後始末屋の特異点   作:緋寺

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突然変異

 戦場に艦娘の出来損ないが現れているのは、工廠で待機している深雪達の耳にも入っている。出来損ないという存在は話にしか聞いておらず、それがどういうカタチをしているかを直に見たことはないが、それが出洲一派による実験の失敗で生み出された醜悪だが悲しいバケモノであることはわかる。

 しかも今回の出来損ないもしっかり人間が素材。艦娘となってから出来損ないになっているということは、艦娘の命も使われている。そして、深海棲艦の力まで。全方向に喧嘩を売っているような存在の登場には、流石にいい気分にはなれなかった。

 

「ふざけやがって……」

 

 思わず深雪の口からそんな言葉が漏れ出た。命の冒涜を当たり前のようにやっているにもかかわらず、あの出洲ならばこれを『平和のためには些細なことだ』と軽く言ってのけることが容易に想像が出来てしまったからだ。

 

「これの何処が平和の道だ。何が人類の未来だ。そんなもん作っておいて、些細なことで済まされて堪るか……!」

 

 その姿を目にしていなくても、それがどのような存在なのかは想像がつく。グチャグチャにされ、面影も殆ど残っていない、ただのバケモノ。それを人間や艦娘を材料に作っていると思うと、()()()()()

 それが思わず、怒気を露わにした言葉として、止めることが出来ずに外へと出してしまった。

 

「お姉様……」

 

 勿論、それは隣に控えている白雲にも聞こえている。いつになく怒りを持った表情を心配そうに見つめた。

 深雪は今、怒りと共に別の苦しみも持っている。それが、未だに覚悟が決まらない、元人間を殺すことに対する罪悪感。これだけのことをしているにもかかわらず、未だに抵抗がある。

 そんな自分がそろそろ気に入らなくなっていた。ここまでの悪行を重ねているのに、情をかける必要なんてないと思っていても、まだ心の何処かに躊躇いが残っているのだ。

 

「白雲は、あちらの元人間を始末することになんら抵抗はございません。お姉様の心を乱す存在ならば、この白雲が息の根を止めてご覧に入れましょう。その姿、カタチを、お姉様の目には入れさせません。それほどまでに、醜悪な人間の部分が見えているのでしょうから。ですので、お姉様は心を穏やかにしていただければと。難しいことは百も承知でございます。ですので、せめて心落ち着くように、この白雲の手をとっていただければ」

 

 妹に心配されるほど酷い顔をしていたのかと苦笑する。だが、白雲の好意を無駄にすることなく、その手を取った。

 

「悪ぃ……あんなでも、元々人間だと思うと……な」

「それでこそお姉様なのです。お優しいが故に覚悟が決まらないのは、仕方のないこと。白雲は、悪いことではないと思う所存でございます」

 

 そう言ってもらえると、少しは落ち着いた。しかし、こうしている間にも仲間達が苦しい思いをしているかと思うと、深雪は自分が間違っているのだと思い、同じように苦しむ。

 それでも心構えが出来ない。決心がつかない。覚悟が決まらない。()()()()()()()という気持ちが、嫌でも深雪に絡み付く。

 

「白雲の言うことは間違いじゃないわ。でも、そろそろ覚悟は決めないとね。私が言えた話じゃないけれど」

 

 2人にそう言うのは、未だ出撃していない神風である。艤装は装備しているものの、現在は()()()()工廠で待機中。

 

「神風……お前出撃は?」

「ハルカちゃんに理由を話したら、出撃は控えた方がいいと言われたわ。私自身もそう思ってるから、今は工廠の護りに徹することにしてるの。刀も今、妖精さんに打ち直してもらってるところだし」

 

 深雪にはそうなった理由がわからない。白雲はもっとわからない。

 

「……ちょっと今の私には、雑念が多すぎるのよ。貴女と同じような悩みね」

「あたしと同じ……?」

「ええ。あの時の敵のことを思うとね」

 

 神風はあの中柄の敵に()()してしまったことで、あの時の敗北に繋がった。その時の気持ちがまだ神風の中には渦巻いており、雑念として蝕んでいる。そして、そんな自分に対して、怒りと呆れがずっと残ってしまっている。

 そんな状態でこの戦場に出ても、その時の感情に振り回されて、十全の戦いが出来ない。力を出しきれないならば、足手纏いになってしまう。そう考えた神風は、今回は前線に出るのを控えた。

 迷いがある状態で命を懸けることは出来ない。深雪にそうさせているのだから、神風も同じように自重する。

 

「……そっか。神風も、あたしと似たようなもんか」

「ええ。精神鍛錬に励んだけれど、雑念が取れないの。悔しいことにね」

 

 自分の信念を否定するような行為をしなくてはならないという意味では、深雪と神風の悩みは近しいものである。

 人間を守るために生まれたのに、人間の命を奪わねばならなくなった深雪。母としての愛を持つのに、親子の絆を引き裂かねばならなくなった神風。

 

 それは、どうしても心に重い影を落とす。うみどり最強と思われる神風ですら、戦場に出るのを躊躇わせるほどに。

 

 

 

 

 戦場では、出来損ない達が猛威を振るっていた。即死でなければすぐさま修復が入るというところが、あまりにも理不尽。

 現れた出来損ないは、Z3と野分を含めて6人。その全てが駆逐艦ではあるのだが、そもそもが精神ダメージを与えていることで動きが鈍くされる上に、出来損ないだけでなく改造深海棲艦もいるせいで攻撃のチャンスが何度も封じられるような状況。

 

 その中でも、時雨と子日、そしてZ1は、比較的優位性を持った戦いを続けていた。

 Z1はまだどうしても動きが鈍いものの、戦意喪失状態からは脱却出来ているおかげで、攻撃だけはちゃんと出来ている。

 

「レーベ、君は直接狙わなくてもいい! わざと避けさせて!」

Jawohl(了解)……!」

 

 時雨は時雨でZ1に少々気を遣い、Z3をその手で殺せとは言っていない。その攻撃で回避方向を固定化させ、次の攻撃を当てやすくすることを優先して行なってもらっていた。

 隙さえ見せてくれれば、時雨と子日が始末をつける。背部大口径主砲により頭か心臓をぶち抜くか、子日がその両手に纏った主砲により急所を的確に撃ち抜くか。その2択になっている。

 

「はやっ、はっやいよー!?」

 

 3人がかりで攻撃をしているが、リミッターが外されているせいでZ3の動きは常軌を逸していた。自分の身体が即時修復されることを理解しているかのように、壊れてもいいから異常な速度で動く。子日はうみどりの中でも上位に位置するスピードを持っているが、それでも追いつくことが出来ない程である。

 ステップをするにしても、動くたびに脚が折れるような音がした後、気付けば既に治っているというのが当たり前。砲撃も異常な火力であり、撃てば腕があらぬ方向に折れ曲がるが、それもすぐさま修復されるため、常に無傷であることを保っている。

 

「砲撃だけじゃない! 気をつけるんだ!」

 

 そしてもう一つの厄介なところは、その特性。修復するだけならまだしも、その際に深海の要素が粘液を撒き散らす。

 後始末屋として活動している2人には見慣れたそれは、穢れを含んだ体液。それがそこにあるだけで海は汚染されるわけだが、()()()()()()()()()()

 恐ろしいことに、この体液は嫌な匂いと共に周囲の艤装を侵蝕──いや、()()させるような力を持っていた。

 

 艦娘の出来損ないならではの特殊な力。強引に全ての要素を結合させようとしたことによる突然変異。本来なら相反する力を同居させたことにより、反発作用が発生した結果、この腐食性の体液へと変質したようである。

 深海棲艦には何の影響もなく、本人にも当然何もない。むしろその力によって力を増しているようにさえ思えた。

 

 これに気付けたのは、既にその被害を受けたものが戦場にいるから。時雨達以外にも出来損ないに戦いを挑んでいるものがおり、かなり強引にダメージを与えたものの、その時に粘液を直接喰らったことで艤装が腐食。肌に付着しても激痛に繋がるという大惨事。

 これにより数人は酷いダメージを受けてうみどりに撤退している。入渠でこれが治るかはわからないが、やらないよりはマシであるため、離脱するのが吉。

 

「あっぶなーい!? こんなの絶対近づけないよ!?」

「砲撃だけでどうにかしないと無理だ! 子日、踏みつけるなんて絶対にするんじゃないよ!」

「わかってるわかってる! ていうか、こんなの踏みたくないし触りたくなーい!」

 

 故に、近付きすぎると戦線離脱を余儀なくされると言える。アクロバティックな戦闘を得意とする子日も、その動きを封じられる羽目になっていた。存在そのものが対策になっている。

 

「なんてものを作るんだ敵は! これで世界平和を目指しているだなんて、ちゃんちゃらおかしいね!」

 

 戦場でも皮肉は忘れず、しかし余裕がない時雨は、ストライカーとして迫撃することも出来ず、ただただ撃つことしか出来ない。Z1が加わったことで比較的狙いやすくなってはいるのだが、回避性能が非常に高い上に、()()()()()()()()()()()()()()()()()という、やけに頭を使った戦い方をされるため、迂闊に近付いたら腐食の餌食となってしまう。

 そもそもその腐食性の体液が、海の上に浮かんでいるというのも厄介極まりない。そのまま放置すれば性質が薄れるかもしれないが、今は戦いの真っ最中。そんなことを待っている暇などなく、殆ど見えている地雷状態。

 

「マックス……なんて酷い姿に……。でも、楽にしてあげるから」

 

 Z1もこのようになってしまったZ3は見るに堪えないと、苦しそうな表情で砲撃を繰り返す。しかし直接当てることにはどうしても抵抗が出てしまい、回避方向を一定にするように同じ攻撃を繰り返す。

 そうすることで、時雨と子日にタイミングを掴んでもらう。自分の手では無理でも、仲間の手を借りて決着をつけるのだと、少しだけ前向きに。

 

「よし、子日! タイミングを合わせて!」

「りょーかい!」

 

 Z1の砲撃は一定。そのタイミングはかなり合わせやすく、時雨は子日と共に、完全な同時攻撃を繰り出すことにした。

 

 Z1の攻撃を避けさせる。その避けた先に雷撃を置く。それすらもあの速さならば避けられるだろうが、避けるのならば同じ方向により大きく避けるだろう。そこをさらに狙って砲撃を2方向から放つ。そうすれば回避出来る先は無くなる。

 上手くいけばこれで、近付かれることなく始末が出来るはずだと、時雨はやってみる。子日もその策をすぐに察し、Z1の攻撃に合わせて魚雷を放っていた。

 

 予想通り、Z3はZ1の砲撃を回避し、魚雷にも触れないようにさらに大きくステップを踏んでいた。その時に脚は折れていたようだが、すぐさま修復している。

 

「ここだ!」

「いっけーっ!」

 

 完璧なタイミング。想定していた攻撃。ステップを踏んだZ3が海面を蹴る前に、2方向からの強烈な一撃。当たれば間違いなく命を奪う、渾身の連携。

 

 だが、Z3はさらにおかしな動きをした。脚に巻き付いた触手が海面に伸びた瞬間、本来着水するであろうと思っていた場所よりも手前に着水。その衝撃でまた脚が折れたようだが、触手も込みで即座に修復。時雨と子日の砲撃は空を掠め、Z3には直撃せず。

 

「ごめんよ、マックス……やっぱり、僕がどうにかしなくちゃいけない」

 

 それを予測していたわけではない。むしろ、予測していないからこそ、次のZ1の砲撃がZ3の頭へと向かっていた。意図せずに急所攻撃となったことで、Z3はその3つ目の攻撃には対応出来なかった。

 

 生々しい音と共に、Z3の頭が砲撃の直撃によってミンチとなり、その出来損ないは首無し死体へと変化していた。

 

「……よし、これで大丈夫なはず……っ!?」

 

 頭を失ったことで修復はもうされないだろうと判断した時雨だが、その考えが斜め上の方向に甘かったことをすぐに知ることになる。

 Z3だった出来損ないは、頭を失った直後、Z1に向かって猛烈なスピードで駆け出したのである。まだ死んでいない。いや、()()()()()()()()()()()()

 

「な、ま、マックス!?」

 

 これには流石にZ1は恐怖を感じて動けなくなってしまった。首無し死体が当たり前のように突っ込んでくる姿は、誰だってこうなる。

 

「レーベ! 逃げろ!」

「レーベちゃん!?」

 

 時雨と子日が声をかけるものの、2人も想定外だったせいで即座に動けなかった。

 だからだろう、子日はこれまで隠し続けていた裏技を繰り出す。

 

「止まってぇっ!」

 

 両手に装備した主砲がガシャンと音を立てると手首から外れ、それを思い切り投げ付ける。それは、手首にワイヤーで接続されており、まるでモーニングスターのように振り回すことが出来た。

 そのワイヤーはかなりの長さで、向かっていくZ3を後ろから捕まえることがギリギリ可能。Z1の寸前で止めることに成功した。

 

 しかし、それだけで終わらない。Z3の質量が、明らかに大きくなった。

 

「まずい……っ!」

 

 その時、時雨は無意識のうちに身体が動いていた。このままではZ1が危ない。これまでに出したことがないスピードでZ1に突っ込んでいき、飛びつくように抱き着いた。

 

 

 

 

 その瞬間、Z3が()()()()

 

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