「よう、この船の操舵室はここであってるかぁ!?」
海賊船の操舵室らしき部屋の前に到着した一行。その中心人物となる昼目提督が、その扉を思い切り蹴り開いた。
中はそこまで狭くない部屋であり、各種機材が並んでいた。そして、舵までそこにあるのだから、この部屋が操舵室であることは間違いがなかった。
だが、昼目提督のこの行動はどちらかと言えば軽率。海賊船の通用口が、ハッキングしなければ開けられないように閉じていたということは、昼目提督達が乗り込んでくることだって予想しているはずだ。それこそ、この部屋に真っ直ぐやってきて突入してくる可能性も。
故に、扉を蹴破った昼目提督が次に見たのは、
「おっと、余計な真似するなよ」
そのリーダー格のような、操舵室の中でも特に中央にある座席から昼目提督を狙っている男が、下卑た顔で話す。
他の2人も、何処かニヤニヤしているような顔。自分達が有利であると思い込んでいるような表情。
「人様の船に勝手に乗り込んできやがって。不法侵入って知ってるか?」
あくまでも昼目提督が悪であり、自分達は悪くないという態度。先程まで、この船から現れた深海棲艦に散々な目に遭わされているのに、遭わせた方が被害者だと言わんばかり。
そんな男達に対して、昼目提督は表情すら変えずに答える。
「正当な理由がないのに、他人様の住居に侵入した場合に成立する罪ってヤツだな。確かあの条文、艦船とかちゃんと書いてあったんじゃなかったか?」
「わかってんじゃねぇか。おら、テメェがやったことはそれだろうがよ。不法侵入だ不法侵入」
ドヤ顔で語るリーダー格の顔を見て、昼目提督はこれ見よがしに大きな溜息を吐く。
「正当な理由があるんだよなぁオレらには」
「あぁ?」
「テメェらが人様の艦を襲ってんだ。で、んなことするヤツらを調査するのがオレ達調査隊だ。その時、オレ達の組織には
調査隊の特権。それは、テロや裏切り者に対しての調査に関しては、
当然ながら限度はある。その調査のために無関係な者の命を脅かすような行為は許されていない。だが逆に言えば、
急病人を搬送する救急車が信号より優先されるのとほとんど同じ。調査隊は大本営からそこまでやってもいいとされていた。故にこれは不法侵入にもならないし、扉を蹴破ったとしても器物破損にもならない。
白雪の扱うハッキング用の小道具に認可が下りているのもこれが理由。それを使わねば調査が出来ないのだから、良しとされているだけ。当然ながらいつも使っているわけではない。合法なタイミングでしか持ち出さない。
「テメェらの足りない脳味噌にもよくわかるように言ってやろうか。オレ達の今やってることは、全部合法ってこった。むしろテメェらの方が違法だぞ。なんだぁその
昼目提督が言っていることは全てが正論である。調査隊は国による許可があるために全てが合法。それに対してこの男達のやっていることは違法ばかり。罪状を突きつければ、言い逃れ出来ない程。
「自分から出頭すれば、痛い目を見なくて済むぜぇ。オレも面倒なことはしたくねぇからな」
銃を突きつけられてもこの余裕の態度に痺れを切らしたか、リーダー格の男が立ち上がって、銃を下ろすことなく昼目提督に近付いた。常に眉間を狙いながら、苛立ちを隠すことなく。
そこで動こうとしたのは神通である。自分の司令である昼目提督を守るために前に出ようとしたが、それを止めるかのように近付くなと他の男が声を荒げた。
「おいおい、人間様を守るのが艦娘の仕事だろうよ。まさか俺達をシメようって思ってんじゃねぇだろうな」
「か弱い人間に対して兵器の力使おうってのか? あぁ?」
伊豆提督や昼目提督が事前に言っていたことが今現実になった。自分の弱さを盾にするような発言と、図々しくも未だに自分達が有利であると確信した表情。
神通がその気になれば、今ここにいる人間3人は瞬殺だろう。砲撃をせずとも体術だけで。しかし、拳一発で骨が折れるどころの騒ぎではない怪我を負うことになるだろうし、やろうと思えば簡単に命すら奪える。艤装出力を最小にしたところで、
だから艦娘の力は人間には行使しないというのが暗黙の了解ともなっており、艦娘の人間を深海棲艦の魔の手から守るというのが当たり前の世界になっている。
「出来ねぇよなぁ。俺達はただの人間なんだからよぉ」
「こっちが出るとこ出りゃ、テメェらの地位なんてドン底まで持っていけるんだからな」
「くく、それが嫌だったら黙って見てろよ」
そんな男達の言葉を聞き、まだ部屋の中に入っていない深雪達は、本当にこんな人間がいるのかとただただ驚いた。守るべき人間が守られることが当然だと思い込んでいると、ここまで傲慢になれるのかと。
事前に聞いていたからまだマシだったが、そうで無かったら、怒りに身を震わせて部屋に突入していたかもしれない。容赦なくぶん殴り、取り返しのつかないことになっていた。
「神通、下がってりゃいい」
「そうは行きません。このままでは……」
神通はそれでも前に出ようとするが、昼目提督がやんわりと止める。こいつらに言っても無駄だと。
「くくく、艦娘は司令官の命令に従って下がってろや」
「コイツぶっ殺したら次はテメェらだからよぉ」
「手ェ出したら当然、艦娘にやられたって触れ回ってやるからな。兵器にか弱い人間がやられたーってなぁ」
ゲラゲラ笑う悪党だが、神通が心配しているのはそこではなかった。わかるくらいに大きな溜息を吐いて、哀れなモノを見る目で悪党共に視線を向ける。
「貴方達は馬鹿なのですか」
「あぁん? 何だテメェ。艦娘ごときが人間様に楯突こうってのか?」
「私が心配しているのは提督ではありません。
言うが早いか、昼目提督の手が突きつけられた拳銃を掴み、強引に奪い取っていた。それと同時にその拳銃を2人目の男に投げ飛ばし、持っている拳銃にぶつかり、それを放させた。その上で最後の3人目の射線上にリーダー格の男を盾のように移動させた。
2人は拳銃を奪われ、1人は仲間が盾にされているので撃てない。ほんの一瞬で、簡単に形勢逆転してしまっていた。
「なっ……!?」
「言うのが遅かったですね。私達は最初から手を出すつもりはありません。ですが、提督が実力行使に出てしまったら、貴方達はどうしても怪我をすることになるでしょう。なので、私が止めようとしていたのは
神通の説明があっても、昼目提督は止まらない。盾にした男を蹴り飛ばし、まだ銃を持っている男に直撃させると、残りの1人に即座に飛び掛かり、顔面に一発。その後首を持って支えながら、再び盾にしながら残りの2人の方へのっしのっしと歩いていく。
首を手で支えているだけなのに、足が床につかない状態。腕力だけで人一人を軽々運んでいるというだけでも、男達を怯えさせるのには充分だった。
「やっぱこういう奴らにゃ身体に刻みつけるしかねぇな。ぱっと見で実力差くらいわかるようにしやがれアホ共が」
盾にしていた男をまた蹴り飛ばすと、見事に2人に直撃する。もう銃を撃つどころの騒ぎではない。
「て、テメェ、軍人が一般人を」
「何言ってんだぁ? こんなところで加担してる時点でテメェらはもう一般人でもなんでも無ぇんだよ。それに、オレはあくまでも正当防衛してるだけだ。ああ怖い怖い。銃なんて突きつけられたら半狂乱になって暴れちまうよなぁ!」
銃を持つ最後の1人からそれを強引に奪い取り、他の2つと同じところに放り投げる。これによって、3人の男は丸腰となった。
「オレも軍人だけど、テメェらみたいな
話しながらも1人の腹を蹴り、1人の顔面を殴り、1人の首を絞める。明らかに喧嘩殺法。何か型が決まったわけでもない、荒くれ者の戦い方。
だが、それがまた敵の恐怖を煽り、圧倒的な力でその心を折りに行く。
「しかも、手ェ先に出したのはテメェらだ。知ってっか。銃を突きつけるだけでも暴行罪になるんだぜ。つまり、オレはテメェらから暴行を受けたんだよ。こりゃあやむを得ない状況だ。正当防衛が成立するなぁオラ!」
これだけ殴る蹴るを繰り返しているのに、3人の男達は気を失うようなこともない。しかし、昼目提督に勝てるとは到底思えない状況に置かれたことで、戦意は殆ど失っていた。
拳銃があったから勝ち目があったのに、拳銃すら失ったら勝ち目なんてもう何処にもない。3人がかりでも無理となれば尚更である。
「提督、そろそろやめた方が」
「あぁん? コイツらは守ってもらってる艦娘のことすら侮辱するようなクズだぞ。守ってもらって当然だって思っているだけでなく、調子こいてそれを盾にしやがった。実力も無ぇのに口だけの奴ぁ、性根を叩き直してやらねぇと改心も何もしねぇだろうが」
「正当防衛もやり過ぎれば意味がありません。改心の向こう側には恨みがありますよ」
それもそうかと、昼目提督はようやくその暴行を止めた。3人がボロボロの状態になっているのに、昼目提督は無傷。息すら切らしていない。
もう3人の男の目には敵意や殺意などは微塵も感じられず、ただただ怯えて震えるだけである。最初のドヤ顔は何処へやら、下手をしたら土下座までしかねない。
「これに懲りたら、まずその考えを改めろアホ共。艦娘に守ってもらってるんだから艦娘には敬意を払え。テメェの懸けれねぇ命を張ってんだぞ。それを当然だって思ってんなら、テメェらを弾除けのバルジにしてやるからな。命懸けて守ってもいいと思える人間になれよクズが」
トドメと言わんばかりに髪を掴んで壁際に投げ飛ばし、3人共を気絶させた。意識がある状態でここから離れたら、見ていないことをいいことにまた何かやらかしかねない。
「響、何か持ってるだろ」
「ああ、勿論。こんなこともあろうかと、ちゃんと拘束出来る道具は持ってきたよ。はい、お手軽拘束アイテムの結束バンド」
ゴソゴソと探すと、結束バンドが出てくる。それなりに数があるため、万が一がないように入念に拘束。
何でそんなモノ持ってるんだと聞こうとする深雪だったが、以前何処からか鼻眼鏡を取り出すようなことをしているため、もう何も言えなかった。
「操舵室はこれで終わりだ。次行くぞ」
もう3人の男達からは興味を失ったのか、次の目的に向かう。調査隊は慣れているのか何も言わずについていくが、深雪達は一連の行動に呆気にとられることとなった。
海賊船の制圧はまだまだ続く。これさえ終わればこの戦いも終わりになるのだから、迅速に、かつ確実に終わらせたいところである。