後始末屋の特異点   作:緋寺

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三隈の策

 三本目の腕のように触手を生やし、寄生した深海忌雷で死角すら無くしていた出来損ないだが、そのスペックに穴を見つけた三隈が的確な指示を与えたことで、遂に打開策が見つかった。それが、深海忌雷の目は、電探ではあるもののあくまでも『目』であり、壁を透過してまで先を見ることが出来ないこと。

 故に剥き出し状態で接続されているのだと三隈は考え、深雪達にやらせたのは、深雪の超火力によって巻き上げられた水柱を、白雲の凍結の力によって瞬時にある程度凍らせ、氷の礫に仕立て上げたことによって忌雷に死角が発生。その先に時雨から放たれた大口径主砲による一撃が、腕を根こそぎ捥ぎ取るように命中した。

 

「さぁ、追い詰めていきましょう。辛いかもしれませんが、今は耐えどころ。ですが、敗北の道は見えません」

 

 こんな三隈の言葉が頼もしく、深雪達はよりその行動を激しくしていく。

 

「割と好きに撃ってもいいよな!」

「はい、ですが敵の視界と逃げ道を封じることをある程度意識しましょう」

 

 水飛沫を上げるだけなら、狙いなんて適当でもいいくらい。出来損ない達の逃げ道を塞ぐような、しかし当てる気がありつつ実際当たらなくてもいいと思えるようなかなり適当な砲撃を立て続けに放つ。三隈もその深雪の砲撃に合わせて逃げ道を封じるように放ち続けた。

 戦場には激しい水飛沫がいくつも舞い散り、まるで雨が下から突き上がってくるような様相。その場にいたら、誰もが身体を濡らし、寒気すら感じてしまいそうである。

 

「白雲さん、大丈夫ですか?」

「この程度ならば、まだまだ。腕の方が疲れるくらいです」

「手伝ってあげたいのは山々ですが、その力は貴女しかありません。頼らせてくださいまし」

 

 その水飛沫を凍らせるため、白雲は鎖を振るう。ブンブンと振り回すだけでは上手く凍らせることが出来ないため、深雪の放った砲撃の着弾点付近に鎖を伸ばし、そこから舞い上がった水飛沫を凍らせるように動いた。

 そのおかげか、出来損ないの周囲、特に深雪達を牽制している背後は、常に氷の礫が存在するようになっていた。昼間ならばダイヤモンドダストが見えていたかもしれないが、今は夜。煌びやかな戦場になることはなく、しかしその存在が目視出来るくらいにはサイズ感のある礫がいくつも発生していく。

 

「子日さん、時雨さんと同じく」

「死角探してる! 白雲ちゃんの氷は意識してるよ!」

 

 攻撃役を時雨のみにするというのも、早く終わらせることには繋がらない。あの状況下、時雨の砲撃が腕を捥いだとしても、今はもう修復済みなのだ。しっかり急所を撃たなければ機能停止は遠い。

 そこで子日も時雨と同じく、氷の礫で死角を作って、そこから撃つことで確実にダメージを与えていく策に出た。

 

「同時に撃てば、どちらか当たるよね!」

「そうでなくても、あちらにも仲間がいるさ」

 

 時雨と子日の同時砲撃は、氷のチャフの隙間から出来損ないを確実に傷付けるようになっていた。勿論回避はされるのだが、全くの無傷な状態では無くなり、修復されるにしてもバランスを崩すことにはなる。

 深雪と三隈が牽制、水飛沫を上げるための砲撃を続け、白雲が凍結により水飛沫を礫へと変えて死角を増やし、時雨と子日がそこから確実に傷をつける砲撃を放つ。これを全て、出来損ないからの砲撃を回避しながら繰り出していた。

 

 そして、時雨が()()と意識しているのは、死角を作りながら戦う向こう側。出来損ないと相対している2人。

 

「あの体液に触れちゃダメなんだよね!?」

「Yes. そもそも近付こうとも思いませんが」

「あったりまえ! あんなジュルジュルして気持ち悪い奴らに近付こうなんて思わないよ!」

 

 グレカーレとヘイウッドは、その死角からの攻撃を受けている出来損ないを、正攻法に真正面から迎え撃つ。

 獲物として認識されているのはグレカーレ。三位一体の攻撃で1人を潰そうとしているようだが、死角からの攻撃を忌雷が意識するようになったことで、最初と比べると明らかに動きが鈍くなっていた。

 

 時雨の砲撃によって傷つき、しかしそれがすぐに修復された際に発生する体液。腕が新たに修復される際にもしっかり発生しており、むしろそれが武器になることを理解しているのか、わざわざ振り払ってグレカーレに付着させようとまでしていた。

 そんなものに当たるようなことはないのだが、体液を飛ばしてくるという行為をすることが、生理的に受け付けないようである。嫌な寒気を感じてブルッと震えながらも確実に避け、お返しに一発撃つのだが、それはそれで避けられてしまった。

 

「というか、アンタなんでアレ見て平気でいられるのさ」

「Ah……嫌悪感、みたいなものはあります。艦娘のCostumeを身に纏ったバケモノは、気分がいいモノじゃないです」

 

 話しながらも自分のやるべきことを理解したのか、雷撃を基本とした戦術で脚を狙うようになっていた。一点集中の砲撃より、バラつくとはいえ範囲の広い雷撃の方が行動を制限出来る。

 しかもヘイウッドはこの雷撃が一味違った。遠方から放たれた深雪の砲撃の余波を受ける位置を狙っていたのだ。その爆発は本来以上の水飛沫となり、白雲の凍結の手助けをする。

 

「だから、早く終わらせる。人間と艦娘を着たMonsterは、ここにいるべきじゃない。深海棲艦よりもタチが悪いですから」

 

 この戦場、想定外の敵に対して、ここまで冷静に自分がやるべきことを判断したことに、グレカーレは驚きが隠せなかった。うみどり以外の艦娘も、なかなかやるなと素直に感心した。

 

 このヘイウッド、以前うみどりに救われた時に重傷を負っていた1人。その時はまだ練度が低かったというのもあるが、突発的に予想外が来た時に対応出来なかったという過去がある。

 それを克服するためにこれまで鍛え続けている。そのおかげで、状況判断能力は援軍のカテゴリーCの中でもかなり高い。

 特に今のような、不意に誰かとコンビを組む際に相手に合わせることが得意であった。ついさっきまで村雨と組んでいたのに、今はグレカーレ。艤装の力も使い方もまるで違うのに、まるで何度もコンビを組んだのではと思えるくらいに合わせている。

 

「アンタ、すごいじゃん。人間も捨てたもんじゃないね」

「? 褒められています?」

「あたしがこんなこと言うの、なかなか無いよ。んじゃあ、あたしももう少し頑張りますかねーっと!」

 

 グレカーレもやらねばならないことがわかったか、ヘイウッドの雷撃に合わせて同じように魚雷を放つ。水飛沫をより大きく上げるために。それがこの戦場で最も効果的であることを理解して。攻撃は勿論全て避ける。体液には触れないように、むしろ近付かないように。

 ヘイウッドとのコンビは、即席ではあるが完璧だった。ヘイウッドの対応力もそうだが、それに加えてグレカーレの対応力も段違い。問題児と言われていた時から周囲を観察することには長けていたのだから、こういう戦場でもそれをしっかり発揮している。保護者と自分で言うのも、こういった特性があるからだろう。

 

「あちらも頑張ってくれています。三隈ももう少し働かねばなりませんね」

 

 ここにいる全員が、出来損ないをどうにかするために動いてくれている。三隈の指示通り、意図通りに。ならば、それに応えねば嘘だ。

 三隈はもう何度目かもわからない夜間瑞雲を発艦。しかし、今回は爆撃をするでもなく、自分の砲撃を支援させるわけでもない。

 

「実際に目があるわけではないですが、これもまた効くでしょう」

 

 対空砲火に狙われないような低空飛行からの、急上昇しつつ照明弾を投下。まるで放り投げるかのような軌道を描いて、出来損ない達の中心に照明弾が飛んだ。

 本当に一瞬、出来損ない達の動きが止まった。攻撃でも何でもないモノが飛んできたことで、避けていいのかそのままでいいのかの判断がすぐに出来なかった。

 意味があるのか無いのかもわからないようなモノが突然現れた時、出来損ないであっても思考が停止するようだった。これまで氷のチャフで視界を塞ぎ続けてきたからこそ、そんな不意打ちが効果的になる。

 

「今です。白雲さん、()()()()()()()()()()()()

「どういう意味でしょう」

「海上でこれだけ凍結させているのです。その上今は夜。陽の光も無い時間帯に氷ばかり周囲にあればどうなるか」

 

 白雲にはまだわかっていなかったが、深雪が三隈を信じろという視線を投げかけてきたため、言われるがままにもう何度目かもわからない鎖の投擲。狙いはこれまで以上に出来損ないに近い場所。

 勿論鎖が直撃するようなことはない。出来損ないはこういう状況下でもしっかり回避する。三隈の照明弾で思考が一瞬停止したこともあり、脚を折りながらのステップではこれまでよりも遠めに避けることは出来ていなかったが。

 

「充分です。全力で凍結を」

「か、かしこまりました……っ」

 

 ここで出来る限りのフルパワーで凍結の力を流し込んだ。その対象は水飛沫なのではなく海そのものである。

 これまでにそんなことをしても、鎖の付近が少し凍る程度だった。しかし、今は違う。急激に凍結が進み、出来損ないの1体の足下まで凍り付き、その回避を捉えた。

 

「えっ!?」

「空気が冷え切っているんです。凍結の進みも良くなるでしょう。皆さん上手く誘導してくれました」

 

 こうやって戦っている時、砲撃の回避方向などをある程度制限し、おおよそ同じような場所を右往左往させ続けていたのだ。特に三隈は、逃げ道潰しという体裁を維持しつつ、さらに行動制限を課していた。

 そのおかげで今、出来損ないの周囲だけは恐ろしく()()()()()()()。見える範囲の水飛沫だけでなく、霧状に舞った水滴までもが凍り付き、温度を徹底的に落としていた。陽の光があれば、そこはキラキラと煌びやかに輝いていたことだろう。

 

「深雪さん」

「あいよ。ここしか無いもんな!」

 

 足が凍りついたということは、そこから少しの間は移動出来ないということ。その少しだけで、深雪の砲撃は決まる。

 

「まずは1体だ!」

 

 足が凍りついて動けない出来損ないに向けて、深雪は渾身の砲撃を放った。それは見事に胸に直撃し、そこを中心に頭の半分まで抉り取るように消し飛ばした。

 

「お姉様、続きます!」

 

 さらに、白雲の鎖が抉り取られた出来損ないに巻き付いたことで、その傷口を一気に凍結させた。こうなるともう修復すら出来ない。抉られたことによって分離した腕がボチャンと海に落ちるが、それも即座に凍結する。

 今その空間は凍らせることに最も適したモノに仕込まれていた。そのおかげで、ここまで簡単に大規模な凍結が完了したのだ。

 

「悪いな……ここで眠ってくれ」

 

 そして、深雪はその凍結した出来損ないの頭にもう一発放つことで、忌雷ごと完全に消し飛ばした。

 

 

 

 

 最初に斃された出来損ないは、浜波のガワを被った個体。残すところはあと2体。

 

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