仲間達の奮闘により、まず本体の消耗が激しい港湾水鬼を艤装から切り離すことに成功。本体は倒れ伏してしまったが、艤装自体はこれによって機能を停止させた。
「白雪さん、そちらの方を」
「了解。すぐにこの場から離れさせます」
艤装が外れてしまえば、深海棲艦であっても本体は人間と大差ない。それはカテゴリーYの面々からもわかること。このままここに置いていては、残り1人の救出に巻き込まれて、不要な怪我を負う可能性だってある。
そこで白雪は、戦闘から一時的に離脱し、港湾水鬼の本体を担いで昼目提督に引き渡すために行動を始めた。
白雪とて艤装を背負っているのだからパワーは通常の人間よりも大幅に上昇している。いくら港湾水鬼が本体も巨体とはいえ、駆逐艦でも軽々運ぶことは可能。それこそ、主砲をマウントして両手を空けてしまえば、お姫様抱っこだって可能である。
とはいえ、邪魔な鉤爪の艤装はその場で無理矢理解除した。袖のように引っ掛かっているだけなので、それを外せば人間と同じような綺麗な腕が出てくる。
「残り1人です。同じように終わらせましょう。深雪さん、回避もしやすくなったのでは」
「ああ、ありがたいことにかなり楽になった! 砲撃が半分になってんだ、余裕が出てきたぜ!」
これまでずっと避け続けていた深雪は、無傷……とまではいかずとも、少々の擦り傷程度で済んでいる。その擦り傷も、回避を連続でやりすぎた結果、少しだけ足がもつれてしまって転びかけたというくらい。砲撃に直撃するようなことなんてあるはずがなく、ギリギリ回避というのも危険であるため、那珂から学んだステップも駆使して身体を動かし続けていた。
当然そうしている間も疲労は蓄積していく。一度おおわしで補給を受けているとはいえ、海上でもないところで艤装を背負ったまま動き回るというのはなかなか疲れるものである。
白雲と時雨による砲撃逸らしがあるおかげで、命の危険はもう無いと言っても過言では無い。港湾水鬼の主砲は3本。そのうち2本を白雲と時雨が対処してくれているのだから、残り1本を自分で対処し続ければ、それによって砲撃の脅威は一切無くなる。
「先程と同じように、強引に引き剥がします。白雪さんにはあちらの港湾水鬼についてもらいますから、子日さんとグレカーレさん、よろしくお願いします」
「まっかせてー!」
「サポートくらいしっかりやるよー」
まだ話すだけの体力がある港湾水鬼を解放すれば、うみどりへの攻撃は確実に無くなるのだ。ここが正念場。確実に終わらせなくてはならない。
だが、気を逸らせてもいけない。焦ったら、勝てるものも勝てない。それを理解しているから、神通を筆頭に視野を広く持って対処にあたる。
その冷静さがあるからこそ、ここからの敵の行動にいち早く気付くことが出来た。
「……っ! 深雪さん!」
「んぇっ!? あ、あっちか!」
神通が声を上げたのは、深雪が狙われていることがすぐにわかったから。機能停止したはずの生体艤装が再び動き出していたからである。
おそらくは
響の砲撃によって千切れ飛んだケーブルとは違う、まさに生体艤装と言わんばかりの触手のような脚が、深雪を捕らえようと伸びてきていたのだ。
特異点を始末することがあちらの目的。だが軍港の時に出洲は、深雪に対して死ぬか
「させねぇよ!」
だがすぐにそれに気付けたおかげで、深雪の消し飛ばず砲撃が間に合った。伸ばされる触手もかなりのスピードだったが、その砲撃の前には何もかもが無力。直撃どころか掠るだけでも消滅を余儀なくされる火力は、悪意ある触手をカケラも残さず消滅させる。
その射線上には勿論、本体を失った艤装も鎮座しているのだ。まるで空間ごと抉るようにぶち抜いたことによって、艤装は本当に機能停止。それ以上の介入はしてこなくなった。
それでも警戒は必要であるため、なるべく近付くことなく、もう1人の港湾水鬼をどうにかすることになる。
あの艤装の中から何か出てきてもおかしくないのだから、視野は常に広く持ち、最善の行動を瞬時に割り出さねばならない。
「もう何発かぶち込んどくぞ!」
弾薬を補給しているおかげで、その選択も可能。後顧の憂いを断つためにも、念には念を入れるべき。
港湾水鬼からの砲撃を避けながら、艤装を全て消し飛ばすくらいの勢いで、また一発二発と砲撃を撃ち込み、中身が露出し、本当に何も無いことがわかるくらいにグチャグチャにした。
「これである程度は安心出来るでしょう」
再び鉤爪を回避しながら港湾水鬼に接近し、ケーブルを断ち切りに行こうとする神通だが、さも当然と言わんばかりに本体を艤装に引き寄せてケーブルを守ろうと行動させる。
かなり強引らしく、本体がぐっと声を上げる。本来やろうと考えていない動きをさせられているのだから、身体も悲鳴を上げているのだろう。
本当に本体を人間と思っていないような扱い。艤装のパーツとしか考えていない動き。それだけでも、怒りが湧き上がりそうだった。
むしろ、そうやって冷静さを奪おうとしているのではないかとすら感じる。深雪の──特異点の精神を揺さぶって、
「くそ……あたしが何をしたっていうんだよ……! あたしのせいでみんなが困ってるって言いてぇのかよアイツらは!」
誰もそんなことを言っていないのに、特異点を狙った行動をした結果がコレであるという事実から、どうしても自分のせいで誰かが傷ついているのではと感じさせる瞬間があった。
揺さぶりに乗ってしまったかのように、思わず言葉が出てしまう。心の疲労はどうしても簡単には払拭出来ない。出撃する時に命を背負うと決めたのに。
「だいじょーぶだよ、ミユキ。みーんなこういうやり方は気に入らないから」
そんな深雪の心境を見透かすかのように、振り回される港湾水鬼の鉤爪を回避するグレカーレが優しく、それでいて悪戯っ子のような笑みを浮かべて語る。
「こんなやり方をする連中が、正義なわけないじゃん。だから、ミユキは胸張ってコイツらに立ち向かえばいいよ。あたしが証人に……ううん、みんなが証人になってくれる。ミユキは何もしてない。ただ楽しく生きようとしてるだけ。それなのに、それを悪としようとする奴が、一番の悪だってね。第二世代代表になったげてもいいよ?」
自分を狙う鉤爪を、回避しつつも砲撃で弾き飛ばした。その衝撃は本体にも伝わってしまうものの、痛いわけではなく、ただ押して退かされるように。
爪が折れることもあったが、それは自己修復が利いている。艤装に接続されている時点で、本体にもそれが反映されているようである。生身の部分がどうなるかはわからないが、鉤爪も艤装なのだからこうなってもおかしくはない。
「調査隊からも保証しよう。特異点は、我々と同じ存在だってね」
響もグレカーレと同じように話し出す。神通と一緒に本体と艤装を無理矢理引き剥がそうと錨を振るっていた。
「世界に危機を齎す存在が、相棒と痴話喧嘩なんてしないだろうしね」
「おい」
「はは、そういう顔と反応が出来る時点で、君は人間と同じなのさ。人間と手を取り合える相手を、私は無下にしたくはないよ」
神通と2人がかりのおかげで、先程よりも手早く本体と艤装を引き剥がすことに成功。
それを良しとしない艤装が、どちらか片方でも始末しようと鉤爪を振るわせる。
「やって、ください!」
「オッケー、ほいっと!」
それを妨害するのは子日。その動きに慣れたか、懐に潜り込んだかと思いきや、恐れずに爪に当たらない手首の部分を強引に蹴り上げることで方向を逸らす。
それは本体へのダメージと繋がりかねないが、こうしろと言ったのは他ならぬ本体。まだ言葉が紡げるのだから、自己犠牲も厭わずに子日に攻撃を要請した。腕がおかしな方向に曲がりかけて苦痛を感じたものの、本体は歯を食いしばって悲鳴すら上げなかった。
「勿論、後始末屋は深雪ちゃんを全面的に受け入れるからね!」
「私も、被害者として、貴女に協力します……! よく、わかっていませんけど……!」
子日だけでなく、港湾水鬼自身からも、深雪の存在を認められた。それだけで、込み上げてきた怒りが沈静化する。自分はここまで思われているのだ。ずっと一緒に活動してきた者も、たった今出会い救おうとしている者も、深雪の存在を認めてくれているのだから。
「ありがとな、みんな。もうあたしは揺らがねぇ!」
今までやってきたこと、これからやっていくことも、全て受け入れてくれると保証してもらえたのだから、悩むことなんて何もない。悩むこと自体が失礼だ。
これによって、深雪は真に吹っ切れることが出来た。人の命を奪うことになるかもしれないが、その覚悟を保証してくれる者が仲間にいてくれるのだから、もう迷わない。何をされても、自分の意志を曲げない。
「まずはこの人を救わねぇとだよな!」
生体艤装からの砲撃を回避しつつ、砲撃によって主砲を消し飛ばす。残り2本も白雲と時雨が弾き飛ばす。もう砲撃が深雪に届くことはない。自己修復が間に合う前に、次の砲撃が放たれるのだから。
「醜悪な手段ばかり使う者達には、相応の罰を与えねばならないでしょう。必ず追い詰めますよ」
砲撃が無くなったところで、神通がまた基部に短刀を突き立てた。先程と同じならば、これで動きが鈍くなる。
「子日がやるよーっ!」
さらにその傷に子日が主砲を差し込んだ。白雪がやったことを同じように子日もぶちかまし、基部を内部から破壊していく。
「グレカーレ、頼んだ」
「りょーかいりょーかい! ケーブルくらい簡単に切っちゃうもんね」
錨でケーブルを叩き、力が弛んだ瞬間にグレカーレが砲撃によってケーブルを完全に断ち切った。
これにより、本体は艤装からの接続から解放され、力んでいたこともあって弾けるように前に倒れる。
「深雪さん!」
「あいよ! トドメ、ぶちかますぜ!」
先程と同じならば、この艤装も次の本体を手に入れようと触手を伸ばそうとするはずだ。それを防ぐことが出来るのは、超火力の深雪しかいない。
跡形もなく消し飛ばす砲撃であれば、もう次は無くなる。自爆すらさせない。その装置ごと、この世から消し飛んでいるのだから。
2つ目の港湾水鬼の艤装も、これで完全に沈黙。まだカケラは残っているものの、それを港湾水鬼の艤装だと思えるものはそうそういないくらいにまで破壊した。
「……た、助かり、ました……」
こちらの港湾水鬼も鉤爪を外し、艤装の呪縛からは解き放たれる。こうなれば見た目はツノ以外人間とほぼ同じである。
「これでここにいる敵は制圧完了と考えていいですか?」
「この船にいる深海棲艦に改造されている人間は、私達を含めて5人です……」
「5人……?」
すぐに考えを巡らせる。ここまでに現れたカテゴリーYは、駆逐水鬼、深海鶴棲姫、港湾水鬼が2人。計4人である。つまり──
「あと1人、ですね。おそらく通信室から資料を持って既に逃げ果せたのがそれに該当するかどうかになりますが」
「じゃあ、もう戦いは終わりってことか?」
「いえ、まだ見ていない場所があります。そこに早く行った方がいいかもしれません」
残すところ、向かわねばならないのは一箇所。深海棲艦の生産施設だけ。