後始末屋の特異点   作:緋寺

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突入に向けて

 強敵を撃破は出来たのだが、かなり消耗が激しかった深雪達。しかし、うみどりに戻るのはかなり厳しい状況だった。進むのも戻るのも難しいとなると、どの道を選択するべきか。

 そう考えていると、現れたのは海洋調査艦おおわし。遅れてすまないと昼目提督が補給を受け持ってくれた。このおかげで、海賊船突入前に回復することが出来た。

 

「ハルカ先輩から聞いてるからな、ここからの指揮はオレが執る。つっても、殆どがハルカ先輩の受け売りだ。だから、信用して従ってくれや」

 

 バタバタとする工廠だが、その中でも選ばれた者だけはここからの方針を伝えるために昼目提督に呼び出される。

 ここで選ばれた者はほぼ駆逐艦。それによって、選ばれた理由も大体ピンと来る。

 

「お前さん達にゃ、敵本拠地であろうあの船……まぁ一応海賊船と言っておくが、あそこに突入してもらう。少数精鋭になるが、見た感じありゃ中が狭い。艤装を装備したまま入れるのはテメェらくらいだ」

 

 海賊船突入組。艤装が小さめな駆逐艦であり、狭い空間でも戦える者の中でも、ある程度近接戦闘まで視野に入れた布陣。

 伊豆提督から直接手解きを受けた深雪と時雨、身軽な子日と、凍結という特殊能力を持つ白雲、そして性格的にもトリッキーなグレカーレ。うみどりから選出されたのはこの5人。

 そこに調査隊から軍港都市の地下施設に突入した、神通、響、白雪の3人が加わる。合計8人での突入。

 突入メンバーのうち、子日だけは調査隊の3人と共に作戦に参加したことがあるので、その心強さは理解している。

 

「今でもうみどりを砲撃しているクソがいるようだからな、そいつの始末は難しいかもしれねぇが頼めるか」

 

 定期的な砲撃が海賊船からうみどりに向かって放たれているのは、最初から今まで変わらない。今でもうみどりでは秋月がその砲弾を艦載機に見立てて撃ち墜とし続けており、そちらに向かう改造深海棲艦はタシュケントを筆頭にした潜水艦組が守っている。

 秋月だけでは墜とし漏らしが出ているため、潜水艦組でも対空砲火が出来る者が同じように撃墜を手伝った。しかし、秋月ほどの精度がなかなか出せず、タシュケントと同様に第三世代の進歩を嫌というほど知ることになった。

 

 それを楽にするためにも、砲撃を繰り返す何者か──おそらく陸上施設型──をなるべく早く斃しておくべき。命を奪わずとも、その攻撃を止めるだけでも充分であるため、内部でやらねばならないことの中では優先順位は高め。

 

「調査隊は内部調査を頼むぞ。あの海賊船、深海棲艦を()()しているようだ」

「ならば、工廠のような場所もあるということですね」

「ああ、間違いなくな。調べるだけ調べたらぶち壊しちまえ。だが船は沈めるな。片付けが面倒になる」

 

 調査は調査隊の仕事。神通に工廠の存在を調べさせ、敵の技術を知ることも、今回の作戦では重要なことだ。

 海賊船にその技術があるということは、()()()()()()()()()()()と考えるべき。むしろ、こんな戦場の真ん中に虎の子の設備を投入するとは考えられない。使い捨てるわけではなくても、予備があるからこそここまで大胆な行動が出来たと言える。

 勿論それでも負けるつもりは無かったから、戦力としてはかなり強め。ここにいる者はまだ聞いていないが、伊203が持ってきた生首が第二次深海戦争の時の元帥だというのも、その力の入れ方がわかるというもの。

 

「それと最後だ。あの海賊船を操舵している奴がいるはずだ。おそらくだが、それは艦娘でも深海棲艦でもねぇ。()()()()()だとオレは予想する」

 

 これは伊豆提督も危惧していたこと。敵対しているのが深海棲艦やその力を手に入れた人間だけではない。純粋な人間であっても出洲に協力している者は間違いなくいる。伊豆提督もそうだが、昼目提督もそこは断言出来た。

 そして、この海賊船を動かしているのはその純粋な人間。戦力にならない分、船内で働いていると考えた。

 

「そいつらは絶対に殺すな。自殺するのは仕方ねぇにしろ、絶対にこちらから手を出すな」

 

 それは相手が人間だからというのが大きい。艦娘や深海棲艦の姿をし、その力を振るって抵抗してくるならまだしも、()()()()()()()抵抗してくる可能性は非常に高い。

 だから、何を言われても、何をされても手を出すなと昼目提督は念を押した。これは特に、純粋種かつ不信感を持つ者(時雨、白雲、グレカーレ)に対して言っている。

 もしここで手を出したら、あちら側の思うツボ。人間に艦娘の力を使って害を与えた者という事実を作られ、うみどりに計り知れない被害が飛ぶ。最悪、有る事無い事言われることで後始末屋そのものが崩壊する可能性すらあった。

 

「今回の突入作戦の目的は3つ。未だにうみどりに攻撃している輩を黙らせること、深海棲艦を生産している工廠だかプラントだかを見つけて調査すること、そして、あの海賊船を動かしている人間をテメェらが傷つけずに取っ捕まえることだ」

「はーい、質問質問」

 

 ここで手を挙げるのはグレカーレ。

 

「おう、なんだ」

「傷付けることなく捕まえることなんて出来ないと思いまーす。抵抗されたら勝手に傷がついちゃうだろうしさ」

 

 むしろグレカーレはそこに託けて傷つけてやろうと考えている可能性もある。抵抗したんだから仕方ないよねとニコニコしながら。

 

「ああ、それは考えた。しかもお前さん達ゃ艤装を装備してる。ちょっと小突くだけでもまずいことになるかもしれねぇ」

「まぁそうだよねぇ。腕の1本や2本は覚悟してもらわないと」

 

 艤装を装備する艦娘の膂力は、成人男性の数倍と言えるだろう。少し力を入れれば簡単に折れてしまう。本気になれば、簡単に一網打尽。命を奪うことなんてあまりにも簡単なこと。

 

「手ぇ出さずに取っ捕まえろってのが無理な話だろうな。そこで艤装を外すしか無くなる」

「でもそんなことしたら、あたし達人間と同じになっちゃうよね。そりゃあそれでも戦えるようにしてるけどさ」

 

 艤装を持たない艦娘は、殆ど人間と同じだ。深雪達のように近接戦闘を学んでいるならまだマシな方だが、あちらが逆に武器を持ち出したら話が変わる。

 艦娘側が武器を持つと一方的な嬲り殺しに。それをやめると一転して人間側が有利になってしまう。ただでさえ、駆逐艦は見た目だけならば子供だ。あちらが大人だと圧倒されかねない。

 ちょうどいい中間が全く無いと言えるだろう。故に、どうやってもあちら側が有利すぎる環境にある。

 

 故に、それをいい具合に中間に持っていきつつ、こちらに勝ち目がある手段を昼目提督は考えていた。

 

「そこはいい手段がある。ハルカ先輩にゃ苦い顔されたけどな」

「……何やるつもりだよ」

 

 深雪は何となく勘付いたものの、本人の口から聞くつもりで問う。神通達は、昼目提督がどういう人間かを一番理解しているので、何をやろうとしているのかはもう完全にわかっており、神通と白雪は溜息をつき、響は目をキラキラさせていた。

 

「そりゃあ、あちらに対して一番嫌なモンぶつけんだよ」

「一番嫌なモンって」

「艦娘相手にドヤ顔で突っ込んでくるような輩だろうが、人間に対しては対等だ。んで、人数でも攻め込んでくるかもしれねぇ。なら、一騎当千の人間が必要だろ」

 

 ここまで言われれば、流石にここにいる全員が何をやろうとしているのかがわかった。

 

「最後の突入メンバーは、()()()

 

 

 

 

 燃料と弾薬の補給を終え、突入メンバー以外は先行して出撃。海賊船までの道を開くために、ありったけの砲撃をぶちかましていく。これまでの消耗が払拭されたことで、疲労はあれど威力は元通り。

 出撃直後に長門が榛名と共に一斉射を放つくらいには勢いが凄まじく、確実に道を開いていった。

 

「マジでついてきてんぞ……」

「あの方は本当に人間なのでしょうか……」

 

 深雪と白雲がそんな反応をするのも無理はない。突入メンバーが開いた道を猛スピードで突き進む最後尾に、水上バイクで追いかけてくる昼目提督の姿があるからである。

 勿論今の段階では護衛がついており、秘書艦である鳥海が同じスピードで並走していた。とはいえ、砲撃や雷撃が飛び交う戦場に、艤装も身につけていない、()()()()()()()()()()()()生身の人間が、当たり前のように真っ直ぐ突っ込んでくるのは、脅威であり恐怖である。

 

「面白いだろう、うちの司令官は」

 

 そんな深雪と白雲に、響が得意げに話す。

 

「面白いっつーか、無茶が過ぎねぇか」

「彼がやれると思っているからやっているんだよ。私達はそれを全力でサポートするだけさ」

 

 何処か面白そうに話す響に、深雪も白雲も若干不安を覚えた。本当に大丈夫かと。

 

「ところで電はどうしたんだい。君といつも一緒にいたろう」

 

 いきなりそこを突いてこられて、深雪はうっと声を詰まらせる。そんな姿を見て、響はははーんと意地の悪い表情を見せた。

 

「まさか痴話喧嘩かい?」

「痴話喧嘩ってお前」

「いやいや、別に悪いことじゃないさ。あれだけ仲が良かったんだ。ふとした弾みで争ってしまうことだってあり得る。でも、その後はこれまで以上に仲良くなれるよ」

 

 まるでそういう経験があるかのような口振りに、深雪は首を傾げる。そして、聞いてもいないのに響はペラペラ話し始めた。

 

「かくいう私も、最初の頃は白雪と仲違いをしていてね。一度人目憚らず大喧嘩をしたこともある」

「そう、なのか?」

「ああ、でも今は一番頼れる仲間さ。親友と言ってもいい」

 

 自分の名前が聞こえたからか、白雪も3人の方へと近寄ってきた。その話をされると恥ずかしいと顔を赤くしながら。

 だが、白雪の姿を見たことで白雲の表情が曇った。深雪はもう割り切れているからいいが、やはり()()()()()()()()がそこにいるというのは、表現しづらい気持ち悪さが付き纏うようである。

 

 ここで響が突然こんなことを話した理由に勘付いた。白雲と白雪を突入前にちゃんと引き合わせるためだ。深雪と電の関係は些細なこと。重要なのは、その後。

 

「……お姉様が認めていらっしゃるのであれば、貴女を白雪様であると白雲も認めます」

 

 先に口を出したのは白雲だった。妥協に近い感情だったが、それでもおおわしの人間もある程度は信用に値するとわかり始めている証拠。深雪が大丈夫と言うのだから大丈夫だと、今は思うしかない。

 

「はい、今はそれで。私は白雪という名と力に誇りを持っていますから。姉とかそういうのは不要です。友達で大丈夫です」

「……そう、ですか。では、そうさせていただきます」

 

 白雪は少し安心したような表情を見せた。

 

 

 

 

 海賊船への突入は順調に進んでいく。だが、危険極まりない作戦であることは変わらない。慎重に、確実に終わりに向かうように、深雪はより気合を入れた。

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