潜水艦を曳航しながら進むうみどり。本来と比べるとかなり遅めの速度で航行を続け、夕方に近付いた時点でもまだ航路の半分も満たない距離しか進んでいない。
元々最短距離でも2日はかかると考えられていたが、まさにその道を進んでいた。妖精さんであればミスなく確実に最善の選択をし続けることが出来ているが、そうすることでこの速度。
それくらい潜水艦側が不安定であり、出来る限りの速度を保っているとしても、こうせざるを得ないと妖精さんが判断している。これ以上無理は出来ないと宣言されているようなものだ。
おおわしとの合流は移動しながらとなることは確定。うみどりの速力がかなり遅めであるため、追いつくことも容易ではある。しかし、元々が離れているというのもあり、昼目提督の想定では夕方、遅ければ夜中となると話している。
そちらはそちらで、逐一現在地を伝えている状態。おおわしはうみどりの場所を聞き、方向を少しずつ変えていく。妖精さんの操舵は、人間達が行なうより遥かに精度が高いため、信用度も非常に高い。
「あちらからの位置も来てるわ。このままなら夕方より少し遅い時間に合流することになるわね」
「なるほど、ではそこからは護衛がついてくれるということですね」
「ええ、今よりは無防備じゃなくなるわ。安心とは言い難いけれど」
執務室で話すのは伊豆提督と丹陽。うみどりと潜水艦の長ということで、今後のことは常に知っておきたくて情報共有を続けている。
丹陽自身も伊豆提督には信頼を持っているため、こうやって話すのにも抵抗はない。そもそも丹陽は他のカテゴリーBとは違い人間不信が無かったというのもある。諦めを無くしてしまえば、それはもうアグレッシブに物事を動かそうと行動する。
「艦娘達の仲もいい方ね。セレスも最初こそ驚かれていたけど、今はもうみんな慣れているわ」
「私も相当驚きましたが……はい、もう大丈夫です。うみどりにいる者は誰であっても信用出来るということを体現しているような方ですから」
イリスと明石も同席し、こちらはこちらで艦内の状況を確認している。イリスはいつものように、明石は丹陽と共に、うみどり内部を見回っており、新たに加わった本来の人数を倍にしたカテゴリーB達の動向を探っていた。
うみどりの仲間達と、潜水艦の艦娘達の仲は、比較的良好。仲違いが起きるようなこともなければ、変に避け合うようなこともない。顔を合わせれば挨拶くらいはするし、話したいことがあったら遠慮もしない。
特にわかりやすいのが、那珂と舞風。午前中のミニライブで完全に意気投合しており、ダンスレッスンを一緒にやっているほどである。舞風も人間不信はあったが、元人間の那珂とここまで仲良くなれているのだから、もう30年前の艦娘としての自分を取り戻していると言っても過言では無い。
それ以外でも、食堂には元々料理好きだった艦娘がセレス達と楽しんでいたり、のんびりしたい者達が伊203と共にデッキでくつろいでいたりと、悪いことは何も起きていない。
「中も外も順調と言えるということですね。そのまま軍港まで行ければいいんですけど」
「何とも言えないわね。今のうみどりは無防備と言ってもいいんだもの。今襲われたら厄介極まりないわ」
「そうですね……。それに、そんなタイミングを狙ってこないわけがないですし」
前回は後始末後の停泊中を狙ってきた。その時に潜水艦を大破させ、うみどりがそれを曳航していることもあちらは当然把握している。潜水艦をそこに置いていくなんて選択を取るわけがないという、敵からして見ても圧倒的な信頼があった。
「午前中は何もされなかったけれど、午後からは危険よね。夜はもっと危険か」
「調査隊と合流前に襲われたら堪ったものではないですか……その時は私達、いえ、私は出られませんが、第二世代も力を貸します」
自分も出ると言い出しそうなところで明石が睨みを利かせたため、ちゃんと言い直した丹陽。丹陽は切り札なのだからまだ戦場に出すわけにはいかない。1回の出撃で命を削るような者に、伊豆提督も出撃させるようなことはしない。
「それこそ、うみどりごと沈めるために行動を起こしかねないわよね。それだけは回避しなくちゃいけないわ」
「ですね。周辺警戒も欠かしていないんですよね?」
「勿論。そちらの空母の子も手を貸してくれているわ。おかげでいつも以上に広い範囲を見ることが出来てる」
第二世代の手助けはそういうところでも大きい。艦載機もしっかり整備されていたおかげで、即戦力としては申し分ない状態である。
うみどりにいる航空隊は3人だが、空母としてなら加賀しかいない。砲戦火力も持ち合わせているため航空戦力としては少々劣る三隈と、補助艦艇たる補給艦故にそもそもの性能が若干下な神威は、戦力としては申し分なくても、いざ航空戦となった時にはどうしても空母に劣る部分はある。
そこに第二世代の空母が手を貸してくれているとなれば、戦力は一気に上がるだろう。だからだろうか、その空母達は加賀を筆頭に交流を深めている。今では妖精さんも含めて非常に息のあった連携を見せてくれるほどに。
「短期間でここまで仲良くなれたのはありがたいわ。相乗効果で、うちの子達の練度も上がっているようにすら感じるもの」
「もしかしたら、こちらも
状況が変わらないという環境が、より陰鬱な雰囲気を作り続けていたのだろう。それが一気に変わったのだから、第二世代達にも変化があってもおかしくない。丹陽はそう語った。確かにと伊豆提督も納得する。
「とにかく、今は警戒を厳にして。何かあってもすぐに対応出来るように」
「はい。こちらもそのように指示を出しておきます」
軍港都市に到着するまでは緊張感が高まっている。そこに到着してしまえさえすれば、今以上に動きやすくなるだろう。
それまではまだまだ気を抜かないように。今が一番危険な状態なのは変わらない。
一方その頃、深雪は相変わらず白雲と共にいろんな話を聞いていた。心構えを持つために、仲間達が何を思ってこの戦場に立っているかを知るために。
「同じ場所でも、時間が違えばそこにいるのが誰かは変わるもんだよな」
そして訪れたのが再びデッキである。午前中は伊203と話をし、速さ主義であるための割り切り方に何も言えなかった。理解が出来ないわけではないが、伊203は少々考え方が常人とは違う部分もあるため、深雪には少し早いかと思えた。
今の時間はまた違う。現在は航空隊による周辺警戒が行われており、それを見学している第二世代などもいると言った状況。陽の光を浴びるためにここに来る者は多いが、航空隊の仕事を邪魔するようなことは誰もしない。
ここに来たのは他でもない。航空隊の周辺警戒が行なわれていることがわかっていれば、特に話が聞きたい者が必ずここにいるからである。
「あれ、今日はなんか多いな」
「そうなのですか?」
「ああ、うちの航空隊って3人なんだけど」
指で数えていくと、その人数は5人。2人多い。
「あら深雪、今度はここなのね」
そんな深雪が視界に入ったか、加賀が話しかけてきた。深雪がいろいろと聞いて回っていることは長門辺りから聞いていたらしく、ここに来た理由もすぐに察する。
「ああ、話が聞きたくてさ」
「今は安定しているから大丈夫よ。艦載機も少しの間戻ってこないから」
哨戒中ではあるためベンチに腰掛けるようなことはしないが、深雪が訪ねてきたということで、航空隊が全員集まってくれる。加賀、三隈、神威は当然として、そこに追加で2人。
1人は加賀に似た弓道着を着る正規空母、翔鶴。もう1人はこれまた弓道着ではあるのだが片肌を晒すという違った雰囲気を持つ軽空母、祥鳳。2人とも、弓を持つ空母である。
「正直、恐れ多いわ。元の艦娘のことで言えば、空母加賀は2人の先輩に当たるそうだけれど、私はその力を借りる者。私にしてみれば、こちらの2人は大先輩なんだもの」
「加賀さんにそう言っていただける状況が、何ともくすぐったい気分ですね」
「はい、見た目は同じでも別なのだなと実感出来ます」
翔鶴も祥鳳もクスクスと笑いながら加賀を見る。そんな視線を感じたことで、加賀は少しバツの悪そうな表情を見せた。
「加賀さんがこういった表情を見せるのはあまり無いことですので、見ていて楽しいですわ♪」
「いい性格してるじゃない三隈」
「あら、いつも凛としてらっしゃる加賀さんのそういう一面、三隈は素晴らしいと思うのです。
深雪はこの三隈と話がしたいと思ってここに来ている。
いつも迷った時には三隈が何かと話をしてくれている。道を説いてくれる存在として、深雪の中では強く存在が刻まれていた。
そんな三隈が、自分の今の悩みを聞いた時、どんな答えをしてくれるかが気になっている。三隈なら迷わないか、それとも迷いながらでも覚悟を持って艦娘をやっているのか。
勿論三隈だけではない。加賀も、神威も、どういう思いを持ってここに立っているのか。それを知りたい。
「話は聞いているわ。私達の中でも少し話題になったもの。翔鶴と祥鳳にも聞かれたし、教えてもらっているわ」
「あ、そうなんだ。なんつーか、噂が拡がるのが早いな」
「狭い艦内だもの。あと丹陽の口に戸を立てておかないと拡まるのは早いわよ」
あいつかと深雪は苦笑した。深雪が一番初めに悩みを打ち明けた相手は、深雪のためというのもあるか、相談に乗ってやれと第二世代全域に御触れを出しているようだった。
「私は、迷わずにその命を奪ることにしている。そうでなければ、人類の平和が今より遠のくわ」
加賀は割り切っている側。人類に敵対し、その平和を脅かすのならば、容赦なく射ち抜くと言い切った。それがかつて親族を艦娘に救ってもらった加賀の覚悟。平和のために戦っていた艦娘の遺志を継ぐとしたら、より多くの人間の平和を維持することを選択すると。
「私は……復讐心がありますから、敵であらば貫いてしまうでしょう。祥鳳さんも……そうですよね」
「はい、私も。苦しいですが、悔しいですが、そこは感情的になってしまうと思います」
翔鶴と祥鳳も、加賀と同じような迷いなく射ち抜く方針。しかし、心持ちが加賀とは違う。平和のためではなく、
その理由は至極真っ当であり、それぞれ妹が件の犠牲になっているからである。深雪がすぐに思い当たるのは、グレカーレ。姉が犠牲となっており、その命を使ったカテゴリーY、船渠棲姫が現れているのだ。この2人にも同じようなことが起きてもおかしくない。そして、それが現れた時、この2人は相手が元人間であろうと容赦なく攻撃すると。
「私は補給艦ですから、皆様のような場に立つことはないでしょう。なので、迷いは途切れませんね。他の方にお任せしてしまうことになってしまいます」
補助艦艇である神威は、他の者達とは立場が変わってくるため、その迷いを割り切ることがなかなか出来ないらしい。しかし、自分の手でどうにかするという場面にも立つことが無いため、流れに身を任せるカタチとなってしまっている。それが口惜しいとも感じるという。
深雪の中では初めての答え。割り切ることも出来ず、迷ったまま。しかし、自分では何も出来ず、現状をよしとせざるを得ない。それもまた、この悩みに対する一つの見解。
そして、ある意味本命である三隈の言葉。
「三隈も迷いは晴れません。本当にそうしていいのか、そうしたことで何かが壊れてしまうのではないか、そう考えてしまいます。その道は、深い霧がかかったようですわ」
三隈もこの問題に関しては迷っているという。多用する道という表現にも、迷いが見て取れた。
「霧中で闇雲に歩き回ることは得策ではありません。しかし、晴れない霧の中では、動くこともままならない。だからといって、止まったままでは意味がない。今は霧のかかっていない道を探すことも困難でしょう。それに、我々は後ろに下がることも難しい道に立たされていますから」
歩いた場所が抜け落ちていくかのように退路を断たれている。留まっていれば地面は抜けないものの、それでは何も変わらない。深雪の今を語るようだった。
「ですから、三隈は勇気を持って前へと進むこととしました。霧中で何が起きても構わない。そこに穴が空いていたとしても、毒蛇が待ち構えていたとしても、自ら選択した道に誇りを持ち、後悔することなく歩み続けようと思ったのです。何故なら、それが三隈の選択だから」
辛い思いをしたところで、それを選んだのは自分自身。ならば、その決断に誇りを持って生きる。それが、三隈の選択。
「それが茨の道であったとしても、道は道なのです。そこに道があるのならば、足を傷付けてでも進む必要があるでしょう。問題は、その痛みに耐えられるかどうか。三隈は、痛いとわかっていてもその道を行き、痛みを堪えて踏破する。それこそが三隈の覚悟ですわ」
5人の考えを聞くことが出来、深雪の心境はまた変化していく。仲間達の考えは、深雪の道の霧を晴らしていく。
舞風に続き、新たにモブ艦娘からネームドとなったのは翔鶴と祥鳳。この2人には共通点があります。