貴重なうみどりの停泊時間は、深雪の艦娘としての訓練にあてがわれていた。駆逐艦の仲間達がそれに協力し、まずは砲撃訓練をしようとなったのだが。
深雪の砲撃の腕前が思っていたものと違っていたため、驚いてばかりである。
的当てを初見で成功。しかも、サポート妖精さんの力を借りてど真ん中に命中させた上に、それを百発百中で繰り出してしまった。
元人間の艦娘では、こんなことはなかなか無い。最初から人類を守るために生まれるドロップ艦、純粋な艦娘だからこそ、練度が無い状態からでも戦える状態になっている。その性質がモロに出ていた。
「うっし、砲撃は大分いい感じじゃないか?」
「そうね。まさか全部しっかり当たるとは思わなかったわよ」
神風もこれには驚きが隠せなかった。元人間と純粋な艦娘の差をハッキリと見せつけられたようにも感じた。
だが、それを表には出すことはない。単純に、
「砲撃はここまでにして、次、雷撃の方やってみましょうか」
「お、魚雷の方だな。主砲よりもやる機会が少ないだろうから、今のうちにやっておきたいぜ」
ここまで出来るならと、訓練は次へ。砲撃だけでなく、戦闘に関することは何もかもを最初からマスターしている可能性が高いのだ。ならば、先にそのことをちゃんと知っておくことが重要。
深雪のことを知らなくてはいけないのは、深雪自身だけでなく、周りの者もである。互いのことを知り合っておくことで、チームプレイも可能とする。駆逐艦だからこその考え方だ。
そのまま訓練は次の段階へ。一度工廠に戻った後、主砲を主任に渡すと「次は?」と聞いてきているような表情。
「次は訓練用の魚雷頼めっかな」
サムズアップして主任が奥に手を振る。すると、すぐさま次の兵装、魚雷発射管が運ばれてきた。砲撃訓練であることは知っているので、こうなるのではないかと予測していたようである。言葉はわからずとも、この辺りは行動からわかった。
深雪の装備する魚雷発射管は、太腿に括り付けるタイプ。訓練用とはいえ、扱い方は実戦と同じようにするのが当然。一番小さい三連装魚雷ではあるのだが、両脚に1基ずつ装備するため、主砲よりも重厚なイメージを持った。
だがそれ以上に、深雪には主砲よりも
「へぇ、こんな感じかぁ。あたしが考えてたのより大分小さいや。これ、1発撃ったら終わりなのか?」
太腿に括り付けながらサポートの妖精さんに聞くと、首を横に振った。深雪はその時に知ることは出来なかったが、後に知ることとなる。
その内容とは簡単で、見た目とは違ってそれなりの回数が放てるということ。形状を見ると3連装を1回分しか放てないようにしか見えないのだが、妖精さんの尽力により次発装填はされていく。何処から魚雷が現れるかは企業秘密。妖精さんの謎のテクノロジーがそこにあるようだった。
「まぁ何回も使えるならそれでいいや。限界とかも知っておきたいところだけど、そこはまた後からで、今はちゃんと使えるかどうかを確認しないとな」
サポートの妖精さんに指を突きつけると、意図が伝わったようにハイタッチ。主砲の時もそうだったが、深雪は妖精さんと心を通わせるのが上手かった。深雪の姿をしたサポート妖精さんも、共に戦うことが出来ることを楽しんでいる様子。
仲間達ともそうだが、この妖精さんとも息が合わなければまともに戦えないのが艦娘だ。艦には乗組員が必要なように、艦娘にも妖精さんが必要不可欠。
「よし、そんじゃ、2回目の出撃と行くか!」
声は聞こえずとも、おうと返事をしたように感じた深雪は、ニッと笑顔になりながら再出撃。大きく手を振る主任にも、グッと親指を立てて返した。
砲撃に続いて行なわれる雷撃訓練。こちらも元人間の艦娘達が、鎮守府に配属される前に学ぶこと。
砲撃の時とは違って、海面スレスレに配置された的に向かって魚雷を放つ。ただそれだけではあるのだが、魚雷は砲撃と違って的に届くまでに時間がかかり、波の影響を受けるため的から離れれば離れるほど狙い方が複雑になっていく。さらにいえば、本来的となる敵は動いているのだから、余計に照準がつけづらい。
だが、一本を直接ぶつけるわけではなく、現在深雪が装備してい三連装二基、つまり六本の魚雷を纏めて放ち、どれか一本を当てるという方針であるため、砲撃よりは比較的当てやすかったりはする。むしろ、そうしないと当てられない。一点突破の点の攻撃ではなく、回避不可能な面の攻撃にすることが魚雷の効率的な使用方法。
「こんなもんでどうよ!」
砲撃の時と同じように的に向かって集中し、そのまま発射。太腿からの射出になるため、砲撃の時よりも下半身に力を込めて。
設置された的に向かって綺麗に横並びに向かっていく魚雷。その一本でも当てられれば良しと思うと、深雪もかなり気が楽であったか、緊張はそこまで強くなく放つことが出来た。
「……すごいわねホント」
神風がボソリと呟くほどに、深雪の雷撃は見事なものだった。それは今初めて繰り出したとは思えないくらいに綺麗なフォームで、教えるまでもなく最高最善の放ち方。
いくら妖精さんのサポートがあるからと言っても、何も言われずにそれが出来てしまうのは、流石はドロップ艦──純粋な艦娘と思ってしまうくらいに。
そして、放たれた魚雷は設置された的に見事に命中。全てが当たったわけではないが、一本でも当たれば命中とされるのが魚雷。その火力は一本でも砲撃以上のモノだ。
当たった瞬間にガンと衝突音が響き渡ったことで、深雪の雷撃が正確無比であることが聴覚でも理解出来る。神風もそうだが、その音が聞こえたことで、周囲に控えている仲間達がおおと小さく拍手。
「初めて魚雷を撃つ子って、その衝撃で転んだり振り回されたりするモノなのよ。深雪みたいに太腿に装備してる子は尚更ね」
「そうなのか。じゃあ、あたしの場合はそれがうまく出来てたんだな。やったな!」
肩の妖精さんと一緒に自分の成果を喜ぶ深雪。自信家で無鉄砲な気質がある深雪だが、こういうところでは妖精さんにしっかり頼り、自分の力だけではないと理解して行動していた。
それを見て、神風は深雪が海上歩行に失敗した理由がなんとなくわかった。深雪は妖精さんと共に行なう作業は全て完璧にこなす。つまり、
元人間の艦娘にも当然、自分の姿をしているサポート妖精さんが1人に1人ついている。神風にもそうだし、他の者にもそう。ただし、そのサポート妖精さんの力を借りても、自分の実力も必要であるため、全ての力を完璧に使いこなすことが出来るようになるには、それなりの時間と努力が必要だった。それこそ、鎮守府に配属される前にある程度の経験を積まないと戦力にならないくらいに。
だが、深雪はその過程を妖精さんがいるというだけですっ飛ばすことが出来るということ。これが妖精さん無しで戦えと言われたら、深雪はおそらく素人以下になるだろう。
単純な話である。艦は乗組員がいなければ動かない。しかし、乗組員がいればそのスペックを遺憾無く発揮出来る。無機質で自分の意思を持たない艦だからそうなのは当たり前。自分で何も出来ないのだから。
だから、乗組員無しの状態で
「なるほどね、ようやくわかった」
「何がだ?」
「深雪の……ドロップ艦の在り方って言えばいいのかしら」
深雪の頭の上にクエスチョンマークが浮かび上がるが、いいのいいのと神風はその場を取り繕った。
その後、三隈の力を借りて対空砲火の訓練や、潜水艦達の力を借りた対潜訓練なども行なう。
前者はまだ的代わりの艦載機に当てられるかという訓練なのだが、後者はまともに潜水艦に爆雷をぶつけろという訓練になりかけたため、そこは少々変更。潜水艦型の的、いわゆる妖精さん操作の
それなら出来ると深雪は妖精さんと力を合わせて確実に訓練をこなしていくが、相変わらずの百発百中。
艦載機を墜とすのも初めてとは思えないくらいの正確性。とはいえ、それこそ艦がやるように、艦載機の進行方向に向けて弾をばら撒くことで撃墜するという、わかりやすい対空砲火となっている。
対潜訓練も同様であり、ラジコンが巧みに操作される中、妖精さんのサポートを受けることによって進行方向を予測して爆雷を放り込んだ。やはりそれも素人とは思えない。
「ここまで来ると、凄い通り越して面白くなってきたぞよ」
「うんうん、子日ってアレやれるようになるまでにどれくらいかかったかなぁ」
「睦月は3ヶ月なのね。訓練校でみっちりやって」
対潜訓練中、見ているだけとなっている睦月と子日が笑いながら話していた。
元人間には戦いなんて初めてのこと。海上歩行だけでなく、主砲も魚雷も何もかもが、その時初めて触るモノである。とうぜんながら、扱い方なんてわかるはずもない。そのため、座学から始めて実践するという、自動車学校のカリキュラムのような流れで学んでいた。
深雪はそれを全て無視してここにいる。神風でなくても、これがドロップ艦の力かと感嘆の息を漏らした。
「うん、わかったわ。深雪、もう一度主砲をやってみましょうか」
「あいよ。ここまで違うことやってるから、勘が鈍ってるかもしれないしな。戻してやってみるぜ」
神風に言われるがまま、再び主砲の訓練。ここまで来ると持ち替えもスムーズ。主任もやり甲斐のある仕事だと言わんばかりにいい笑顔である。
「次の主砲は、条件を出してもいいかしら」
「条件?」
「ええ。
確かにと、一度妖精さんにそれでいいかと尋ね、小さく頷いたことを確認した後に、前と同じように的に向けて主砲を構える。
「うし、今度も当ててやるぜ」
しかし、ここで前とは少しだけ変化があった。視界に照準器が現れない。
「妖精さんのサポート無しだと、こうなるってことか!」
だが、一度やったことをなぞるだけと、目視で的に狙いを定めて、砲撃を放つ。衝撃の吸収は完璧。これもやったことなのだから、身体が覚えている。
しかし、最初にやった時のように、的のど真ん中を射抜くようなことは出来ず、ただ掠めるだけで終わった。
「くっそー! やっぱ妖精さんはすげぇな! あたしだけだとこんなに外れるのか!」
それでも、神風は目を見開いて驚いていた。妖精さんのサポートがない状態の元人間の艦娘は、途端にガタが来る。初心者ならば尚更。まともに主砲を放つことも出来ず、照準も出鱈目になるのが定石。
しかし、深雪はそれでも的を掠めることまでやってのけた。それは、艦という土台がちゃんと出来ているからだろう。乗組員というエキスパートがいなくても、艦には主砲が備え付けられているのだから、ある程度は扱えるということ。反動なんて気にすることもない。
まさに、意思を持った艦である。人間とは、そもそもの
「これでも当てられるようにしろってことだな。そうすりゃ、万が一の時にも戦えるってことだ」
「え、ええ、そういうことよ。まさかすぐに掠めるとは思っても見なかったけど」
神風だけではない。他の者も驚きで言葉も無かった。
深雪の──純粋な艦娘の力を目の当たりにした元人間の艦娘達は、深雪がカテゴリーWとしてうみどりの仲間になってくれたことを心の底から安心した。
だからといって、友人という感覚を失っているわけではない。共に歩いていけることが、単純に嬉しかった。戦いに関してはここまで変わってくるのだが、考え方、感性は自分達と同じであることは十二分に理解しているからだ。
これがタネ。艦娘が最初から戦えるのは、妖精さんあってのこと。とはいえ深雪は才能の塊。