改造深海棲艦の群れに囲まれ続けていた深雪達だったが、ここで増援として現れた三隈の機転、そして、戦場を駆けていた満潮の大発動艇の特攻によって、海賊船への道を塞いでいたモノ達が一網打尽にされたことで道が拓いた。
「さぁ、行きましょうか」
「ああ!」
三隈に促され、深雪は出来た道を進む。すぐにでも通過しなければ、すぐにでも群れに封じられかねない。そのため、ここから海賊船に進む者だけは大急ぎで行動に移した。全員が一斉に動き出し、深雪達の進軍を手助けする。
どうせ深雪を追ってくるのはわかっているのだから、基本的には深雪から離れない方が敵の殲滅はしやすい。向かいながら、向かってくるモノを迎撃していくだけになる。
「うへぇっ、本当に群がってきやがる!」
「無駄口叩いてないで撃ちなさい!」
「わかってるっての! あたい達の役目は、友軍としてうみどりの連中を守ることだからな!」
早速衝撃的な登場を見せた朝霜と満潮が、深雪の背中を守るために暴れ始めた。満潮は装備の1つである大発動艇を失ったが、残っている主砲と魚雷で。朝霜はさらに攻撃特化にしているのか、両手に握る主砲で、目の前の敵を次々と撃っていく。
その腕前はかなりのものであり、その火力もかなり高い。特に朝霜は、2つの主砲を交互に撃つことで擬似的な連射を再現しており、確実に始末していった。
そして、三隈が連れてきた伊26が本当にいい仕事をしていた。誰かが斃した深海棲艦の残骸を狙って魚雷を放てば、それを回収しに来る敵潜水艦が勝手に魚雷に当たってくれる。そうでなくても残骸が木っ端微塵になるため、再利用がほぼ不可能になる。
その都度、大きめな水柱が立ち昇るものの、既に通過した後の場所であるため、深雪を追う敵の足止めにすらなっているのが心強い。
「流れはこちらに向きました。深雪さん、まだ温存の方がよかったですか?」
三隈に聞かれ、深雪はひとまず肯定する。深雪と白雲の力は、出来損ないが現れるまでは温存。今はこれが最重要事項だ。
あの自己修復の力は白雲の凍結でなければ止められないし、体液を撒き散らす自爆は深雪の超火力によって消し飛ばすことが最もわかりやすく防ぐことが出来る手段。
おそらく同じようなことが出来るものはここにもいるだろう。例えば時雨の背部大口径主砲ならば、深雪と同じように敵の身体を吹っ飛ばすことが出来る。しかし、深雪の砲撃は質が違った。ミンチにするのではなく、本当に
これが改二となり煙幕の力を纏った、深雪の願いを
「深雪、例えばあの敵の船に直接撃ってみるっていうのはどうだい」
道が開いたことで、時雨が提案した。海賊船から敵がわんさか出てくるというのなら、それそのものを破壊してみるのはどうかと。
海賊船さえなければ、戦いはあと見えている分をどうにかするだけで終わる。改造深海棲艦の増殖も根本から絶てるし、内部に引っ込んだ姫も諸共始末出来る。一石二鳥では済まないくらいの効率と言えよう。
だが、それをすかさず止めるのは子日である。
「そんなことしたら、多分ここ穢れまみれになっちゃうんじゃないかな。今でも相当酷いことになってるけどさぁ」
「もうこうなっているんだ。躊躇う必要があるのかい?」
「全部沈んじゃうと、後始末がほんっとうに大変だよ? 残骸が全部沈む上に、あの船も引き揚げなくちゃいけなくなるんだから。出来れば船はそのままであってほしいかな」
後始末屋視点からすれば、あの海賊船を沈めるというのは、後々のリスクが非常に高い。
確かに敵を一網打尽にするのなら、それが一番手っ取り早いだろう。残酷ではあるが、まだ生きているうちに沈めることで、溺死まで狙える。深海棲艦と化したモノに関しては、それが通用するかはわからないが。
しかし、後始末屋としては
ならばそんな必要が無いくらいまで破壊してしまうのはどうかと考えても、それはそれでまずそうするのが時間がかかる。そして、破壊するにもうまくやらないと結局カタチを残して沈んでしまい、厄介なサルベージ作業に繋がってしまうのだ。
「じゃあ、どうするのがいいと君は思うんだい」
「中に乗り込んで、敵だけを全部斃すのがいいと思うけどなぁ」
「那珂ちゃんも子日ちゃんの意見にさんせーい」
ここで口を挟んだのは那珂。相変わらず踊るようにステップを踏みながら周囲の敵を殲滅するが、改造深海棲艦であろうともまだまだ余裕があるように見えた。
「もしかしたら、嫌々やらされてるヒトもいるかもしれないよね。そんなヒト達を纏めて沈めるのは、那珂ちゃんちょーっと嫌だなぁ。ちゃんと中に入って、お話聞いた方がいいと思うんだよね」
「悠長すぎやしないかい」
「救える命は救ってこその後始末だよ♪」
こんな戦いでも笑顔を絶やさない那珂に、本物の強さを知る。那珂はこうやって斃しながらでも、鎮魂歌は歌い続けているのだ。
例え深海棲艦でも、改造深海棲艦は望まれてこの姿になったとは思えない。出洲一派に利用され、好き勝手に使われているに過ぎない。命を懸けて足止めさせられているし、連携と言える行動をしていない辺りから、そこが嫌というほどわかる。
那珂はそれについてもあまりいい気分では無いようである。深海棲艦であっても、この世界に生まれたモノ。和解出来るなら和解して、出来れば歌と踊りで楽しんでもらいたい。アイドルとしての本懐は、斃すことではなく楽しませること。
「……まぁ確かに、余計な後始末が増えるのは確かに気分がいいものではないね」
「でしょー?」
時雨も子日や那珂の言葉を聞いて、船ごと沈めるというのは控えることにした。敵がああ来ているのに、散らかした分を片付けるのは自分達というのがどうしても気に入らないが、その作業が余計に増えるのはもっと気に入らない。
だからといって加減するつもりは一切無く、海賊船の機能を停止させられるなら、ある程度破壊してもいいとは考えているようだが。
「深雪さん、三隈から1つ」
そんな時雨の話を聞いたからか、三隈が深雪に対して少し真剣な表情で話す。この時も敵は群がってくるが、この話はしておかなければならないと。
「これから三隈達は、カテゴリーYのような深海棲艦と化した人間では無く、カテゴリーG……
深海棲艦と化した人間の命を奪うことに関しては、深雪は覚悟が決まっていた。だがそれは、見た目が深海棲艦だからどうとでもなること。出来損ないに至っては、もう艦娘とも深海棲艦とも言いにくいバケモノの姿だ。だからこそ、その命を奪うことが出来た。
しかし、海賊船にはそんな
そんな敵を前にして、深雪は前に進めるかと、三隈は問うた。
「……ゲスすぎないか」
「それもまた、人間なのです」
嫌悪感を露わにした深雪だが、三隈はそうとしか言えなかった。利用出来るモノは全て利用して、自分を有利にしようとするのが人間であると。
伊豆提督のような聖人君子は、この世界には一握りしかいない。自己犠牲なんてまっぴらごめんというのが基本。何より大事なのは自分の命であり、そのためには手段を問わない者だって沢山いる。
それこそ、海賊船にいるような人間は、騙し討ちなんてことだってやる可能性があるだろう。無力な弱者で、逆らえずにやらされているだけだと訴えながらも、後ろ手にナイフを隠し持ってその時を虎視眈々と狙っているような輩もいるかもしれない。
「……あたしはそういう奴は始末出来ないと思う。まだそこまで覚悟は決まってない」
「そうですか。でも、それでいいのです」
ニコリと三隈は笑みを浮かべ、そしてまた進路を塞ごうとした改造深海棲艦を即座に始末した。瑞雲との連携はより精度を増し、話しながらだというのに一撃一撃が確殺レベル。それでいて動きは優雅。
「人間には人間の裁き方があります。人間を辞めていないならば、人間の枠組みで裁きを受けてもらいます」
「人間の裁き方……ねぇ」
「ですが、人間を辞め、同じステージに立ってしまったならば、それはもう命のやり取りです。人間の枠組みから自ら抜け出したのですから、あちらにも覚悟があることでしょう。勿論、自らの意思でその姿になっていない者もいますが、この戦いを愉しんでいるようならば、三隈も容赦はしません。道を阻む者はこの手で退かしますよ」
少しだけ、ほんの少しだけ、三隈の心の内が見えた。三隈も出洲一派のやり方には苛立ちを覚えている。勘付けるくらいには言葉の節々に怒気が見えた。
「さぁ、あの方はどのような心持ちで戦場に立っておられるのでしょう。直接聞いてみましょうか」
そして三隈の視線の先。海賊船の出入り口には、改造深海棲艦とは違う人影が見えた。
数は4つ。明らかに出来損ないと思われる3体は、やはり深雪を始末するためにここに集結させられていた。すぐさま行動に出ないところからして、完全に支配下に置かれている。
そしてもう1体。それは出来損ないと同じくらいの見た目ではあるが、明らかに深海棲艦の姫。真剣な瞳を見る限り、これまでに戦ってきたカテゴリーYとは違って、深雪達のことをなめてかかっていることはなさそう。慢心も無いように見える。
「……気分が悪いね。
時雨が苦虫を噛み潰したような表情で呟く。その時雨と共に戦っている子日も、出来損ないの1体を見たことで口数が少なくなっていた。静かに、しかし怒りを沸き立たせているような表情。
「どうした、時雨」
「あのバケモノ、1体は僕のかつての仲間だ。有明……と言ってね」
「子日の妹だよ。勿論本当のじゃないけど」
駆逐艦有明。それが出来損ないの1体。時雨のかつての僚艦であり、共に戦った仲間である。当然ここの出来損ないはその命を使った艦娘をさらに弄くり回した結果なのだが、時雨にとっては有明に対する最大の侮辱。子日にとっても、同じ初春型が犠牲になったというのが気に入らず、主砲に包まれている拳に力が入った。
「他は……朝霜?」
「クソ腹立つな。あれ、夕雲型だろ」
「ええ。朝潮型もいるわ」
残り2体も知っている顔がいるようだった。片方は朝霜が知る顔、駆逐艦浜波。そしてもう片方は満潮の知る顔、駆逐艦朝雲。
まるで当てつけのように取り揃えられた出来損ない達に顔を顰める一同。だが、それ以上にそれを統率する姫に対していい顔をしていない者が。
「……のわっちだけでも嫌だったのに」
それは舞風。先程野分の出来損ないを始末したときにも苦言を呈していたが、今度は姫の姿を見て嫌そうな顔をした。
舞風がそうするのならば、那珂も同じように苦笑する。
「駆逐水鬼……萩風ちゃんの命を使ってるね、アレ」
その姫、いや、
海賊船に乗り込むには、この4体を斃さねばならないだろう。しかし、一度引っ込んでからまた出てきたということは、一筋縄ではいかないのは目に見えている。