後始末屋の特異点   作:緋寺

286 / 1160
集結

 覚悟を決めた深雪と、改装を終えた時雨は、白雲と子日を加えて混沌とした戦場へと出撃。4人でならば、四方に目がやれるため、不意打ちを受けても基本的には誰かが反応が出来る。最も怖いのは海中になるのだが、そこは時雨が目を向けていた。

 改三となった時雨は、あらゆるスペックが向上しており、砲撃もさることながら、雷撃も対空も対潜能力ですらも、そこいらの艦娘より上。()()()()とはよく言ったものである。

 

「潜水艦がやたらといるのは知っているよ。改造された深海棲艦を始末しても、その残骸をあっちの船に持っていってしまうんだ」

「なんでそんなこと」

「それを材料にまた造って送り込んでくるんだろう。この場でぐるぐる回ってるんだ。厄介極まりないね」

 

 それをどうにかするためにも、今は対潜班が出来上がっていた。それを指揮するのは、意外にもグレカーレ。夕立は別の部隊と共に海上艦を攻める方向で動いているため、それを援護するためにも潜水艦を処理しているようである。

 とはいえ、かなり数が多い上に、残骸の回収だけでなく、普通に海上艦に向けて攻撃もしてくるらしく、雷撃を回避しながらの爆雷投下となっている。

 

「あ、ミユキ! 復活した?」

 

 深雪達が向かってくるのが見えたか、ステップを踏みながら爆雷を投げつつ、深雪の元へと駆けつける。

 

「ああ、悪い。覚悟、決めてきたぜ」

「そっかそっか。それじゃあ、あたしもそっちに加わるよ。みんなー、潜水艦の処理、よろしくねー」

 

 これまで指揮していた対潜班に手を振り、すぐさま深雪のチームに加わる。

 

「いいのか?」

「いいのいいの。即興だったし。それに、ミユキ達はあのグロいの始末しに行くんじゃない?」

 

 よくわかったなと深雪が反応すると、深雪のことはよく見ているとウィンクするグレカーレ。

 それは冗談として、改造深海棲艦に目もくれずに突っ込んできているから、最初から狙いはこの戦場の中でも厄介なところ。1体は自爆させたとはいえ、まだ5体残っている出来損ない。

 

「あいつらとやってる時も、潜水艦が何かしてくるかもしれないからね。あたしが海の中を見といてあげる」

「僕達の時には何もされなかったけどね。出来損ないがそれなりに大事なんじゃないかな」

「それもあるかもしんないけど、深雪をここで殺すことを優先すると思うよ。グロいのも使ってね。下手したら羽交締めさせてから魚雷で狙わせるなんてことまであるかもよ?」

 

 相手からしたら、手駒を減らしてでも始末したいのが深雪である。先程までは戦場にすらいなかったため、あんな連中でも慎重に動いていたのかもしれない。

 だが、深雪が出てきたなら話は別。何をしてでも深雪をここで終わらせる。そのために手段なんか選ぶわけがない。それこそ、出来損ないを全員注ぎ込んででも、戦況が有利であっても自爆を選択させ、確実に深雪の命を奪う。

 

「んなことならないように避けるなり返り討ちにするなりで自分の身は守る。それに、今は守ってくれるヤツがいるからな」

 

 目を白雲に向けた。今の白雲は、神風に言われた通り主砲と自らを繋ぐ鎖──深海千島棲姫と酷似した装備──に、凍結の力を注いでいるところであった。

 先に鎖の先にまで凍結の力を入れておけば、いざ本当に使う時にすぐ使えるだろう。

 深海千島棲姫が燃焼の力を鎖に通して赤熱させた時、アレだけの熱を持っても鎖が壊れるようなことは無かった。それと同じように、白雲の鎖も力を注いだところで壊れることはない。流石は深海の艤装といったところか。

 

「これで本当にやれるのでしょうか」

 

 白雲はそれでも不安はあるようだ。自分の凍結の力がうまく通らなかった場合、今度は深雪が時雨のようにダメージを受ける可能性がある。

 

 白雲としては、敵が元人間であろうがそもそも人間であろうが、命を奪うことに抵抗はない。そこはカテゴリーMとしての呪いがしっかり効いている。敵ならば容赦なく始末するつもりはある。

 しかし、深雪が傷つくのはよろしくない。自分が失敗して、その結果深雪が傷つくなんて言語道断。少しでも不安要素があるのなら、白雲としては控えたい。

 

「楽観的に言うわけでじゃあねぇけどさ、まずはやってみようぜ。全部腐らせる液だなんて巫山戯たモン、あたしにはどうにも出来ねぇけどお前なら何か出来るだろうしさ」

「……お姉様がそう仰られるのなら」

「ああ、自信を持て。もし万が一身体にかかっちまったら、すぐに凍らせてくれよな」

 

 ニッと笑って白雲の頭を撫でた。それだけでも、白雲は力が湧き上がる。深雪に認められていること、深雪に期待されていること、深雪と共に並び立てることに喜ぶ。

 その気持ちの昂りによって鎖に注がれた凍結の力が反応したか、鎖の周囲がキラキラと輝いていた。空気中の水分を凍らせているようだった。

 

「うわ、ホントに深雪ちゃんの方を向き始めたよ!」

 

 子日が叫ぶ。周囲を見回すと、改造深海棲艦が一斉に深雪の方を向き始めた。深海棲艦には見えるというカテゴリーWの()()に反応したと言える。

 あちらも深雪がどういう存在かを把握しているため、その輝きに反応し、すぐさま群がれるように改造を施されているかのようだった。

 そしてそれは、改造深海棲艦のみではない。出来損ないも反応する。まるで深雪を全力で押し潰そうと考えているかのように。

 

「さっきまではうみどりの中だったから見えていなかったんだろうね。見えた途端これだ。大人気じゃないか」

 

 背部大口径主砲を構えながら、時雨が相変わらずの皮肉を言う。深雪は周囲の反応から小さく溜息を吐いた。

 

「かぁーっ、人気者は辛ぇなぁ。無視する気しか無かったのに、これじゃあ無視出来ねぇじゃ……」

 

 深雪も流石に無視は難しいと主砲を構える。が、そこで動きが止まった。

 

「はいはーい! 道を開いてあげる!」

「Let me take care of that. ここは私達に」

 

 そこに割り込んでくるのは、村雨とヘイウッド。深雪達の進行方向──海賊船への道を塞ぐ改造深海棲艦達に対して、苛烈な砲撃と雷撃で一網打尽にしていく。村雨に至っては、先端に錨が接続されている鎖すら振り回して、問答無用で蹴散らしていった。

 

「Please be careful. この深海棲艦達は、あの()()は撒き散らさないけど、なるべく近付かない方がいい」

「やけに強いしね。消耗させられるのは嫌でしょ?」

 

 改造深海棲艦はいくら破壊しても出来損ないのような腐食性の体液は吐き出さないようだ。むしろ、あの体液がかかるとあちらも被害を受けるようで、完全に別行動をしているほど。

 しかし、中にはわざと体液にかかった後に突撃してくるような自爆上等な個体もいるらしい。それは流石に近付かれる前に始末しているようである。

 深雪に反応した個体の一部もそれに属しており、深雪をどうにか始末するためにあらゆる手段を使ってくることがわかる。

 

「ほら来た! みんな、潜水艦!」

 

 そして今度はグレカーレ。海中から忍び寄る敵の存在を察知し、すぐさま全員に伝える。今回の潜水艦はステルスのような機能が付いていないようで、改造深海棲艦ではあるがそこまでの改造は施されていない。

 代わりに、意識がそちらに持っていかれるため、集中力がいる。それに、感知出来る潜水艦の中にステルスが交じっていると厄介。グレカーレはそういった存在がいることにも勘付いていた。

 

 その狙いはやはり深雪である。カテゴリーWの後光は、海中からでもはっきりわかるようだ。

 

「深雪、もう少し目立たないようにしてくれないかな。僕にはわからないけど、君はあちらから見れば探照灯で照らしているようなものなんだろう」

「んなこと言われてもどうにも出来ねぇよ!」

 

 ただでさえ夜の戦い。うみどりからの探照灯で戦場を明るく照らしているものの、暗いところはまだまだ暗い。

 そんな中で、深雪の存在は敵にとっては位置がバレバレという状態になっている。それが非常に厄介で、一方的に集中砲火を受けることになってしまう。

 だが逆に言えば、深雪の近くにいれば敵が勝手に来てくれるので、迎撃するだけで始末出来るというのもある。そこは逃げ回られるよりはマシと言えるだろう。

 

「だから私達はこっちに来たの」

「Yes. 数を減らすなら、ミユーキの近くがいいですね」

 

 村雨とヘイウッドはその敵の習性を瞬時に把握してこの行動に出たようである。深雪がこの戦いの切り札となっているのは誰もが理解しているところ。戦場に出てきたというのなら、その近くに行くのが妥当である。

 

 海中からの雷撃を避けながら、どうにか前に進もうとするのだが、敵の数はまだまだ多い。斃しても斃しても、潜水艦がその残骸を運び出し、海賊船で資源に換えて、改めて改造深海棲艦が出撃してくる。

 それをどうにかするには、供給源を叩くしかない。1つは海賊船そのものなのだが、遠い上に進路妨害をしてくるのだからこれは一筋縄ではいかない。故に、もう一つを叩くことになる。

 

()が集まり出したから、対処しやすくていい。早く終わる」

 

 そんな言葉が聞こえてきたかと思いきや、深雪の目の前に水柱が立った。

 

「うぉおっ!? なんだなんだ!?」

「ああ、これフーミィだよ。声が聞こえるくらいってことは、()()()()()()()()だね」

 

 グレカーレが呑気に話すものの、深雪からしてみれば心臓が飛び出るくらいに驚いた。

 深雪に近付いていく潜水艦を始末するため、魚雷は回避されやすいからと、相変わらずの猛烈なスピードによる体術で蹴り飛ばし、その勢いで海上まで突き抜けてきたようである。まるで魚雷が飛んできたかのよう。

 

 伊203はかち上げた潜水艦の身体を蹴り折り、そのまま海中に戻っていく。ギューンと聞こえそうな程のスピードでまた潜る姿は、非常に心強いが心臓に悪い。

 

「おう、ミユキ。ようやくやる気出したのかよ」

 

 伊203が海中に戻った後、それを追うように海面に頭を出したのはスキャンプ。伊203のように、海中で活動している改造深海棲艦を始末するために動いているようだった。

 

「ああ、覚悟決めてきた」

「そうかい。じゃあ、もうウダウダ言うんじゃねぇぞ。鬱陶しい」

「悪かったな、スキャンプ。心配かけたか」

「心配なんざしてねぇよ。さっさと行け。道は開いてやるからよ」

 

 スキャンプも海中へ。これである程度は海中を意識しなくても良くなる。ステルス持ちの潜水艦を率先して処理してくれるようなので、どうしても難しい潜水艦は海上からどうにかすることになるが。

 

「はは、愛されてるじゃないか特異点。こんなにも君がやる気を出すのを待っていた仲間がいるみたいだ」

「本当にな。スキャンプが言ってた通りじゃねぇが、もうウダウダ言っていられねぇ。あたし達も全力でぶっ潰す!」

 

 次々と撃破されていく改造深海棲艦の向こう側。睨み付けるように見ている存在に、深雪も目を向けた。

 それは、艦娘の出来損ない。しかし、着ている制服から、それが特型、しかも()()()であることがわかった。

 

「……そうやって神経を逆撫でしてくるようなヤツが、平和だなんだ言ってくるのが一番気に入らねぇよ」

「お姉様……あの者はまさか……」

「ああ、あたし達の姉妹艦だ。わかりにくくされちまってるけどな」

 

 身体は寄生されているかのように装甲や深海棲艦のパーツが貼り付き、脚はガタガタ。やはり腹を貫くように触手が伸び、脚に巻き付いて姿勢を制御しているレベル。腕に至っては、片方だけが肥大化してしまっているようにも見えた。

 それなのに、頭だけは比較的綺麗に残っているからタチが悪い。駆逐艦級の頭をヘルメットのように目深に被っているせいで目は見えていないが、その口からはチラチラと触手が見え隠れしている。

 

 姉妹艦故に、その正体はすぐにわかった。

 

 

 

 

「……初雪だよクソッタレ」

 

 深雪を怒らせて正常な判断をさせないようにしているのではないかと思えるほどに、ピンポイントな選出。出来損ないにされた初雪が、深雪に対して主砲を構えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。