後始末屋の特異点   作:緋寺

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群れを抜けるため

 時は少し遡る。深雪達が野分の出来損ないを始末し、残った3体の出来損ないが深雪を警戒するようになったことで、戦況が若干変化した。

 改造深海棲艦はより強力な個体が群がるようになったため、深雪と仲間達が始末するにも、これまでより時間がかかる。1発で済むものが2発は必要になるのだから、単純計算で倍だ。それに、ここには那珂以外が全員駆逐艦であるため、神経の使い方が違う。

 

「キリがないね全く。深雪、本当に人気者じゃないか」

「こんな奴等に人気があっても嬉しかねぇよ」

 

 時雨の皮肉を受けた深雪は、心底嫌そうな顔で主砲を放つ。深雪の一撃は駆逐艦のそれを超えているので、それがどんな艦種であろうとも当たり前のように消し飛ばす。

 出来損ないの始末のためには、深雪と白雲の力は必要不可欠。2人の消耗をなるべく抑えるため、群がる改造深海棲艦は他の者達が全力で担当する。自衛とかはやらせているが、本来ならこの深雪の攻撃も出来ることならやってもらいたくはない。本当に必要なタイミングで弾切れなんて起きたら目も当てられないからである。

 

 だが、戦場にいる敵の殆どは深雪に向かってきていると言っても過言ではない。それほどまでに特異点が警戒されているということに他ならない。

 

「ぽーい! 狙いやすくて楽勝っぽい!」

「ユーダチ! アンタちょっと弾使いすぎ! 一回うみどりに戻って補給してきなよ! ついでに()()()()()()()()()!」

 

 深雪の近くにいれば血祭り(パーティー)出来ると、やりたい放題やっている夕立と、それをサポートしながら戦うグレカーレ。長く戦っていれば弾切れも起きるが、夕立はその辺りを全く考慮しないスタイルであるため、グレカーレがある程度管理してやらないと危険であった。

 そんな言葉を聞いた夕立は、不服そうにしつつも、妖精さんからも早よ戻れと合図をされたようで、渋々一時撤退。補給されてからすぐさま出撃する気満々。

 

 同じように、今のこの戦場では、一度戻る者が現れ始める。改造深海棲艦の相手をするのはそれだけ消耗を促されるということ。

 

「そっちはまだ保つ!?」

「はいはーい、まだまだ大丈夫よ!」

「It's still okay」

 

 グレカーレが気遣うのは夕立だけではない。この戦場では割と気にかけている村雨とヘイウッドにも声をかける。2人はグレカーレにお手本を見せてもらった甲斐もあり、改造深海棲艦相手にも一切後れを取ることはなかった。

 

「白雲、お前も大丈夫か」

「お気遣い感謝いたします。幸いにも、まだまだ有り余っています」

「無理だけはすんなよ」

 

 白雲の凍結の力は弾薬を一切消費しない特殊な力。しかし、代わりに燃料を通常よりも多く使う。乱発などはしないが、あまり使いすぎると、弾は切れずともガス欠になってしまう。

 それは白雲自身も把握しているため、出来損ない以外に凍結を使おうとは考えていない。むしろ、この手段は多用するべきではないとも思っている。肝心な時に動けないとなったら、深雪に迷惑がかかってしまうのだから。基本的には節約。

 いざという時は補給にも向かえる戦場だ。緊急時は先程の夕立のように一時撤退という手段も考えられる。だが、この戦場で深雪と離れるとは一分一秒でも避けたいと考えるのが白雲である。

 

 少しずつでも前に進むことが出来ており、夜であっても海賊船の詳細が目視出来るようにはなってきている。

 元々海賊船の出入り口に姫がいたことは、時雨や子日が確認している。そして、そこから出来損ないが出撃した瞬間もその目にしている。

 

「あの姫は中に引っ込んだみたいだね。安全にこちらを押し潰したいのかな」

 

 子日はここでずっと海賊船の方を眺め続けていた。最初に見た姫は既に船の中に入ってから、一度も表に出てきていない。出来損ないを3体使っても、深雪はおろか誰も始末することが出来ていないことから、次の作戦に出ようとしているのだろう。

 

「せめて前に進みたいところだけど、僕達では少し難しいかな」

「時雨ちゃんが厳しいとなると、子日達はもっとキツイんだよぉ!」

 

 時雨は背部大口径主砲を振り回しながら、合間合間に砲撃も放っている。その威力は駆逐艦のそれを優に超えており、一撃で駆逐艦程度なら粉砕しているのだが、減らしたところで即座に補充されるため、前に進むのも大変な状態。

 戦力は増えてきてはいるのだが、消耗によって減ってもいるので、拮抗を維持され続けている。艦載機による援護も、制空権が拮抗しているため、今は難しい段階。

 

「くそ、一回道を作るか……!」

「深雪、無駄弾は使わないでくれないかい」

 

 また撃とうとする深雪を時雨が制する。

 

「君の砲撃はちょっと意味がわからないけど残骸すら残さずに消し飛ばせるんだ。あの気持ち悪い連中には一番効くんだから、今は温存するんだよ」

「だけどよぉ」

「それに、君が正面を撃ったところで、すぐに道は塞がれるんだ。やっても無駄なことをするんじゃないよ」

 

 時雨に言われて、深雪は口を噤む。間違ったことを言われていないので、何も言い返せなかった。時雨の正論は深雪に効く。

 

「せめて空母……いや、重巡が来てくれれば……」

 

 その重巡、妙高と三隈は、どちらかと言えばうみどり防衛に専念していた。

 

 今この戦場にまで来ていないもの、主に潜水艦組は、うみどりという居場所を守るために尽力している。

 改造深海棲艦は深雪を主に狙うものの、深雪の居場所を奪うためにうみどりそのものを狙う者も大量にいるのだ。

 深雪が戦場に現れてから群れがそちらに向かうようにはなったが、それでも一部はうみどりから離れようとしていない。それは深雪に向かう援軍を食い止めるかのようだった。

 

 大量に現れる改造深海棲艦は、何者かが統率している。それが今、海賊船に隠れた姫である。時雨や子日はそう結論づけている。

 

「あの船に乗り込むのが一番手っ取り早いか」

「そのためにも、誰かに道を作ってもらわないと厳しいんだよ。誰がそれをやるんだい」

「あー……上手いこと増援を呼ぶ!」

「誰がやるんだい」

 

 簡単に出来るならいくらでもやっている。深雪も残弾を気にしつつ前だけでなく後ろにも気を遣っているのだが、なかなか援軍は来れないようである。

 

「ユーダチが多分呼んできてくれるから、そこまでは根気強く待ってて。あの子はあたし達が考えてる以上にはこの戦いのこと考えてくれてるから!」

 

 若干不安が見えそうだった深雪を安心させるように、グレカーレが説明した。夕立に『いろいろやってきて』と伝えたのは、この辺りのこともある。

 夕立とて、今や心のゆとりを取り戻した熟練の戦士。補給されているときに、この戦況を簡単にでもいいから説明してくれるだろうし、必要ならば誰かが増援として来てくれるはず。夕立ならば、その増援をここまで連れてきてくれるだろう。

 

「はい、夕立さんにお呼ばれしたので、防衛ではなくこちらに来ることにしました」

「って、早っ!? ユーダチいい仕事したねぇ!?」

 

 と言ったそばから増援登場。たった1人とはいえ心強い仲間、三隈である。グレカーレもこれには驚いた。

 

 夕立が補給を受けるためにうみどりへ向かう最中、増援が欲しいと叫びながら猛スピードで突っ込んできたらしい。うみどりに押し寄せる敵すら薙ぎ倒しながら。

 このおかげで、三隈がこちらに向かえるだけの隙間が出来たらしく、早速増援としてここまで来たようだ。妙高からもよろしく頼まれたとのこと。

 そもそも三隈も何処かのタイミングでここに来るつもりだったようで、夕立からの援軍の申請は都合が良かったと言える。

 

「深雪さんの道を拓けばよろしいのですね?」

「ああ、頼むぜ!」

 

 こんな状況でも冷静沈着な三隈。穏やかな雰囲気はそのままに、しかし鋭い砲撃によって深雪の前の敵だけを綺麗に始末していく。夜間瑞雲との連携は矢矧と同等かそれ以上。1機と1人の同時攻撃によって、確実に1体を沈める。

 しかし、ただ沈めるだけではその残骸を拾われて次の敵増援に繋がってしまう。故に、三隈は()()1()()()()()()()()()

 

「ニムさん、()()()()()()()()()

 

 発言した瞬間、その沈みかけた残骸が何かと一緒に爆散した。その残骸を回収しようとした潜水艦を諸共魚雷で爆破したのだ。

 それを行なったのは伊26。三隈と共にこの戦場に現れ、海中から援護をする潜水艦の1人。今でもスキャンプが海中で頑張っているのだが、これだけではまだ足りないということで、うみどり防衛にあたっていた伊26も参戦した。

 

 潜水艦に魚雷を当てるのは極めて難しい。だが、()()()()()という隙だらけの行動中ならばその限りではない。残骸を狙えば勝手に当たってくれる。

 改造深海棲艦の潜水艦は、残骸回収を基本としているようで、大半のそれは海上への攻撃よりもそちらを優先する。そのおかげで、海中はかなり戦いやすいらしい。

 

「これで多少は敵が増えることが抑えられるかと思います。あとは、深雪さんの道でしょうが、もう少しお待ちくださる?」

「何か策があんのか?」

「ええ、今多分、グルッと回ってこちらに向かっていると思いますから」

 

 何のことを言っているのかはわからなかったが、それもすぐにわかることになる。

 

「こちらです、合図、出しますよ」

 

 夜間瑞雲が天高く飛んだかと思った瞬間、チカチカと探照灯で合図を出した。それはまるで、この改造深海棲艦の群れの外にこちらに来いと合図を送っているかのようだった。

 すると、深雪の耳にもこれまでにあまり聞いたことのないエンジン音が聞こえた。実際は聞いたことがある音ではあるのだが、ここまで甲高い音ではなかった。

 

「オラァ! 退け退け退けぇ!」

 

 けたたましく響くのは、朝霜の叫び声。そして、そのエンジン音は、満潮がコントロールする大発動艇の音。

 2人はZ3の自爆によってぶちまけられた腐食性の体液が付着した大発動艇に乗り、ギリギリまで速度を上げて戦場に突っ込んできたのだ。

 

「道を拓くならこれくらいしてやるわよ! 朝霜、合図出すから!」

「おうよ! 同時に飛び降りるぜぇ!」

 

 やろうとしていることがすぐにわかった。深雪の道を塞ぐ改造深海棲艦の群れに、大発動艇を()()()()()()()()()としているのだ。

 大発動艇だって、それなりに質量のある兵器。そして大きさは並の深海棲艦よりは普通に大きい。艦娘なら3人以上が同時に乗れるし、後始末の際に残骸を載せることが出来るくらいなのだ。トップスピードで突っ込ませれば、そこにいる深海棲艦くらいなら纏めて始末出来る。

 

「3……2……1……跳べぇ!」

「っしゃあ!」

 

 深海棲艦を砲撃で沈め、残骸を轢きながら突っ込み、そして飛び降りた瞬間に2人が揃って大発動艇に砲撃を放った。

 瞬間、群れのど真ん中に大穴が空くような爆発が発生。直撃したモノは木っ端微塵に、爆風に巻き込まれたモノも軒並み吹き飛ばされたことにより、海賊船への道が大きく拓いた。

 

「深雪さん、今です。三隈もここからはお付き合い致しましょう。深雪さんが選んだ道を、三隈も見届けましょう」

「ああ、あたしの道だ。今は足踏みはしねぇ。前に進んでやるさ」

「それが貴女のためになるでしょう。進むという意志こそが、大切なのです。貴女が決めた物語を、貴女の意志で、歩いてください。そのために仲間を巻き込むのは、悪いことではありませんからね」

 

 

 

 

 とんでもない力業ではあったが、深雪が進むための道は拓いた。仲間達と共にこの道を進み、まずは海賊船へと接近する。

 

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