後始末屋の特異点   作:緋寺

280 / 1160
その姿を見て

 海賊船との戦い、次に現れたのは、深海鶴棲姫。加賀達空母隊の艦載機に対して、たった一人で制空権拮抗まで持っていくほどの力を持つ正規空母である。そのくせ、艤装には大戦艦の三連装砲まで備え付けてあるため、艦載機だけでなく砲撃まで繰り出す難敵。

 だが、本当に厄介なのはそこではない。その深海棲艦に使われている命である。空母隊の翔鶴の妹である瑞鶴、祥鳳の妹である瑞鳳、現在長門の護衛をしている清霜が尊敬していると公言する大戦艦、武蔵が含まれていることは、既に判明していることである。

 

「瑞鶴……っ」

「瑞鳳の命を……っ」

 

 どうしてもそこに反応してしまう翔鶴と祥鳳。Z1の時と同様、怒りと憎しみが表に出てきてしまい、本来ならば見せないような表情をしていた。

 深雪に話した通り、2人は元人間であろうが復讐心から攻撃を迷わないと話していた。それだけならまだ冷静でいられたが、当時失われた自分の妹の命が使われているかもしれない敵が現れたとなれば、理性が削られてもおかしくない。

 現に翔鶴は艦載機を制空権に使うのではなく深海鶴棲姫に嗾けようと弓に矢をつがえる。

 

「冷静になりなさい!」

 

 だが、ここで加賀が強い語気で翔鶴に叫ぶ。これまでのこともあり、その言葉だけで翔鶴の身体は硬直する。

 

「急いては事を仕損ずる。貴女達が私の先輩なら、それはわかっているはずよ。本当に復讐を成し遂げたいなら、心は静かなままでいなさい。怒りを持つなとは言わない。でも、ここで貴女が余計なことをすれば、仲間が傷付くのよ」

 

 冷静に言い放つ加賀に、翔鶴は過去の幻影が見えたような気がした。第二世代の加賀、今は離れ離れになってしまったが、当時共に戦った先輩。その姿がダブって見えた。

 この加賀は元人間の艦娘。しかし、当時の加賀と同じ高潔な魂を持っているのだとここで強く理解することが出来た。そのため、反発することもなく、心を落ち着けるために深呼吸を繰り返す。

 

「祥鳳も、いいわね」

「……はい、理解はしています」

「自分の手でどうにかしたい気持ちはわかるわ。でも、それで他の被害を引き起こしちゃいけないの。平和のために、納得してちょうだい」

 

 祥鳳も、これでこそ加賀だと思えた。いつも冷静で、表情一つ変えず、戦況のことのみを視野に入れる。しかし、周囲の仲間のことをよく見ており、一見冷酷と思える指示も、後々から見れば全て状況を悪い方向に行かせないための手段。

 感情の表現があまりにも下手くそで、高圧的に見えてしまうのが当時の加賀。元人間の加賀はそこも出来てしまっているので、より信用度が高い。

 

「とはいえ、あの艦載機の量は異常ね……3人がかりでギリギリ拮抗というところかしら」

 

 ただでさえ、艦娘の出来損ないがワラワラと海賊船から現れており、その海賊船からの砲撃も止まるところを知らないというのに、精神的にもダメージを与えてこられる。

 実際は他にも敵はいるのだが、どうしても()()()()()()がそこにいるとわかると、目がそちらに向いてしまうものであった。

 実際、他の艦娘の出来損ないに対して、反応している潜水艦勢がいないわけではない。その悲惨な見た目から、少なからずショックを受けている者はいた。それが元人間の艦娘であったとしても。

 

「くっ……艦載機がアレのところまでいけない……」

 

 加賀が忌々しそうに呟いた。制空権は完全に拮抗。艦載機同士が激しい撃ち合いを始め、先に進むことが出来なくなってしまっている。

 これまでは航空隊による攻撃もあったおかげで、敵の群れに対して攻勢に出ることが出来た。しかし、航空戦が他の敵にも回せないとなると話が変わる。

 改造深海棲艦でも厄介な上に、艦娘の出来損ないは改造深海棲艦を超える動きを見せているため、制空権が拮抗に持っていかれると、海上の戦いが押され始めてしまうのだ。

 うみどりと潜水艦の共闘であっても、人数は限られている。それに比べて、海賊船はどういうわけか、斃しても斃しても減らない。今ここで()()()()()()()()かのように増えている。

 

「加賀さん、始末した亡骸……()()()()()()()()()()()

 

 ここでそんなことを言い出したのは祥鳳だった。海賊船の様子を確認するために海上を舐めるように見ていたため、そこに気付いたようである。後始末屋として活動しているわけではないのだが、亡骸がその後どうなるかくらいは、祥鳳とて知っている。

 亡骸が海中に沈むのは、別に間違ったことではない。命と共に浮力を失って、そのまま維持出来なくなるなんてことはあって当然のこと。しかし、ここの亡骸は()()()そうなっているという。1つたりとも浮かんだままになっていない。

 つまり、死ぬたびに何者かが亡骸を回収している、もしくは()()()()()()()()()()()

 

「……亡骸をすぐに素材にして次の深海棲艦を生み出している、ということか」

 

 ギリッと歯軋りをする加賀。圧倒的な物量の正体は、その場に出た残骸を即座に材料としていること。勿論、最初から数が多いのはあるのだが、こちらよりも多い状態から殆ど消耗することがないとなれば話が変わる。

 

 何せ、あちらは『沈んでもいいや』の精神で来ているのだから。

 

 

 

 

 深海鶴棲姫が戦場に現れてから、敵の質が変わった。改造深海棲艦だけが群がるこの場に、艦娘の出来損ないも投入されている。Z3の出来損ないはそのうちの1人であり、他にも何人かが現れている。

 その全てが、わざわざ()()()()()()()()()()()()わかるように制服を着せられている。そうでなくても、親近者ならば見ただけで誰かまでわかるため、特に潜水艦勢の心には大きなダメージを与えていく。

 

 また、量産がしやすいからか、出来損ないは駆逐艦ばかりになっていた。精神的に幼いところにより刺さるようになっているのは、あちらの意図か、はたまた偶然か。

 

「……醜悪極まりないな。あれで平和を語るなど笑わせる。いや、面白くもなんともないが」

 

 顔を顰める長門。イリスが放送した通り、艦娘の出来損ないはカテゴリーC。つまり、人間を元にした艦娘。艦娘の命を使っていることもそうだが、素材にされた人間もいる。犠牲になっているものが他より多い。

 失敗したから適当な手駒にしているというのが嫌というほどわかる敵の部隊に、長門であっても吐き気を催しそうだった。

 

 だが、戦力としてはかなり厳しい。改造深海棲艦と違い、明確に艦娘としての動きをしてくるのだ。その上、深海棲艦の力まで扱っているため、まるでリミッターが外れているかのように動き回る。しかもそこに自己修復まで兼ね備えているので、砲撃が酷い威力であっても、すぐさま身体が元に戻るという、ある意味合理的な使われ方をされていた。

 

「今の人間って、あんな酷いことを平気で出来るの?」

 

 清霜もこれには苦言を呈する。勿論、深海鶴棲姫の登場にも憤りを感じている。

 

「……出来ることなら、我々をアレと一緒にしてもらいたくはないな」

 

 長門はそうとしか返せなかった。

 

「うみどりはいい人間ばかりなのはわかってるよ、うん。あんなことしないってこともね」

「そうであってくれると助かる」

「でも、私もちょっとアレは気分が悪いかなー」

 

 出来損ないもそうだが、その奥で海賊船を守るように陣取っている深海鶴棲姫の方に目を向けた。

 見た目は武蔵とは全く違うのだが、その命が使われているのは、純粋種からしてみれば一目瞭然。その命が、清霜の知っている武蔵と同一のモノかどうかはわからずとも、それが武蔵であることがわかるなら、それだけでいい。

 

「……君は、冷静でいられるんだな」

 

 長門は清霜が動揺はしても突っ走ったりはしないことに驚いていた。Z1は戦意を失っているし、翔鶴は暴走しかけている。それを長門は知らずとも、真っ先に深海鶴棲姫の元へと向かい、始末を考えるのではないかと思っていた。

 故に、止める覚悟も出来ていた。今は戦場をよく見て、やれることをやらねばならないと、冷静に語ることも視野に入れていた。

 

 だが、清霜は今も至って冷静に事を進めている。今やれることは、改造深海棲艦を少しでも減らして、戦いやすい戦場を作ること。長門がそれをやっているのだから、戦艦護衛駆逐艦として、それを全力でサポートすること。

 

「それが武蔵さんの教えだから」

 

 清霜はそう言った。当然、清霜だってはらわたが煮え繰り返るくらいに苛立ちを覚えている。だが、それを表には出さない。

 

「戦艦は、周りが混乱している時こそ落ち着いて冷静に戦うものなんだって。感情任せで強い力を振り回したら、間違いなく仲間が傷つくんだって、ずっと話してたんだ。だから、私も戦艦になるために、その教えを守る」

 

 戦艦になりたい。その夢を追い求める道で、既に世界レベルである武蔵を師事し、そうなれるようにと特訓し続けてきた。その教えを胸に、ひたむきに努力し続けた。

 故に、武蔵の教え──精神論すら、それが戦艦への道なのだと守り続ける。戦艦の真似をするところから、戦艦になれるように。

 その結果が、この混沌とした戦場でも、ある程度は落ち着いて戦える精神を持つこと。つい最近までは人間不信を拗らせていたが、だとしても戦場では心を静かに保とうと努める。

 

「……そうか、素晴らしい精神だ。君はもう、心は大戦艦だな」

「そう!? やっぱり!?」

 

 こういうところで無邪気に反応するところはまだまだなのだろうが、しかしこの場で冷静でいられるのは非常に大きい。おそらく潜水艦に所属する純粋種の中では唯一だろう。その分、心に負担が大きいということもあるため、戦いが終わった後はケアが必要だというのもわかる。

 

「奴は必ず斃さねばならない。今を乗り越えて、我々もあちらに向かおう」

「りょーかいです! どんどんやっちゃうぞ!」

 

 長門もこの清霜には勇気付けられた。そういうところも、戦艦護衛駆逐艦なのだろうと実感した。

 

 

 

 

 一方、出来損ないが現れてから混乱し始めているのがもう1人。それが、那珂と共に戦っている舞風である。

 

「な、那珂ちゃん、アレ、アレ」

「うん、わかってる。那珂ちゃんも縁があるからね。那珂ちゃんが元人間でも、見たらわかっちゃうよ」

 

 舞風が泣きそうな顔をしているのも無理は無かった。出来損ないの1人は、舞風と同じ陽炎型。しかもよりによって、舞風と同じ制服を着せられていたからである。

 頭が忌雷のようなもので潰れてしまっているため、表情は見えないのだが、体型で誰だか大体わかり、特にわかりやすいのがところどころに見える()()

 

「あれ、野分ちゃん、だよね」

「……うん」

 

 舞風の姉妹艦であり、同じ駆逐隊にも属していた駆逐艦、野分。それがその出来損ないの正体。

 

 舞風がこの組織に属することとなったきっかけは、舞風が所属していた、第四駆逐隊が、舞風を残して全員犠牲になったことである。特に野分とはいい関係を築けており、大親友と言っても過言ではないくらいに仲が良かった。

 そのため、ああいうカタチで野分と再会することになってしまったのはとても苦しく、今にも負の感情が溢れ出してしまいそうだった。舞風自身も、抑えられそうにないと思っている。

 

「じゃあ、あの子は眠らせてあげよっか」

「え……!?」

 

 しかし、那珂はそんなことを言い出した。

 

「アレがそこにいるから、舞風ちゃんは集中出来ないんだよね。だったら、いなくなってもらうしかないと思うんだよ。タチの悪いファンは、会場から退場してもらわないと、いいライブにならないからね」

 

 そんな軽い言葉ではあるものの、那珂の目は真剣そのもの。むしろ、舞風の怒りをも汲み取り、共感し、あの出来損ないはすぐにでも終わらせてやらねばならないと決意するほどであった。

 

「あのままいてもらっても困るからさ、優先順位をあっちに回そう。舞風ちゃん、まだ踊れる?」

 

 ニコッと笑みを浮かべて那珂が舞風に問うた。心が張り裂けそうに痛かったが、この人ならばついていける。舞風はそう考えた。

 

「勿論! 那珂ちゃんと一緒に、のわっちを救うために!」

「うんうん、それじゃあ、一緒に踊ろうか! 2人で舞台に上がろう!」

 

 那珂と舞風は改造深海棲艦から出来損ないへとターゲットを変える。そこにいられるだけで戦意を崩してくる存在は、即刻退場してもらわねばならないのだから。

 

 

 

 

 各所で戦いは進む。誰も彼もが前を向けるわけではないにしても、最善を尽くすために。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。