Z1が出来損ないにされたZ3を解放するために覚悟を決めた一方、この海上ではまだいくつもの戦闘が繰り広げられている。
大量に湧いて出てきた改造深海棲艦を確実に始末するためにも、全員が一致団結しながら戦う他ない。
その中でも特に困ったモノなのが、海賊船そのものから放たれる砲撃である。
「うわっと!? 流れ弾が潜水艦に当たらなかった!?」
そう話すのはタシュケント。持ち前のスピードを活かして敵を翻弄しながら、改造されていようがお構いなしに砲撃と雷撃で始末していく。自己修復があることは既に把握しているため、出来る限り急所を一撃で。それが出来ずとも雷撃により木っ端微塵にしていた。
タシュケントの言う通り、流れ弾が曳航されている潜水艦を掠めたのが、夜でもわかった。ガインと嫌な音が戦場に響いたからだ。ただでさえ破損が酷い潜水艦に掠めるだけでもかなり危険。
あちらの精度が特別いいというわけではないのだが、不意に当たった時に先程のような大きな音を立てるし、さらに壊れてしまったかを確認したくもある。今はそんな余裕が無いし、余計な音を立てられるだけでも堪ったものではない。
「すみません、
その声に反応したのは、子日と別行動をしている秋月。子日とは別のことをやらねばならないと、ここまで来ていた。戦場の流れに乗っていたら、ここに辿り着いたというくらい。タシュケントのことを気にしていたわけでなく、たまたま。
「
言っている間にまたもや爆音。定期的に海賊船が砲撃を放ち、うみどりを狙ってきている。
「間隔からして、あちらの船に砲台が備え付けられているわけでは無いと思います。おそらく、甲板か何処かに陸上型の深海棲艦が配置されていて、定期的に一斉射しているんじゃないかなと」
爆音が聞こえた瞬間には、秋月は既に対空砲火の準備が整っていた。しかし、そこに艦載機があるわけでは無い。
秋月は、
海賊船はうみどりからかなり離れた位置に陣取っている。そのため、命中させようとすると、それなりに弧を描いて飛ばしてくる。つまり、秋月の頭上を砲撃が通過することになるのだ。
「長10cm砲ちゃん、弾幕!」
その瞬間、秋月を中心に猛烈な対空砲火が放たれた。広い範囲は無理であっても、うみどりをある程度守ることが出来れば良しとした。機関部などの重要な部分は確実にノーダメージに抑え、他の部分も余裕があれば守り切る。
防空の鬼とも言える秋月には、砲撃だろうがなんだろうが、
「……Хорошо、第三世代はここまで出来るんだね。自分達が古い艦娘だと痛感させられるよ」
「そんなことはありません。私達は貴女達先代が培ったノウハウがあるからここまで出来るんです。多少は応用してますけど」
これだけやっても、やはりいくつかの砲撃は墜とし切れずに着弾してしまう。だがそれでも、致命的な場所には当たらない。掠めるか、本当に支障のない場所にのみダメージを与える。
この夜であっても、秋月の対空砲火は非常に高い精度を見せ続けた。秋月1人でうみどりへの砲撃を全て守り切ることが出来るくらいに。
「なら、あたしは君を守ることにしようか。君がどれだけ危ないか、周りも気付き始めたくらいだしね!」
改造深海棲艦が秋月の周りに集まってくるのがわかる。他の潜水艦勢も処理に駆け回っているのだが、数が多くて簡単にはいかない。
「あたしだって、第二世代の中ではそれなりにやれる方なんだ。君には傷なんてつけないよ!」
その改造深海棲艦達を始末していくタシュケント。砲撃は確実に心臓を抉り、雷撃は回避出来ないくらいに広い範囲にぶち撒ける。1人で秋月を守り切るのは難しいが、余裕が無くなるだけで出来ないわけではない。
タシュケントも
「あたしの護衛は心許ないかい?」
「頼もしい限りです。是非とも!」
「了解だ! Ура!」
ニッと笑うタシュケントが次から次へと深海棲艦を始末していく。秋月も飛んでくる砲撃を次から次へと撃墜していく。
今のうみどりは、この2人に守られていると言っても過言ではない。
「秋月達がここへの攻撃を抑えてくれているわ。だから、私達は全員の援護よ」
工廠からすぐの場所。海上ではあるが、最も退避しやすいと言える場所に陣取るのは、加賀、翔鶴、祥鳳の空母隊。航空隊とするならば三隈と神威も含まれるが、三隈は前線へと飛び出しており、神威は補給艦の力を最大限に発揮するために工廠と戦場を駆け回っている。
「夜間戦闘機は大丈夫ね」
「勿論です。夜間作戦航空要員もバッチリです」
加賀に言われたことで、翔鶴がフンスと気合を入れる。その肩では少々違う妖精さん──空母の夜にも艦載機を飛ばすために必要な航空要員妖精さんも、翔鶴と同じようにムンと力を入れている。
「加賀さんも改装済みですね」
「ええ、こんなこともあろうかと、今の私は改二
祥鳳が言う通り、加賀も今は少し違う改装形式をとっていた。翔鶴と祥鳳が使用する夜間作戦航空要員が無くても夜戦が可能な特殊な空母、夜間作戦航空母艦としての姿である改二戊。それが今の加賀である。
選ばれた者にしか扱えない改二改装の中でも、さらに特殊なタイプである『コンバート改装』を加賀は扱える。翔鶴もそれに該当するのだが、使い勝手を考えて基本は甲と呼ばれる装甲空母の型式に固定されているのだが、うみどりの加賀は状況によって改装を繰り返すタイプだった。
その1つ、戊は、夜襲が予測された時点で改装が施されており、いつでも来いと言わんばかり。空母としてのスペックが若干落ちるものの、夜に十全の力を発揮出来るのは現段階では非常に大きい。
「さぁ、行きましょうか。私達はこの戦場全てを手中に収めるわ」
ターンと小気味良い音と共に、加賀が矢を放つ。それに合わせて、翔鶴と祥鳳も同様に矢を放った。
その矢は即座に艦載機のカタチとなり、この夜の闇を駆け抜ける。敵空母もいないわけではないが、夜専用として作られている夜間艦載機の前には無力に等しい。
「……第三世代は並ではないですね。改めて実感しました」
「ええ、私もそれは思いましたよ」
翔鶴と祥鳳は、この加賀の発艦を見て惚れ惚れとしていた。この緊迫とした戦場であっても、一切動揺せずに凛として的確な行動を起こす。これぞ一航戦と言わんばかり。
第二世代の加賀のことも少なからず知っている2人だが、この加賀は負けずとも劣らない。これが元人間というのだから驚きであった。
「何を言っているの。貴女達第二世代……いいえ、これまでの純粋種の研鑽のお陰で、私は今の力を得ていると思っているわ。貴女達がいなかったら、人間の身である私がここまで出来るとは到底思えない」
加賀とて、艦娘になったばかりの頃からここまで出来たわけではない。過去の艦娘達のノウハウを自身に徹底的に叩き込んだことでここまでのしあがった。
故に、加賀は過去の艦娘達のことを例外なく尊敬しているし、立場的には後輩となりそうな大先輩に対しても、申し訳なさを感じつつも敬意を払っている。
口調こそこうなっているものの、これは翔鶴と祥鳳からお願いされてしているだけ。そうでなければ敬語だったし、指示は出す方ではなく出される方だと考えていたくらいである。
「だから、私はずっと感謝しているわ。その力を今、貴女達と共に発揮出来ることも、ね」
薄く微笑む加賀に、翔鶴も祥鳳もときめくような感覚を得たが、今は戦いに集中しなくてはと発艦に集中した。
改造深海棲艦の中には、本来艦載機が扱えない艦種のモノでも艦載機を扱ってくるモノが存在している。
空母隊はそこを重点的に叩くこととしている。そうすれば、制空権は確実にこちらのものとなり、この混沌とした戦況が少しだけでも有利になる。
「祥鳳、あちらの船の様子は確認出来るかしら」
「先にやっています。状況把握は大切なので」
「気が利くわね、ありがとう」
加賀に礼を言われるという経験も第二世代には無かったため、祥鳳は温かな気持ちになりつつも、より気合の入った航空戦に挑む。
「翔鶴、2時の方向に固まってきているわ。私の子達と編隊を組んでちょうだい」
「了解です。重点的に叩きましょう」
「そうね。よろしくお願い」
よろしくされるのもほぼ無かった。これにより翔鶴のテンションは爆上がりである。それは艦載機にも伝わったか、これまでに無いほどの徹底的な爆撃と射撃で、海上の者達の手が回らない敵を軒並み一掃していく。
「さぁ、少しずつ前進させるわよ。数の暴力は、私達が覆すわ」
深海棲艦の数をどうにかするため、それを上回る艦載機による数の暴力で圧倒する。夜だからといって、空母が動かないわけでは無いことを、この場で証明するために。
しかし、それはあちらもお見通しということか、3人が航空戦を開始したことで海賊船側も新たな深海棲艦を投入してくる。
それは、航空戦が強い姫。それが出てきたことにより、圧倒的な爆撃が一気に拮抗まで持っていかれてしまう。むしろ、海上で戦う者達にまで被害が出かねないくらいの数が発艦されていた。
「やっぱり出てくるわね……こちらが出来て、あちらが出来ない道理はないもの」
「……っ」
その姿を艦載機が捉えたか、祥鳳が息を呑んだ。そして、翔鶴も。
「敵は誰。知識としては頭に入っているから、名前だけ言ってくれれば問題ないわ」
「……深海……鶴棲姫です」
祥鳳が苦しそうな、しかし怒りに満ち溢れた声色で言う。その名を聞き、加賀は全てを察した。
深海鶴棲姫。かつて非常に大きく長く続いた海戦があり、その時の大ボスとして現れた深海棲艦。強力な戦力として、艦載機は勿論のこと、正規空母であるはずなのに大戦艦の三連装砲まで背負うという異常極まりないスペックを持つ姫である。
そして、その深海棲艦の特徴はこの2人の怒りに火をつけるのには充分すぎた。それが、深海鶴棲姫には、翔鶴の妹、瑞鶴と、祥鳳の妹、瑞鳳の要素が色濃く出ているからである。
直に見ていなくてもそれだけはわかった。かつて現れた船渠棲姫や深海千島棲姫のように、
「突出しないでちょうだい。それに、冷静でいること。私達の仕事は戦場全てを見通し、仲間の活路を開くこと。いいわね」
相手が大先輩であっても関係ない。加賀は低く冷たく、その怒りを抑えつけるように言い放った。
しかし、深海鶴棲姫の要素はそれだけでは終わらない。空母隊が反応すると同時に、もう1人。
「……っ」
「どうした清霜」
戦艦護衛駆逐艦としての力を存分に発揮していた清霜が、長門の援護を疎かにしてしまいそうな勢いでそちらを見た。
「武蔵……さん……!?」
そう、深海鶴棲姫には、清霜が尊敬すると語っていた大先輩、戦艦武蔵の要素も含まれているのだ。