄からも1つの感情を見ることが出来た。目的のために容赦をしない非情な心。楽しんでもいない。嫌でもない。必死でもない。与えられた仕事を淡々と片付けるかのように力を振るう。

 その心を隠すのが上手いのか、それとも本当に何も考えていないのか。神風にはそれが読み取れなかった。とにかく、その力が尋常ではなく、そんな感情であっても神風と互角に戦えるだけの技量まで兼ね備えている。

 ただし、神風のことを認めているのはわかる。そうで無かったら、ここまで正面から打ち合わない。神風を脅威として認識しているからこそ、ここで始末しておかねば後々問題が出てくると考えている。故に、他の者達の戦いには参加せず、神風との戦いに専念している。

 

 神風が中柄を食い止めているのと同様、中柄も神風を食い止めている。

 

「私を他に行かせたくないということ?」

 

 剣術だけでは拮抗から前に向かえないと考えた神風は、ここで思い切って戦術を変える。その猛攻を受けながらも、さらに接近をし、剣術ではなく体術までもを駆使し始めた。

 

 神風は何も剣術だけで今の力を手に入れたわけではない。やれることは何でもやり、最も得意なのが剣術であるというだけ。中柄にそれで敵わないかもしれないと考えた瞬間、臨機応変に戦術を変えることが出来る。

 神風の見立てでは、中柄は本当に剣術一本だ。持ち前のフィジカルを全て使った、技も何もない強引な攻め手だけで突っ込んでくる。それが圧倒的過ぎるために誰も敵わなかったが、神風ならばそこの()に気付くことが出来る。

 

「ここ!」

 

 振られた刀を受け流し、懐に潜り込んだ瞬間、綺麗なカーフキックにより脚を蹴り飛ばす。

 

 中柄は外見的には正規空母赤城に近い見た目をしている。巫女服のような弓道着のような、とにかく装甲らしきモノが装備されていない超軽装。背中の艤装だけで剣術を繰り出す神風が言えたことではないが、膂力と速力だけで押し込むからか防御力のことは何も考えていない。

 故に、この蹴りは間違いなく中柄にダメージを与える。そう思っていた。

 

「……なんて身体してるのよ貴女」

 

 しかし、そうしたとしても体幹は一切ブレることはなく、痛みを感じているような顔もしない。当然、見た目も無傷。むしろ神風の方が痛みを感じる程だった。

 まるで鉄骨を蹴っているように錯覚した。海面に張り付いているのではないかとすら感じた。それだけ、この中柄の力は異常だった。

 

「逆に聞くが、貴様は何者だ」

 

 初めて中柄が口を開いた。神風も少し驚きつつ、その攻撃を再びいなす。話すためか、ほんの少しだけ攻撃に加わる力が弱くなっていた。それでも並の者なら抑え切れずに叩き斬られるだろう。

 

「私はしがない艦娘よ」

「そうは思えん」

 

 強く身体を捻り、吹き飛ばすレベルの一撃を当てた。神風がその一撃でやられないことを理解しておきながら、あえて一度間合いを取る。居合を放たれることも見越して。

 

「これほど苦戦するのは初めてだ」

「あらそう? それは光栄ね」

「故に、ここで貴様は始末せねばならん」

 

 再び、正眼の構え。居合で来いと言わんばかりの待ちの構え。

 

「来い。貴様には手を抜けぬ」

「これまで手を抜いてたって言うわけ? ちょっとショックよ」

 

 対する神風も刀を鞘に納め、居合の構えへ。柄を強く握り、息を整える。

 

 だが、ここで神風も中柄も思わぬ音が戦場で鳴り響いた。

 

「えっ……う、うわぁ!?」

 

 小柄の悲鳴。そしてとんでもない爆発音。思わず2人ともそちらを見てしまう。

 そこは、うみどりと潜水艦の連合軍が小柄をどうにかしようと集結し、たった今、全員の攻撃が全て放たれた。

 

「……っ」

 

 初めて中柄の表情が変化した。神風にはその表情──()()に覚えがあった。

 

「預ける」

 

 一言だけ呟き、その戦場から離脱する中柄。これまでとはまるで違うスピードで小柄の元へと駆けつけようとした。

 神風はそれを阻止しようか一瞬本気で悩んでしまった。その()()のせいで、どうしても躊躇いが出てしまった。しかし、逆の感情もあるため、複雑な表情になる。

 

「あいつ……まさか……!」

 

 躊躇ったものの、やはり追わねば悪いことになりかねない。そのため、すぐに思い直してその背を追った。

 

 

 

 

 仲間達の集中砲火を受けた小柄。空襲、砲撃、雷撃を全て受けたことで、簡単には回避出来ない攻撃を全て受けることになった。

 

「……まだ油断はしないよ」

 

 これで終わったことを祈りながら、時雨が爆炎を見つめる。あれだけの攻撃を叩き込まれれば、普通なら身体すら残らないはず。それなのに、まだ油断が出来ないのがカテゴリーKだ。

 そもそも北方水姫とレ級の艤装の混成であることはわかっているが、2つ混じっているなら3()()()()()()()()()()()だってあり得るのだ。

 

「ああああっ、もう! 何するのさぁ!」

 

 やはり、小柄の声が向こう側から聞こえた。無傷かどうかはわからないが、それでもまともに話せるくらいというのが問題。

 しかし、少し気になるのが、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……厄介だね、アレは」

 

 タシュケントが呟く。そして、爆炎が晴れたとき、その正体がわかった。

 

 そこには、()()()()()が鎮座していた。

 

「なんだいアレは……」

「アンツィオ沖棲姫の艤装だね。見た通り、装甲がとんでもないんだ。アレも全部耐えるとは思ってなかったけどね」

 

 アンツィオ沖棲姫はここにも現れたことがある深海棲艦。J級駆逐艦の魂を持っているであろうことがこれにより判明。

 しかし、あれだけの攻撃を受けたことで、装甲は目に見えてボロボロ。守り切れているだけ充分と言えるほど。

 

「ズルいズルいズルいーっ! 寄ってたかって撃ってくるなんてズルいーっ!」

 

 子供っぽく癇癪を起こす小柄に、全員が呆気に取られる。これだけのことをやっておきながら、集中砲火を受けたことを怒るというのが、本格的に子供。蹂躙出来ないと面白くないと言わんばかり。

 強い敵と戦うことは楽しいが、包囲されて一方的に嬲られるのは気に入らないという、完全なゲーム脳。一発クリアが出来ないゲームなんていくらでもあるのに、それが許せないというワガママ。

 

「何もズルくないよ。君だって無双ゲーくらい知ってるんじゃない?」

 

 そんな小柄に子日がわかりやすく説明する。今の状況はズルいなんてことはない。むしろ、リアルなのだからこうなるのが当たり前。どちらも命懸けなのだから。

 

「チートして楽しむなんて、それはゲームを楽しんでるのとは違うよ。自分の実力を伸ばして頑張らないとね。装備だけ強くてもダメ」

 

 これまで小柄も力業でどうにかしてきたのだろう。そしてここで初めて、力業だけではどうにもならない相手に出会ってしまった。

 戦場で癇癪を起こすのも初めてなのだろう。声に涙が交じっている。

 

「そんなのおかしい! ボクは必ず勝つゲームをやってるのに!」

「ここはゲームじゃなくて現実だから」

 

 子日はハッキリと否定した。そもそも絶対に勝てるゲームなんてない。これまで何処まで簡単なゲームをやり続けていたというのだ。それだけでも呆れてしまう。

 とはいえ、これだけの攻撃を受けても未だに無傷というだけでも困ったもの。艤装が3種類あることがわかっただけでも僥倖ではあるのだが。

 

「考え直すためにも、出直してみない? コンティニュー出来る時にしておかないと、絶対に後悔するよ」

 

 言い聞かせるような口調だが、小柄はまともに取り合わない。もうダメかとすら思ってしまう。今を乗り越えるためにも、せめて撤退してもらいたいし、出来ることなら終わらせたい。

 

「うううううっ! クソゲーだよこんなのぉ!」

 

 まだ無傷なのにもかかわらず、泣き言ばかり。精神が幼過ぎることがよくわかる。

 

 

 

 

 だが、この泣き声を聞きつけたことで、この戦場に猛烈なスピードで乱入する影が現れた。

 

「大丈夫か」

 

 神風との戦いを蹴ってまで、小柄の元へと駆けつけた中柄。1人でもキツいのに、2人を相手にするのはもっと厳しい。

 それなのに、さらに驚く言葉が紡がれた。

 

 

 

 

「あいつら酷いんだ! ボクのことイジメるんだよ! 助けて、()()!」

 

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