深海棲艦にとっての深雪は、探照灯のように輝いているため、非常に狙いやすい存在となっている。この海戦に参加している深海棲艦、またその要素が含まれている者は、全員が深雪の位置を完全に把握している状態。特異点の輝きは、遠目で見てもわかるほどのようである。
そのため、戦いに参加する者は、別の役割を持つ者以外は深雪の近くに集結するようになっていた。その場から動かないのは、海賊船からの砲撃を対空砲火で撃ち落としている秋月と、それを護衛するタシュケントくらい。残った者は、少しずつでも距離を縮め、改造深海棲艦を確実に始末していた。
しかし、それだけでは終わらないのがこの戦場。特に出来損ないが厄介極まりなかった。
6人いる中の2人、Z3と初雪を片付けたわけだが、残っている4人──少なくとも1人は野分であることは確定している──は未だに存命中どころか、元気に深雪に向かって行動を始めていた。
「くっそ、また道を遮りやがる!」
深雪の目的はあくまでも白雲と共に出来損ないの始末をすること。改造深海棲艦には構っていられない。そこで消耗させられては、さらに後に控えているカテゴリーYとの戦いに支障をきたす。
深雪と白雲の力は、対出来損ない相手では切り札級の力を持つことが証明された今、無駄な消耗はなるべく避けなくてはならない。
「ほら、深雪。ちょっと退いてなよ」
そこをどうにかするのが、新たな改装を受けた時雨である。背部大口径主砲を前方に構えて、進路を妨害する改造深海棲艦達に狙いを定めていた。
「まとめて薙ぎ倒す。君はあのグチャグチャしたのに専念すればいい」
そして、その一撃を放った。これまでも大口径ということで相当な威力があったが、改装されたことによってさらにその威力は増し、駆逐艦や軽巡洋艦ならば一撃で粉砕。戦艦レベルであっても致命傷を与えるのが容易いほどとなっていた。
改造深海棲艦は装甲もかなり硬くなっており、駆逐艦の主砲では少々対応が厳しいところがある。ダメージが入らないわけではないので、根気強く攻撃を続けていれば、最終的には確実に斃すことは出来るのだが、その消耗は通常の倍近くと言っても過言ではない。
時雨の砲撃は、そんな装甲ですら容易く貫いているため、その火力は改二の時からは段違いと言えた。
「かったーい! ただの駆逐艦なのに弾かれるんだけど!?」
と、泣き言のように叫ぶのは子日である。先程Z1に主砲を借りて撃ったとき、巨大なシールドを持っている雷巡チ級に弾かれていたが、同じことが駆逐艦の装甲でも起きたため、嫌でも驚かされた。
それでもどうにか出来ているのは子日の技量。装甲と装甲の隙間を狙うような砲撃で、着実にダメージを与えていた。自己修復に関しては、傷付いた瞬間にもう一発同じところに入れることでどうにかしている。
ヒト型ならばわかりやすい急所があるからいいが、バケモノ型は全身に装甲を纏っているモノも少なくない。
そして、それをモノともしない者もいる。集結しつつある仲間達の中でも、特に大暴れをしている夕立である。
「ぽいっ、ぽーい!」
強烈な蹴りで自分の身の丈ほどもある敵駆逐艦を軽々蹴り上げると、装甲に守られていない腹部を曝け出させた。そしてそこをすかさず砲撃することで、一撃で終わらせる。
接近戦すらも当たり前のようにこなし、的確に急所のみを狙う。その蹴りすらも並の威力ではなく、改造深海棲艦を当たり前のように
「わーお……」
「That's amazing……」
そんな夕立を見て唖然とする村雨とヘイウッド。伊豆提督の増援申請の際に多少は話を聞いており、深雪や電とは違うタイプの純粋種も仲間にいるということは知っていたのだが、ここまで無茶苦茶するようなタイプは想定していなかった。
勿論、第三世代──カテゴリーCにも夕立は存在しているが、ヤンチャであってもあそこまではしない。潜水艦の問題児である夕立があまりにも特殊なだけ。
「ほらほら、ボーッとしない! ミユキ達にはまだまだ温存してもらわないとダメだからね!」
そんな2人が動きを止めかけたのを見て、グレカーレが声をかけて正気に戻す。動きなよとポンと叩いて、手を止めないように促した。その時にさりげなく尻やら胸やらに触れたのはご愛嬌。
「バケモノみたいなヤツは、割と口開けるから、そん時に中にぶち込んじゃって。こうやって、さ!」
手本を見せるように、硬い敵駆逐艦の口の中に砲撃を放った。閉じる間も与えずに吸い込まれていった砲撃は、内部から破壊してそのまま絶命させる。
「よくもまぁそんな簡単にポンポンやれるわねぇ」
「これでもアンタ達と年季が違いますから。さぁ、じゃんじゃんやっちゃうよ」
「
簡単な斃し方を知ることが出来たならコチラのモノだと、村雨もヘイウッドも真似してガンガン始末していく。
お手本を見せるだけでそれがちゃんと模倣出来るというだけでも、なかなかの実力者である。グレカーレはそういうところに素直に驚いていた。
「来たぞ、白雲!」
「かしこまりました」
そんな混沌極める戦場、道を開いた先に新たな出来損ないが現れた。それは、那珂や舞風が相手をしている最中に深雪に反応して移動を始めた野分の出来損ない。
他の出来損ないと同様に、脚を壊す移動とすぐさま修復が入ることによる高速移動で、特異点を始末しに来ていた。
だが、一度斃し方がわかっているのだから、同じことをもう一度やるだけでいい。凍結させ、修復を妨害して、消し飛ばす。これが最も的確な対処法。
「一度上手く行ったのです。二度目も上手く行くでしょう」
すかさず白雲が鎖を放つ。急所を狙わないで攻撃すれば、動きが若干緩慢になる。それを誘発させるためにも、わざと少し外れた位置に狙いを定めて。
しかし、今回の野分の出来損ないは違った。まるで初雪の出来損ないのやられ方を全て理解しているかのように、鎖を大きく回避。急所以外にも、触れただけで敗北に繋がる攻撃を覚えたかのようだった
「むっ、動きが変化していますね……お姉様!」
「あいよ。近付くんじゃねぇ!」
鎖も避け、真っ直ぐ深雪に向かっていくというだけで、あの出来損ないの行動が何を狙っているのかがわかる。
時雨がZ3の自爆によって致命的なダメージを受けていることも、野分の出来損ないは理解しているようだった。それこそ、全ての出来損ないの記憶が共有されているかのように。
いや、勘付く者ならばここで勘付いていた。出来損ないが共有しているのは、記憶ではなく
つまり、出来損ないを統括する何者かが、この戦場を全て見ながら、その時その時に応じて戦術を変えているということになる。
故に、深雪はまず近付かせないような砲撃をその進行方向に放つ。当然、それは左右どちらかに回避するだろう。そこに合わせて雷撃も放つ。これを回避するには、大きく下がるか
「どっちを選ぶ!?」
選択肢を与えた結果、野分の出来損ないは大きく下がることを選択した。ただ本能のままに深雪を始末しようとするのならば、気にせずに跳んできている。より勝利に傾く方を選択した。理性も思考もないのに。
出来損ないの統率者は、Z3、初雪と失うことになって、少々頭を使うようになったようだ。特に後者は、特異点の手札を切らせるためにはいい働きをしている。命を使って手札を切らせることは出来た。
退きながらも深雪に向けて砲撃と雷撃を繰り出す出来損ない。相変わらず火力は駆逐艦のそれでは無いのだが、回避出来ないような攻撃ではない。だが、精度が初雪の時と比べると若干良くなっている。深雪の癖も見抜こうとしているかのようだった。
「完全にあたし対策で来てやがる。こんなヤツでも少し成長してんのかよ」
何処から深雪を見ているのかはわからない。チラリと空を見ても、空母隊が航空戦で拮抗しているような場面しか見えていない。監視されているような感覚は何処からも無かった。
「白雲、行けるか!」
「申し訳ございません。白雲の鎖は、相当警戒されているようです」
「だよなぁ! 修復させないなんて普通なら絶対回避するもんなぁ!」
深雪だけでなく、白雲の攻撃もやたらと回避する。この出来損ないは、初雪の最期を知らないはずなのに。
「何処で見てんだ……?」
簡単にはわからないところで見ているにしても、対応が早すぎる。まるで、深雪と白雲の連携を
ここに思い至ったとき、深雪はまさかと思った。統率者は、
それを確信に変えることがすぐに起きる。その行動が読みきれない者だって存在すれば、対応が出来ない。
「どっかーん!」
乱入するのは那珂である。野分の出来損ないからしてみれば完全に死角からの一撃を、完璧なタイミングで決めた。
その砲撃を喰らった野分の出来損ないは急所こそ免れていたが腕を胸ごと抉るように破壊されていた。一切の容赦なく、胴を破壊しにいこうとしたところを見て、深雪は那珂の胆力に驚いた。
「やっと追いついた! そーれっ、ワン、ツー!」
続いて舞風。那珂が放ったことで出来た傷に向けて、すかさず二発の砲撃。これも勿論死角から。
流石にこうなると野分もまともに当たらないように動く。破壊された部位を修復しながら、死角を無くすために砲撃の方を向いていたことで、舞風からの砲撃は完全に回避。那珂もその視野に入れたため、次の攻撃をされる前に先制攻撃。
「熱烈な歓迎は嬉しいけど、那珂ちゃんにそういうプレゼントはダーメ!」
強力な砲撃であっても、狙いは単調に見えたため、那珂は軽々と避ける。強力な自己修復能力と、その際に発生する腐食性の体液、そして自爆さえ気をつけてしまえば、この出来損ないの性能はそこまで高いものではなかった。
火力は高いし速度も速いとなれば並では無いのだが、ここにいるのは百戦錬磨の後始末屋の一員。
「ファンになってくれるのはいいよ♪ でもでも、いくら那珂ちゃんが大好きだからって、ステージに乗ってきちゃうのはルール違反だからね♪」
気付けば、野分の脚が撃ち抜かれていた。那珂の砲撃によって放たれたのはわかるが、あまりにも不意打ちだったため、出来損ないも反応が遅れていた。
「バックダンサーが前に出ることだってあるんだよね!」
「うん、ソロパート、舞風ちゃん!」
「せーのっ、どーん!」
不意打ちだったためか、脚の修復が遅れた。その隙を見逃さず、今度は舞風の一撃。猛スピードで突撃して、その速さを殺すことなく野分の腹を蹴り飛ばす。体液の付着をも避けた、強烈な
その一撃で、野分の身体は宙に浮いた。自爆する暇すら与えない。
「今だよーっ!」
「っ、白雲!」
「お任せください」
浮いたのなら回避は不能。すかさず白雲が鎖を飛ばし、野分の胴体に括り付けた。瞬間、一気に凍結が始まり、野分は四肢を残して全てが凍りついた。
これにより修復が不可になり、動くことも出来なくなる。
「お姉様、よろしくお願いいたします」
「ああ、那珂ちゃん、舞風、いいよな」
那珂も舞風も小さく頷いた。ならば、もう躊躇うことはない。
「悪いな。こんなところで止まっていられないんだ。お前の命も、あたしは背負って先に進む」
祈りながら、深雪は野分の出来損ないの上半身を抉るように砲撃を放った。
「……のわっち……こんなことに使われるために生まれたわけじゃないのに」
舞風はその瞬間を拳を握り締めて見守った。怒りを抑えて、涙を堪えて。
そんな舞風を、那珂は慰めるように撫でた。