2人目の港湾水鬼の救出も無事成功。深雪の砲撃によって艤装も完全に破壊し、余計な触手を伸ばしてくるようなことはもう無くなった。甲板での戦いは終わり、うみどりに向けての砲撃はこれで無くなったことになる。
しかし、その港湾水鬼の口から出た最後の情報により、海賊船にいるカテゴリーYは5人であることが発覚。これまで見て、そして撃破してきた者達は4人であるため、あと1人残っていることが判明した。
「なるほどな、じゃあそのラスト1人ってのは、生産施設にいるか、もうトンズラこいてるかのどちらかってわけだ」
戦いが終わったことで昼目提督がそのことを改めて詳しく聞く。勿論、既に次の行動に移りながら。
先に撃破した方の港湾水鬼の本体は衰弱が酷く、命に別状は無いかもしれないが、放置しておくわけにもいかない状況。そのため、ここからはまた二手に分かれることになる、
2人の港湾水鬼は、おおわしかうみどりに一度来てもらう。特に衰弱が酷い方は、今すぐ入渠が必要だ。近いのはおおわしであるため、そちらで入渠してもらう。そちらに向かう者が、最低でも3人必要。港湾水鬼2人を運ぶ者と、それを護衛する者が。
「調査隊は出来ることなら生産施設の調査をしておきてぇ。だが、おおわしに行くなら1人は付き添いがいるだろ。運ぶのは」
「片方はあたしがやるよ。シラユキは調査隊だし、その力が必要になりそうだから、そっちが優先だよね?」
まず衰弱している港湾水鬼を運ぶのは、グレカーレが挙手。調査隊の仕事についていったところで何も出来ないし、他に運べそうな者があまりいないから、自分が率先してやると意思を示した。
決してこの港湾水鬼を直接触りたいとかそういう下心があるわけではない。と弁解したところで日頃の行いがあるので、誰も信じないのだが、グレカーレは割と適任。何もするなよと深雪が念を押し、当然でしょとケラケラ笑って返した。
「なら、護衛ともう1人の輸送は僕と子日でやろうか」
「そだね。消去法ってヤツかな」
「ああ。調査隊は全員が必要だし、深雪はいざ生産施設を壊さなくちゃいけなくなった時に、僕よりも確実だ。白雲で凍らせてしまうこともありだろう。なら、残ったのが僕と子日だね」
順当に行くなら時雨が言った通りになる。深雪と白雲は、白雲側の理由でセットで運用する必要があり、両者ともに敵に対して有用な力を持っているため、調査隊との同行が推奨される。時雨も破壊だけなら深雪とほぼ同じくらいの火力を出すことは出来るのだが、やはり出来損ないの自爆を止められるか止められないかの差は大きい。
また、時雨が人間の保護を自分の意思で選択したというのも大きなことだ。これまでなら間違いなく考えられない行動。それだけ時雨が成長したという証でもある。とはいえ、港湾水鬼を抱きかかえることにはまだ抵抗があるようだが。
子日は主砲を装備していると抱きかかえるどころかモノを掴むことすら出来ないので、今はそのまま、持ち運ぶときは主砲を外した非武装状態になってしまう。そのため、時雨がしっかり援護することでおおわしへの道を切り開くこととなった。
「おう、わかった。じゃあ、お前さん達に港湾水鬼達を任せる。そのままおおわしに戻ってくれ」
「りょーかい。それじゃあ、あたしが運ぶねーって、うっわ柔らかっ! それに肌がツヤッツヤ! 何この羨ましい身体!」
「衰弱してんだから余計なこと言ってないでさっさと行け!」
案の定グレカーレが盛りかけたのを昼目提督が叱るように止め、早々におおわしへと向かわせる。時雨と子日に改めて念を押したが、時雨は小さく溜息、子日は苦笑するしかなかった。
3人と港湾水鬼達と別れ、調査隊と深雪白雲ペアはそのまま最後の目的地へと向かう。
時雨達は真っ直ぐ出口へと向かっていくが、調査隊は勿論、道中の調べられそうな部屋は全て確認していく。とはいえ、事細かく調べるようなことをしていては時間がかかりすぎるため、今は本当に通り道に見える場所だけ。
「特別な造りな場所はあまり見当たらねぇ。重要な設備だけは頑丈に造ってるってのが妥当か」
「はい、おそらくは。生産施設があるであろう船倉以外は普通の船なのだと思います」
「だな。それなりに頑丈には造られてるけどな」
歩きながらも調査というより
船内で深海棲艦を生産し、外へと出撃させているのだから、万が一を考えて頑丈にしているのはわからなくもない。しかし、その全てをほぼ完璧にコントロール下に置いているようなモノなのだから、あくまでもフェールセーフであろう。
「それでも船内で戦うのは出来ることなら控えたい。そこに最後の1人がいて、あちらから攻撃してきたらもう知らねぇが」
「そう……ですね。狭い船内で砲撃は流石に」
「それ以前に、これが沈んじまったら意味がねぇ。オレ達も危険だが、後始末がクソ面倒になる。だからなるべくここは
後のこともしっかり考えて戦い、制圧はしながらもそのまま接収出来るように持っていきたいというのが昼目提督の考え。勿論、それが敗北に繋がるというのならば、その考えは簡単に捨てて破壊行為を是とするが。
最も重要なのは、ここから生きて帰ること。情報が手に入らなかったとしても、生きているのならばまた調べに行ける。命あっての物種である。
「白雲に凍らせてもらうのは?」
「規模がデカかったら簡単にはいかないだろ。白雲の体力が保つならそれでもいいけどよ」
「可能かもしれませんが、その分時間はかかります。要所を凍結させるにしろ、準備が必要ですので」
白雲の凍結を広範囲に発生させるためには、事前準備が必要不可欠。水分をばら撒いて冷やしていき、そこから接触して凍結させるというのは、どうしても時間がかかる。しかも海上ではなく船内なのだから、その場所次第ではより難しいだろう。
ドック1つ凍らせるとかならまだ可能かもしれないが、工廠丸々1つ分の大規模な施設だったらかなり難しい。
「理想はそこにいる全員が投降することだろうな。それが難しいなら、多少痛い目に遭ってもらうしか無いかもしれねぇ」
そこにいるのもまた、純粋な人間である可能性があるのだから、その場合は昼目提督による制圧になるだろう。本人はあまり暴力に訴えたくないと語るものの、話しながら指をボキボキと鳴らしながらなため、まるで説得力が無かった。
一行はそのまま船倉に到着。ここにも大きく頑丈そうな扉があり、船の見た目からは考えられないくらいの電子制御によってロックされている。
だが、電子制御という時点であってないようなもの。ここにはそれに対して強すぎるくらいの技術者がいるのだから、特殊な小道具を使ってちょちょいのちょいである。
「……白雪、なんかすげぇな……」
「はい……白雲には何をしているのかさっぱり理解出来ませぬ」
「あたしもだよ。理解とかそういうところから完全にズレてる」
自分の姉艦の力を使っているカテゴリーCがこんな技術を持っているということに驚きを隠せない深雪と白雲。艦娘白雪がこういうことをやれるとは思えないため、元になっている人間側にその技術があるということになる。
うみどりはカテゴリーCの過去を詮索することはNGであるというのが暗黙の了解。気にはなるが、その経歴が本人にとって
白雪が自分から話さないのならば、深雪達も詮索はしない。それならそれで、ここの白雪は
「はい、開きました」
「いつ見ても恐ろしい手腕だね。私には真似出来ない」
「響ちゃんはアナログ系全部開けられますよね。適材適所ですよ」
そうこうしているうちに、扉のロックが解除されたようで、電子制御されているのに勝手に音を立てて開き出した。
その奥には必ず、この戦いを引っ掻き回し続ける何かがある。そう確信して、全員が足を踏み入れる。勿論、警戒はこれまで以上に厳として。
「……なんだ、こりゃ……」
その中の光景を見て、呆気にとられる深雪。白雲も言葉が出ないようだった。
そこにあるのは、おおよそ船内とは思えない程、高度なテクノロジーが集約したような空間。鉄板で張り巡らされているとか、木材が見えるとか、そういった場所はどこにもなく、この空間全てを使って何かをしているのだと感じる異様な世界、
昼目提督的には、この中が動物の胎内を想起させるような気持ち悪い空間じゃなくてよかったと思える。先程の触手の動きや、出来損ないという気色の悪い敵が生み出される場所なのだから、それくらいあってもいいとは考えていたから。
「ここ自体がデケェ
昼目提督が顎で視線を導いた先。そこには、培養槽のような設備が幾重にも建ち並んでいた。
そして問題はその中。そこに入っているのは、どう見ても深海棲艦。イ級のようなバケモノじみた外見ではなく、ヲ級やネ級などのヒト型が多数生産されており、完成したところからそのまま船外──船底から排出されて戦力となっていた。そして、空いた培養槽にはすぐさま次の資材が投入され、新たな深海棲艦を建造していた。
おそらく今出撃した深海棲艦も、自己修復や本来出来ないことが出来る改造が加えられており、生産された直後から即戦力として運用出来るのだろう。この規模で建造されているのなら、敵が減らないというのもわかる。
「忌雷が造られているブースもあるね。大きさもいろいろあるようだ」
響が別のところに目を向けていた。培養槽とは違う、大きな水槽のような場所では、出来損ないに寄生していた深海忌雷が何匹も泳いでいた。
その大きさは様々で、頭と同じ大きさのモノから、ゴルフボールほどの小さいモノまで多種多様。用途に応じて使い分けているのだと考えられる。
「業を重ねすぎてやがる。スリーアウトチェンジじゃすまねぇぞコレは」
そう言いながら、この施設に最後のカテゴリーYがいないかを確認する。だが、そもそも人間の姿が見えない。施設そのものが全自動で稼働しているため、作業員すらいらないようである。もしくは、この施設そのものがAIで制御されているか。
「くそ、もう逃げ果せやがったか。この施設をオレ達に解析されてもいいってことか……?」
『そうではありませんよ』
まるでこちらを見ているかのように、設備から声が聞こえた。監視カメラは見当たらないものの、逆に全てがこちらを見据えていると思えばわからなくもない。
『ここまでよくもまぁ辿り着いてくれました』
「テメェが最後かよ」
『はい。でも、貴方達に渡せるような資料は全て撤去させていただきましたので、ご安心ください』
随分と余裕のある話し方をする声に、少々苛立ちを覚えつつも、昼目提督は一行を代表して話し続ける。
「なら、ここの設備は遠慮なくぶち壊させてもらうぜ。テメェらの技術を調査して、対策を練らさせてもらってからな」
『壊すのは結構ですが、それをするのは貴方達ではありません』
すると、設備の奥の方から、フラフラと何者かが歩いてくる。それはどう見ても
ここにいる者とは面識すらないため、何をするのかと思った矢先、何やら取り出した。
それは、かなり小型の深海忌雷だった。おおよそパチンコ玉ほどのサイズ。
「まさか……テメェ!」
『彼女は自ら身を張ることを望んだ
小さく頷いた後、その女は忌雷を胸に落とす。その瞬間、小さいながらもその触手を胸に突き立てた。
痛みもあるだろうに、笑顔のまま大きくのけぞったかと思いきや、その忌雷が女をどんどん変化させる。
「嘘だろ……カテゴリーYって、あんな風に生まれてんのかよ……」
軽く吐き気を覚えた深雪が口許を押さえる。だが、変化は止まらず、女は人間を辞め、大きな叫び声を上げた。
『彼女には素質があったようですね。高次の存在へと至ったようです』
そしてそこにいたのは、触手により生まれ変わった元人間の深海棲艦。個体名、『外南洋駆逐棲姫』がそこにいた。