後始末屋の特異点   作:緋寺

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背中の目

 現れた3体の出来損ないは、これまでとは違って強力な連携技術と、三本目の腕として扱える触手を手に入れていた。そして、バラバラではなく3体が纏めて1人を狙うように行動し、それを邪魔されないように全ての手段を使って妨害や牽制までしてくる始末。

 最初は朝霜が狙われてしまったが、出来損ないの中に姉妹艦である浜波がいたために驚きが増してしまい、まともに攻撃が出来ず。それを非難した満潮も、出来損ないの中に姉妹艦である朝雲がいたためにまともな戦いが出来なかった。

 そのため、2人には周囲で邪魔をする改造深海棲艦の処理に回ってもらい、今はグレカーレとヘイウッドが3体に立ち塞がる。2人とも出来損ないには縁がなく、まだ容赦なく戦うことが出来たからだ。

 

「くっそ、ぶっ飛ばせねぇ……!」

「白雲の鎖も、警戒されております……」

 

 出来損ないとしては特に警戒しなくてはならない深雪の主砲と白雲の鎖は、しっかりと対応済み。前者は三本目の腕として扱っている触手が主砲を使うことにより、常に深雪を狙い撃つことで。後者は近付いてきたところを触手によって払い除けることで。

 幸いにもその砲撃の威力は並より少し上という程度だったため、比較的回避もしやすい。連射もないので、逃げ道が塞がれるなんてこともなかった。だが、照準を定めることを邪魔するため、狙いが甘くなってしまう。白雲も鎖を伸ばしたところで空振ることすら出てきている。

 

「迂闊に瑞雲も飛ばせませんわね」

 

 三隈の扱う夜間瑞雲も、当たり前のように対空砲火で墜とされてしまう。多用しているわけではないのに、爆撃による上からの攻撃までしっかり対策されていた。

 

「あいつら、背中にも目があるみたいに動いてきやがる!」

()()()()()()()()()()。ほら、彼女らの艤装をよく見てくださいな」

 

 三隈に言われ、深雪はしっかりと凝視する。砲撃が飛んでくるためにゆっくりとはしていられないが、促された背部の艤装をよく確認した。深雪が促されたため、白雲も三隈の話していたことをその目にするために一度目を凝らした。

 

「……ありゃあ、なんだ」

「醜悪な……()()()()……?」

 

 そして、その目に入った。3体の出来損ないの背中、どちらかと言えば首の辺りに、気色の悪い蛸のような存在がへばりついていた。

 深雪や白雲、時雨もその存在を知らないが、艦娘、特にカテゴリーCの中では、それはかなり有名な存在。

 

「深海忌雷と言います。本来のものよりは大分小さめですが」

「機雷? あんなもん、どこからどう見ても機雷なんかじゃあ」

「深海のそれは特別製なのですよ。自ら動き、獲物の脚に絡みつき、そして機雷らしく爆発する。つまり、深海忌雷は深海棲艦未満の代わりに、異常な火力を手に入れた()()()()()()と考えておけばいいでしょう」

 

 性質としてはその名の通り機雷である。ただぷかぷか置いておくだけでなのに、機雷そのものが意思を持ち、本来ならば獲物を待ち続けるところを、自ら獲物に向かって効率的に自爆するということ。故に、忌まわしい機雷。略して()()である。

 実際は深海棲艦の姫がいる戦場で稀に誕生しており、その短くも勇ましい命を散らすために行動している。当然ながら、艦娘達はその出現を警戒して行動する。

 

 しかし、あの出来損ないは深海忌雷の使い方が考えているモノと全く違う。爆発するために絡みつく触手は、()()()()()()()使われ、出来損ないをより醜悪なモノに変化させていた。

 その深海忌雷が常に背後にも目を光らせていると三隈は睨んでいる。実際は目なんてないのだが、おそらく内部に全方位に対応する電探か何かが仕込まれていると考えられる。

 

「まずはあれを破壊しなければならないでしょうね」

「でも近付けねぇ。あれがずっと撃ってきやがる」

「白雲の鎖も弾き飛ばしてしまいます。ずっとこちらを見ているのですね」

 

 出来損ない達から見て正面で戦っているのはグレカーレとヘイウッド。3人がかりの圧倒的な攻撃の前に、攻撃に転じようとしても防戦一方にされていた。

 その上で、全方位に感度を立てた状態で攻撃まで出来るのだから、全く隙が無いとすら感じる。その上3人いるのだ。

 

「ああもう、なんなのコイツら!?」

「Stay calm. 冷静さを失わないように」

「わかってるけど、さ!」

 

 砲撃から雷撃、爆雷まで使って、出来損ない達からの猛攻を防ごうとするグレカーレだが、ある程度の攻撃は避けることもなく傷つきながら突っ込んでくるために、中途半端な攻撃では距離を詰められてしまう。

 ヘイウッドがそれを防ぐために雷撃を少々強めて放つものの、軽々乗り越えてくる上に、そもそもが脚を傷付けながらでも修復しながら突撃してくるため、勢いが止まらない。

 

 出来損ないの一番厄介なところは、痛覚と恐怖が無いことだろう。どんなことが起きても、全く止まらない。傷付いてもブレーキすら掛けない。反動で壊れてもすぐさま修復され、そもそも自分が壊れていることすら気付いていないかもしれない。

 

「ああもう気持ち悪い気持ち悪い! ジュルジュルしてる!」

Sea anemone(イソギンチャク)みたいなものです」

「よくそんな冷静でいられるね!? あれは流石にキモ可愛いとか言ってられないよ!?」

 

 間近で見たからこそ、その醜悪さに身震いするグレカーレ。だがヘイウッドは見た目から全く動じておらず、むしろ平然と接近させないように撃ち続ける。

 ある程度近くまで来させても、的確に脚を撃ち抜くことが出来ればその動きは止められる。回避の瞬間を狙うというのが一番妥当であり、グレカーレが放った瞬間にヘイウッドが回避させないように重ねることで、どうにかそれが出来ていた。

 また、こうしている間も深雪や白雲がちょっかいをかけるように必殺の一撃を撃ち続けているため、ただ前進させるだけではなくしていた。それのおかげで、致命的な状況にはならずに済んでいる。

 

 しかし、あちらはどうか知らないが艦娘達は弾切れがある。こうやってどうにか迎撃出来ているが、本来の戦い方よりも多くの弾薬を消費しないと対処が出来ないため、どうやってもジリ貧。弾切れ燃料切れはそのまま死である。

 圧倒して始末出来れば良し、そうでなくても弾切れを誘発してより圧倒する。あまりにも理不尽な相手となってしまった。

 

「電探を潜り抜ける方法がないとまずいぞ」

 

 深雪が言う通り、一番の問題は全方位を補完する電探の存在。死角が無いせいで、常に深雪と白雲がカバーされ続けているのが厳しい。

 天敵に対しては完璧な対策を、そうでなければ圧倒的な力を。一度海賊船に引っ込んだことで、ここまでの処置を施してきた。

 

「深雪さん、敵の足下を狙ってもらえますか。白雲さんも、本体ではなく足下です。()()()()()()()

 

 ここで三隈が何かに気付いたのか、天敵となり得る2人に指示を出した。本体を狙うわけでなく、その近くを攻撃しろと。

 本来ならば無駄な攻撃となるだろう。ただでさえ弾切れ燃料切れを気にしなくてはならない今の状況で、そんなことをして何になるのかと疑問に思う。

 しかし、三隈は自信満々にその指示を出した。絶対に何かしらの効果があると信じて。

 

「了解! 白雲、あたしが撃った後に鎖を投げろ!」

「かしこまりました。凍結の力は、最大で」

「おう、じゃあ、やってみるぜ……っ!」

 

 言われた通り、出来損ないの足下に狙いを定め、深雪は砲撃を放った。出来損ないは勿論、自分達を狙っていると考えて回避行動を取る。お返しと言わんばかりに砲撃も重ねて。

 流石にそれに当たる深雪では無いが、やはりこの邪魔のせいで、まともな照準が定められない。足下を狙った砲撃は、かなり手前に着弾してしまっている。

 

「くっそ」

「いえ、これでいいのです。白雲さん、鎖を」

「か、かしこまりました」

 

 深雪の砲撃は消し飛ばす砲撃。駆逐艦の砲撃としたら破格の性能を持っているため、海面に直撃した瞬間、戦艦主砲と見紛う程の水飛沫が飛び散る。その高さは艦娘の身長を優に超え、全てを呑み込むとまでは言えないものの津波と言ってもいいくらいになる。

 そこへ三隈の指示によって白雲が鎖を打ち込んだ。鎖に触れた水飛沫は瞬間的に凍り付くものの、流石にその波が波のまま凍結するようなことはない。よく行っても、水飛沫が()()()になる程度である。大きくてもゴルフボール程も無いくらい。

 

「白雲の力ではこれが精一杯ですが……っ」

「充分です。時雨さん、()()()()()()()()

 

 そんな馬鹿なと思いつつも、時雨は三隈の指示の通りに出来損ないに向けて背部大口径主砲を放った。その威力は深雪と比べても遜色ないものであり、むしろそれを2門で放つため、単純計算でも威力は倍となる。

 しかし、これまで放ったところで軽々と回避されていた。死角から放っているにもかかわらずである。深雪と白雲を牽制しながらでも、時雨の砲撃を見ずに回避しているというインチキさ。

 

 だが、今回は違った。時雨の砲撃を回避する動きが明らかに鈍くなっていた。素早いは素早いので、ギリギリのところで回避したため、そのまま腕や半身が焼かれているものの、それはすぐに修復される。

 

「なっ、あ、当たった……!?」

 

 驚いたのは撃った時雨である。打開出来るかもわからなかったこの戦況を、三隈は瞬時に判断して打開策を作り上げ、そして即座に実績を上げた。

 

「深雪さん、同じことを続けてください。白雲さんも、苦労をかけますが、手を止めずに凍らせ続けてください。時雨さんはタイミングを合わせて自分の判断で、ちゃんと狙いを定めて、終わらせるように」

「僕だけ注文が多くないかな!?」

「貴女なら出来ますもの」

 

 文句は言うものの、勝ちの目が見えたことで、やらない理由が無くなった。時雨は少しずつ角度を変え、死角を捉え続けながら撃つ。

 深雪の砲撃は直撃を狙わず、全て出来損ないの近くの海面を弾き飛ばす。そして弾かれて舞い上がった水飛沫は、白雲が確実に凍らせていった。

 

「なんでこれだけで……」

「あちらの電探、忌雷を中心として()()()()()()()()()だけですわ。こんなに広い海ですもの、それだけでも、死角の敵の一挙手一投足を全て判断出来るでしょうね。でも、おそらくアレは、()()()()()()()()

 

 三隈の分析はこうだ。

 

 出来損ないの背中の目は、艤装に寄生するようにへばりついている深海忌雷を中心とした電探によるもの。電探な割には剥き出しになっているところから、艤装内部に仕込むことが出来ない、すなわち壁があるとその先が見えないのではと。それこそ、()()()()だからこそ、壁の向こうが見えない。代わりに範囲は非常に大きく、この海上に視野を拡げていそうであった。

 それを封じるために講じた策が、()()()()()()()()()である。それによって視野を狭めることによって、攻撃を当てやすくなる。実際に、時雨の砲撃はギリギリで避けられたとはいえ、これまでとは大きく違う。

 

 

 

 

「さぁ、追い詰めていきましょう。辛いかもしれませんが、今は耐えどころ。ですが、敗北の道は見えません」

 

 三隈の機転で、敵の策は崩れつつある。ここに援軍として来てくれて良かったと、深雪は心の底から思った。

 




今回で300話となりました。また長丁場になっていますが、今後ともよろしくお願いします、
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