後始末屋の特異点   作:緋寺

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今必要なのは

 長門達の部隊が深海鶴棲姫を、深雪達の部隊が駆逐水鬼と残りの出来損ないを始末したことにより、海賊船への突入を阻む敵が改造深海棲艦のみとなった。それも今、他の者達が対処し続けており、残骸の回収も食い止めている状況。

 

「合流だ。深海鶴棲姫は終わった」

 

 比較的海賊船に近い場所で戦っていたのは深雪達。そのため、長門達がそちらに向かってくることで合流。

 長門と榛名は弾切れが近く、身体にも傷があり、しかも主砲を片方パージしていることもあって、合流したもののこのまま戦いに向かうのは少々危険だと話す。同じように矢矧も傷は勿論のこと、燃料弾薬を大分使い込んでいるため、補給は必至だと語った。唯一清霜だけは、途中でパージされた戦艦主砲を使うこともあったため、少しだけ余裕がある程度。

 

 そしてもう1人の方にどうしても視線が集まる。深海鶴棲姫から捥ぎ取った生首を掴んだまま、海上に近い場所を泳いできた伊203。当然、深海鶴棲姫の亡骸と艤装をそのままにしておくわけにもいかないため、長門がまだ残っている力を使ってここまで曳航してきている。

 

「いやあの、それ何だよ!?」

 

 流石の深雪もその状況には驚きが隠せず、すぐさま言葉にする。ここで出来損ない達と戦っていた者達ですら、伊203が当たり前のように生首を運んでいる様子には恐怖を覚えていた。先程、これよりさらに酷い、深海忌雷が寄生した有明の生首なんてものを見せられているというのに。

 

「これ、このままでも生きてるかもしれない」

「はぁ!? そんなわけ……」

「心臓を潰しても生きてた。だから、あながち否定は出来ない」

 

 今は機能停止しているだけで、しばらくしたら目を覚ますのでは無いかと、伊203だけでなく長門達も否定は出来なかった。

 頭だけになっても生きている可能性があると聞き、深雪達は絶句した。それはもうカテゴリーYとかそういうレベルでは無いバケモノ。『双胴艦』という聞き慣れない言葉も出てきて、ますます混乱する。

 ともかく、その生首は撃破の勲章なのではなく、()()()()という意味で持っているらしい。機能停止している間にうみどりに運ぶべきで、どうにかして修復不能にしておきたいと。

 

 何の抵抗もなく生首を運んでいる伊203には驚きしか無いが、後始末の時には似たようなことも起きるので、最終的にそこは納得した。

 

「後は本丸を叩くだけか」

「はい、未だ群れはあの通りですが、我々の道を塞ぐ者はおりませんね」

 

 長門の状況把握に対して、三隈が周囲を警戒しつつ説明する。深雪を狙って群がる改造深海棲艦の群れは未だ健在。そちらにも当然戦力は割いている状態であり、抑え込んでくれていたから出来損ないと駆逐水鬼を撃破することが出来た。しかし、まだ完全に終わったわけではない。残骸を回収はされなくなったが、それでも敵の量はかなりのモノ。もうしばらくは戦いっぱなしになるだろう。

 

 ここでどうしても考えなくてはいけないのが、ここにいる全員の補給。一度戻るにしても、退路を塞ぐように改造深海棲艦の群れ。戻るのにも一苦労しそうな状態。

 しかし、このまま向かったとしたら間違いなく弾切れを起こす。海賊船を制圧することは出来なくなる可能性が高い。

 

「私と榛名はかなり無茶をしている。出来ることならば、一度補給を受けたい。清霜、護衛を頼めるか」

「もっちろん! 戦艦護衛駆逐艦の実力、また見てもらうよ!」

 

 清霜はまだ元気がある方だが、ただ1人で2人を護衛しながらうみどりに戻るのはなかなか大変。補給するために群れをぶち破るというのはかなり厳しい話である。

 

「白雲、お前も補給いるだろ」

「……出来ることならば」

 

 深雪が気遣う白雲も、弾薬は殆ど使っていないが燃料が大きく減っていた。凍結の力をフル稼働し続けていたため、そこに大きく持っていかれているのだ。

 ただでさえ大規模な凍結までやっているのだから、消耗が激しくなるのは仕方ない。深雪だってそれを誘発するために何度も砲撃を放っているのだから、弾切れが近いのはわかっている。

 

「全員で一度うみどりに戻る?」

 

 子日の提案。少なくとも、ここにいる者達は激戦の末、どうにか勝利を収めたものの、次の戦いのために温存を考えている余裕は無かった。深雪や白雲だけでなく、他の者だって撃ち続けていたのだから消耗は激しい。

 

「いえ、戻る必要は無さそうですわ」

 

 すると、三隈がニッコリ笑って、これまでとは違う方に視線を向けた。海賊船でも、うみどりでもない。これまでそこには何も無かった海の向こう側に、3()()()()()()が姿を現していたからだ。

 この戦場の状況を知るためか、前方を探照灯で煌々と照らし、その大きな艦体で出来る限りの最大戦速で突入してきた。

 

 こんなことをするのなんて、1人しかいない。そしてそれは、すぐにわかることになる。

 

『遅れてすまねぇ! 海洋調査艦おおわし、これよりうみどりを援護するぜぇ!』

 

 戦場に響く男の声。知らぬ者には驚きを、そして知る者には心強さを感じさせるそれは、ここに来るのを深海棲艦に妨害されていたという、海洋調査艦おおわしの長、昼目提督の声だった。

 

『こちらから援軍を送る! 消耗してるヤツぁ、おおわしで補給する! うみどりに戻るよか早いだろ!』

 

 この昼目提督の提案は、ここにいる者達にはありがたいものである。改造深海棲艦の群れを抜けてうみどりまで行くよりは、確実に安全。そして、おおわしはまだ入ったことは無くとも、信用出来る男が取り纏める艦ならば安心して補給を受けることが出来る。

 

 しかし、それでもおおわしを信用出来ない者は少なからずいる。真っ先に難色を示したのは白雲である。

 うみどりの人間はようやく信用出来るようになったが、他の人間はまだ怒りと憎しみの対象。出洲一派程ではないにしても、外部から突如現れた人間を何も考えずに頼ることは、白雲には出来ない。

 同じように、潜水艦組はどうしても不信感が表れる。調査隊といえば、タシュケントを追い回した大型艦だ。そんな相手を信用しろと言われても、簡単には出来るものではない。

 

「大丈夫だ。あの人はハルカちゃんの後輩で、人相は悪いけど信用出来る人間だからな」

 

 なので、すかさず深雪がフォローを入れる。昼目提督の人柄は理解しているつもりだし、本当に信用出来る相手であることは間違いないのだから。

 

「……お姉様がそう仰るのならば、今は信用することにします」

「本当に大丈夫? あたしらをハメたりしない?」

 

 白雲は深雪の言うことだからと信用に傾いたが、そこにグレカーレが口を出す。うみどりでは穏やかであっても、潜水艦組であることには変わりない。突発的に現れたカテゴリーCのヘイウッドとは連携が出来ていたが、おおわしに対してはまだ難しいようである。

 並んで戦う艦娘と比べると、艦内から口を出すだけの人間は、まだすぐには信用出来ないというのがグレカーレの考え方。こればっかりは仕方ないため、深雪は大丈夫だとしか言えない。

 

「調査隊、援護に入ります。門は開いていますので、補給が必要な方々はおおわしへと向かってください」

 

 そこに現れたのは、調査隊の神通。そして、その仲間である響と白雪。護衛を兼ねた援軍として、他の仲間達も連れてここまで駆け抜けてきた。

 おおわしから深雪達の元に来るだけでも、何体かの改造深海棲艦は妨害のために向かっていたのだが、まるで気にすることなく突破してきているほどである。それだけでも実力が垣間見え、信用の一端を担うことになる。

 

「ほら、フーミィは誰かに何か言うまでもなく向かったぞ。()()()()()()って判断したんだ」

「生首持って向かうことじゃないでしょ! ああもう、わかったわかった! とりあえず今は信用しておくから!」

 

 そして、判断力が早すぎる伊203が既に向かっていることもあって、グレカーレも諦めた。

 

「白雲、見てわかると思うが」

「……はい、白雪様の姿を確認しています」

 

 白雲にとっては初めての、カテゴリーCの姉妹艦。初めて深雪が彼女を目にした時に覚えた違和感を、白雲も同じように得ていた。姉妹艦なのに人間。見た目は同じだけど別人。そして白雲にはカテゴリーMの呪いもあり、気分の悪さに拍車をかけている。

 だが、深雪が大丈夫だと言えば大丈夫。そうやってその感情を呑み込むことにした。そうせざるを得ない。

 

「白雪!」

「お久しぶりです。すぐに補給を!」

「助かる! 白雲、行くぞ!」

 

 深雪も動き出したこともあり、この戦場にいる者は一斉におおわしへと向かった。

 

 

 

 

「すぐに補給するぞ! 動けないヤツぁいるか! っておいおいおい、なんつーもん持ってくるんだテメェは! とりあえず何処でもいいから置いとけ! そんなもん持ったまま出撃すんなよ!? テメェは応急処置受けろ! 血ぃ出てるヤツぁ止血してから行け!」

 

 おおわしの工廠に入った途端、昼目提督の指示が飛ぶ。今必要なモノは既に全てが用意済み。燃料や弾薬だけでなく、装備の換装までもがその場で出来る程である。

 その采配は的確で、深雪には装備換装などせずに燃料と弾薬の補充を、白雲には深雪以上に高品質な燃料を補給していく。

 

 一息つくと、そこからドッと疲れが出るかのようだった。だが、立ち上がれないわけではない。まだ戦える。それだけの気持ちはある。

 

「よう、深雪。久しぶりだな」

 

 そんな深雪の元へ、昼目提督がやってきた。

 

「うす。助かったぜ」

「ハルカ先輩から救援申請貰っちゃあ、すぐにでも来なくちゃいけねぇからな。あっちにも援軍出してっから心配すんなよ」

 

 うみどりが潜水艦を曳航していることも聞いているため、そちらを守るための援軍も勿論出している。

 

「補給したらすぐに出るんだろ」

「ああ、あっちの海賊船に突入する」

「だったらうちの連中も連れてけ。軍港で施設に行った連中だ。調査隊として内部を確認しておきたい。役に立つはずだ」

 

 またとない援軍。ここで補給を受けるだけでなく、増員されることは非常に大きい。

 

「おう、長門! テメェが小型艦の道開いてやれ! 敵潜水艦がいるようなら、こっちで対潜艦つけてやる!」

「助かる。私も突入までは出来ないと思っていた。露払いなら任せてもらおう」

 

 長門はそもそも海賊船内に突入することは最初から考えていない。艤装の大きさから考えて、狭い船内での戦いは仲間達の邪魔になりかねないと思っている。

 船内突入はなるべく小型艦を優先することになる。メインは駆逐艦、一部軽巡洋艦と、軍港都市の施設に突入した時のやり方になるだろう。

 

「あー……、お前さんは初めてだな、白雲。オレぁ調査隊の提督やってる昼目っつーモンだ。ハルカ先輩からは多少話は聞いてる」

 

 休んでいる白雲に視線を合わせるようにしゃがむ。しかし、手を伸ばすようなことはせず、ただ目を合わせるのみ。

 

「人間のことを信じろとは言わねぇ。でも、オレ達のことは信用してくれ。お前さんを悪いようにはしないし、嫌だってことはしねぇ。ひとまず今だけでもいい」

 

 真っ直ぐな瞳に気圧されそうになるが、それ以上に伊豆提督と同じくらいの信用出来る輝きを持っていた。

 それ故に、白雲は首を縦に振る。言葉を交わすことは出来なかったものの、昼目提督を今は信じることにした。

 

 それを見て深雪は内心ホッとしていた。この状況で突っかかるようなことがあったら、なんて言えばいいのかわからない。だが、それも杞憂に終わってくれた。

 

 

 

 

 休息はほんの少し。ここからが本番である。これまで以上の激戦が繰り広げられるのか、それとも呆気なく終わるのか。今はまだわからない。

 

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