後始末屋の特異点   作:緋寺

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見えない彩

 潜水艦の面々を受け入れたうみどり。伊豆提督とイリスが簡単に施設の説明をし、基本的には好きに使ってくれて構わないと自由を提供した。

 これまで長い年月を潜水艦という閉鎖空間で生活していたことを考えると、艦内とはいえ海上での生活というのは、それだけでも充分すぎるほど明るいモノだった。

 

「あたしが寝てる間にトントン拍子で決まってたみたいだね。みんなが来るものだから驚いちゃったよ」

 

 そんなことを言うのはタシュケント。潜水艦の今後についての話に唯一参加していなかったため、その意見は完全に丹陽の耳には届いていない状態である。

 とはいえ、潜水艦の中では一番初めに深雪のことを信用した艦娘ということもあり、丹陽の意見には考えるまでもなく賛成していた。戻るべき場所は破壊されてしまっているわけだし、人間に対して不信感がもう失われているのだから、うみどりが受け入れられないわけがない。

 

「ボスがどんどん決めていってしまって……。久しぶりですよね。こんなに振り回されるのも」

「久しぶりというか、初めてじゃないかい?」

「私がボスの体調を見るようになってからだと、初めてですかね。もっと前は、意外とやんちゃでしたよあのヒト」

 

 そんなタシュケントと話すのは明石。今の丹陽は、自分の脚で散策したいと、他のカテゴリーB達と共にうみどりを歩き回っているらしい。明石は潜水艦の面々の艤装の管理方法を見るために工廠に残っており、タシュケントは潜水艦内の手荷物を持ってきていたところだったため、たまたま目についたというところ。

 

「ここの人間達はいい奴ばかりだろう?」

「そうですね。人間だけじゃなく、深海棲艦もいましたけど」

「アレにはあたしも驚いたよ。しかも飴までくれたんだよね。手製の」

「私はお饅頭でした」

 

 やはりというか何というか、食堂では例外なく驚きの声をあげていた。中身は完全に人間であるカテゴリーYであっても驚くが、まともに接すると人間の要素すら含まれていない純粋種の深海棲艦であるセレスを相手にするとどうしても警戒心が強くなってしまう。しかも、その深海棲艦が笑顔を見せながら手製のお菓子などを渡してくるのだ。毒か何かではと思ってしまうくらいに怖い。

 実際はただただ絶品な甘味。これまでの食生活が酷かった潜水艦勢ならば、この甘味一つでノックアウトである。セレスはいい人だというイコールの式が誰もに植え付けられた。()()()()()()()()()

 

「慣れるまでには時間がかかりそうだけど、まぁここにいるってことは誰にも危害は加えないことが確約されているようなものさ。少なくとも、あたしは信じようと思う」

「そうですね。少なくとも見えている範囲の人達は全員信用出来ます」

 

 うみどりの信頼は、確実に掴めている。潜水艦の面々に慣れてもらわねばならないところは多くあるものの、その生活で不満が出ることは間違いなくないだろう。もし出たとしても、丹陽が封殺しそうではあるが。

 

「……ここだけは、世界観が全然違うように見えますよ」

 

 丹陽がいないからか、明石が落ち着いたような雰囲気で話し始める。そんな明石の姿をほとんど見たことがないタシュケントは、クスリと笑って同意する。

 

「ここと交流出来るようになって、ボスも明るくなりましたからね。元気になりすぎて違う意味でハラハラしますが」

「アカシ、一番振り回されてるもんね」

「私はただの専属医だったはずなんですけどね。まさかここまでお姫様抱っこさせられることになるなんて思いもしませんでした」

「そんなことさせたのかい? あたしそのときドックだったからなぁ。是非とも見てみたかったよ」

「ストレスで胃に穴が開くかと思いましたよ」

 

 それもこれも、全てここで特異点──深雪と出会ってからだと、2人は声を合わせた。

 

「同志ミユキと出会えたから、ここまで来れたんだろうね」

「ボスが言ってましたけど、私達は今までずっと停滞していました。それは正直、自覚しています。先に進めようとしているのに、何も出来ていなかった。だけど、これまで止まっていた分が一気に進んだ気がします」

「そういう意味でも、同志ミユキは特異点なのかもしれないね。周りを進めてくれるってことでさ」

「確かに、言い得て妙ですね。私達は彼女と出会って、文化が一変しました。()()()()()()と言っても過言ではないでしょうね」

 

 故に、誰もが深雪を信用している。丹陽は特にだ。深雪がいてくれたからこそ、停滞し続けていた、下手をしたらこれからも停滞し続け、緩やかに滅んでいく潜水艦のカテゴリーBが、一気に前進することが出来た。

 本当にやりたいことをやれるようになるためには、外部からの刺激が必要だったのだと痛いほど理解した。海中に篭り続けていたら、ここまで明るい世界には戻ってこれない。文字通りジメジメした空間で一生を終えていたと思うと、途端に怖くなる。

 

「今はこの生活を楽しませてもらおうよ」

「そうですね。私達の知らないことが沢山ありますから、堪能させてもらいますよ」

「あたしとしては、もっと陽の光を浴びたいね」

「言えてます。ここのデッキ、多分人気になりますよ。飽きるまで日向ぼっこしてそうです」

「否定出来ないなぁ」

 

 タシュケントも明石も、人間との交流には非常に肯定的だ。特にタシュケントは、拗らせ続けていた30年をいち早く脱却させてもらったこともあって、深雪には強く感謝していた。

 

 

 

 

 噂の深雪だが、現在は入渠中。前代未聞の海上での改装ではあるものの、その性質としては普通の改装と同じで、それまでの傷も疲労も全て失われていた。しかし、その後の戦闘と、神風の救助で、思った以上に消耗していたらしく、入渠もしっかり機能していた。

 身体自体は治療しなくてはならないようなところはない。しかし、深雪が自覚していないところに疲労が蓄積しており、ただ身体を休めるだけでは全快とはならなそうではあったため、念のための入渠は非常に効果的。

 

「身体としては、上から下まで普通の艦娘ね。失った左腕が生えてきたと深雪は言っていたみたいだけど、それも別に何か違うというわけではないわ」

 

 伊豆提督とイリスが入渠中の深雪を調査していた。深雪自身の望みであり、何かおかしなところがないかは知っておきたいというのは伊豆提督達も同じ。

 

 ドックの中の深雪を、妖精さん達が事細かく確認しているのだが、それで得られた情報は、これまでと何も変わらないということ。煙幕によって生成されたかのように再構築された左腕も、深雪の身体の一部であるためか、普通に艦娘の器官として成立しているという見解。

 

「深雪ちゃんの特別な力は、内面にあるという感じかしら」

「そうね……おそらく。ただ、妖精さん達としては、内側も外側も普通の艦娘としか思えないみたい。だから、特別な力みたいなもの……身体の内側から溢れ出た煙幕が、何処由来なのかが全くわからないというのが、今わかる限界かしらね」

 

 外見は勿論のこと、その肉、骨、内臓、脳に至るまで、出来る限りの調査を続けているものの、やはり何もわからないというのが現状。

 そうなると、思いつくのは1つ。伊豆提督はそれを口にする。

 

「あり得ないことかもしれないけれど、何処かに深雪ちゃんの力の源になるようなものがあって、深雪ちゃんがそれを使いたいと願ったことで、深雪ちゃんの内側にそれが移動してくる……みたいなことがあるのかしら」

「奇想天外すぎると思うけれど」

「アタシだってそう思うわよ。でも、妖精さんの技術として、何も無いところから弾薬や魚雷を装填するのよ? 深雪ちゃんの身体は、それこそ()()()()()()みたいになっている……なんてことは」

 

 深雪のやっていることは、現在の常識の斜め向こう側だ。ならば、予想も斜め向こう側に行かねばならないだろう。突拍子もないことが、実際大正解であることも考えられるのだ。

 特に今、伊豆提督だけは深雪の力が何かに近づきつつある。願いを叶える力という、ファンタジーにも程がある特別な能力を持ってあるのならば、その力の源だってファンタジーになってもおかしくはない。

 

「妖精さん自体からも管轄外の兵装だって生まれてるのよね。そういう意味では、深雪自身が()()()()()()()()()()()になっている……いや、だったら艦娘判定が難しいか。なんだかこんがらがってきたわ」

「本当にね。不思議が多いこと多いこと」

 

 イリスも考えがとっ散らかってきてしまっていた。

 

「丹陽ちゃんは、深雪ちゃんのことを全ての要素が混ざり合った存在ではと予想していたのよね。それは、アタシもそうなんじゃないかと思い始めてるの。彩が白ってことは、()()()()よね」

「ええ。私の目にはそう見えるわ」

「本当に、本当に全ての要素が混ざっているなら……()()()()()()()も混じってる……なんてことはないかしら」

 

 人間、艦娘、深海棲艦、そして()()()()と、4つの彩が混じったからこその白というのは無いのか。伊豆提督はそれを考えた。

 

「イリス、妖精さんの彩ってどうなのかしら」

「妖精さんはどの彩にも属していないわ。カテゴリー無し。それこそ、植物とかと同じ……あ」

「イリス?」

 

 ここでイリスは1つ気付いた。

 

「私、他人の彩が見えるってずっと言ってるわよね。人間が緑、艦娘が青、深海棲艦が赤」

「ええ、ずっと聞いてるし、勿論信じてるわ」

「いわゆる光の三原色……RGBで見えてるの。でも、その色には()()()()()()()があるのよ」

 

 RGBだけでは表現出来ないもう1つ。色の三原色には存在しない、たった1つの要素。

 

「A……()()()のことをすっかり忘れてた。その彩は、透明だったのよ。見えないに決まってる」

 

 イリスにしかわからないその感覚だが、自分もそうやって見えていたとして、伊豆提督は親身になって聞いている。

 色という要素は三色から成立している。しかし、ただ塗るだけでは変えられない部分が存在する。それが透過度。そこにあるけど見えていない色。それがAだ。イリスの見解では、妖精さんだって彩を持っているのだが、それが()()であるために、その目に映っていなかったのだ。

 

「仮にカテゴリーA……Aerial(空想)としましょう。深雪は、それすらも内包してる。見た目も中身も艦娘かもしれないけど、全ての要素を内包しているなら、深雪は艦娘であり、深海棲艦であり、人間であり、()()()()()()()()

 

 イリスの仮説は、あまりにもこれまでの考えから逸脱している。そもそも丹陽の言葉もあくまで仮説。それが正しいわけではない。ただし、それが正しいのならば、この仮説も正しく感じる。

 

「私の見解、どうかしら」

「アタシは勿論信じてるわ」

 

 見えないモノをあると仮定するのはなかなか難しい話ではあるのだが、そもそも彩が見えているのがイリスのみであるため、伊豆提督は全て信じる他ない。それに、イリスが嘘をつくだなんて思っていないため、この言葉もそのまま信じている。心の底から。

 

「それに、アタシも信憑性があると思うわ。()()()()()だって、あってもおかしくないもの」

「そうね。私も見えるモノしか考えてなかったわ。今はこの線で考えておきましょう」

 

 

 

 

 全ての要素を持つ深雪に妖精さんの要素が加わっているとなれば、いろいろなことが辻褄が合いそうである。ただし、その妖精さん自体が非常に謎が多い存在。結局は謎のままである部分は多そうなのだが。

 




いわゆるカラーモデルというモノですが、RGBAというのは割と何処でも使われていますね。アルファ値という透過度が存在しているので、RGBを設定したところでAが0ならその色は見えません。
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