生体艤装に操られ、勝手に身体が動いてしまっている2体の港湾水鬼を救うため、一行は甲板の上を駆け回ることになる。
まず深雪は特異点として艤装が勝手に狙いを定めることを利用し、他の者へと砲撃が向かないように囮となることを選択。その砲撃は非常に強力ではあるが、これまでの活動で鍛えてきた柔軟性も使い、その砲撃を回避しつつ衝撃も受け流して無傷を維持する。
その深雪の囮戦術は白雲と時雨がカバー。白雲は深雪に近付きすぎず遠すぎない位置から砲撃を続け、深雪を狙う生体艤装の頭を撃ち抜き、砲撃を晒すことで深雪の危険度を下げる。時雨も同じことをしているのだが、こちらは背部大口径主砲を使っているため、より大きくダメージを与えながら砲撃を逸らすことが出来ていた。
「くっそ、こいつもやっぱり直るのかよ!」
港湾水鬼も案の定、自己修復の機能は加えられていた。だが、見た感じでは生体艤装のみに加えられているようであった。
白雲では少々火力が足りず、時雨ならば一撃で生体艤装の頭部を破壊することが出来るのだが、爆煙が無くなるとそこには修復されて無傷となった頭部が鎮座していることが確認出来た。
「修復の速度は相変わらず速いじゃないか。でも、修復中は確実に砲撃が無くなっている」
「避けやすくなっているのならば僥倖。お姉様が安全でいられるならば、修復など二の次です」
白雲は止まることなく砲撃を続けた。狙いを定めるたびにその頭を小突くように砲撃を当て、深雪への狙いを定めさせなくし続ける。
まるでもぐらたたき。深雪を見たモノに向けて撃ち続けるだけ。
「あたしがこうして生きている間は、あたししか狙ってこねぇんだろ! だったら、その間にやることやってもらうぜ!」
自己修復まで続けて砲撃が止まない港湾水鬼だが、深雪の心は折れていない。折れるわけがない。
何故なら、今も仲間達がこの港湾水鬼を救うために奮闘してくれているのが見えているのだから。
砲撃が深雪の方に向き続けることを利用して、本体の艤装を切り離しにかかる他の者達。その中心となるのが調査隊の神通である。
衰弱が酷い片方の港湾水鬼を先に救うために行動しているのだが、2人の港湾水鬼は鋭く巨大な鉤爪を振り回すようにして艤装の破壊を妨害してきた。
神通の身のこなしならば簡単に当たることはないのだが、救出対象に近付けないというのが問題。
「
振り回される鉤爪をサラリと避けるが、その風圧はかなりなモノであり、突風に晒されたように足を止めさせられる。前に進めないというわけではなくても、かなり危険であることは間違いない。
「接続部分は定番の背部です」
「腰にケーブルが繋がっているよ。でも、近付けなかったら意味がないかな」
白雪と響が回り込むように確認し、艤装そのものは本体の腰に直接繋がっていることが判明した。服は着ているものの、その腰の部分には直付けになっているようにも見える様子。
深海棲艦は艦娘とは少々違い、身体そのものに艤装との接続部分が備え付けられている者も多数いる。うみどりにいるセレスも、誰も気にしていないが首元に接続の端子があったりするのだ。ただ背負うだけで動かせる艦娘の方がおかしいのかもしれないが、そこはサポートの妖精さんがいるかどうかの違いもあるのかもしれない。ともかく、深海棲艦は攻撃も防御も何もかもが、
この港湾水鬼に関しては、本体から艤装に向けて指示を出しているのではなく、
「ケーブルを切断すれば、解放出来ると思えばいいですか」
「おそらく。艦娘と同じシステムかどうかはわかりませんが、普通なら艤装が離れれば本体からの供給が無くなります」
しかし、と白雪は少し考えた。艦娘と深海棲艦が何処まで違うのかがわからない。
「艤装が無くなったら共存しているせいで本体も死ぬなんてことは……」
「それは大丈夫だから安心して」
白雪の懸念点を即座に払拭するのはグレカーレ。そこは断言出来る要素がある。
「うみどりには艤装外してる深海棲艦がピンピンしてるんだから、そこは心配いらないっしょ」
「……ああ、確かに。そちらのカテゴリーYの方々が」
「
白雪的には聞き捨てならない言葉が聞こえたが、今はスルーせざるを得ない。今は港湾水鬼を救うことに専念する。
ともかく、港湾水鬼から艤装を引き剥がしても大丈夫ということはわかった。これで港湾水鬼だけは特別で命と完全に繋がっていると言われたらどうにもならないが、少なくとも艤装を破壊しなければ救うことが出来ないのは確実。
基部だけ残して救うという手段も考えられるが、自己修復によって即座に戻ってきてしまうため、そこは基部そのものを完全に破壊する必要があるだろうが、基部ごと修復される可能性も考えられる。ならば、もう本体との接続を断ち切るしか手段がない。
「ケーブルは密着してる!?」
「少し余裕がある状態だ。君のすばしっこさなら、接近出来るんじゃないかい?」
「やってみる!」
本体と基部の接続は、あくまでもケーブル。ベタ付きではない。ならば、その隙間を狙って攻撃をすれば接続を断ち切れる。
港湾水鬼本体の攻撃は強力ではあるがかなり大雑把なところもある。子日ならば、その攻撃を避けながらも一気に近づくことが出来た。
「確かにケーブル! そこを撃てば……っ!?」
本体と艤装の隙間は、砲撃を入れても大丈夫なくらいに空いている。しかし、それだけはやらせないという
これではケーブルを撃つどころか触れることすら出来ない。こうなってしまったら、本体を基部から離れさせることすらしないだろう。
自分の弱点を完全に理解しているが、逆に見れば、そこさえどうにかすれば本体が解放されるということの裏付けにもなっていると言える。
「離れさせます。何としても」
そこに入り込むのは神通だ。子日に気を取られたことで鉤爪による攻撃が少しだけ甘くなった隙をつき、本体に触れられるほどにまで近づいた。
「強引にでも引き剥がすのは、それなりに経験がありますから」
そして、鉤爪の射程よりも内側、基部にすら触れられる位置まで移動すると、事もあろうか神通はかなり強引に本体と艤装の隙間に手を突っ込み、力ずくで開こうとする。
そんな簡単に出来れば苦労などしないのだが、神通はそれで諦めるようなことをしない。
「少し痛いでしょうが、我慢してください。貴女を救うためにやらねばならないことですから」
ここまで近付けているのだから、艤装にもしっかり触れている状態。ならば、
「修復してくれても構いません。むしろ、修復してください」
完全にゼロ距離の状態で、持っていた短刀を艤装の隙間に強引に捩じ込んだ。そして、
「これも秘密道具ですから」
甲高い音がしたかと思った瞬間、艤装がズルリと切断されていった。
神通の持つ短刀は、艤装すら切り裂く高振動粒子の刃を持つとんでもない代物。ただ握っているだけでなく、妖精さんのサポートまでついた応用の利いた立派な近接戦闘用の兵装である。握っている限り、燃料を消費しながら最上級の斬れ味を誇り続ける兵器である。
こんな武器は第二次深海戦争の時にあるわけもなく、グレカーレはそれを見て大いに驚いたが、第三世代でもこんな武器を持っている者は限られすぎているため、子日も驚いていた。
勿論こんな武器が常用されているわけがない。ある意味試作品みたいなモノを、神通が特別に使わせてもらっているだけ。そもそも艦娘がここまでの近接戦闘をするわけがないのだから。
「開いた……!」
基部を傷付けたことで、本体への拘束力が少しだけ薄れたか、強引にでも離れさせることが可能に。それでも砲撃を隙間に入れるのはかなり厳しい隙間。
「これはどうかな?」
その隙間に差し込まれたのは、響の艤装に括り付けられている錨。一応手持ちの武器として備え付けられている兵装の一種なのだが、流石にそれを武器として使うことはない。
だがこういう状況、
これによって、基部と本体がベタ付きの状態では無くなった。隙間に弛んだケーブルが確実に見えるようになる。
「白雪、行けるかい?」
「私はあまりそういうことやるタイプじゃ……」
「なに、神通さんが作った隙間に撃ち込むだけさ」
「鉤爪が邪魔で近付けないんですって」
と言いながらも、白雪は確実に当たる位置まで移動した後、神通が短刀で傷付けた基部の傷口に向けて、修復の隙を与えず主砲の砲塔を突き刺す。そして、ゼロ距離射撃を繰り出した。
かなりの振動ではあるのだが、確実に内部を破壊しに行く攻撃により、完全破壊は出来ずとも修復を遅らせることには成功。
その上、これまで以上に本体への拘束が弛んだ。神通の力ずくがより効果的になり、響が差し込んだ錨がその場に落ちるほどに。
そして、それが狙い。落ちた錨が接続されているケーブルに直撃。そんなことで切れるほどの弱いケーブルなわけがないのだが、その衝撃が入ったことで本体の拘束が完全に切れる。
「今です!」
神通が身体をその隙間に捩じ込み、脚まで使って隙間を拡げたことにより、ケーブルが露呈。
子日とグレカーレはもう片方の港湾水鬼を足止めしているため、鉤爪による妨害は無くなった。
「ならば私がトドメを請け負おう」
そこで響が錨を拾いながらケーブルに対して砲撃を放った。そこに神通がいるにもかかわらず、被害を最小限にして。
砲撃を喰らえば流石にケーブルは断ち切られ、全ての接続が失われた。途端に本体は力が抜けるように前のめりに倒れ、艤装自体も供給源を失ったことで機能停止する。
これにより、衰弱していた片方の港湾水鬼は沈黙することになる。深雪への砲撃も少なくなることで、状況は格段に良くなるはずである。