操舵室から他の部屋を探索しながらうみどりを砲撃する者を止めるために行動する潜入組一行。調査隊の探索では何も痕跡が見つからず、辿り着いた先では陸上施設型深海棲艦、港湾水鬼が2体、うみどりに向けて砲撃を繰り返していた。
その姿を見て、昼目提督はすぐに叫んだ。砲撃を止めろ、どうしてほしい、自分の思っていることは自分で言えと。
そして、港湾水鬼が叫ぶ。
「た、助けて!
艤装が勝手に動いて、うみどりを攻撃している。ここにいる港湾水鬼は、いわば港湾水鬼自身は生体ユニットのように据えられているだけ。本体がいれば艤装は勝手に動き、本体の意思とは関係なく敵を攻撃し続ける。
その口振りから、この港湾水鬼は平瀬や手小野と同じように出洲に従うつもりなんて無いのだが施設からは逃げることが出来ず、この強力な艤装の力を最大限に活かすためにこんなカタチで利用されていると考えられる。
「わかった、すぐに助けてやる! そっちの奴も状況は同じか!?」
「同じ! でも、私より衰弱してる!」
一度声が出せるようになったのなら、それこそ溢れ出るように言葉が紡がれる。
昼目提督の声に反応出来る方は、まだ体力的には余裕があるようだが、もう片方の港湾水鬼は余裕がかなり少ないようで、返事も出来ずにただただ生体ユニットとして砲撃を繰り返すだけにされているようである。
撃てば撃つほど弾薬と燃料を消費していくが、港湾水鬼はそれと同時に体力も消耗してしまうようで、その体力差によってこんなことが起きているようである。
「悪ぃ、オレは手出しが出来ねぇ。任せていいか!」
「おうよ。こういう時のためのあたし達だろ」
昼目提督が引っ込み、甲板に艦娘達が出た。
この戦闘出来る空間は、そこまで広いわけではない。しかし、そんな場所に比較的大きい港湾水鬼が2体も鎮座してしまっているため、海戦とはまるで違う戦いになる。
その上、本体もそうだが港湾水鬼の艤装は艦娘と比べるとさらに大きい。しかもそこからウツボのような生体艤装が3本ほど生えているため、余計にサイズ感が増して見えた。
脚力だけでこの戦場を駆け回り、凶悪な艤装からの攻撃を避けながら、本体にダメージを与えないように事を成す必要がある。海戦しかやったことがない者ならば、苦戦は必至。むしろ、それが普通である。
「……これ、マジか」
深雪の存在が見えたからだろう。その生体艤装が2人分、計6本が、全て深雪の方を向いた。本能的にでも意志があるのなら、特異点の存在を感知した時点でそちらに引っ張られる性質があるのだろう。これまで出てきた改造深海棲艦と同じ。
そして、6本の生体艤装が大きく口を開けると、中に火力が溜まっているかのように光が集約し始めた。
「深雪!」
「おう!」
時雨が強引に前に押す。それによって加速し、深雪は一気にダッシュ。その瞬間、生体艤装は全て深雪に向けて首を動かす。
今のままだと、生体艤装は深雪に狙いを定めて砲撃を放つだろう。そしてそれが直撃すれば即死は免れない。しかも、避けたとしても他の仲間達に甚大なダメージを与えることになる。
艦娘達だけでも相当まずいのに、ここには生身の昼目提督がいるのだ。余波を喰らうだけでもかなり厳しいことになるだろう。
さらに言えば、もしうまく外させたとしても、今まで深雪が立っていた場所は、この海賊船の船橋部分になる。モロに砲撃が入った時点で、この船が半壊しかねない。そうなったら艦娘や昼目提督は勿論のこと、先程気絶させ縛り上げた操舵室の男達すらも命を落としかねない。
それをどうにか回避するため、深雪は自らを囮として、なるべく何処にも被害が出ないようなところに移動することにした。
その最たる場所が、撃たれたところから直線上に誰もいなければ何も無いであろう港湾水鬼達の正面。
「さ、避けてーっ!?」
港湾水鬼が苦悶の表情で叫ぶ。自分に接続されているのだからどうにか止めようと考えたものの、繋がっているだけでうんともすんとも言わない。勝手に動いて勝手に撃つのみ。それなのに、その砲撃は港湾水鬼の責任となるのが厄介極まりない。
「大丈夫、絶対避けっからさ。それに、アンタ達も必ず救うから──」
全て言い切る前に、6本の生体艤装が一斉に砲撃を放つ。その全てが深雪一点狙いであり、火力は普通の戦艦主砲以上。威力が高ければその分爆風も凄まじくなる。
戦闘場所がよりによって船の甲板。あまり酷い衝撃を受けた場合、ここから吹き飛ばされて落水しかねない。
「うぉえっ!?」
全てが
しかし、その砲撃が全て
回避成功中の深雪は、予想外に背中を押されるカタチとなってしまい、想定よりも大きく跳ぶことになってしまう。方向が方向ならば、本当に落水まであった。だが、鍛え上げてきた柔軟性のおかげで衝撃をある程度逃すことに成功したおかげで、そこまで大きく吹き飛ぶことはなく、何とか甲板のギリギリに着地。
「や、ヤバすぎるだろ火力!」
本来ならば艦載機も飛ばしてくる港湾水鬼だが、そこまで砲撃に回しているからか、通常よりも火力がかなり高くなっていることを深雪は知らない。
うみどりを攻撃する前提で改造されているようで、遠距離でもある程度の威力を発揮するための処置だと思われる。しかし、通常の港湾水鬼以上の火力を持っているために、狙う距離が遠くなればなるほど照準がブレる。その上、艤装主体で本体がただの生体ユニットであるため、制御も何もあったものではない。
秋月が
とはいえ、接近戦となれば話は変わる。艤装だけの砲撃によるブレは極力抑えられることになるし、当てずっぽうのような砲撃ではなく、狙いを見ながらの砲撃になるのだから、精度はそれなりに高くなるだろう。
深雪に柔軟性があったから避けた後にちゃんと体勢を立て直すことが出来たが、そうで無かったら、直撃は免れたとしても衝撃にやられているだろうし、最悪掠めて致命的なダメージを受けていた可能性もある。
「深雪を囮にして、その間に艤装を破壊すればいいね」
「お、お姉様になんということを……」
「特異点を狙う性質はアレにもあるんだろう。だったら、纏まって行動するよりも深雪を集中狙いさせて隙を作った方がいいさ。深雪が心配なら、さっさとアレを始末するよ」
時雨の作戦に白雲が抗議するような視線を送るが、敵の性質を理解したならば、これが一番効率が良く、かつ誰もがもっとも安全に事を終えることが出来る手段であろう。
「神通」
「はい、接近し、接続部を破壊すればいいですね」
「白雪と響はサポートしてやれ」
昼目提督が冷静にこの現状を打破する手段を考え、調査隊の3人に指示を出す。
「白雲、すまねぇが凍結は今は勘弁してやってくれ。アイツらごと凍っちまう。だから、あの砲撃が当たらない程度の場所で深雪を守ってやれ。時雨、テメェはあの艤装が撃つ前に砲撃ぶち当てろ。それで多少は深雪が避けやすくなるだろ。子日とグレカーレはうちの連中をサポートしてもらえるか。神通が近付ければ終わらせられる」
うみどり側にも指示を出すが、その内容は、深雪を囮にすることを根幹に置いたもの。白雲としては、その判断をしたことに不信感を持ったが、昼目提督の真っ直ぐな視線を見たことで言葉に詰まる。
「深雪ぃ! 避け続けられっかぁ!」
「ったり前だろ! あたしの方にしか攻撃してこねぇなら、囮にでもなんでも使ってくれ!」
深雪はこの作戦を聞いているわけではないのだが、自分が囮になっていることを自覚し、むしろそれが一番いいとさえ感じている。
そこに自己犠牲の精神なんてない。深雪からしてみても、コレが一番全員が安全な手段であることを理解している。
「白雲、テメェはどちらかといや素人だろ。なら、深雪のためにもあまり無茶するなよ。無茶すりゃ逆に深雪が危険になる。そこは考えろよ」
「……かしこまりました。お姉様を全力で補助いたします。白雲は命を落とさぬように」
「ああ、そうしろ」
深雪の思いを見て聞いたことで、白雲も覚悟を決める。深雪を守るため、そして自分を守るため、即行動に出る。
「お姉様! お守りいたします!」
「おう、頼むぜぇ!」
凍結の力を駆使することは出来ずとも、砲撃によって生体艤装の砲撃の向きを変えることくらいは出来る。上に向けさせれば狙いは簡単にズレる。1つの頭をズラすだけでも、深雪の回避がやりやすくなる。
白雲の砲撃も、深海棲艦化のおかげで火力が上がっており、ハッキリとコントロール出来ているわけではない艤装ならば、軽々と撃ち抜けるため、サポートとしては充分。
「よし、じゃあテメェら、頼んだぜぇ!」
昼目提督の号令と同時に、神通を筆頭とした部隊が一気に前に出る。狙いは港湾水鬼の艤装。2体分を同時にどうにかするのは難しいため、片方に集中攻撃。
「出来れば私じゃなくて……!」
「わかっています。衰弱した貴女の相方を優先して救います」
言葉も話せないくらいに消耗している2体目の港湾水鬼をどうにかするため、手前にいる1体目を通り越すために真っ直ぐ駆け抜ける神通。
しかし、艤装にコントロールされているのは砲撃だけではなく身体ものようで、その腕に接続された鉤爪を振り回した。鉤爪も当然ながら艤装の一部。基部にコントロールされてしまっているようだ。
その一撃を喰らってしまったら、タダでは済まない。砲撃よりはまだマシかもしれないが、それでも当たってはいけない攻撃。
「流石にそれは
流石にその攻撃を受けるわけにはいかないと、神通はすり抜けるように駆ける。その手には艦娘らしからぬ
「艤装の接続部を確認してください」
「了解。すぐに解析します」
「任せて」
神通をメインにした3人の調査隊。子日とグレカーレが後ろからそれをサポートするカタチに。
「さぁ、僕も行こうか」
時雨も合わせて砲撃を始める。白雲と同様に艤装を狙うことで、深雪の生存率を上げる策。
この連携によって、港湾水鬼を追い詰めていく。しかし、撃破だけはしてはいけない。