三隈の立てた策が綺麗にハマり、3体の出来損ないの内の1体、浜波の出来損ないが、深雪の手によって消し飛ばされた。背中に寄生するように鎮座していた深海忌雷も纏めて。これによって自己修復も不可能となり、自爆も出来ない。
1体が完全に無力化されたことによって、残りは2体。三位一体で攻撃をしてきたから厄介だったわけだが、2体になれば話は変わる。
連携は厄介なものの、対応力が1体分減ったことによって、その規模は単純に3割減。牽制もそこまで激しくなくなり、回避もしやすい。
「焦らず、このまま参りましょう。あちらは成長するかもしれませんが、もうこちらの優位な戦場は出来上がっています。先程と同じように進めていきましょう」
三隈の指揮に乗ったことで、戦況が好転したのだから、ここにいる者達は誰もがその言葉の通りに動いた。命令ではなく、鼓舞だからこそ、誰も反発しようだなんて思わない。
この空間は完全に冷却されており、白雲の凍結の力が最大限に発揮されるようになっている。吐き出す息が白く見えるほどに。艦娘達はどうしても寒さを感じるものの、動き回って身体に熱を持たせ、また艤装からの排熱で暖を取る。
白雲は凍結の力を持つからか、寒さにも強いようで、誰よりも機敏に行動していた。鎖の投擲はより精度を増し、足下を狙っていたそれは徐々に出来損ないに直接触れられるほどになっていた。
出来損ないも、なんだかんだヒトのカタチをしているのだから、寒さにはそれなりに身体が反応する。しかし、おそらく余計な感覚──痛覚など──はシャットアウトしているのだろう、そのせいで温度差を理解していない。
そのせいで、知らず知らずのうちに、動きが硬くなっている。特に出来損ないは、体内が粘液に塗れた触手などでコーティングされているくらいなのだ。それが動き回るうちに徐々に凍結していき、最初に比べると間違いなく鈍くなっている。
「あいつら……身体に霜が降りてねぇか?」
深雪がそこに気付いた。出来損ないの身体の表面が、薄らとだが
ここまで来たら、もう十全の力は発揮出来ない。それがすぐにでもわかる瞬間が訪れる。
「修復が遅いんじゃないかい?」
「ホントだ! すぐに治ってない!」
時雨と子日がそこを見抜いた。猛烈なスピードを発揮出来るものの、その衝撃で脚が折れていた出来損ない。その折れた脚は瞬時に自己修復し、何事も無かったかのようにステップを踏んでいたのが今までである。そのせいで回避性能も段違いであり、厄介極まりなかった。
だが、今は違う。折れた脚がそこまで早く治らなくなっていた。自己修復のために動く体内の触手の動きが鈍くなっており、修復が止まったわけでは無いものの、明らかに治る瞬間が目視出来るくらいには遅くなっている。
タネは意外と簡単で、折れた瞬間にその場所に海水が付着するが、自らのスピードのせいでその海水がより強く冷却され、表面を薄く凍らせているから。本来の凍結とは違って修復の勢いで氷の膜は剥がれるのだが、そうすることで瞬時の修復ができなくなっているのだ。
「すげぇ、白雲の力にこんな使い方があるなんて」
「白雲も自分でこれは知りませんでした。このような応用が出来るとは……」
深雪だけでなく、その力を発揮している白雲自身も驚いていた。凍結はただ触れたものを凍らせるだけだと思っていたが、仲間達の力を借りれば、
「では、少し押し込みましょうか」
先手を取るように三隈の瑞雲が爆撃を開始する。凍結前なら即座に対空砲火が飛んできていたのだが、艤装の動きも少しずつ鈍くなってきており、爆撃を回避するのにも余裕が無くなってきている。
「なるほど、確かに押し込めそうだ」
氷のチャフも未だ健在。死角をついての砲撃は、これまで少し傷をつけるという程度だったのが、腕を捥ぎ取るくらいにまで当たるようになっていた。時雨もこれには大きく感心している。
捥ぎ取られた腕の修復も、目に見えて遅くなっているのだから、これはもう完全にこちらに流れが来ていると言い切れるだろう。
出来損ないはここまで来てようやく最初に狙わねばならない存在を理解したようだった。正面に陣取るグレカーレとヘイウッドが、そちらから目を逸らさせるために動いていることもようやく。
本当に狙わねばならないのは、白雲。本来海戦で起き得ないことが出来る存在は、早期に始末しないと不利に持っていかれる。
「やっと気付いたみたいだな」
それに本能的に気付くことが出来たからこそ、2体の出来損ないはその顔を白雲に向けた。優先順位を上げた。
だが、こうなってからではもう遅い。これまでのスピードはもう無く、回避しながら突撃するなんてことをしようものなら、凍り付いた脚が砕けるのみ。修復も遅くなり、まともに動くことも出来なくなるだけ。
「白雲、あたしが守るぜ」
「お姉様に守っていただけるなんて、恐悦至極でございます」
深雪が前に出て、その砲撃を出来損ないに放つ。当たれば体液すら舞い上がらない、消し飛ばす砲撃は、出来損ないの中でも
しかし、もうまともに動くことも出来ない。カクンと膝から崩れ、体勢が低くなった。その瞬間、深雪の砲撃が頭の半分を掠め、綺麗に抉り取った。
「あ、やべ……っ」
これまでのことを考えると、これが一番まずい状況。身体が健在の状態で頭だけやった場合、自爆のカウントダウンが始まるようなもの。素早い動きができなくなっているだけで、頭が無い状態でも誰かに狙いを定めて走り始めるのだから、むしろこの状態が最も恐れる状態。
「走らせませぬ」
勿論、そうなることを知っているため、即座に白雲がその出来損ないの胴に鎖を投擲。触れた瞬間から一気に凍結し、走り出そうとしたところで腿から折れた。
こうなると怖いのはその場での自爆。腐食性の体液が飛び散ることもそうだが、凍結した出来損ないが自爆するということは、それそのものが氷の礫になりかねない。
体液の付着は無いかもしれないが、単純に痛く、下手をしたら骨までやられる可能性があると思うと、早く消し飛ばさねばまずいとまで感じた。
「うおおっ、足止めありがとさん!」
深雪が出来る最高速の装填で、すぐさまその凍り付いた出来損ないの胴を消し飛ばす。こうすれば自爆も出来ないことは知っている。
瞬時にそれが行なえたのは、ひとえに深雪の実力。怯まず臆さずしっかり狙いをつけて放つことが出来たから上手く行った。この戦場で、深雪はまだまだ成長していく。
これにより2体目の出来損ない、朝雲のそれは消滅。残りはあと1体、有明の出来損ない。
その裏側では、那珂が駆逐水鬼を互角に足止めしていた。砲撃も入り交じる超接近戦。拳を交わし、砲撃を交わす。
「もう、那珂ちゃんが直接ファンサービスするのはレアなんだからね♪」
「とんだアイドルね……最初からファンでもなんでも無いけど」
「いやーん、那珂ちゃん悲しい!」
口調はずっとアイドルである。この命懸けの戦いですら、そのスタンスを崩さない。
至近距離にいるということは、駆逐水鬼の艤装から生える巨腕でも触れられる距離ということ。
砲撃交じりの拳はかなり厄介であり、当然ながら受け止めることすら出来ない。そして、回避の方向を間違えると、砲撃が拳そのものが直撃する。
当然ながら、駆逐水鬼のその主砲は駆逐艦のそれとはレベルが違う。戦艦主砲に匹敵する程の火力を持っており、掠めるだけでも大ダメージは必至。
それを確実に回避する手段として、那珂は
巨腕の稼働範囲には限界があり、外側より内側の方が狭い。それを理解した上で基本的には突撃を選択する。
「ハグはしないよ? 那珂ちゃんは握手までだからね♪」
「していらないから」
ここで繰り出すのは鳩尾への強力な一撃。しかし、駆逐水鬼とて両手がフリーであるためガードは容易。
「っふっ」
「クラッカーを鳴らしてくれるのかな?」
拳を受け止めつつもバックステップし、巨腕の主砲で那珂を狙い撃つ駆逐水鬼。それに対応して横っ跳びをすることで砲撃を回避する那珂。
回避しながらも那珂は主砲を放つが、少々狙いが甘かったか、砲撃をしていないもう片方の巨腕によって弾かれてしまった。異常に硬く、軽巡洋艦の主砲では少し傷をつける程度。
だからだろう、那珂は既に次の一手を放っていた。
「コールしてねー! 那珂ちゃんカワイイー!」
隠し持っていたマイク──
それはこの夜戦では目眩しとしては非常に優秀。不意に光られたことで回避することも出来ず、駆逐水鬼の目が眩んだ。マイクのように扱っているせいで、一瞬探照灯かどうかもわからなかったというのもある。
「くっ……っ」
「はい、お土産もどうぞ♪」
眩んだ目の前に放り込まれたのは、今度は軽巡洋艦以下ならば誰でも持っている簡易爆雷。本来の爆雷よりは規模が小さいものの、間近で爆発すれば潜水艦だって普通に斃せるだけの火力は持っている。
それを今、
「させないわ!」
ガードに使っていた巨腕を振り払い、爆雷をどうにか払い除けた。触れた瞬間に爆発するというタイプではなかったため、ただそれだけでもダメージ回避に繋がる。
しかし、那珂の狙いはそこでは無い。払い除けさせることに意味がある。
「あ、これもどうぞどうぞ」
巨腕で払い除けたということは、そちら側の胴はガラ空きになる。もう片方の腕は、ガラ空きになった方を守れるほど長くない。故に、そこに向けて投げられたのは魚雷である。
「なっ!?」
流石にこれは払い除けるとかそういうレベルではなかったので、駆逐水鬼はすぐさまバックステップで魚雷の範囲から逃れる。
しかし、この爆雷と魚雷、一切爆発しなかった。つまり、
それに気付いた時にはもう遅い。
「っぎっ!?」
那珂が跳び込んできており、側頭部に蹴りを叩き込んでいた。脚部艤装を装備しているため、その衝撃は普通では無く、ダメージも相応に大きいもの。
だが、自己修復と共に頑丈さも手に入れているのか、この一撃を喰らっても首が折れるなどの明確なダメージは見えなかった。
「わお、首がつよーい! ブレイクダンスとか得意だったりする?」
那珂はまだまだ笑顔を絶やさない。駆逐水鬼は、そのアイドルに対して少しだけ苛立ちと恐怖を感じた。
実力は拮抗しているが、那珂の方が若干有利か。しかし、まだ互いに全力を出し尽くしているわけではない。戦いはまだ終わらない。
支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/114201533
現在絶賛活躍中の那珂ちゃん。言ってることは完全にアイドルだけれど、その奥底には熱い何かが存在している。歌って踊って戦える、そんなアイドル。