後始末屋の特異点   作:緋寺

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ネガティブに前を向き

 敵とはいえ、人間を殺してしまったという事実によって悪夢を見てしまった深雪は、丹陽と神風に悩みを打ち明けた。

 それに対する2人の考え方は、既に敵のカテゴリーYは人間を辞めているため、躊躇せずに命を奪う、というもの。そもそもやらなければやられるという状況にされているのだ。精神攻撃まで仕掛けてくる敵を始末することを躊躇して、その毒牙が仲間にまで及んでしまうことの方が辛い。ならば、仲間の命と、あくまで元人間である敵、どちらに天秤が傾くかという話になる。

 

 それでも、深雪には簡単に割り切れる話ではなかった。命を奪うことに対して、そんな簡単に割り切ってしまってもいけない。

 

「そろそろ電が終わるみたいね」

「……だな」

 

 今はこの悩みは一旦置いておいて、電達の目覚めを待つことにした。せっかくならば、起きた2人と共に朝食に向かいたいと思っている。

 神風もどうせならと深雪と共に電の入渠終わりを待っていてくれた。今の深雪は、独りにするのは危ないかもしれないという気持ちもあったため。

 

 深雪にとっては、自分のことも当然悩みになるが、電や白雲に何かあった時の方が怖いと感じてしまう。なので、完全に治り、目が覚めたところで精神的にも大丈夫かを確かめておきたいと考えた。

 こういう時の深雪は、少々自分のことを後に回しがちである。

 

「お」

「終わったみたいね」

 

 少し話したところで、ドックに表示されている残り時間が0となった。その瞬間、すぐさまドックが音を立て開き、電が解放される。深雪はすぐさまその姿を見に行った。

 こうなる前、戦場からここまで運ばれてきた時には魚雷で爆破されて失われた脚は、まるでそんな怪我なんてしていなかったと言わんばかりに綺麗。傷跡はおろか、肌の色などによる境界線すら見当たらない。

 

「……よかった……」

 

 それが見られたことで、深雪はまた安心出来た。これで後遺症などが残っていたらどうしようと思ってしまった。入渠さえすれば絶対に完治出来るとわかっていても、その目で見てみなければ不安は終わらない。

 

「んん……」

「電、おはようさん。無事に回復出来たみたいだぜ」

 

 これまでグッスリと眠ることが出来たからか、寝惚け眼ということもなく、すっと目を開いた電。深雪は入渠した後もそのままここで眠ってしまうことばかりなので、本来はこれが正しいのかと理解。

 電はすっと身体を起こすと、まず自分の脚に触れた。感覚は失われていない。小さく動かすことも出来る。ついさっきまで失われており、本来あるはずの感覚が無くなっている恐怖まで感じることとなったあの重傷は、既に無かったことになっていた。

 

「……おはよう、なのです」

 

 その声は、どうしても浮かない。戦場でこっ酷くやられた記憶と、それ以上にうみどりに迷惑をかけてしまったという罪悪感で、どうしても笑顔なんて見せられなかった。後者に至っては誰もそんなことを思っておらず、電の考えすぎな部分が大きいのだが。

 

「無事に回復してよかった。立てるか?」

 

 再構築された両脚は、一応自分の思った通りに動く。しかし、ちゃんと歩けるかはやってみなくてはわからない。

 深雪に手を引かれて、電はおそるおそる立ち上がる。最初に立つのはまだマシだったのだが、歩こうとした瞬間にバランスが崩れて、深雪にもたれかかってしまった。

 

「おっとと」

「ご、ごめんなさい」

「大丈夫大丈夫。こういう時って()()()が必要らしいんだ。すぐに歩けるようになると思うけど、少しの間はあたしが支えておくよ」

「あ、ありがとう……なのです」

 

 今は深雪に縋り付いているような状態なので、電は少し顔を赤くしていた。だがここで、電はあることに気付く。

 

「深雪ちゃん……少し大きくなりましたか?」

「んん? そう、なのか?」

 

 いつも深雪のことを見ていた電だからこそ、ぱっと見、そしてこれだけ近くに寄ればわかること。深雪は改二となったことで、能力だけでなく外見も成長していた。

 その時に制服すらも再構成され、入渠後の着替えなども全て現段階に合わせられているため、深雪自身も気付いていなかった。

 電からしてみれば、側に寄り添っていると視線の高さが少し違うと感じるし、くっついていると身体の触り心地も違う。電的には、スタイルも少しだけ成長していることがわかった。

 

 戦場だったこともあり、これには誰も気付いていない。深雪ですら気付いていなかったそれを、電だからこそすぐに気付いた。それだけ深雪のことを見ていたということに他ならない。

 

「改二になったから……だよな、うん」

「すごいのです。深雪ちゃん、あの時も、すごくカッコよかったのです」

 

 あの時──おそらく電が脚を失う瀕死の重傷を負った時。煙幕の未知の力によって痛みが和らぎ、近くにいてくれただけで気持ちが安らいだ。

 深雪には自覚がないものの、電にとってその時の深雪は、白馬に乗った王子様の如く輝いていた。それこそ、惚れ直すほどに。

 

「あたしがこうなれたのは、電達が腕を失くしたあたしを守ってくれたからだよ。そうじゃなかったら、あたしもあのままやられてた。感謝してもしきれねぇ」

「そ、そんな……電は足手纏いにしか……」

「んなわけねぇだろ。電が1人で時間稼ぎしてくれたから、あたしは白雲に傷口を凍らせてもらえる時間が出来たんだぜ。むしろ、あたしの方が悪かった。あの時、アイツの魚雷を砲撃で壊せれば、電達が脚を失くすことなんて無かったのに」

 

 お互いに自分の落ち度だと言い合い、そして2人揃ってテンションが下がっていく。自分の悪いところばかりが目について、自分の方が悪かったからと、ああなってしまったのは自分が弱かったからだと、どんどん悪い方向へと進んでいく。

 そんな2人を見かねたか、神風が2人の頭を軽く引っ叩いた。

 

「痛ぇっ!?」

「はにゃあっ!?」

「悪いとこ探しはやめなさいな。こういう時は、いいとこ探しをすること。ほら、お互いにいいとこを言うの。あと電、服着なさい」

 

 言われて初めて電は自分の現状に気付いた。入渠終わり直後は、服が脱がされている。そうしないと全身を調査と治療をすることが出来やしないからだ。そのため、終わってから目を覚ました者は、自分の手で着替えることになる。四肢を失って慣らしをしないといけない状況であっても、着替えだけは優先すべきこと。

 電はこれまでのことを全裸でやっていたと思った途端に、どんどん羞恥心が湧き上がってくる。これまでのネガティブな気持ちも吹き飛ぶほど。深雪もなんだかんだそのままで話し込んでしまったので、申し訳なさで目を逸らした。

 

「はい、着替えたわね。なら改めて、いいとこ探しスタート」

 

 電が深雪に支えてもらいつつ服を着たところまで見届けると、手をパンと叩いて神風が仕切り出した。このままだとそのままドン底まで落ちて行ってしまいそうだから、2人ともに手を差し伸ばし、そして強制的に引き上げる。

 

 神風に言われたことで、深雪と電は悪いところではなく良いところを探すように。そうすれば、ネガティブな感情は薄れて、ポジティブな感情が湧いてくる。

 

「いやマジで電は凄かったぜ。あの妹もどきの攻撃を1人で耐えてくれたんだからさ。あたしだって1人で相手するのに苦戦したってのに」

「深雪ちゃんも凄いのです。白雲ちゃんを庇う勇気は、電には出せないことなのです。左腕を失くしちゃっても、気丈に振る舞ってる姿は、本当に凄いと思うのです」

 

 お互いを上げる発言をしていくのはいいのだが、内心、『それに比べて自分は』という気持ちが膨れ上がってくるので、この手段がいいのか悪いのかわからないものである。

 特に電は、ネガティブな方向に向かいやすい性格なので、口にも顔にも出さないようにしているが、今まさに考えていた。深雪はここまで成長出来て、千島を終わらせるまでしているのに、自分は怪我をしていた深雪に救ってもらわねばあの場で死んでいた。白雲がいなければ脚ではなく胴体が焼き切られていた可能性も高く、むしろ自分があそこで避けられなかったから、白雲まで巻き込まれるカタチとなってしまったまであると。

 

 口から出るのはポジティブな言葉だが、心の中はネガティブが渦巻く。深雪はまだそこから前を向けるものの、電はマイナスに向かってばかりであった。

 勿論神風はそこに気付いている。しかし、すぐに口出しは出来なかった。今の電は何を言っても何をやってもネガティブに向かってしまうだろう。だから、放置というわけでは無いが、何が最善かを考える時間が必要。

 

「あ、白雲の方も入渠が終わるみたいよ」

 

 これは都合がいいと、神風はここで話題を切り替える。深雪と電だけでは、心持ちがネガティブにしか向かわなそうだったため、ちょうど入渠が終わった白雲にも何かしらのきっかけになってもらおうと話を振った。

 

 白雲が入っているドックが開いていくと、深雪も電もすぐに駆け寄る。電はまだふらついているため、深雪が支えながらではあるが。

 ドックの中の白雲は、電と同じように傷一つない綺麗な身体に戻っていた。身体が深海棲艦であっても、入渠ドックは等しく治療してくれるらしい。そういうところからも、艦娘と深海棲艦は似たような身体の構造なのだと実感させられる。

 

「……お、お姉、様……」

「ああ、白雲、無事でよかった」

「治ってよかったのです……!」

 

 深雪と電が安心した表情を見せるのも束の間、白雲はカッと目を見開き、ドックから飛び出したかと思えば、脚がまだ慣れていないはずなのに深雪の前に立ち、即座に膝をついた。

 

「お姉様、ご無事で何よりです。しかし、白雲にもっと力があれば、お姉様があのようなことにはならなかったでしょう。お姉様、並びに電様、先の戦い、誠に申し訳ございませんでした。白雲は決めました。よりお姉様を守れるように、これまで以上に力をつけたいと思う所存でございます。凍結の力はお役に立てたようですが、それだけでは足りません。まだまだ足りません。何者にも負けぬ、守護者としての力を手に入れるため、日々精進し、お姉様のために邁進したく存じます。白雲1人では難しくもありますが、うみどりの皆様方と共にであれば、白雲もさらに力を得ることも出来ましょう」

 

 床に手をつきながら、つらつらと語る白雲に、深雪も電も困惑を隠せなかった。

 

「わかった、わかったから、とりあえず頭上げろ。あと服を着ろ。全裸で土下座は流石に見栄えが悪すぎる」

 

 白雲もここで気付いたようで、うっと声を詰まらせた後、そそくさと服を着ていった。電と同じように脚に慣らしが必要であり、着替えにも四苦八苦してしまうものの、2人で支えて何とかいつも通りとなった。

 用意されている制服は、深海棲艦のモノではなく艦娘のモノ。そのため、ツノさえどうにか出来れば、見た目は完全に艦娘である。

 

「コホン、ともかく、白雲はお姉様を守るために一層努力しようと考えた次第でございます」

「……電も、これまでのままじゃダメだとわかったのです。白雲ちゃんと一緒に、もっともっと頑張るのです」

 

 2人の意気込みは凄まじいモノ。深雪も気圧されるのではないかと思えるほどにやる気が漲っていた。

 

 

 

 

 しかし、少し後ろ暗いモノも感じてしまう。特に電は、このままじゃダメだと思うことで、無理矢理前を向こうとしているのが深雪でも気付けるくらいだった。

 杞憂であってほしいと思うのだが、果たして。




電は前を向こうとしていますが、その心の奥底にはネガティブな感情ばかりが蓄積されています。そんな状態で強くなれるかどうか。


支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/113181728
うみどりの初期駆逐艦揃い踏み。こうやって見ると、個性的な面々が揃ったものだなと実感。神風だけはどうしても殺意増し増し。

リンク先に各々のアップがありますので、是非ご覧ください、
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