おおわしで補給を受けた者達による、海賊船突入作戦がついに実施されることとなった。突入するのは少数精鋭であり、他の者達は全員がそれをサポートするために、群がってくる改造深海棲艦を始末することに専念する。
そのおかげで、精鋭として選ばれた深雪達の道は開かれた。真っ直ぐ海賊船へと向かうことの出来る海路が目の前に現れ、あとはそこを慎重かつ迅速に通るだけ。
だが、どうしても気になることが1つ。艦娘達の部隊に、昼目提督も水上バイクによって同行していること。
海賊船突入でやるべきことは、艦娘でなければ対処が出来ない事態だけではない。それを危惧した結果、昼目提督が自ら立ち上がり、生身で同行している。
恐ろしいことに、武器らしいモノは持っておらず、本当に生身。流石に軍服では動きにくいと思ったか、上はただのTシャツというラフな姿である。余計に身体が守れていないため、深雪達には不安しかない。
しかし、調査隊の面々がそんな昼目提督に対して何も言っていないのだから、余計なことはとやかく言えない状態だった。半ば諦めているというのもあるのかもしれないが、それでも無茶無謀なら力ずくでも止めていることだろう
「ありがてぇな。オレでも入りやすいように作ってくれてよぉ」
そんな昼目提督が言うように、海賊船は艦娘や深海棲艦用に改良が加えられているのか、海面から直接中に入れるようにされていた。うみどりやおおわしのように、工廠があるようなモノ。
とはいえ、元はおそらくタンカーであり、その部分は勝手な違法改造とも言える状況。移動鎮守府ほど取り回しがよく造られているわけもなく、ただカタパルトのように数人が同時に出入り出来るハッチがあるようなものである。
どちらかといえば丹陽の潜水艦に近い。必要な時だけ開ける門のようなモノである。
しかし、今はその門も閉じている。流石に侵入を迎え入れる程愚かではないらしい。
「こういうものは緊急時に外部からも開けられるようになっているはずです。安全装置がないなんてことはありませんので」
そんな門の前で冷静に何かを探し始めたのは白雪である。深雪達には何をやっているかがさっぱりわからないが、調査隊の面々、そして軍港都市で共に戦った子日は、白雪が何をしようとしているのかがすぐにわかる。
「見つけました。では
「ああ、構わねぇ」
門の近くに何やら小さなハッチみたいなものを見つけた白雪が、手際よくそこを開いたかと思うと、その内部に小道具を入れて操作をし始めた。すると、すぐさま音を立てて閉ざされた門が開き始める。
そもそもハッチには物理的に鍵がかかっていたのだが、当たり前のようにピッキング。そして中にある開門の制御装置も簡単にハッキング。本当にちょちょいのちょいであった。
このご時世、おおよそのものが電子ロックにされており、安全装置などは大概同じようなところに設置されている。それがどれだけ強固なセキュリティに守られているかというだけ。
だが、白雪にとっては、そのセキュリティは
外部からの衝撃に対しては強力無比な装甲を持っていたとしても、手順を踏めばこうやって開く。
「な、何やったんだアレ……」
「白雪の特技さ。まぁ、何でも開けられるくらいに思っておけばいい」
響が説明するものの、深雪は理解が出来なかった。勿論、時雨や白雲もである。グレカーレは過去の30年の経験からして、白雪が犯罪スレスレどころか、グレーを通り越して黒いことをやっているのはすぐに理解出来たものの、今はその技術に対して文句も何もなく、むしろ称賛を浴びせたいくらいだった。
「はい、開きました」
「よくやった。流石だな」
「いえいえ、余程の事が無ければこれくらいは開くことが出来ますから」
話しているうちに、門が当たり前のように開いて、中へと入れるようになった。ここまでの流れがイマイチ理解出来ておらず、深雪は終始頭にハテナマークを浮かべ続けていた。
「鳥海、オレのバイク守っておいてくれや」
「はい、誰も中に入れないようにここを守ります。皆さん、司令官さんをよろしくお願いしますね」
門の前を鳥海が陣取り、外から中に入ろうとするモノは全てシャットアウト。突入組に余計な心配をさせないように立ち回ることとなる鳥海。勿論鳥海だけでは荷が重いため、他の者達も門前を守る者として集結した。
これまでは道を開くために戦っていたが、これからは道を守るためにその力を振るうことになった。
海賊船内部。外見から考えられるくらいに通路はそこまで広くなく、駆逐艦が2人並ぶのは余裕があるが、3人並ぶのは難しいかというくらい。
深海棲艦はおそらく下層から出撃し、この門から出撃するのは、艦娘の出来損ないやカテゴリーYの一部というところだろう。それならば、ここがそこまで広い必要はない。本当に緊急通用口といった様相である。
「ここで襲われても、僕は撃てないね。全員巻き込む自信があるよ」
「お前絶対撃つなよ。流石に洒落にならねぇ」
「それは深雪、君にも言えることじゃないかい。あんな火力を撃ったら、通路がオシャカになる」
突入部隊の中でも特に高い火力を持つ深雪と時雨は、この細い通路では砲撃禁止。時雨に至っては、背部の艤装を収納していないと邪魔になりかねない。
「提督、まずはどちらを攻めますか」
先陣を切るのは神通。その後ろに白雪と響が控え、さらに子日が前を歩く。昼目提督は最後尾から状況を把握しながらどう行動するかを指示するカタチに。
「先に操舵手を狙うぞ。こうしている間に動かれても困るからな。先に押さえておいた方がいい」
「了解しました。では方向を指示願います」
「ああ、船の形からして、そこまで遠くないだろうよ」
すぐに見つかる階段を上がるように指示し、船内を進む。1つ階を上がれば、途端に開けた場所に出る。
軍港都市の地下施設襲撃に参加した者ならば、この構成はあの施設と上下が逆転しているように思えた。通用口は広くはないが、活動区域は割と普通。場所によってはうみどりやおおわしよりも大きなところもある。
「操舵手はここからもっと上だ。オレの予想じゃあ、この階層に深海棲艦の生産が出来る設備があるけどな」
「なんでそう思うの?」
グレカーレの質問に、昼目提督はこれまでの知識を語る。
「そりゃあ、アレだけ早く再生産して次から次へと深海棲艦が増えんだぞ。出来上がった深海棲艦がすぐに外に出られるようにするなら海面に近いところに置くだろ。だが、それなりに広い場所も必要だ。ならここか、向こう側にまた下に降りる階段か何かがあって、船底に近い場所に設備を置いているかのどちらかだろ。今上った階段に上らずに真っ直ぐ行ったらあったかもしれねぇな」
これまでの傾向から、敵の増え方は基本的に海の中からである。ならば、海賊船の船底に近い位置に設備を取り揃えている可能性が高いが、やっていることがやっていることなので、船底よりは少し離れた位置に置くと予想。
グレカーレはふぅんとそれなりに納得してから、それ以上質問するようなことはしなかった。昼目提督が自信を持って指示しているのに対して、文句どころか、不信感も持たなくなったようである。
そろそろわかってくる、昼目提督の人間性。人相と口は悪くとも、この仕事に対して非常に真面目で勤勉。
「顔に見合わず、真面目なんだねぇ」
「よく言われんだ。だから、そういうこと言う奴らの度肝抜かせてやんだよ。素っ頓狂なツラする連中が愉快でたまらねぇ」
「わお、いい性格してるぅ」
こういうところが気が合うのか、昼目提督とグレカーレは似たような表情でクツクツと笑う。どちらも悪ガキのような性格をしているからか、何処か相性が良く見えた。
深雪はグレカーレが最初に人間だから信用出来るのかと言っていたのを思い出すが、もうそれを自分で言ったことも忘れていそうだ。グレカーレが拗らせすぎていなくてよかったと内心ホッとしていた。
「妨害が無いね。流石にこの中で戦おうってのは考えてないのかな」
子日の言う通り、こうやって侵入してからは戦闘がない。狭い空間での戦闘が無いのは助かるが、何か意図があるのかどうか。
考えられる理由はいくつかあるが、やはりこの海賊船を荒い戦いによって沈めたくないという気持ちがあるからというのが大きいか。あまり激しく戦闘すると、砲撃でそこら中が破壊されてしまう。もし勝利出来たとしても、この場から撤退すら出来なくなるだろう。それを避けるためにも、なるべく戦闘はしない方向か。
もしくは、そんなことをしなくても勝てる手立てがあるということか。少なくともこの船内には、未だにうみどりを攻撃し続けている陸上施設型がいるため、それとの戦闘も考えられるのだが。
「あー、なんとなくわかってきたぞ。ここであちらからは挑んでこねぇかもしれねぇ」
「そうなの?」
昼目提督の言葉に合いの手を入れるのはやはりグレカーレ。ここまでの感じで、大分心を開いているようである。
「オレ達からやらせりゃ、向こうはこちらを悪に出来るだろ。そりゃあオレだって問答無用でこんな船ぶち沈めてやりてぇけどな」
「もしかして、向こうは正当防衛とか言い張りたいって感じ?」
「かもしれねぇ。人間の世界ではな、先に手を出した方が負けるんだ。クソムカつくけどな」
あくまでも
ズル賢いというよりは、単純にズルい戦術。しかし、こういう場ではそういう搦め手が非常に良く効く。立場がしっかりある相手に対しては特にである。
「まぁ、そういうことをしてくるならオレに任せてくれや。これでも海洋調査艦の提督任されてんだ。大本営から正式な許可を貰ってる、誰にも文句言われねぇ
くくくと意地の悪い笑みを浮かべる昼目提督に、不安を覚えつつも、頼りにすることとした。
「さて、そろそろだろうよ」
話しながらも歩き続け、階段を上り、それなりに高い階層にまでやってきたところで、明らかにそれっぽい場所へと辿り着く。
「んじゃあ、殴り込みと行くかぁ!」
神通達を退かし、その部屋の扉を蹴り開いた。
「よう、この船の操舵室はここであってるかぁ!?」