艦娘の出来損ない、Z3を連携で追い詰め、最後はヘッドショットにより絶命まで追い込んだ時雨達3人。しかし、首無し死体となったZ3はそれでも動き、Z1に突撃してしまった。
子日が奥の手を使い、なんとかZ3の動きを止めようとしたものの、捕縛した瞬間、今度は身体が膨らむ。
まずいと感じた時雨は、無意識に身体が動いていた。このままではZ1が危ない。これまでに出したことがないスピードでZ1に突っ込んでいき、飛びつくように抱き着いた。
そして、Z3は自爆した。
「っぐっうううっ!?」
その爆発のダメージを最も大きく受けたのは、やはりZ1を守るために飛び出した時雨。背中に爆風をモロに受けただけならまだ良かったが、
Z3は突然変異を起こした出来損ない。その体液は腐食性があるため、炎で焼かれるようなダメージと同時に、艤装が侵蝕されて破損、飛び散った体液が付着した肌にも焼け爛れるような痛みが走る。
「シグレ!?」
飛びつかれたZ1もタダでは済まない。爆風に巻き込まれたことで強い衝撃を受ける羽目となり、全身を打撲したような痛みが走る。
体液も一部引っかかってしまっており、やはり同じように焼け爛れるような痛みを受けた。
汚い爆炎と爆煙はすぐに霧散していき、そこに残っていたのは辛うじて回避出来たが残り滓のせいで酷い目に遭った時雨の姿。
背部の艤装は爆風による破壊と体液による腐食でボロボロになっており、正しく機能するかもわからない。そして、外見から見えている肌には酷い傷が幾重にも重なっていた。腐食が肌をも侵蝕し、場所によっては骨すら見えてしまうほどに溶かしている。
正直、四肢を失うよりも悲惨な状態。自らの脚で立つこともままならず、浮力すら微妙な状態。意識だけは保っているのがせめてもの救いか。
Z1は比較的軽傷ではあったものの、時雨と同様に腐食性の体液により、肌に火傷のような痕が出来てしまっていた。激痛を感じながらも、時雨が沈んでいかないようにどうにか支えるのが限界。
「すぐに曳航するから我慢して!」
ここで動けるのはただ1人。緊急時の主砲射出をした上に、捕縛した状態で自爆されてしまったことによりワイヤーも切れてしまったことで、主砲を失ってしまった子日のみ。
曳航すると言っても、駆逐艦1人の力では2人を引き摺るのは至難の業。時雨は浮力も微妙であるため、支えながらの曳航はより厳しい。
ワイヤーが残っていたらそれを使って縛り、強引にでもうみどりまで運ぶことが出来たのだが、それも出来ないとなると、今はZ1の服の裾を掴んで引っ張るくらいしか出来ない。1人なら担げるが、2人となると積載量オーバーである。
「っ、こんな時に……っ」
しかし、今の戦いで斃すことが出来たのはZ3のみ。ここは大規模な戦場に。他にも改造深海棲艦がゴロゴロいる。
Z3の自爆に釣られて、他の場所で戦っていた改造深海棲艦が子日の撤退を妨害しようと集まってきていた。本能的に攻撃をしようとしているだけだが、今この状況からして、完全に邪魔をするためだけの行動。
子日に残されているのは魚雷だけ。しかし、魚雷だけでどうにか出来る量ではない。
誰かに手助けしてもらおうと思っても、他の場所も似たようなもの。航空隊も現在は敵艦載機と制空権争いで余裕がない。
「ネノヒ……僕のを使って」
「ありがとう! 少しはこれで変わるはず!」
Z1から主砲の譲渡。型が違う上に子日のスタイルともかけ離れているが、無いよりはマシと受け取る。
手を包み込み心で引き金を引く子日の専用主砲とは違う、拳銃に近いタイプの単装砲。それを貰った瞬間に周りにいる深海棲艦に対して砲撃を放つ。
勝手が違うため照準がまともに合わせられないものの、然程間違った場所には撃っておらず、群がる深海棲艦の誰かには当たるもの。
「……うそ……」
だが、その砲撃は巨大なシールドを持つ雷巡のイロハ級、チ級に止められてしまった。改造により装甲の強度が変えられているのか、砲撃を受けてもシールドは無傷。駆逐艦の主砲では火力が足りない。
「それなら……!」
道を開くため、今度は魚雷を放つ。砲撃で足りないならそれの数倍の威力を持つ雷撃でどうにかしてやると、子日は頭をフル回転させて出来ることを全てやっていく。ここで2人を救えずして、何が救護班だと奮起して。
しかし、やはり数の暴力というのは簡単に覆すことが出来るものではない。雷撃1回で一掃出来ていたら、今頃この戦場はもう少し戦況が優勢に傾いている。子日の一発で撃破出来るのは、精々1体が限度。その亡骸を押し退けて、次から次へと次の敵が現れてしまうのだから、これはもう際限がない。
「子日……僕も援護……するよ」
そんな中でも、時雨は闘志を失っておらず、まだ辛うじて動く魚雷発射管を動かし、敵を蹴散らそうとした。
「時雨ちゃん、ダメ。それ撃ったら、多分もっと酷いことになる」
こんな時も子日は冷静だった。時雨の魚雷発射管にも
まともに動かずに射出すら出来ないか、最悪その場で爆発する。そんなことが起きてしまったら、四肢がギリギリ繋がっているような状態の時雨の下半身は全て失われるだろう。それだけでは済まず、時雨を支えているZ1や、2人を曳航しようとしている子日にも被害が出る。
むしろ、今時雨がやらねばならないのは、誘爆しそうな兵装の投棄。魚雷発射管はその筆頭。既に危険なのに、さらに危険になるのは非常によろしくない。
とはいえ、このままではうみどりまで運ぶことも出来ない。そうこうしているうちに、時雨にも限界が訪れてしまうだろう。
子日の中に焦りと苛立ちが生まれつつあった。このままでは救えない。こんなふざけた戦場で。そんなことあってはならない。しかし、自分1人では進めなくなってしまった。
諦めはしない。だから泣き言も言わない。しかし、それだけではどうにもならない状況、1人では何も出来ない状況になってしまった。
「どうにか、なんとかしなくちゃ……っ」
思いだけが口から出る。それだけで何とかなれば苦労はしないと思いながらも、ただただこの状況の打破を願う。
そして、その思いは届いた。
子日の道を塞ぐ深海棲艦が突如
うみどりの艦娘も、潜水艦勢も、今は余裕なんてないことはわかっている。ならば誰がこれをしてくれた。子日は驚いてそちらに目を向けた。
「友軍艦隊、旗艦榛名! 今よりうみどりの援護に入ります!」
それは、今よりかなり前にうみどりが救った、榛名を旗艦とした部隊だった。
今この戦場となっている海域は、この榛名の艦隊が所属する鎮守府の管轄だったのだ。伊豆提督が連絡済みで、そこから大急ぎでここまで来たのが、運良くこの見知った艦隊だった。
「あの時の御恩、返す時が来たようですね。子日さん、状況を!」
説明を求めつつも、うみどりまでの道を全員がかりで開いてくれている榛名艦隊。その部隊はあの時と同じではあるが、当然全員が無傷の完全な状態。本来の力を発揮することが出来るのならば、改造深海棲艦であろうが関係なかった。
以前はあまりに想定外の敵が現れたためにしてやられたが、事前にわかってさえいれば何も問題はない。対策だって出来るし、そもそもその時よりも練度を上げている。
「2人重傷! 特に1人は今すぐ治療しないと危ないくらい!」
「了解しました。全機、子日さんの道をこじ開け、最短距離に導いてください!」
榛名の号令により、一斉に動き出す。
「今回は
その筆頭が、あの時の一番の重傷を負っていた朝霜である。すぐさま突撃し、子日の近くにまで駆け抜けてきた。道を開くにしても護衛は必要であり、むしろ守るためには近くに寄ることが重要。
「うへ、こっ酷くやられたな。曳航出来るか?」
「割とキツイから手伝ってもらいたいんだよね」
「まぁこんなこともあろうかと、こっちはちゃんと準備してるぜ! ミッチ!」
ここで朝霜に追いつくように駆け抜けてきたのは、大発動艇をコントロールする駆逐艦、朝潮型の満潮。海上でドリフトしながら最大戦速で突き抜けてきた満潮は、波をなるべくかけないように子日の真横へ大発動艇を横付けする。
「早く乗せなさい!」
「わぁーってる! ちょいと我慢してくれよ!」
朝霜がZ1を、満潮が時雨をどうにか持ち上げ、大発動艇へと運び込もうとする。その際に腐食性の体液に直に触れることになってしまい、朝霜は大袈裟に声を上げた。満潮もこれは想定しておらず、思わず手を見た。
「うぉっ、痛ぇ!?」
「な、なによこれ、強酸か何か!?」
「後から説明するけど、敵の体液は絶対に触れないで! こうなるから!」
なんつー敵だよと朝霜は悪態をつきながらも、関係なしに持ち上げて、衝撃を受けないように運び込んだ。満潮は時雨を担当したため、より腐食性の体液に触れることになったが、文句も言わずに作業をこなす。子日も2人の応急処置が出来るかを知るために大発動艇に乗り込む。
3人が乗ったことを確認した瞬間、満潮はしっかり掴まってなさいと言い、船首が持ち上がりかける程に速度を上げて最短距離を突き進む。
「榛名さん、道開けて!」
「了解! 皆さん、遠慮なく全部を吐き出すくらいに撃ってください!」
榛名の号令と共に大発動艇の最短経路を作り出していくのは、部隊の残り。
「はいはーい! 全部薙ぎ倒すわよー!」
「Enemy in sight. Open fire!」
先陣を切るのは駆逐艦2人。白露型の村雨と、フレッチャー級のヘイウッド L.エドワーズ。一切の容赦なしに正面の敵を全て殲滅するようにぶち撒ける。
駆逐艦の火力といえど、複数人の攻撃が同時ならば問題なく撃破が可能。先程子日の攻撃をシールドで弾き飛ばしたチ級も、2人の攻撃によってあえなく爆散。
「瑞雲隊、かかれーっ!」
さらに軽巡洋艦、阿賀野型の矢矧。うみどりの三隈のように夜間瑞雲を駆使しながら、雷撃と砲撃を組み合わせて次々と撃滅していく。
今回は疲労もほとんどない絶好調状態。しかも、以前救ってもらった部隊の救援ともなれば気合も違う。
「榛名にお任せください!」
そして榛名による斉射。ここまで一斉に砲撃をぶちかませば、いくら改造深海棲艦であってもひとたまりもない。事前に知っているということが、これほどまでに戦力を底上げする。
「さぁ行ってください!」
「ありがとうみんな!」
その移動は満潮に任せ切った子日は、こうしている間も消耗が激しい時雨の手を握り、Z1にも励ましの声をかけながら、間に合うことを祈った。
戦いはまだまだ終わらないものの、ここで援軍が来てくれたおかげで、減った戦力が少しだけでも補われていく。
しかし、拮抗から優勢に持っていくためには、あと少し足りない。出来ることならば、全戦力を注ぎ込みたいところだが、まだ難しいところもある。